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明くる日

翌朝。

ラテンは、父親のごつごつとした手に揺さぶられ、目を覚ました。


「お父さん?」


いつもより重い瞼を擦り、体を起こす。

昨晩は中々寝付けずにいたので、少し寝不足気味だ。


「父さんな、用事があって今から森に行かなきゃだから」

「すまんが、畑の作業をお願い出来るか」


昨夕の獣についてだなと、考える。

ラテンが "分かった" と返事をすると、父であるベルクランドは、申し訳なさそうに笑みを浮かべて部屋を出ていった。


(そうだっ....!)


ラテンは、ベッドを飛び起きる。

そうして、机の引き出しを乱雑に開け広げたかと思うと、中から一枚の紙を取り出した。

そこには、小さなネズミの絵が描かれている。


「えーと、針は.....ここか!」


裁縫用の細い針を手に取り、左手の親指にちくりと刺す。


「っ....」


瞬間、淡い痛みが走ったが、そんな事はお構いなしだ。

ラテンは、赤黒くドロリとした液体が溢れ出た事を確認し、その指をネズミの絵に押し付けた。

すると次の瞬間。

緑の淡い光と共に、うす透明の小さなネズミが姿を現す。


(よしっ、成功だ)


部屋のドアを少し開けてから、ラテンは椅子の上で目を閉じた。

真っ暗な視界に、ぼんやりと景色が浮かび上がってくる。

数秒後。

自らの意識が、呼び出したネズミへと乗り移った事を知覚すると。


(いくぞっ!)


意思を得たネズミは、部屋のドアに向け一直線に駆けだすのだった。


--- 赤の森 ---

「これが、件の死体か....」


ベルクランドは、想像を超えるむごたらしい光景に、言葉を出せずにいた。


「確かに、こいつを普通の動物がやったと言うのは、ちと無理があるなぁ」


側で死体を見聞していたヴェルズが、顔を上げて言う。

その言葉に、一同は気を落とす。


「また、皆に無理を言う事になるのか...」


彼らの悩みというのは、討伐の際に支払う金銭についてだった。

王都の兵へ依頼をする為に必要な金額は、それだけで村を半年運営できる規模の物だった。

昨年に起きた事件の際にもかなりの出費を強いられている。


「...なぁ、自分達で魔物を倒すってのはどうだろう」


口にしたのは、村の財政管理を任されているモディだった。


「今回退けてもまたいつ現れるか分からないし、その度に討伐依頼をするんじゃあ村が潰れちまうよ...」


普段から神経質なモディだが、今日はいつになく弱々しい様相をしている。

それとは裏腹にヴェルズが毅然な態度で答えを返す。


「そりゃ無理だ、魔物退治なんてのは一朝一夕で出来るようなもんでもなしに、そもそも村の安っちい武器じゃ傷もつけられなぇ」


言われたモディは、しゅんと縮こまってしまう。

それを見たヴェルズは、頭をがしがしとやりながら続けた。


「そんな無茶な事より、考えるべきは金額の交渉だろう」

「お前がそんなんだから、王都の奴らもつけ上がってんじゃあねえのか?」

「そ、それは」


王都への交渉については、基本的にモディが行なっている。

最終的には村長のバルドが取りまとめるが、それまでの細かい金額の調整は村の財政を管理している彼が抜擢をされていた。


「皆んなに申し訳ない、とは思ってるけどっ」

「でもあいつら、俺たちの事なんか虫けら程度にしか思ってないんだから、そんな状況で交渉なんて」


王都の人間からすればこの村は、人も物資も吹けば飛ぶような物でしかない。

その為、交渉の際は常に足元を見られる事になり、それは討伐依頼の話だけに留まる事ではなかった。


「モディの言う通りだ、あいつらうちの牛を持っていくってのに、二束三文の金しか置いていかねえで...」

「うちもだ、この間なんて村のためにこっそり作ってた武具を金も払わずに持っていきやがってっ」


各々から、王都の人間への不満が零れる。


「ま、まあ、魔物が出たのは確からしいってのは分かった訳だから」

「後の話は、村に戻ってからにしよう」


ベルクランドは、何やら長い話になりそうだった場を切り上げる事にした。

彼自身もその流れに乗りたい気持ちはあったのだが、こうしている間も魔物に遭遇するリスクはある。


「そうだな、取り敢えず村に戻ろう」

「村長にも報告が必要だ」


一同は森を後にする事にした。

ベルクランドは、安堵を見せながら彼らの後に続く。


(ん?)


腰に下げられている小物入れの中で、何かがごそりと動いた。

立ち止まり袋の口を開けてみると、中には手のひら程の色素の薄いネズミが顔を覗かせていた。


「な、なんだ!?」


驚きのあまり、目を瞬く。

と、次の瞬間、先程までいた謎のネズミは煙の様にその姿を消していた。


「おーい、どうしたベルクランド!」


先を行くファットから、声がかかる。


「何でもない!すぐに行く!」


きっと疲れてたんだろう。

ベルクランドは、不思議に思う自分を無理に納得させ先を急ぐのだった。

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