村の集会所2
--- 集会所 ---
招集ランプを使ってから、もうすぐ10分が経つ頃だろうか。
部屋の中には、ぽつぽつと人が集まりだしていた。
「よぉ、ファット」
特徴的な青髪をした1人の男が、こちらに話しかけてくる。
彼の名はベルクランド。
ラテンの父親だ。
風貌は如何にも農家といった風で、土の付いたオーバーオールが良く似合っている。
「おれぁてっきり、村長の呼び出しかと思ったんだけどよ」
「表の掲示板で呼び出し人を確認したら、お前の名前があったもんで、びっくりしたよ」
この招集ランプは、畜産・経理・教育 など、村の各事業を取り纏める責任者達を集め、急事を知らせる為に使われる物だ。
各分野の責任者はそれぞれ特殊な指輪を所持しており、集会所にある魔鉱石に指輪をかざすと、その指輪へ招集の合図が送られる。
「あぁ、まあね....」
「それより、畑の方は最近どうだい。先月腰をやったって聞いたが」
言うと、彼は怪訝そうに顔をしかめた。
「本当に参ってるよ、1人でやるのがこんなに辛い物だったとは」
項垂れる彼からは、以前の様なキリリとした雰囲気が失われていた。
オールバックの髪は乱れ、睡眠が取れていないせいか目元が少し落ち窪んでいる。
「唯一の救いは、ラテンがいてくれる事だ」
「まだ8歳だってのに、手が掛からないどころか俺の仕事まで手伝うようになって、俺なんかにゃ勿体ねーくらいの息子だよ」
そう口にする彼は、どこかぎこちない笑顔を浮かべている。
そうして、何気ない話を広げていた所で、入り口の辺りが騒がしくなっている事に気がつく。
「あっ...村長!」
ベルクランドが声を上げる。
その声に反応したかと思うと、私と彼の座るテーブルの方に来て、どかりと腰掛けた。
「今回の招集者は、ファット君だね」
「まだ人が集まりきっていないみたいだが、先に要件を聞かせてくれないか」
白髪を額の中央で分け、そこから鷲のようなぐるりとした瞳が覗く。
なんとも、齢70とは思えぬ威圧感だ。
「は、はい....実は、赤の森で獣の死体を見つけたんです」
「それもただの死体じゃあなく、下半身は千切れて、顔も削り取られたように欠けていた...」
ベルクランドが、困惑した表情で私を見た。
集会所に集まった者達も、一様に顔を顰めている。
「あんなものは、普通の動物がやったとは考えられません」
「恐らくは、凶悪な魔物が、またあの森に....」
頭に一年前の記憶が思い起こされ、皆息を呑む。
しかして、目の前に佇むバルドはというと、丸太の様な腕を組みながら "ふむ" と小さく頷きを見せるのみであった。
そして彼は、淡い天井の光を見つめ、ぼそりと呟く。
「全く嫌なものだが」
「またぞろ王都の兵士様に、依頼をする事になるかもしれんなぁ」
文脈とは裏腹に、発する言葉は妙に上擦った音をしていたのだが。
その異変には、この場にいる誰もが気づけずにいた。