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 シャロンは難しい顔をして一生懸命、思考を巡らせていた。クロフォード公爵家邸の与えられたシャロンの部屋の執務机に腰かけて、じっと考えてた。


 机に置いてあるのは王宮からの手紙だ。これについてはゆくゆくは対処しなければならない問題として理解はしている。しかししばらくの猶予はあるだろう。


 今問題なのはもう一つの問題の方だ。


 もう一つ机に置いてある紐でくくられたファイルのようになっているそれは、このクロフォード公爵家の系譜を書き連ねたものであり、最新まで記載されているそれを見る。


 すると分かるのは、エディーは天涯孤独らしいという事だ。


 父も母も兄も死亡していて、一番最近まで生きていたのがエディーの兄であるフレドリックだ。


 彼は、この家に養子に取られた子供らしかったが、早くにエディーの父親が死んだことで爵位を継承している。


 爵位を継承するには、成人している必要があるのでその時のエディーにはまだ継承できなかったのだろう。

 

 それからしばらくして母が死亡、エディーは長い間、クロフォード公爵である兄、フレドリックと過ごしていたのだろう。


 そして半年ほど前にフレドリックも死亡。必然的に今までまったく社交界で、顔を見なかったエディーという人間が公爵家当主に躍り出た。


 ……しかし、それにしてもきな臭いというか何というか。この家系図を見て何も感じ取れない人間もそういないと思うんだよね。


 何か起こったというのは事実だろうが、そのなにかというのはいまだ不明。


 それに加えてシャロンの名がエディーの隣に並ぶとなると気が重たい。ないとは思うが、突然殺されたりしないだろうか。


……ま、まぁ、元から社交界では死んでるようなものだし、気にしなくていいか!


 元気にシャロンはそう考えたが、ポジティブというよりこれではただの自虐だと思い直して、頭を抱えた。


 シャロンは元から、頭脳派ではない。この家の事情だとかエディーの思惑だとかを推理して見つけるのはとても簡単には出来ない。


 方法がない事もないが、それがエディーにばれた時、何が起こるかわからないので黙っている。


 ……普通の人なら、適当に聞いてみてもいいけど……エディーって、多分ちょいちょい白魔法を私に使ってるんだよね。


 シャロンも同じ白魔法を持ってるが、人により出来ることが少し違ったりする。癒しの力はもっぱら白魔法の代名詞だが、魔力を読み取って他人の考えを当てたりもできる。


 ……オリファント子爵の系譜は白魔法持ちが多いから、ステイシー姉様も持ってるし……だからわかるんだけど、ちょっと……たまに、考えを読まれてるらしい感じが……。


 つまりは、警戒していることや、余計なことを知っていると彼にばれるというわけで、怒ったところなど見たことは無いが、怒られたくはない。


 ……例えば、家系図に書いてあるフレドリックに死因の記載がない所とか。母親の死亡の原因が病死や事故なんかじゃなく失踪の末だとか。


 そういうなんだかもう怪しすぎるところの原因がエディーではないかと疑っているとバレたりしたら。


 ……。


 シャロンは小さく肩をすくめてどうしたもんかと困り果てた。


 ……でも案外考えてたら、実はそうなんだよって軽く話してくれたりする、かも


 ポジティブを発動してみるがしかし、そんな秘密を知る勇気などない。


 すると唐突にコンコンッと部屋の扉がノックされて、シャロンは椅子の上で小さく飛び上がって驚いた。


「っ、あどうぞ!!」


 そして驚いた拍子に部屋に招くようなことを口にしてしまって、気持ちの整理がつかないままエディーが部屋に入ってくる。


 夜はこうして部屋に来ることが多いので、それほど唐突な訪問という事ではなかったのだが、考え事の内容が内容だけあって、内心焦りまくっていた。


「……何かタイミングが悪いときに来ちゃった?」


 しかしよく考えてみると机の上に家系図を置きっぱなしにしているし、これではそれを見ていたからこそエディーに驚いているのだとバレバレだ。


 言いながらもシャロンの部屋の中に入り、そばまで来る彼に一瞬それをかくしてしまおうかと思ったが、それはそれで怪しい行動だろう。


「家系図? ああ、何か良くない考えでも思い浮かんだ?」


 エディーは机に手をついて首を傾けてシャロンを見た。それにぎくりとして固まったけれど、どうやら怒っているというわけではなさそうだった。


「深読みするのは自由だけど、そんなに変わったことは無いよ。……普通の貴族家系でありがちな事、以外」

「普通の……」

「うん。普通の」

「……なんか含みがある言い方だね……なんて」

「そうかな」

「う、うん」


 ……普通の貴族家系でありがちな事……って割ととんでもないこと起きたりするし、安心できないっていうか、むしろ、何があったか説明してくれないんだなって思うっていうか。


 相変わらず、よくわからない彼の言葉にシャロンは不気味な恐ろしさを感じつつ仕方なく話を切り替えた。


「……ところで、何か用事だったの」


 部屋にやってくるといつもシャロンはこう聞いていた。


 第二王子であるカインと婚約していた時も、一緒に住んでいた時も何か大体用事があって会いに来るので、手っ取り早くそう聞くのが癖になっている。


 それに、エディーは昨日と同じように答えた。


「用事がなきゃ会いに来ちゃいけない?」

「……違うと思うけど」

「じゃあ、会いたくなったから来ただけでもいいよね」


 まったく同じ答えに、昨日の事を想いだす。昨日は彼が持ってきたチェス盤で遊んで、その前の日は面白い小説があると言って持ってきてくれた。


 エディーだってそれなりにクロフォード公爵として忙しいと思うのだがまめにシャロンに構ってくる。


 シャロンの方は、誰からも誘いがないので社交にもいかないし、クロフォード公爵家とこの屋敷の事を覚えるのを当面の目的にしているが忙しくはない。


 だからまったくもって問題はないのだが、どうしても長年婚約者とは職務上のつながりの方を大切にしてきたので、夫婦とはこんなに親密なものかと思ってしまう。


「……でも、まぁ、いつも聞いてくるって事はやっぱりこういうのは落ち着かないのかな。シャロンは」


 腑に落ちないという反応をするとエディーはシャロンに寄り添ったようなことをいう。たしかに落ち着かないという言葉がしっくり来た。


「うん。少しだけ」

「そっか、それなら合わせてあげたいけど……」


 言いながらも適当に歩みを進めてシャロンの後ろに回り込んだ。そっと両手が肩に乗せられて、振り返ろうにも体をひねれないので、首だけで何とかエディーを視界に収めようと見上げる。


「俺は君に会いたいし、会えないと寂しいと思ってしまうから少し悲しい」

「……」


 するりと手が伸びてきて、シャロンの胸の前で手を結んで後ろから抱きしめるみたいにされてあっという間に、離れられなくなったことにシャロンは頭を抱えたくなった。


 なんせ彼はいつも距離が近い。普通の顔をして近寄ってきて、恋人のようにべったりと距離を詰めてくる。


 そして大体そうなると逃げようがない。別にまったく触るなとは言わないがむしろ、どうしてこうもあまりよく知らない人間にそんな風に触れられるのか謎だ。


「シャロンは俺の事が嫌い?」

「そんなっことは、ないんだけど」

「じゃあ好き?」


 後ろから問いかけられて、シャロンのうなじにエディーの髪が触れた。頭を預けられるような体勢になっているらしい。







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