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おまけ(19) 【シャノン視点】冒険者見習いとして

本日はコミカライズの更新日です!

前回、豪快にゴブリンをプチッとしたユウさん。続きを是非ご覧ください。


さて、今回の小話はシャノン視点。

ユウさんが魔物討伐デビューする裏で頑張る冒険者見習いのお話です。

ちょっと前のノエル視点の小話とも関係していたり…。


 ユウさんがギルド長たちと初めての魔物討伐に出発するのを見送り、私は改めてカウンターの依頼書に向き直る。


「えっと…これは下町、これは観光通りだから…」


 街の中の依頼が、今日は4件もある。一緒に来てくれるグレナ様に迷惑をかけないように、ちゃんとしなきゃ。


 まずは、どこからの依頼なのか確認して、片付ける順番を決める。

 場所もだけど、内容も考えて優先順位を決めなきゃいけない。例えばゴミ捨ての依頼と買い出しの依頼は、場所が近くても同時進行しない方がいい。買ったものにゴミや汚れがついたらいけないからだ。


「……うん、大丈夫そう」


 依頼書を並べて私が頷くと、グレナ様がそれを面白そうな顔をして覗き込んだ。


「順番は決まったかい?」

「はい。まずは買い出しを片付けて、その後、道の掃除をしながら街灯の確認をしようと思います」


 道の掃除と街灯の点検の場所は、平民向けの観光通り。場所が被っているから、一緒にやればいい。

 この感じだと…


「午前中に買い出し、午後に掃除と街灯の点検、って感じで…ええと、どうでしょうか?」


 口に出しながら、段々自信がなくなってきてしまった。首を傾げると、グレナ様が満足そうに笑う。


「ああ、良いね。なんだ、私が居なくてもちゃんと出来そうじゃないか」

「い、いえ、まだちょっと怖いので!」


 思わず本音が口から出て、頬が熱くなる。


 ──冒険者見習いになってから、一ヶ月。


 街の中での仕事には大分慣れて、街の人たちにも私が冒険者見習いだと結構知られるようになった。

 ユウさんにも『シャノンは頼りになるね』って褒められることもあるけど、私はまだまだだと思う。依頼の優先順位を決めるのも、最近やっと判断がつくようになったくらいで、困ることも多い。


 それに、私はまだ戦えない。ギルド長の鑑定魔法で『風魔法と回復魔法の適性がある』と分かったけど、風魔法はグレナ様の下で修行中。やっとそよ風が起こせるようになったくらい。回復魔法に至っては、先生が居ないから全く練習できていない。

 騎士団になら回復魔法の使い手が居るけれど、私は冒険者見習いだから、そっちに教えを請うのは難しい。だって『教えてやる代わりに騎士団に入れ』って言われたら困るもの。


 …早く役に立ちたいんだけど…。


 私が内心、ちょっと肩を落としていると、グレナ様がそれを見透かしたように笑った。


「なに、こういうのは慣れさ。私も最初は無闇に焦ってたもんだ」

「え、グレナ様も?」


 その言葉が意外すぎて、私は目を瞬いた。

 焦ってるグレナ様…全然想像できない。どんな依頼も、余裕のある顔であっさりこなしそうなのに。


「私にも若い頃があったんだよ。それこそ、シャノンとそれほど変わらないくらいの年齢から冒険者やってんだからね」


 グレナ様が苦笑する。


「あ…そっか」


 私は思わず呟いた。

 グレナ様だって、最初は初心者だった。そう思うと、ちょっと肩が軽くなる。


「まして、あんたはまだ見習いだ。ゆっくりでいいのさ。色んなことを経験して、一つずつ学んでいきな」

「…はい!」


 グレナ様の言葉が、ストンと胸に落ちる。私は笑顔で頷いた。




 その後、予定通り午前中に買い出しを済ませて、午後、観光通りへ向かう。


 買い出しの依頼は、2件ともほんのちょっと、調味料と野菜だけだった。依頼人は元うちのご近所さんだ。多分、私にできる仕事を…って、気を遣ってくれているんだと思う。


 最初それに気付いた時は、申し訳なくて仕方なかった。

 買い出しなんて、自分で行ったり家族に頼んだりすれば簡単に済む。それなのに、私やお母さんと親しくしてくれていた人たちは、みんな冒険者ギルドに依頼を出してくれる。

 それをユウさんに相談したら、ユウさんは『本人がやりたくてやってるんだから良いんだよ。申し訳ないって思うなら、とびっきりの笑顔で『ご依頼ありがとうございます!』ってお礼をしてごらん。その方が、お互い気持ちいいからさ』と笑っていた。

 グレナ様に相談しても同じような答えが返ってきて、やっぱり二人は似てるなあ…とちょっと思った。


「こっちに来るのは久しぶりだね」


 隣を歩くグレナ様が、懐かしそうな顔で呟く。


 ここは観光通りの中でも、庶民向けの店が立ち並ぶ区画だ。観光の目玉である湖──ユライト湖に近いけど、街を囲う石壁に遮られて湖は見えない。

 二枚貝や魚などをモチーフにした食器、湖底の泥を材料にした陶器の置物、鉢、ガラス細工に、小王国特産の稲わらを使ったわら細工──土産物屋には色んなものが並んでいる。


 ちなみに、わら細工の中には側面に穴が開いた箱のようなものもあって、たまにその中にケットシーが寝ている。

 今日は、観光客らしい2人連れが、白黒ハチワレのケットシーがわら細工の中で丸くなっているのをとても熱心に眺めていた。


「ねえ、この子うちに連れて帰っちゃダメ?」

「いやいや、ここの看板ケットシーだろ?」


 とても楽しそうだ。


 私はちょっと笑ってその後ろを通り過ぎる。


 掃除依頼のあった道は、もう少し先だ。今日は観光客が多いから、通行の邪魔にならないように気を付けないと──そう考えていたら、前の店から見覚えのある女性が出て来た。


 観光客に愛想の良い笑顔で一礼し、こちらを向いて──その目が大きく見開かれる。



「シャノン!?」



 私は思わず、内心で『しまった』と呟いた。

 この土産物屋は、私の父──キースの実家で、元職場だ。そしてこの初老の女性は、


「…おばあちゃん…」


 なんとも言えない気分で、小さく呟く。

 同じ街の中だし、昔はちょこちょこ遊びに来たりもしていたけれど、最近顔を合わせる機会がめっきり減ったから油断していた。1本奥の通りを歩けばよかったと、心の底から後悔する。


 私は正直、この祖母が苦手なのだ。だって、


「ちょうどよかった! シャノン、手伝ってちょうだい!」

「…」


 顔を合わせたそばからこれだ。私は何とか溜息を押し殺す。


 祖母は満面の笑みで、無償の労働力が来たことを喜んでいる。こっちの事情なんかお構いなし。『家族』だから、タダ働きさせるのが当たり前なのだ。


 ……冗談じゃない。


 私は冷静にと自分に言い聞かせながら口を開いた。


「仕事の依頼なら、冒険者ギルドを通してください」

「…は!?」

「私、冒険者見習いなので」


 冒険者になったから、今までとは服装も髪型も違う。立場も違う。それに、今は仕事中だ。

 なるべくキリッとした顔で一礼すると、祖母は目を見開いて──ハハッと鼻で笑った。


「何を言うかと思えば…あんたみたいな大人しい子が、冒険者なんて──」

「おや、信じられないかい?」


 私の後ろで様子をうかがっていたグレナ様が、するりと前に出た。祖母がさっと顔色を変える。


「ぐ、グレナ様…!?」


 グレナ様のことは、私が住んでいた下町や庶民向けの観光通りではとてもよく知られている。狼狽する祖母に、グレナ様はにやりと笑った。


「シャノンは正真正銘、冒険者ギルド小王国支部期待の新人冒険者見習いさ。今は街の中の依頼をこなしてる最中でね。シャノンの言う通り、店の手伝いが必要なら小王国支部を通しとくれ。…ま、依頼料は安くないがね」


 はっきりと『タダではない』と言われて、祖母の顔に朱が昇った。


「…わ、私は孫にちょっとした手伝いを頼んでるだけですよ! 依頼料だなんて、そんなもの」

「冒険者見習いを動員するなら当然だろ。見習いと言っても、戦力としては正規の冒険者と同等だ。大体──」


 グレナ様はちらりと店を見遣る。私もつられてそちらを見遣り、あ、と気付く。


 昔より、明らかに店員の数が少なくなっていた。私たちへの暴行で牢屋に入れられた父が居ないのは当然として、見知った顔の店員さんが一人も居ない。みんな、知らない顔だ。


「店員が足りないなら、ちゃんと募集するのが筋ってもんだ。募集の貼り紙をするのが嫌なら、素直に職業紹介所に依頼するんだね」

「…っ!」


 祖母は見栄っ張りだから、店先に店員募集の貼り紙なんかしたくないんだと思う。だって、人手が足りないって自分から言ってるようなものだから。

 だからといって、私が手伝う義理もない。父と母はもう離婚した。血の繋がりがあるのは確かだけど、父の実家に私が奉仕する理由なんかない。


 …私、知ってるんだから。おばあちゃん、表向きは親切そうな顔をして、裏ではお母さんのこと『世間知らず』とか『愚図でのろま』とか、散々悪く言ってたの。


 私がキッと祖母を睨んでいると、グレナ様は苦笑して私の肩を叩いた。


「さ、シャノン。行くよ。仕事の続きだ」

「はい、グレナ様」


 グレナ様ももう祖母を相手にする気はないらしい。私は内心ホッとしながら、歩き出すグレナ様に続く。


 一瞬ちらっと振り返ると、祖母はまだその場に立ち尽くしていた。


 その呆然とした表情に、私はちょっとだけ、胸の奥がスッとした。









居ますよねー、子ども/孫(特に女の子)はお手伝いして当たり前!みたいな『何か違くね?』って思考回路の人。

…最近は減ったのかしら…?



…さて。


本日はコミカライズ7話、その①の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?

そして8月7日発売のコミカライズ1巻はお手に取っていただけましたでしょうか…!


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・『この人、デールのカノジョか!?』(田舎あるあるw)

・ギラッとユウさんをロックオンする村人のみなさん(まあそうなりますよね(笑))

・『昔の水準に戻るということですね』からの流れ(ギルド長……)

・毛皮を洗うギルドメンバー(描写が滅茶苦茶いい! 職人っぽい!!)

・ファサァ…の毛皮にじゃれつくルーン(可愛い…!)

・最後のコマ(ユウさん…w)


…です!


今回はある意味物語の転換点、次の大きな流れへの仕込みってやつですね。

南の村、魔物の種類と依頼料の話、魔物鑑定士という単語、圧縮バッグ登場にウルフの毛皮。

…ちなみに圧縮バッグ、実は前回更新分からちょこちょこ、サイラスが背負っているシーンがあります。ちゃんと持ち歩いてました。芸が細かい…!


とても悪い顔を披露しつつ、次回はウルフの毛皮をどうにかします。

…そう! あの人の登場! です!!

次回のコミカライズ更新は8月26日(火)を予定しておりますので、お楽しみに。


…と、その前に!

8月25日(月)は『修羅場丸ごと異世界召喚』小説1巻の発売日です!!

この日も当然、発売記念SSを投稿予定です。

あと、晩夏ノ空のX(@banka_no_sola)にて、発売5日前くらいからカウントダウン企画を行います。

よろしければそちらも覗いてみてください。


好評発売中のコミカライズ1巻、

8月25日発売の小説1巻、

そしてWeb連載中のコミカライズ、

みなさま、引き続き応援よろしくお願いします!!


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