10 出来る奴は出来るやつで頑張ればよい、俺達はこっちの道をいく、そしてこうなった
新人や素人、追い出された凡人達。
これらに教えを伝えていくうちに、ソウシについてくる者達が増えていった。
その多くが卒業生である。
彼等はソウシが育てた者達を仲間に求めた。
確実に仕事が出来ると分かってるからだ。
それに、気があう、波長が合う。
似たもの同士なので変な気兼ねが必要ない。
穏やかに落ち着いて一緒にいられる。
そんな性質の者達を卒業生は求めた。
そんな卒業生への人材供給として、ソウシはその後も新人教育を続けた。
新人達も経験者の集団に加われるとソウシの教えを求めた。
こうなると様々な雑務が発生する。
卒業生達からの要望。
教育を求める新人達の殺到。
これらを捌くだけでも手間がかかるようになった。
やむなく専門の事務員を雇い、これらを書類で処理する事になった。
教育希望者が増えた事で、ソウシだけでは教えられなくなった。
一度につれていけるのは、最大で10人が限度。
教育希望者はその数倍以上いる。
とても一人でどうにかなるものではなくなった。
なので、卒業生の中から教えるのが上手いものに協力を頼んだ。
それらはやがて専門の教官となっていく。
ソウシ単独で迷宮に行く事も出来なくなった。
これでは稼ぎが無くなる。
なので、教育した新人を斡旋する際に卒業生から金をもらう事にした。
金のない新人にはさすがに支払えないからだ。
こうしていくうちに、ソウシは迷宮探索者を育成する組織を作りあげる事になった。
その都度その都度、人を増やした結果である。
いつの間にか組織といえるほど大きくなっていたというのが正解だ。
ある意味、無計画に出来上がった組織だ。
それもこれまでに類を見ないものだ。
探索者を育成し、既にある探索者集団に紹介する。
こういった形態の組織はこの世界に存在してなかった。
日本でいえば専門学校だろうか。
いや、日本の学校そのものがある意味サラリーマン育成機関なのだろうが。
これと似たような事をソウシはする事になった。
そして、これはこの世界になかったものを生み出す事になる。
日本のファンタジーで一般的なギルド。
怪物と戦い、迷宮に挑む者達を相手にする商売。
ソウシが生まれてきたこの世界には、こういったものは存在しなかった。
迷宮の出入口は、中から出て来る怪物に対処するために軍隊が管理している。
そこに出入りする人間の記録もだ。
だが、探索者の教育などを担ってるわけではない。
探索者相手の商人もいる。
しかし、これらは個別に探索者と取引してるだけ。
優れた探索者達とは個別に契約して、魔力結晶を優先的に納品してもらってるが。
探索者を管理してるわけではない。
探索者が寄り集まって作った組織。
これが無かったのだ。
しかし、ソウシはそこに探索者だけで成り立つ組織を作ってしまった。
成り行きの結果でしかなかったが。
そんな探索者の集団に、当然商人は目を付ける。
なんだかんだでソウシの所には大量の探索者がやってくる。
当然、魔力結晶も大量に運び込まれる。
商人達はここに目を付けた。
まとまった数がある程度安定して得られるのだ。
仕入れの手間が省けると。
また、職人達にソウシは声をかけていった。
武器防具に薬品に食料。
探索者に必要なものはたくさんある。
これらをある程度安定して手に入れるために。
これまでは探索者がそれぞれの店を見付けて買いに行かねばならなかった。
どうしても手間がかかってしまう。
そこで、出来上がった製品・商品をソウシの所で販売。
探索者は店を探す手間が省ける。
職人も、いつ来るか分からない探索者を待たなくて済む。
そんな両者が集まる場所をソウシは開設した。
こうなると様々なやりとりが発生するようになる。
商人は必要な数の魔力結晶を提示していき。
探索者は職人に欲しい武器や防具、道具の注文を始める。
また、迷宮探索以外での仕事も見られるようになる。
商人は輸送の護衛を探索者に求める事もある。
職人は試作品の実地試験を探索者に求める。
こういった依頼も張り紙となって探索者に告知されるようになった。
その姿は、前世のファンタジー作品で見た組合・ギルドそのものだった。
知らず知らずソウシは探索者が集まる組織を作っていた。
そんな組合の統括、ギルド・マスターになり。
ソウシは自分用の執務室に座り大きく息を吐く。
「でかくなったなあ」
いつの間にか大きくなった組織への感想だ。
組合やギルドと呼ばれる組織は巨大になった。
生き残ってる卒業生は膨大な数になり、迷宮の中での最大勢力になってる。
そんな卒業生の姿を見て後を追いかける新人も大勢やってくるようになった。
受け容れるのは以前から変わらず、目立たず地味で他の探索者から追放されるような者。
そんな者達が今も変わらずソウシの組合にやってくる。
いや、減ったものはある。
路上生活を余儀なくされる者達だ。
そういった者達は消えた。
ソウシがすくい上げて探索者として食っていけるようになったからだ。
おかげで、治安もかなり良くなっている。
こうして大量の探索者が集まり。
そこに商人・職人も集まってくる。
魔力結晶のほぼ唯一の供給源である。
商人からすればこんなにありがたい事はない。
職人にしても、お得意様が大量にいるのだ。
しかも、作った製品の出来具合がすぐに分かる。
こんな貴重な機会はない。
こういった職人と共に行われる研究開発もある。
ソウシや組合は探索者向けに様々な道具を求めた。
少しでも迷宮での活動が楽になるように。
おかげで様々な新製品・新商品が生まれた。
これらの中には一般での使用もされるものもある。
代表的なのが、魔力結晶で動くバイクに自動車だろう。
バイクはいわゆる原付程度の大きさ。
自動車は荷車を自走するようにしたものだ。
どちらも時速30キロ程度で走るくらい。
もともとは、迷宮内を自由に移動できるようにしたいから作ったものだ。
意外な事に迷宮の中で階段はほとんどない。
上下の移動はほぼ坂道だ。
なので、いわゆる階層というものはない。
例外的な部分はもちろんあるが。
こういう場所なので車輪で移動する乗り物は便利だ。
荷物を背負う必要もない。
荷車を引く必要もない。
馬などに引かせる手間もかからない。
そしてこういうものは迷宮の外でも用いられる。
当初は王侯貴族や富裕層の娯楽だったが。
有用性が認められると業務などに用いられるようにもなった。
また、魔力に頼らない動力として蒸汽機関も作り出した。
魔力だけではやはりエネルギーの安定供給に不安が出る。
これを解消するために、魔力に頼らない動力の開発も進めた。
既に試験段階は終わり、初の鉄道路線が作られることになる。
まずは迷宮から近隣の大都市へ。
迷宮の魔力結晶を大量輸送できるようになる。
緊急時に軍隊を大量に迷宮に運び込むという目的もある。
何にせよ、輸送に大きな変化が出る。
各種産業にも。
これらを成し遂げたソウシは、巨大な探索者組合の統括者として知られるようになる。
一代でのし上がった名士として。
ソウシ本人は、重い責任と様々な人間関係が面倒で仕方が無かったが。
「まだ迷宮で新人教育してた方がマシだ」
常々出てくるのはこんな言葉だった。
それでも日々の業務を放り出すわけにもいかず。
やむなく組合統括として、日夜積み重なる書類を片づける事に精を出していた。
そして。
激務の合間を縫って以前のように新人教育に顔を出す。
自ら新人を率いて迷宮に潜る。
「こうしてないと今が分からなくなる」
止める連中にはこう言って黙らせる。
実際、迷宮探索のやり方も変わってきている。
以前とは違う部分も出てきた。
もちろん、最弱の敵から倒していくというのは変わらない。
だが、ここだけに二か月も三か月もかけるような事はなくなった。
今はより効率の良い方法が出てきている。
それを知るためにも教育現場を見ておく必要がある。
なにより、新人達と顔をつないでおきたかった。
今のソウシの周りには、それなりの地位や身分の者達や、実力者に名士といった者達が多くなっちえる。
いわゆる上級国民というものだ。
これだけだと世間が見えなくなる。
そうではなく、探索者達と顔を合わせておきたかった。
彼等がもっとも重要で必要な者達なのだから。
探索者によって出来上がってるのが組合である。
探索者を蔑ろにしたらその瞬間に終わる。
そうならないように、出来るだけ探索者達と顔を合わせておきたかった。
「歩の無い将棋は負け将棋」
ソウシが心がけてる言葉の一つだ。
歩は将棋で最も弱い駒である。
だが、この歩がないと将棋にならない。
そんな歩をソウシは大事にしていきたいと思っていた。
「歩は金に成るしな」
成金。
あまり良い意味で使われる事のない言葉だ。
だが、本来は良い意味のはずである。
最も弱い駒が、強力な駒に変化するのだから。
素人同然の探索者達がまさにこれだった。
最初は駄目だった彼等は、今では一級の戦力となっている。
もともとは捨てられた存在なのに。
もちろん限界も承知している。
金に成ったとしても最強ではない。
より強い駒は存在する。
角や飛車ほど縦横無尽に移動できるわけではない。
それに移動できない方向もある。
金になっても、出来ない事ややれない事はあるのだ。
実際、ソウシの組合にいる者達は中堅である。
最弱ではない。
だが、最強ではない。
迷宮の最前線で活躍してるのは、はみ出し者と言われるような者達だ。
そういう連中がのし上がって最強となっている。
残念ながらソウシ達の組合の探索者はそれらに比べれば一段落ちる。
だが、それはそれで良かった。
ソウシは最強や最高を目指してるわけではない。
最適や最善を目指してるのだ。
自分たちに出来る最も良い方法。
それが得られれば良い。
たとえ最高で無いにしても。
ソウシもそうだったが。
多くの者達は恵まれた才能があるわけではない。
それを持ってる者達には出来ても、ソウシ達には不可能。
そんな事はたくさんある。
「俺達は凡人だ」
ソウシは常々口にする。
「出来る奴はそうしてればいい。
でも、出来ない奴は出来る事をすればいい」
無理して出来るやつにならう必要はない
出来ない人間には出来ないのだから。
だから、出来ない人間にもやれる事をやっていくしかない。
それだけで十分成果を出せる。
「俺のようにな」
ここだけは冗談めかして言う。
しかし、まぎれもない事実だ。
そう思うのは、ソウシが転生者だからだろうか。
何も一番にならなくても良いと考える。
二番手、三番手でなくても。
衣食住が難なく手に入り。
そして生活に余裕がある。
それが出来れば良いと。
いわゆる中流なのだろう。
上流でも下流でもない。
その間、そこそこ豊かで、そこそこ楽が出来る。
仕事はせねばならないが、時間にも体力にも精神にも負担がない。
そんな生活が出来ればよい。
危険極まる迷宮での活動というのが、まずこの条件から外れてしまうが。
それでも、無駄に努力する必要は無い。
無意味に一番を目指す必要もない。
最強でも最高でもないにしてもだ。
全体からみれば高水準。
上位の中に入っていられるのならば。
その中では下の方にいたとしてもだ。
業界全体で頂点のあたりにいるなら問題は無い。 いや、頂点のすぐ下あたりかもしれないが。
そこにいられるなら十分だ。
今、ソウシはそんな所にいる。
これ以上は特に求めない。
というより、今の水準すら望んでもいないほどの高見である。
ここから上なぞ想像も出来ない。
また、ここより下に落ちるつもりもない。
ここから下がれば路上で野垂れ死ぬか、迷宮で怪物に殺されるかだ。
食うや食わずの生活を常にさまよう。
そんなの望まない。
普通の生活が出来て、それでも金が余って貯金が貯まる。
そんな日々をすごせるようにしてたい。
派手な活躍はない。
だが、そんなのはヒーローに任せれば良い。
凡人には縁の無い話だ。
「凡人は凡人らしく生きてればよい」
無理しなくて良い。
それでいて、気付かぬうちに豊かになっていく。
そんな生活が出来れば十分だ。
そんな生活を満喫し。
ソウシは二度目の人生を十分に楽しむ事が出来ている。
これ以上特に望むものはない。
だが、あえていうならば。
くれるというなら、喜んでよりよい生活を手に入れる。
それくらいの欲は持っていた。
なので、是非ともこの欲望がかなうよう願ってもいた。
「凡人だからな」
そういってソウシは、ワハハハと笑う。
もっと良いものが手に入るならどうするんですかという問いに答えて。
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【見本】時代劇風味の話、「一子相伝」の販売、そして見本
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