おまけ(22) 【オフィーリア視点】迷惑な上客
本日はコミカライズの更新日です!
前回、『魔物は精霊馬にビビッて出て来ない』という意味深な発言が飛び出しました。どういうことかというと…?
是非コミカライズをご覧ください!
…というわけで、今回の小話はオフィーリア視点。
オフィーリア、みなさま覚えておりますでしょうか。本編29.5話(閑話 幻獣の毛皮)で初登場しました、カーマインの幼馴染で服飾店の店長です。
前話(おまけ(21) 【勇者()視点】輝かしい生活)にも出てきておりますね。
今回は前話の続きのような感じで、『勇者()』と『せいじょ』のお披露目衣装を納品する時のお話です。
阿呆2人の城での生活が現地の人間にはどう見えているのか、何となく想像していただけるかと思います。
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勇者と聖女のお披露目を5日後に控えた、よく晴れた日。
私は、高級服飾店『湖面のさざめき』店主として、王城を訪れていた。
目的は勿論、勇者スカイと聖女マリンとの面会とお披露目用衣装の納品。
そしてその後、つい先日手に入れたあの『幻獣の毛皮』を献上するため、国王陛下に拝謁することになっている。
…もっとも、今日持ち込んだのは洗っただけの未加工の毛皮が1頭分だけ。とりあえず実物をご覧いただいて、何に加工するかご要望を賜った上で作業に入るので、実際に使える状態のものを陛下に献上するのは早くて1ヶ月後になる。
王家御用達の看板を背負っている関係上、この白亜の城も通い慣れた得意先の一つだ。
いつもなら、わずかな緊張と誇りを胸に回廊を歩くのだが──今日は少々、気が重い。
「…オフィーリア様、お足下にお気を付けください」
荷物を捧げ持って私の3歩後ろを歩く副店長──ルドルフから、そっと警告が飛んで来た。
暗に『内心が行動に出ている』と言われている。
「ええ」
私は意識して背筋を伸ばし、口の両端をキュッと少しだけ引き上げる。身体に一本、芯が通ったような感じがして、足音がほんの少し、軽快になった。
いくらあの2人との面会が憂鬱だからといって、それが態度に出ていては王室御用達の名折れだ。
「来たわね!」
案内のメイドが用向きを告げ、許可を得てから扉を開けると、聖女の弾んだ声が響いた。
ソファーに座っていたのだろうが、目を輝かせてローテーブルに両手をつき、身を乗り出すさまは、我慢のきかない子どもと大差ない。
夜着や普段使いのドレスを納品した時と同じ──いえ、それ以上の落ち着きのなさに、私は内心で溜息をつく。
…貴族の出ではないというし、聖女という立場上、注意する者も居ないのでしょうけれど…もう少し何とかならないものかしら。
閉口しつつも、それを表に出すほど未熟ではない。私はその場で丁寧に一礼した。
「本日はお時間をいただき、ありがとう存じます、勇者様、聖女様。お披露目用衣装の納品に参りましてございます」
「うむ」
聖女の隣、ソファーに深く腰掛けた勇者が、勿体ぶった態度で頷いた。
その手には、食べかけのクッキーがつままれている。
これまでの訪問でもたびたび目にした光景だけれど、バターケーキにクッキーにタルト、果てはデコレーションケーキまで──贅を尽くしたお菓子ばかり食べているのを見ると、羨ましさより驚きの方が先に立つ。見ているだけで胸焼けしそうだ。
…実際お二人とも、初めて会った時より顔がふっくらしてきているし…そのうち納品した服のサイズ直しの注文が来るのではないかしら。
「そういえば、前に作ったデイドレス、洗うの失敗しちゃったらしくて縮んじゃったのよね。作り直してくれる?」
納品の前に注文が来た。私は一瞬息を詰める。
納品する衣装を持って前に出ようとしていたルドルフが、ぴたりと動きを止めた後、サッと元の位置に戻った。
…私が突っ込まなきゃいけないのかしら、これは…。
内心でつい、悪友のマリア──もとい、カーマインのような口調で呟いてしまう。
言うまでもなく、城の洗濯係はその道のプロだ。
兵士の制服とか、明らかに消耗品扱いの服ならともかく、聖女のドレスの洗濯を失敗するなど有り得ない。
それなのに『ドレスが縮んだ』、つまり服が入らなくなったということは──問題はドレスそのものではなく、中身の方だ。
この聖女の勘気に触れるのを恐れて、誰も指摘していないようだけれど。もう見た目で分かるものね。
「──左様でございますか」
周囲の者がそれで押し通そうとしているのなら、失敗したことにされた洗濯係は気の毒だけれど、わざわざ指摘することもない。私は笑顔で一礼した。
「承知いたしました。それでは新たにお作りしますので、改めてサイズ確認をさせてくださいませ」
「ついこの間測ったじゃない」
聖女が不快そうに眉を寄せ、その背後に控える侍従が少々青くなる。が、こちらは曲がりなりにも王室御用達の看板を背負っているのだ。この程度、どうということもない。
「念には念を入れよ、と申します。王族の皆さまも貴族のみなさまも、服を仕立てる際はその都度、毎回、サイズを確認しておりますので、聖女様におかれましてもそのようにご理解いただけますと幸いに存じます」
あくまでも、それが普通だと強調する。
実際には、毎回測るかどうかはお客様のご意向次第なのだけれど…今回はどう見ても測り直し必須。
おおよそ1ヶ月前のサイズでそのまま作り直して、『着られない』などと文句を言われてはたまらない。
「ふぅん…そうなのね」
聖女は存外素直に納得した。
その後、別室で改めてサイズを測ると、案の定、聖女はかなり体格が横に広がっていた。
数字は口に出さぬよう細心の注意を払いながら、私は測定した値を手帳に書き留める。
補助に入ってくれた聖女付きのメイドがその数値をちらりと見遣り、無言で目を見張った。
驚くのも無理もない。1ヶ月足らずで、かなり肥え──こほん、ふくよか…いえ、肉感的になっている。
以前は痩せすぎなくらいだったから、むしろ今が普通体型くらいだけれど、ぴったりに作ったドレスが着られなくなるのも当然。恐らく、隣室でサイズ計測している勇者も似たようなものでしょうね。
…これを予期して、お披露目用の衣装は少しゆとりがあるように作って来たのだけれど…多分、ぴったりくらいだわ。危ないところだったわね…。
そんなことを思いながら一通りサイズ計測を終えて元の部屋に戻り、再度、ソファで対面に座る。
「デイドレスを、とのことでしたが、デザインは以前と同様でよろしいですか?」
「ええ。でも前のは少し暑かったから、もう少し涼しくなるようにして頂戴」
「俺のもだ」
「承知いたしました」
また無茶振りが飛んできた。
以前も相当軽く、風通しよく作っていたのだけれど…これ以上となると、もう露出を上げるくらいしか選択肢がない。
あとは、魔物系の希少素材を使うか。けれど、そこまですると王族の正装を軽く超えるお値段になる。
後ほど、予算の担当者に確認を取った方が良いだろう。
──さて。
「──それでは、改めて本題を」
私が言うと、メイドたちの手によってお茶とお菓子が片付けられ、ローテーブルがサッと拭き清められる。それを待って、ルドルフがローテーブルの上に2つの衣装を広げた。
「こちらが、ご注文いただきましたお披露目用の衣装でございます。どうぞ、お手に取ってご覧くださいませ」
「わあ…!」
聖女が目を輝かせて身を乗り出し、ドレスを手に取った。
「素敵だわ!」
「うむ、勇者と聖女に相応しいな」
勇者も腕組みして衣装を眺め、満足そうに頷く。
手応えは上々。これならすんなりと終りそうだ。
内心安堵の溜息をついていると、聖女の視線が私の斜め後ろに向いた。
「…あら? それは私たちのものではないの?」
視線の先、ソファの背後に立つルドルフは、艶やかな白い絹の包みを捧げ持っている。
中身は国王陛下に献上する予定のウルフ──もとい、幻獣の毛皮だ。
「こちらは別件の品物になります。勇者様と聖女様のお目汚しになりますので…」
勇者と聖女に見せる予定はない。貴族らしい婉曲な表現で断ったが──
「あら、見るくらいいいじゃない」
…そんなものを理解できる方々ではなかった。
「ほら、早く見せて。貴女が持って来たってことは、それも服飾関係のものでしょう?」
勘はいいらしい。無駄に。
悪態をつきたくなるのを何とか堪えつつ、聖女の背後に控える侍従にちらりと視線を投げるが──とても残念そうな顔で首を横に振られてしまった。この役立たず。
私は諦めの境地に立ちながら、ルドルフに視線を向けた。ルドルフはわずかに眉間にしわを寄せながら無言で頷き、納品した衣装の上にそっと包みを置いて中身を取り出す。
「これは…」
「…きれい…」
青みを帯びた白銀の毛皮に、勇者と聖女、そして侍従も息を呑んだ。
聖女が躊躇なく手を伸ばし、半ば奪い取るようにして毛皮を手に取る。
さらさらと何度も手触りを確認して、
「…そうだ!」
とてもいい笑顔を浮かべた。
「これ、私たちのお披露目の時のマントにしましょ!」
「ぬ?」
「え」
「は?」
私とルドルフの呆然とした呻き声は、幸か不幸か勇者の声と重なった。
聖女は目を輝かせたまま、お披露目用の衣装の間に毛皮を置く。
「ほら、ダーリンの衣装にも私のドレスにも、ぴったりじゃない! きれいだし、豪華だし、これをマントにすれば絶対素敵だわ!」
「…おお、確かにそうだな!」
そこは止めて欲しかった。…勇者にそれを期待する方が酷か。
勇者と聖女が、ギラリと目を輝かせてこちらを見る。
頬が引き攣らないよう細心の注意を払いながら、私は『湖面のさざめき』店主として何とか微笑を浮かべた。
「…マント、でございますか。こちらは未加工の毛皮となっておりますので、マントに仕立てるとなると1ヶ月ほどお時間をいただくのですが…」
「そんなのどうとでもなるでしょ? ほら、魔法とかでぱぱっとやっちゃえばいいじゃない」
無茶をおっしゃる。
確かに下処理に使える魔法もなくはないが、それでも『ぱぱっと』なんて気軽に片付けられるものではない。どうせ知らないんでしょうけど。
「出来るわよね?」
満面の笑みで当然といわんばかりに無茶振りをしてくる聖女の背後、侍従が黙って胸に手を当て、眉間にしわを寄せて深く頭を下げた。
意訳すると──『大変申し訳ない。聖女の言う通りに』か。
「──承知いたしました」
諸々のどす黒い感情を内心に押し込め、私は貼り付けた笑顔で頷いた。
「特急対応とさせていただきますので、お値段は張りますが…よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ!」
私がこう言う時は、本当に値段が高い。
そのことを知っている侍従は、即答で頷いた聖女の背後で真っ青になっていた。
──恨むなら、考えなしに贅沢し続けている勇者と聖女を恨みなさいな。
軽々しい発言で振り回される周囲のみなさん。大変ですねぇ…。
阿呆の前にエサをぶら下げてはいけないのですよ。
ちなみに、一番苦労しているのは侍従長という説もあります。予算……w
…さて。
改めまして、本日はコミカライズ8話、その②の更新でしたね!
みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?
本日更新分の原作者的イチオシポイントは、
・『魔物との戦闘経験、ゼロ?』な騎士団&騎士団長(台詞とのギャップw)
・『街の周囲はいつも平和』な騎士団(とても平和…ですね…!)
・ゴーレムキラー&焦熱の魔女!(格好良い…!)
・お手伝い参戦!なケットシー軍団(もふもふ! もふもふですよ!)
・死屍累々でナチュラルハイになってる面々(そりゃあ疲れるわ…)
・ラストに登場! アイツです!!(説明不要ですね…!)
…です!
今回も色々なネタ(笑)が出て来ましたね。
魔物の大量発生の真実、実は役に立たない騎士団、エグい活躍の仕方をするグレナ様、そして新キャラ登場!
中でも一番の注目ポイントはラストに出てきたアイツです。
そう、ヤツですよ。格好良く現れましたね。ギルド長たちの初登場シーンとの差がすごいですが、それはゴミ屋敷製造装置×3の自業自得なので仕方ないですね。
何せヤツは都会人なので。お洒落なんですよ。
…というわけで、新キャラの出現で『おおっ…!』となりつつ、コミカライズの次回更新は10月の第2火曜日、10月14日(火)の予定です。
8月7日に発売したコミック1巻、
8月25日に発売した小説1巻、
そして絶賛Web連載中のコミカライズ!
みなさま、引き続き応援をよろしくお願いいたします!




