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84 新人研修報告会

 丁度イーノックも街の中の依頼を終え、シャノンも戻って来たところで、全員がホールに集まって新人研修の報告会となった。


 夕飯の支度が一段落したノエルも、キッチンから出て来てくれた。ジャスパーとキャロルに少し驚いた顔をして、『うちの支部に冒険者の方が来てくれるなんて…』と呟いていたあたり、ノエルも随分訓練されていると思う。



「──というわけで、エイブラム氏はギルド長じゃなくなりましたとさ」


『……』



 私がざっくり事の顛末を説明する間中、ギルド長たちはぽかんと口を開けていた。


「以上、報告その1終わり!」


 パンと手を叩いて締め括っても、ギルド長たちは固まったまま。ジャスパーとキャロルはさもありなんという顔で苦笑している。

 数秒後、ギルド長が深々と溜息をついて眉間を揉んだ。


「あー、まず確認したいんだが」

「うん?」

「…お前たちは、新人研修に行って来たんだよな?」

「うん」

「新人研修、だよな?」

「うん。無事に終わったよ?」

「どこが『無事』だ!」


 ギルド長が叫びだした。


「まず受付で所属支部を変更させられそうになったって時点で意味が分からんし、実力テストの中身が本部の採用試験の問題だったけど普通に解いたってどういうことだよ!?」

「言葉通りの意味だよ。あとそれ私たちのせいじゃなくてあっちが勝手にやったことだからね。ちゃんと合格できたんだから良いでしょ。シャノンなんか実力テスト100点満点中95点だったんだよ?」

「ああそれはすごいと思う。よく頑張ったなシャノン」

「は、はい」


 一瞬平静になったギルド長がシャノンを褒め、すぐまたギロリとこちらを睨む。


「で、昼メシ盗まれた腹いせにヒイロコガシの毒を盛ったって?」

「我ながら良い作戦だったと思う」

「どこがだ! 一歩間違えたらお前らが捕まるところだったんだぞ!?」


 まあそれは認める。でもね、


「ギルド長。人には譲れない一線というものがあってだな」

「お、おう…?」


 私が据わった眼で呟いたら、ギルド長はあからさまに怯んだ。



「他人の食べ物を勝手に食べる不届き者は、背後から刺されても文句は言えないんだよ」


「んなわけあるかー!」



 ギルド長の突っ込みがいつにも増して激しい。

 グレナがくくっと喉の奥で笑った。


「いや、良い作戦じゃないか。あっちじゃヒイロコガシは知られてないだろうし、致死性の毒でもない。私なら虫を丸ごとおにぎりの中に仕込むがね」

『ゲッ』

「それ私も考えたんですけど、実物見たら予想以上に見た目が派手だったんで食べる前に気付かれるかなと思ってやめました」

「考えたのかよ!?」

「そりゃ考えるよ。…想像してみ? 自分だけあからさまに難易度の違う問題出されて2時間くらい必死こいて回答して、休憩時間にやっぱりみんなと違う問題だったんだどーなってんだよって思って、点数発表されたと思ったら支部の偉い人の呼び出し喰らって権力を笠に着た『勧誘』って名目の脅迫受けて、上等だゴルァって全面的に受けて立って、さあ気を取り直して昼メシだ!ってなった時に用意してたはずのお弁当が無い。そりゃあ盗っ人に仕返ししたくもなるって」

「気持ちは分かるが、それ半分以上八つ当たりだろ」


 チッ、鋭いな。


「否定はしない」

「オイ」


 人間、腹が減ると(ろく)なこと考えないから仕方ないよね。


「まあ結果的にジャスパーとマグダレナ様も巻き込んで『偉い人公認』みたいになってたから問題ないよ。マグダレナ様なんかノリノリだったもん」


 そもそもヒイロコガシを集める時点でお米に落ち葉を被せると良いと助言してくれたのは『ユリシーズ』だし、最終的にその件に関してはお咎めも無かった。そう説明すると、グレナが頷く。


「あの人ならそうだろうね。大人しそうな顔してえげつないことも平気でやる」

「つまりユウと似──なんでもない」


 ジャスパーがこちらを見て言葉を切った。今、何を言い掛けたのかなー?


 ギルド長が溜息をつく。


「………まあいい。──で? スライムに苦戦して、ソルジャーアントはさらっと殲滅して、村人を救出してエイブラムは失脚してカレー?パーティーして帰って来たって?」

「うん」

「……何がどうしてそうなった…」

「マグダレナ様がロセフラーヴァ支部の内偵に来るタイミングと被ったのがいけなかったね。まあそのお陰で私は不合格にされずに済んだし、不良冒険者として宣伝されるのも免れたわけだけど」


 そもそもマグダレナは私たちが新人研修を受けに来るのに合わせてロセフラーヴァ支部に来たわけで、恐らく今回の事態は避けられるものではなかった。


 つまり、大体全部マグダレナのせい。


「他人のせいにするな」

「そういうことにしといた方が精神衛生上、良いと思うよ? 別にこっちに実害があるわけじゃないし、気にするだけ無駄だって」

「そうだな」


 私の適当な言い訳を後押ししてくれたのは、何とジャスパーだった。


「エイブラムがギルド長から降ろされて、正直ホッとしてるやつらも多いんだ。素行の悪い連中も一掃されるだろうし、うちの支部にとってはこれで良かったんだと思うぜ」

「ええ。おかげで少しは居心地が良くなりそうよ」


 キャロルも笑って頷く。実は2人とも、上級冒険者としてこっそり悩んでいたそうだ。

 それを聞いてようやく、ギルド長の顔が緩む。


「そうか…迷惑を掛けただけじゃなかったか」

「ギルド長は心配し過ぎだと思うよ」


 オカンか。私が突っ込むと、ギルド長は渋面を作った。


「オカン言うな。お前こそ『主婦』のくせに後先考えなさ過ぎなんだよ」

「世の主婦には思い切りも大事なのだよ」

「…主婦って…ユウ、独身でしょ? まさかその歳で結婚してるの?」


 キャロルが首を傾げる。そういえばロセフラーヴァのみんなには実年齢教えてなかったっけ。


「いや、既婚…というか離婚済み」


 離婚届を提出したわけじゃないけどね。事実上もう離婚してるよね。


『えっ?』

「もっと言うなら、多分私、ジャスパーより年上だよ」

『……は!?』


 ジャスパーとキャロルが目を見開いた。今度は小王国支部の面々がさもありなんという顔で苦笑する番だ。


「いや待て。俺25だぞ!?」

「ああやっぱりそれくらいか。私は27」


『はあ!?』


 2人が同時に叫んだ。まあね、そのくらいの反応は織り込み済みだよ。


「…シャノンと同じか少し年上くらいだと思ってた…」

「…少なくとも20歳以下かと…」


 シャノンは比較的大人びた顔立ちだから、余計にそう見えたんだろう。…私の方が背が低くて言動が子どもっぽいからではない。きっと。


「年上…年上かあ……そりゃあエイブラムのやつにも平気で喧嘩売れるよな…」

「…年齢は関係あるのかしら…?」


 ジャスパーが納得する横で、キャロルがぼそりと呟く。


 鋭い。

 エイブラムに喧嘩売ったのは、年齢立場関係無く私がああいうタイプ嫌いだったからだよ。






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