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指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~  作者: ぽんぽこ狸


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 ……。

 

 記録の中では簡単に人を捨てているように見えた。ああして女の子達を振るときの彼の気持ちはわからないが、目の前にいるエディーの事なら少しだけわかる。


 だてに一緒にいるわけではないのだ。すべてが嘘だとは到底思えない。特にこの優しい瞳をシャロンが見紛うとは思わない。そこだけは自分を疑うことはしなかった。


「……どうしてそんなことしているのかって、聞いてもいい」

「そうだね。……女々しい話になるけど、俺はほら、幼少期に母親に捨てられてるからね」


 母の失踪は幼い子供には確かにその通りにうつるのだろう。そしてそれを否定するすべもないし、否定してくれる人もいない。


「母は優しかったし、なにより俺を愛してくれていると思ったんだけど、途中で放り出されて、子供なりに辛かったんだ。だから、途中放棄で自己中心的な愛情ってとんでもない偽善だと思うんだよね」

「……」

「愛されてると思った分だけ辛くなるなら。初めからそんなものない方が良かったって思うんだ」


 まるでシャロンは、自分の事を言われているようだと思った。ユーリに対する自分の事をそう言われているみたいで、ずきずきと心が痛い。


「だから、それを教えてあげてるんだよ。ずっと、自分がされて嫌なことを他人にしようと思わないだろ? そんなところかな」


 そう言って彼は、シャロンを見つめた。しかしそれは矛盾していて歪な考えだ。


 ……貴方自身が、されて嫌だったことを他人にするのに、他人に教えてあげているっていうのは無理があるというかなんというか。


 大人に見えて随分と子供っぽい事をしている。しかし、彼を否定することはできないだろう。


 その偽善にシャロンは助けられた、捨てられるのだとしても与えられた愛情は確かに変わらない。嬉しいと思ったし、でも哀しくもある。それもまた難しい問題でシャロンが見つけられていない答えだ。


 ユーリに対しての思いととても似ていて、どうするべきかわからない。


 けれどもその答えを出さずとも、今わかっていることはある。


「……幼稚な理由を聞いても、シャロンは俺を軽蔑したりはしないんだね」


 感情を読み取ったのか、彼はそう口にする。それをじっと見てからシャロンは動いた。


 エディーの方へと体を向けて、手を握ったままその頬に口づけた。それにキョトンとしてエディーは何も言わずにシャロンを見つめる。


「エディーはちゃんと愛してくれるのに、そんなことしてたら辛いんじゃないかなって私は思ってしまう」

「……全て嘘だったんだと思わないの?」

「私はエディーに愛されて嬉しかった、だから嘘じゃない。だからエディーも離れたら寂しくて辛いかもしれないって思ってしまうというか……エディーのお母さんも本当に愛していたのに、どうして居なくなってしまったんだろうね」


 それに嘘で他人を好きになるなんて事ができる人間がどこにいるだろう。全部本物だ。エディーの行動だって全部本物、でもだからこそ、そういう事をし続けるのは辛いと思う。

 

 母親の愛情も本物であったはずなのに、捨てられたせいでエディーは変な方向に歪んでずっと悲しい、それではいつまでたっても幸せになれないだろう。


「どうして、君が俺の母の愛についてそういえるの」

「見たらわかったよ、流石に。お母さんとてもやさしそうな綺麗な人だったね」

「……参ったね。……困った。いつもの通りにできないどころか、可哀想だなんて言われるとどうしたらいいのか」


 シャロンに言われた言葉がよっぽど予想外だったのか、エディーはそういって動揺した様子でシャロンを見つめた。


 その姿が母に抱かれた彼の一途なまなざしと重なって年上だけど、彼も寂しいかもしれないと思って、ソファーの座面に膝立ちして彼の頭を胸に抱いた。


「君からこうされると調子が狂うね」

「……」


 彼の母の真似をして後頭部をやさしくさすって案外、触ってみると赤茶の髪が柔らかい事に気がつく。


 さらさらとしていて、きっと彼の母もこうして髪をなでるのが好きだったのではないかと思う。


 すっかり静かになったエディーを抱いてシャロンは思った。流石に、急な失踪はおかしいと思う。ごめんねと最後の日に謝っていた真相があるのではないか。


 自身が捨てられるのを回避しようというつもりはない。しかし、それでもやはり、シャロンは出来るだけのことを出来る限りして愛してやりたいと思ってしまう性分なのだ。


 ……エディーがこれ以上、哀しい思いをしなくていい真相だといいし、きっと見つかる、やってみたら、いいのかも。


 よしっとポジティブに気合いを入れた。先ほどまであんなに怖がっていたが、シャロンは切り替えにだけは自信があるのだった。





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