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赤の森1

目的の場所へ到着すると、すぐにその人物を見つける事が出来た。


「あれ、ラテンにエリンお嬢ちゃんまで」

「二人で、一体何の用だい?」


彼の名前は ファット。

この村で牧場を営んでおり、普段は家畜の世話に追われている。


「僕ら、赤の森へ行きたくて」

「それでその.....子供だけだと不安だから、ファットさんに一緒に付いてきて欲しいんです」


彼は牧歌的な性格で、村の中では比較的緩い大人である。

他の大人はともかくとして、彼ならば付き添いを断ることはないだろう。


「...うん、いいぞ」


僕の説明を聞き終えたファットさんは、少し間を空けてから答えをくれた。


「だけど、村長には内緒にしてくれよ?」

「ばれたら俺が怒られちまうからな」


ファットさんは、からからと笑いながら言った。

それを聞いたエリンが、隣で跳ねた声を上げる。


「ねぇラテン!聞いたわよね!」

「これで一緒に赤の森へ行けるわ!」


本音を言えば、ファットさんにエリンを預けて、絵を描いていたかったけれど。

こんな反応をされるとそうもいかない。


「そうだね」

「でもエリン。まずは、付き添ってくれるファットさんにお礼を言わなくちゃ」


彼女は、はっとした表情の後に、いそいそと頭を下げた。


「ファットさん、ありがとう!」


それに併せて、僕も頭を下げる。

そうして顔を上げると、ファットさんが少し複雑な顔をしてこちらを見ていた。


「付き添いはいいんだが.....」

「ラテン、ほんとにいいのか?」


僕は、ファットさんが言わんとしている事を、何となく察することが出来た。

本当に、あんな事件があった場所に行くのかと。


「はい、もう大丈夫です」


彼の目を見て、こくりと頷く。


「そっか、あんまり無理はするなよ」


ふくよかな体系に浮かぶ柔和な表情で、くしゃりとした笑顔が作られる。

自然と、こちらの顔にも笑みが零れる。


「それじゃあ、ちょっと待っててくれ」


そう言い残すと、ファットさんは近くの小屋へと踵を返す。

少しして小屋から出てきた彼は、右腕に猟銃らしき物を抱えていた。


「使った事はてんでないが、森に行くなら一応な」


そう言って、軽く笑うのだった。


--- 赤の森への道中 ---

ファットさんの案内の元、見慣れぬ景色の中を歩いていく。

隣では、やけに上機嫌なエリンが、スキップをしながら鼻歌を歌っている。


「エリン、そんなにはしゃぐと転ぶよ」


言うと、彼女はムッとした顔でこちらを見る。


「私、そんなに運動が出来ない様に見えるかしら」


やはり、面倒くさい。

僕は、やや掛かり気味のエリンを落ち着かせる為、会話をする事にした。


「そういえばさ、エリンはどうしてそんなに上機嫌なの?」


彼女は、質問の意味が分からないという風に、首を傾げる。


「いやほら、僕と違って赤の森が初めてって訳でもないしさ、なんでそんなにテンション高いのかなって」


言うと、少し考える間を空けてから


「そうねぇ...それは森に着いたら分かるわ!」


と答えが返ってくる。

僕はまた、無茶を言い出すのではと勘繰る。

けれど、まるで宝箱を前にした様なキラリと輝く横顔を前にすると、頭に浮かんだ邪推を手放す他なかった。


--- 赤の森 ---

その光景は圧巻の一言だった。

暖かな暖色をベースとした、木々のグラデーション。

そして、それを装飾するかの様に、煌びやかな光がぽつぽつと灯る。

まるで、お伽話に出てくる妖精の国の様な、そんな世界。


「どう!凄いでしょう!」


隣で、エリンが歓喜の声を上げている。


「うん、凄い...」


僕は、思わず言葉を零す。

その感動的な景色の前でしばらくの間呆然とした後、ぼんやりと疑問が浮かんでくる。


「ファットさん、あの光って...」


森が赤いというのはある程度想像がついていたけれど、あの煌びやかな光は一体何なのだろうか。

これだけの広範囲だ、人の手で細工をしたというのはあまり考えられないけれど。


「赤の森はな、秋になると実が成るんだ」

「実、って果物とかと同じ様に?」

「あぁ、そうして木に成った実が熟すと、ああして光を放つんだ」


なるほど、あれは自然現象なのか。

などと感心していると、ちらちらと僕を伺う視線に気がつく。


「もしかして、これを僕に見せたいから、あんなに意気込んでいたの?」


エリンは、照れ臭さそうにこちらを見ながら、答える。


「そ、そうよ」

「...少しは、元気が出た?」


僕は、こくりと頷く。

彼女の不器用な気遣いのおかげか、体の奥にじんわりと暖かさが広がる。


「ありがとう、エリン」


その一言は、自分にしては随分すんなりと、そして柔らかく口にする事が出来た。

エリンは、少しびっくりした表情の後、満面の笑みでこちらに微笑み返す。


「ラテン、やっと笑った!」

「その..... 叔母様の件があってから、ずっと暗い顔をしていたから」


(あぁ....)

頭の中に、優しく微笑む女性の顔が浮かぶ。

そうか、この森で母が亡くなってから、もうすぐ 1 年が経とうとしているのか。


「... ごめんね、何だか気を使わせちゃってたみたいで」


エリンは、大仰に頭を振ってみせた。


「いいのよ!」

「それより、もっと森を見てまわりましょ!」


そう言って、彼女は暖かな森の中へと駆け出した。

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