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それから、ユーリとシャロンは片時も離れることなく過ごしていた。寝る時も、ご飯を食べるときも一緒で、ユーリが情緒不安定になって泣き出す時は離宮の外にある小さな庭園を散歩して慰めてやった。
よくお腹を壊す彼女の為に、ミルクやバターを一切使っていないクッキーを焼いてやったりして、シャロンとユーリは仲を深めていった。
しかし、それにカインはあまりいい顔をしていなかった。
なんでもユーリを優先するシャロンに、カインは嫌ってはいないがうんざりしている様子だった。
今日だって仕事の話をしに部屋に来ているのに、ユーリはシャロンに引っ付いて離れない。
「……其方は暑苦しくないのか」
見かねて膝の上にいるユーリについてカインは言及した。しかし、行儀は確かに悪いが、カインと話をしている間はユーリは静かにしているのだからシャロンは特に気にしてない。
「あったかくはあるけど、暑苦しくはないって、思ってるけど」
「シャロンに懐くようになって確かに、粗相の回数も減ったし、まともにそのぐらいの子供として話ぐらいはできるようになったが、それでもまだ普通の貴族の事もより劣ってる」
「……」
「ギデオン兄上は、資質を見るためにといったんだ。加護だってきちんと扱えていないではないか」
……それは……たしかにそうだけど。
資質を見るためにといったということは資質無しと判断されたら、どうなるのか、それはシャロンだって理解してる。しかしでは、親を求めて泣く罪のない子供をほうり出すことが出来るだろうか。
シャロンが不安に思うのと同時に、ユーリはシャロンを掴む手を強く握る。
それにユーリを握る手をシャロンも強くした。
……それでも、覚悟はしてる。でも、出来る限りの事をしたいと思ってる。それに、ユーリに罪はないから
話はそういう問題ではなかった。しかし、シャロンはどうにか自分を納得させていた。
「シャロン姉さま……」
「シャロンは其方の姉などはない」
心配そうにつぶやくユーリに、カインは厳しく言った。それにユーリは黙り込んで、視線を伏せる。
「カイン……私がそう呼んでいいと言ってるから」
「だが、そんな子供……」
「子供じゃない、ユーリっていう名前がある、カイン、貴方も少しだけでいいから、貴方も歩み寄ってみたらいいと……思うけど。それに、同じ離宮に住んでいるのに、嫌いあってるなんて気が滅入ると思う、ね」
彼にシャロンと同じような対応を強制するつもりはない。しかし、嫌う理由もないのに険悪なのは悲しい事だ。シャロンも実家ではそうして、厄介そうな目を向けられる側の子供だった。
だからこそ理解し合えるようにつなぎ役になるような大人が必要だったと思える。
「ユーリ、カインは怖い大人じゃないよ。気難しい顔をしていることも多いけど、私を大切にしてくれるいい人、顔だってほら、かっこいい」
「……よせ」
言いながら二人でカインを見た。するとシャロンに褒められてまんざらでもないカインは照れながらも不愛想にそういう。
「カインはこの国の王子様で、次の王様を支える立派な仕事についてるの」
「りっぱなお仕事」
「うん。だからいつも頑張っていて難しい顔をしてるって事、凄いでしょ」
「……うん。カイン兄さま、すごい」
復唱するように言うユーリに、カインはどうしたらいいのか分からないという顔をしていた。けれど、先ほどのような嫌悪感はない。
拙く言ったユーリの声もなんだか少しうれしそうで、シャロンは少しずれてソファーに座って、隣にカインを呼び寄せた。
「ほら、隣に来てみて、カイン。ユーリ、カインはね、剣術もならっていて凄く手のひらがおおきいんだ」
「おっきい、の」
「うん。ユーリよりも、私よりも」
ユーリとシャロンは手を合わせて、その手の大きさの違いを笑ってカインへと二人で視線を向けた。彼は、すこし不服そうな顔をしていたけれども、しばらくしてからユーリの隣に座って、その手のひらで二人の手を包み込んだ。
「おっきい!」
「ね!それにごつごつ」
「ごつごつ、ふっんふふっ」
「……シャロン」
「ん?」
「たしかに、温かいな」
無邪気に笑うユーリにカインはそういって、仕方なさそうに目を細める。
それから三人は家族みたいに仲良くなって、離宮でしばらく過ごした。シャロンとカインの結婚式も間近に迫ったころであった。




