おまけ(27) 【イーノック視点】冒険者という存在
本日はコミカライズの更新日です!
ドゥン!と爆発が起きた前回。さて今回は…?
是非ご覧ください!
…というわけで、今回のおまけ小話はイーノック視点。というかほぼイーノックの独白ですね。
彼がどういう経緯で冒険者になったのか。そして、彼から見た冒険者の世界はどんな風に映っていたのか。
主人公たちはほぼちょい役ですが(笑)
それではどうぞ!
昔から、兄に対して劣等感を抱えていた。
僕の家はユライト王国のロセフラーヴァの街を拠点して、商会を営んでいる。王都や他の街にも支店がある、ユライト王国や隣の小王国ではちょっと名の知られた商会だ。
そこに生まれたんだから『勝ち組』だろうって言われたこともある。
その中に嘲笑が含まれていたのを、僕は敏感に感じ取っていた。
兄は商会の後継者として文句のつけようがない人間だ。体格がよく、体力もあって、頭の回転が速く数字に強い。そして何より、他の人を引っ張っていくカリスマ性がある。
身体を動かすのが苦手で、頭の中で考えていることを言葉で表現することが下手で、いつもみんなから置いてけぼりをくらう僕とは正反対。
そんな僕だから、兄に誘われて一緒に遊びに行っても、他の子どもたちに気後れしてなかなか上手く遊べない。兄は優しいから、大丈夫だとかイーノックに合わせた遊びにしようとか言ってくれるけど、それが余計に僕の劣等感を刺激した。
できれば兄たちとは一緒に居たくない。でも、はっきり断ることもできない。
家の中で逃げ場を探した結果、僕は厨房に行き着いた。料理を教わっているふりをすれば、少なくとも強引に外に連れ出されることはない。
束の間の平穏のために始めた料理。でも、やっているうちに段々夢中になっていった。
少しずつ野菜を切るのも上手くなっていくし、火が通ったタイミングも分かるようになる。自分が成長していくのが実感できる。
それに料理なら、兄と比べられることもない。僕が作った料理を食べて「美味しい」と言ってくれる両親や兄の顔を見るのが、いつしか僕の何よりの楽しみになっていた。
──でも、いつまでもそのままいられるわけじゃなかった。
学校を卒業する頃、クラスメイトと将来について話す機会があった。
クラスメイトたちとは、それまで何となく距離があった。僕があの家の出身だから仕方ないと思っていたけど、将来はどうするのかと聞かれて、僕は少しだけ心が浮きたった。
実家の店を継ぐとか魔法道具の技術者になるとか、結婚相手が決まっているとか、クラスメイトの口にする将来像は様々だ。僕も自分の希望を口にしたら、彼らの仲間になれるような気がした。
「僕は、料理人になろうかなって思ってるんだ」
思い切ってそう言うと、クラスメイトたちは顔を見合わせ、その中の一人が笑顔で言った。
「そうなのか! イーノックなら親父さんが店を建ててくれるだろうし、将来安泰だな!」
その瞬間──僕は理解した。
僕は、今のままでは、どう足掻いても『父のすねかじり』の域を出ないのだろうと。少なくとも周囲にはそう見えるのだと。
料理人に『なろうかな』、その程度の気持ちで口にした願いですら、家の財力で叶えられてしまうと。
今思えばどうということのない言葉なのに、なぜだろう、その時の僕は、死刑宣告を受けたに等しい重さと痛みを感じた。
だから、家を出ようと本気で考えるようになった。
料理以外で、僕が少しでも役に立てること。
そして、父の商会の威光が届きにくい、僕個人の力を見てもらえる場所。
考えて考えて──家族の中では僕しか持っていなかった魔法の才能に一縷の望みを託し、僕は冒険者ギルドロセフラーヴァ支部の扉を叩いた。
そこで僕を待っていたのは、想像よりもずっと厳しい現実だった。
僕と同じくらいの魔力を持つ冒険者はゴロゴロ居る。
それに、街の外に出ることが多い冒険者にとって、体力がないことは致命的だった。魔法使いだって歩いて移動するのだから、パーティを組むなら体力がある方が良いに決まっている。
新人研修を終えても、僕にパーティを組もうと言ってくれる人はいなかった。
ギルドの受付の人は街の中での依頼なら一人でも受注できるとアドバイスしてくれたけれど、魔法使いとして大成すると宣言して冒険者になった手前、魔法を使わなくてもできる仕事なんてしたくなかった。
それに街の中だと、下手をしたら父の商会の関係者とすれ違うことになる。冒険者になったのに使いっ走りのような仕事をしていると知られたら、どんな噂になるか分からない。
実家に帰るという選択肢は最初からなかった。
冒険者になると言った時、父とは口論になり、母には泣かれ、兄にはとても困った顔をされた。
それを全て振り切って、家を出た。それなのに、冒険者になって早々諦めるなんて格好がつかない。
いっそ違う街の支部に移籍した方が良いんだろうか。そんな風に思っていたある日、パーティに入らないかと声を掛けてくれたのが、デュークとエドガーだった。
「ちゃんと魔法が使える奴が必要だ」
デュークは魔法剣士、エドガーは重戦士。
パーティのバランスを考えると、もう一人は魔法使いが良い。そう言って差し伸べてくれた手を、僕は迷わず掴んだ。これを断ったら後がないと思ったからだ。
パーティを組んでから、僕は必死に働いた。
食料の買い出しに武器や防具の整備、依頼についての情報収集。パーティを組んだから街の外の依頼も受けられるようになって、野営の時の水の確保や火おこしなど、魔法が活躍する場面もあった。
デュークとエドガーは僕にロセフラーヴァ支部の冒険者としてのルールを教えてくれた。
正直、それはどうなのかと思うような内容もあったけれど、パーティをクビになったら冒険者として生きていけないから、とにかく2人に同調した。そのうち、そのルールにも慣れた。
他のパーティと合同で受けた依頼では、それほど活躍できなかったけど…後方支援も大事だとデュークに言われ、僕は野営地の焚火の管理や料理の手伝いをした。子どもの頃の経験がこんなところで生きてくるなんて、昔の僕は想像もしていなかった。
そうして僕は、中級冒険者になり──ある日、魔物鑑定士のチャーリーの依頼で、護衛役として小王国に行くことになった。
小王国支部はとても小さく、ギルド長の他は、新人冒険者1人と初級冒険者2人、そして冒険者見習いが1人しか居ないらしい。職員も2人しか居ないなんてどういう状況なんだろうと思ったけれど、だからこその護衛依頼だ。デュークもエドガーも乗り気だったので、僕もそれに従った。
…ちょっと、失言してしまったけれど。
──そして、小王国へ赴き。
魔物がウルフとゴブリンとゴーレムだけと聞いて、僕は正直、油断していた。全部初心者向きの魔物だ。デュークも依頼を受けた当初、『魔法を使うなんてどうせ見間違いだろう』と言っていたから、そういうものなんだろうと思っていた。
が──実際戦ってみてようやく、僕は自分の間違いに気付いた。
火球の魔法が効かない。デュークとエドガーが完全に遊ばれている。傍から見ていたら楽勝だと思えた魔物の動きが、いざ相対すると全然予測できない。
とにかく魔法を当てなければと、僕は間合いを詰めて再度目を閉じて集中し──
目を開けた時、すぐ近くにウルフが居た。
──正直、死んだと思った。
集中なんてしていられない。間近で感じる息遣いに魔力が霧散し、僕はその場にへたり込んだ。
でも、尻餅をついた僕には、衝撃も痛みも来なくて。
気付いたら、目の前に割り込んだ小王国の冒険者──ユウさんが、ウルフの顎にウォーハンマーの柄を噛ませて受け止めていた。
そして次の瞬間、ガツン!と強烈な膝蹴りを放ち、変な形にひしゃげたウルフがあらぬ方向に吹っ飛んでいった。
……信じられない。
「ギルド長のところまで退避して」
「は、はいっ!」
低い声に、僕はビクッと立ち上がって走り出す。
ウルフより、ユウさんの方が怖い。初心者って言ってなかったっけ。
何とか安全圏に──小王国のギルド長、カルヴィンさんのところまで退避した僕は、呆然と周囲を見渡した。
さっきまでの僕のように、へたり込んでいるデューク。ぽかんと口を開けて棒立ちしているエドガー。
一方で、小王国の冒険者たちとギルド長は違った。
少し小柄な魔法剣士のデールさんは素早く立ち回り、魔法で牽制しながら的確にウルフの急所を斬る。
大柄なサイラスさんは、その体格からは信じられないような素早さで大剣を振るい、豪快にウルフを叩き斬る。
一番小さなユウさんは、ウォーハンマーを振るい、あるいは柄でウルフを受け止めて蹴りを叩き込み、的確にウルフを無力化する。
その3人を、ギルド長が魔法でフォローする。魔法剣士だって聞いていたけれど、氷の魔法を放つ速度も威力も、普通の魔法使いよりずっと上な気がする。
──もしかして、僕は、色々と間違った認識をしていたんじゃないか。
彼らを見て、僕は不意にそう思った。
イーノックもイーノックなりに考えておりました。
頑張る方向性が違うという突っ込みはまあ…ね?(笑)
…さて。
改めまして、本日はコミカライズ11話、その①の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
今回更新分の原作者的イチオシポイントは、
・プスプスしているチャーリー(完全にネタ枠ですね、ハイ)
・ちょっと嬉しいユウさん(表情が絶妙で…!)
・真っ白になっちゃってるユウさんと舎弟とルーン(ギルド長不在なので…)
・「やっちまったな…」のコマ(ジーザス!)
・金貨が20ま~い…40ま~い…60ま~~~~い…!(顔w)
・「決まってるだろ」のグレナ様(この女傑系ばあさんいつも格好良いんですよ…!)
…です!
チャーリー御一行が退場し、ギルド長不在の中、頑張る小王国支部の面々。
そして次のあの場所へのフラグ。ターニングポイントの一つです。
来たなあ…!と感慨深くなっちゃいますね。
…というわけで、次回更新は12月23日(火)の予定です。
8月7日に発売したコミック1巻、
8月25日に発売した小説1巻、
そして絶賛Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!




