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赤の森2

静かな森に、子供の軽い声が響く。

ファットは、周囲に意識を向けつつ彼らの姿を見守っていた。


「あんなに元気なのは、いつぶりかねぇ」


大人びた態度を見せるラテンも、村では見かける事のない珍しい生き物を前に、顔を綻ばせている。

その姿を見て、ファットは一人安堵していた。

あぁ、彼もしっかり子供なのだと。


「ねぇラテン!次はあっちを見て見ましょう!」

「うん、そうだね!」


二人は、奥の茂みへと足を進める。

ファットはそれに気付き、声を上げた。


「おーい!危ないから、茂みの中へは行くなよー!」


あのまま入っていって、迷子にでもなられたら面倒だ。


「何よ!ファットさんのけちー!」


エリンからは、怒りの声が飛ぶ。

全く、あれでこの村のお嬢さんだというのだから面白い。


「しょうがないよ」

「それより、向こうに鳥の巣みたいな物があったから、そっちを見に行こう」


怒るエリンを宥め、彼らは件の木へと向かう。


「ほんとに、子供らしくないというか...」


ファットは、まだ 8 歳の彼を見ながら、本当に聞き分けのいい子だなと感心していた。


「...あれ?」

「何かしら、これ」


二人が、茂みの前を通りかかったと思うと、突然エリンが足を止めた。


「?」


ラテンは、彼女を気にして振り返る。


「何だろう、なんか黒い棒みたいな...」


見ると、何やら黒い物体が、茂みの奥から姿を覗かせていた。

エリンは、"それ"に手を伸ばす。


「待って!!」


それは、今までにない程大きな声だった。

びくりと体を震わせたエリンは、その場で立ち止まる。


「な、何?」

「どうしたの?」


ラテンは、茂みから出る黒い物に近づいていく。

そうして、謎の物体の丁度目の前に来た所で、そっと葉を掻き分けた。

暗闇が徐々に晴れ、奥にある "それ" は輪郭を帯びる。


「...っ!」

「ねぇラテン、何があったの?」


エリンは、肩口からその物体を覗き込む。


「ヒッ...」


二人の間に流れる一瞬の間。

先に沈黙を破ったのは、エリンだった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


離れた位置で様子を伺っていたファットは、すぐに二人の元へ駆けつける。


「どうした!?」


二人の正面。

掻き分けた茂みの奥には、獣の死体が転がっていた。


「ファ、ファットさん...これ」

「いいから離れろっ」


目の前の物から、強引にラテンを引き離す。


「いいか、そこから動くなよ」


二人が茂みから離れたのを確認し、再度草木を掻き分ける。


「...っ!」


それは、大人であるファットをしても、中々に耐え難い光景だった。

茂みに横たわる死体には、下半身がなく、腹部より向こうが裂かれた状態となっていた。

唯一、獣の片鱗を残す顔と思しきその塊さえも、原型が分からないほどに砕かれ、そして削られている。


「こいつは...まさか」


その姿を見て、脳裏には嫌な予感が渦巻いていた。

まさか、また ...。

と、考えを巡らせようとした所で、後ろに控える子供達の事に思い至る。


(そうだ、大人の俺がこんなんじゃいけん...)


「二人とも、今日はもう村に戻ろう」


ファットは "出来るだけ柔和な表情を" と、ぎこちない笑顔を浮かべながら二人にそう告げた。

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