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おまけ(24) 【ディアボラ視点】勇者召喚の儀

本日はコミカライズの更新日です!

前回、溜まりに溜まったフラストレーションを魔物にぶつけ、見事ホラー化していたユウさんと舎弟2人。

今回は…?

是非ご覧ください!



さて、今回の小話はディアボラ視点、勇者召喚の儀のお話です。


ディアボラ、本編未登場のキャラですが…小王国の迷惑王太子ジークフリードの妻、王太子妃様です。

おまけ(1)にちょろっと出て来ておりますね。穏やかそうな顔して、できる女性です。

そんな彼女の目から見た、勇者召喚。どんな風に見えていたのか。


それではどうぞ!




 勇者召喚の儀を行うと知らされたのは、今年の城の使用人の採用について財務担当者と話を詰め、一息ついた頃のことだった。


「──つきましては、王太子妃であらせられるディアボラ様には、召喚される勇者様専属の使用人の選定をお願いしたく…」


 私の執務机の前、文官長のケネスが背筋を伸ばして言う。


 いつになく饒舌(じょうぜつ)に思えるのは、目が輝いているからだろう。いかにも神経質そうな見た目をしていて、実際いつも仕事で苦労しているこの文官には珍しく、興奮気味に語っている。


 この国の人々にとって、『勇者召喚の儀』はいわば伝説の再来。そう考えると、この態度も納得できる。

 とはいえ──実務面を考えると、少々頭が痛い。


「…ケネス」


 私は言葉を選びながら口を開いた。


「私の記憶が確かなら、今年の予算に『勇者召喚の儀にかかる諸経費』は含まれていなかったと思うのですが」


 この国──小王国の王太子、ジークフリード様の正妃としてユライト王国公爵家から嫁いで、20年あまり。

 一人息子も立派に成長し、ここ数年は現王妃殿下から仕事を引き継ぎ、城の内政を任されるようになった。

 つまり、城内で働く使用人たちの採用や配置については、私に一任されている。


 逆に言えば、それ以上の権限はない、ということだけれど…決定した予算などの情報は逐一共有されているので、私の頭にも入っている。

 少なくとも、昨年末に示された今年の予算の中に『勇者召喚』という文字はなかった。私の指摘に、ケネスは目を泳がせる。


「それは、その……勇者召喚の儀に必要なのは主に魔力でして、特別な予算は必要ないと……」


 …王妃教育の中で、勇者召喚には希少素材をいくつも使う、と教わった気がするけれど…元々あるものを使うのかしら。

 それに、魔力を使うということは恐らく、魔法使いや魔力の豊富な貴族を動員することになると思うのだけれど、協力者への見返りは必要ないということ?


 ──私が考えることではないわね。


「…そうですか」


 こうしてケネスが動いているのなら、既に事は決定している。予算外の支出が発生しても、彼らが何とかするのだろう。私は、求められた役割だけを果たせばいい。


 私が貴族然とした微笑みを浮かべて頷くと、ケネスはあからさまに安堵の表情を浮かべた。それで、ですね、とキラキラした目で続ける。


「この記念すべき儀式に、ディアボラ様にも是非ともご参加いただきたく──ジークフリード様はご不在ですので、次代を担う御方として、是非!」


 ジークフリード様は、数ヶ月前の『他国の様々な料理を食べてみたいものだ』という発言が発端となり、現在、諸外国に遊学している。今頃はユライト王国の私の生家で歓待を受けていることだろう。


 …このタイミングでの勇者召喚の儀式──恐らく現王陛下は、息子であるジークフリード様の方が民衆に支持されている現状に焦り、何か誰の目にも明らかな功績を、と思われたのでしょうね。

 ジークフリード様が信奉されているのはあの方の持つスキル『カリスマ』の恩恵ですし、焦ることなど何もないのですけれど…。


 ──それにしても、儀式に参加せよとはつまり、私も魔力を提供せよ、ということかしら。


「…分かりました」


 内心で深い溜息をつきながら、私は表情を『笑顔』に固定し、頷いた。

 私は魔力の高さに定評のあるユライト王国公爵家の出身。それ相応に、魔力は高い。ジークフリード様の『カリスマ』が効かない程度には。


 ──その事実を、私はこの日初めて、少しだけ後悔した。





 そうして巡ってきた、勇者召喚の日。


 普段は立ち入り禁止となっている王城の地下室で、床に刻まれた複雑な魔法陣と様々な希少素材、そして数多の貴族たちと私たち王族の膨大な魔力により、儀式は行われた。


 石造りの地下室が眩い光に満たされ、現れたのは、女性が2人と男性が1人。


 記録に残る勇者は皆、一度の儀式で1人だけ喚ばれていた。どういうことかと訝る私の前で、現王陛下は次々鑑定魔法を使っていく。

 3人のうち、寄り添う男女はそれぞれ『勇者』『聖女』と鑑定された…らしい。その文字は異世界の言語で、私には読めなかった。


 ケネスが翻訳するたび、周囲が沸く。けれど──


「……」


 私は残りの1人、ひどく冷静な顔をしている女性に注目していた。


 『聖女』とされた女性と比べて背は低く、服は簡素で、顔立ちは一見、幼く見える。

 けれど恐らく、聖女より年上だ。

 疲労感漂う濁った目に、クマの濃い目元、ボサボサの短い髪──激務続きで疲弊していた時の父を彷彿とさせる。

 召喚される前、一体どんな状況だったのだろうか。


 そんな彼女の鑑定結果は──



「…………『主婦』、ですね………」



 ケネスの声が響いた瞬間、場の空気が凍った。

 …主婦。平民の夫婦の、妻のこと、だったと思うけれど…。


 案の定、陛下は怒り出し、ケネスに詰め寄った。けれど、ケネスは陛下の鑑定魔法の結果を翻訳しただけだ。結果は覆らない。


 宰相のとりなしで陛下が何とか落ち着き、改めて勇者と聖女に声を掛けたと思ったら、今度は勇者の様子がおかしくなった。

 目をぎらつかせて「こういうのを待っていた」などと言い、主婦、と鑑定された女性に向き直って、


「よう、主婦。お前が頭を下げて『誠心誠意勇者様のために尽くします』と誓うなら、養ってやらんこともないぞ」


 瞬間、私は理解する。

 この勇者、世の大部分の女性の敵だ。

 少なくとも私は、この勇者も、当然という顔で勇者に密着する聖女も、好きになれそうにない。


 威圧的な言動を向けられた、当の女性は──



「お断りします」



 それはそれは綺麗な笑みを浮かべて答えた。いっそ清々しい。

 勇者は驚き、見苦しくわめき始めたが、女性が不意に近付いて何事か囁いた途端、態度が一変した。


「…お、お前のことなど知らん! どこへなりと行くがいい!」


 …女性に『他人です』と言われて反発していたし、この勇者もしかして、聖女ではなく、この女性の配偶者だったのではないかしら…。


 しかし女性の方からすると、勇者はもはやそばに居たい相手ではないらしい。

 淡々とした口調で陛下を言いくるめ、女性は地下室を出て行った。


 …誰も追わないのね。


 召喚された時の服装のまま、何も持たずに出て行った彼女は、いわば被害者だ。私は視線を巡らせ、困惑した様子で佇んでいる騎士団長──アレクシスに目を留めた。


 彼は相手の言動の裏を読めないところがあるけれど、女性や子どもに優しく、裏表のない性格だ。ジークフリード様の影響のない今ならなおさら信用できる。


「アレクシス」

「はい、ディアボラ様」


 呼び掛けると、アレクシスはすぐに反応してくれた。


「今出て行った彼女を追ってください。城は広いので、迷子になるといけません。出口まで安全に送り届けるように──ああそれから、当面の宿代を渡してあげてください。後で私の私費から補填します」

「承知いたしました」


 囁くような指示に特に疑問を差し挟むことなく頷いて、アレクシスは大股で女性の後を追う。あの速さなら追い付けるだろう。


 ホッと息をついて、私はそっと心の中で祈る。



 …自分の意志で出て行った彼女が、せめて自らの思うように、自由に、生活できますように。









召喚された理由:全 部 王 太 子 の せ い 。


…世の中には、知らない方が良いこともありますね…。



…さて。


本日はコミカライズ9話、その②の更新でしたね!

みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・帰ったら即行起きてる事件(ルーンのお顔がイイ…!)

・『ジュウ…』ってなるチャーリー(迂闊すぎる)

・悪い顔のギルド長(悪い顔だ…w)

・自信満々な自称ベテラン中級冒険者(この時点でオチが見えるw)

・ピンポン玉(足止めするとかしないとかいう問題じゃないんだなあ…)

・『ギルド長』『おう! 行ってこい!』(すごく噛み合ってる感じが素敵ですね…!)

・最後のページ(ユウさん格好良いー!!)


…です!


自称ベテラン中級冒険者の素行の悪さと実力のほどがとてもよく見える回になっております。

速やかにメッキが剝がれ始めましたね。そしてチャーリー、見事に口車に乗ってますね…(笑)

彼は良くも悪くも素直なので。ハイ。


…というわけで、華麗に参戦したユウさんに黄色い声を上げつつ、次回更新は11月11日(火)の予定です。


8月7日に発売したコミック1巻、

8月25日に発売した小説1巻、

そして絶賛Web連載中のコミカライズ!


みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!




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