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おまけ(18) 【南の村の少年視点】村の暮らし

本日はコミカライズの更新日です!

前回、とうとうユウさんの武器が出て来ましたね…! 続きを是非ご覧ください!


…というわけで本日の小話は、趣向を変えまして南の村の少年視点。

主要登場人物は出て来ませんが(笑)、村の暮らしをちょっとだけご紹介。





「母さん、卵の回収終わったぞー」


 朝の仕事を終えて家に入り、俺は台所にいる母さんに声を掛けた。

 コンロにかけた鍋をかき回していた母さんが、にこにことこちらを向く。


「ああ、ありがとうね。今日は何個採れたんだい?」

「ええと…4個」


 最近、母さんからお礼を言われるのがなんだかこそばゆい。ちょっと目を逸らしながらカゴを差し出すと、母さんはそれを受け取って嬉しそうに頷いた。


「うん、立派だね。今朝は目玉焼きにしよう」


 今朝はじゃなくて、『今朝も』だけどな。思わず心の中で呟く。


 うちの朝ごはんのメニューは、いつも決まって、ご飯と野菜のスープか漬物、あと卵が採れた時は目玉焼き。

 鶏はご近所さんたちと交替で世話をしているから、毎日卵が手に入るわけじゃない。自分たちが世話をする当番の日に鶏が卵を産んでいたら食べられるけど、必ず食べられるとも限らない。

 それに、


「2つは隣に持ってっとくれ。こないだ、キャベツを貰ったからね」

「…へーい」


 母さんが当たり前の顔で、卵を2つ、カゴに戻した。俺はそれを受け取って肩を落とす。

 ちぇっ、今日も卵は2人で1個か。


 村の生活は助け合いだって言うけど、俺もたまには肉とか卵とか、腹一杯食べてみたい。

 …街に出て働けば、できるかな。


 隣の家に向かいながら、そんなことを考える。


 村の北にある大きな街──この国の『しゅと』の、アルバトリアっていう街には、王様と、お貴族様と、たくさんの人が住んでいる。家の壁も地面も全部白い石でできていて、村とは全然違う。

 この前、父さんに連れられて初めてアルバトリアに行ったけど、人が多くて、賑やかで、お店もいっぱいあって──すごくドキドキした。


「おばさーん!」


 隣の家の前で声を上げると、すぐにドタドタと足音がして、ぼろっちい木の扉が開く。

 …いや、ウチの扉も同じくらいボロいけどさ。


「おや、おはよう!」


 隣のおばさんが、俺の抱えるカゴを見て嬉しそうな顔をする。


「おはよ。これ、ウチの母さんから」

「わざわざありがとねぇ!」


 ニコニコしながらカゴを受け取った後、そうだ!とおばさんは家の中に入って、すぐに戻って来た。


「これ、最近作ったカブの葉の漬物なんだけどね、上手くできたから持って行っておくれ」

「わかった」


 カゴの中には、卵の代わりにぎゅっと絞ってしおしおになったカブの葉が入っている。

 俺はちょっと笑顔になった。おばさんの漬物は美味しいのだ。



 その後俺は家に帰り、朝ごはんを食べてから外に出た。


「お前たち、おやつだぞー」


 野菜くずを鶏小屋の前に撒くと、村の中を自由に歩き回っていた鶏たちが一斉に集まって来る。


「あ、こら、それは俺の足だって!」


 若い一羽が、俺の靴をつつき始めた。慌てて後退ると、バタバタと大きな足音がする。この靴は隣の家の兄ちゃん──サイラスのお下がりだから、まだ俺にはちょっと大きいのだ。ほんのちょっとだけだけど。


 サイラスは、村長の息子のデールと一緒に街に出て、冒険者になった。ちょっと、いやかなり抜けたところもあるけど、背が高くてがっしりしてて、俺の密かなあこがれだ。

 …デールもカッコイイけど、俺には魔法の才能がないから、目標にするならサイラスなんだよな。


 デールは魔法剣士で、サイラスは大剣使い。冒険者になった2人は、ギルド長のカルヴィンと一緒に村の周辺に出る魔物を退治してくれている。

 サイラスも昔は俺と同じくらい細っこかったらしいし、俺も頑張ればこの辺の魔物を倒せるくらい強くなれるんじゃねーかな?


 そんなことを考えていると、また足にコツコツと振動が伝わって来た。


「だから靴は食べ物じゃ──あ! ひもを食うな!」


 さっきと同じ鶏が、ミミズを食うみたいにほどけた靴ひもをくわえ、ブンブンと振り回している。

 俺が怒ると、そいつはこっちをちらりと見上げ、フンと鼻を鳴らしてからひもを放した。まるで『仕方ねぇな』って言われてるみたいだ。


「そんな態度だと今日の夕飯抜き──うわっ! やめっ、違っ! ごめ、冗談だってば!」


 『夕飯抜き』と言った途端、そいつだけじゃなくて周りをうろついていた他の鶏たちまで俺をつつき始めた。慌てて謝ると、プイッとそっぽを向いてまた野菜くずを食べに戻る。


「…」


 …こいつら、絶対俺の言ってること分かってるよな。

 鶏のくせに──あ、いや、なんでもないデス。


 ギロッと睨まれて、俺は首を竦めてその場を離れる。


 鶏たちは昼間、村の中を自由に歩き回って、雑草とか野菜くずを食べて回る。村の外は危ないと分かっているのか、木戸が開いていても、村を囲う塀の外に出たりしない。


 『外には魔物が出るから、子どもだけで勝手に塀の外に行かないように』と、村の大人たちはいつも怖い顔で言う。

 俺も何回か遠目に見たことがあるから、魔物の怖さは分かっているつもりだ。


 俺の住んでいる南の村の周辺では、『ウルフ』という魔物が出る。あとたまに『ゴブリン』と、本当にたまーに、『ゴーレム』。


 ウルフが現れる場所はいくつかあって、村の大人たちは毎日そこを見回ってから畑仕事に行く。でもたまに、見回った後に現れることがあるから油断できない。


 …うん、今の言い方は冒険者っぽいな。


 にやにやしながら家に戻ると、ちょうど父さんが農具を担いでドアから出て来た。


「お、帰ったか。よし、畑に行くぞ」

「…へーい」


 俺は思わず唇を尖らせながら、父さんの後をついて歩き出す。


 今日も畑仕事か。現実ってこんなもんだよな。


 冒険者になりたい。でも、父さんや母さんに言ったことはない。ちゃんと冒険者になれるのは15歳になってからだってデールが言ってたし、今の俺が言ったところでしょうがないからだ。

 …本気で冒険者を目指すなら、どうやって親を納得させるかちゃんと考えろよ、ってデールも言ってたもんな。


 サイラスみたいにあっさり許可がもらえたら良いけど、ウチの父さんと母さんじゃ、そんなの期待できないし。2人とも頭カタいからな。


 そんなことをぼんやり考えながら歩いていると──


「…ぶっ!?」


 父さんがいつの間にか立ち止まっていて、俺は父さんの背中に思い切り顔面をぶつけた。


「痛って…父さん、いきなり」

「シッ!」


 文句を言おうと見上げたら、父さんは怖い顔で静かにするよう合図してきた。背中がヒヤッとして、俺は慌てて口を閉じる。


 もうここは村の外だ。そろりと周囲を見渡すと、かなり離れた所にあるちょっとした茂みの向こうに、四つ足の生き物の群れが見えた。

 ケットシーとかよりかなり大きくて、村で飼ってる水牛よりも小さい。でも、見るからに危なそうな──



「…ウルフだ」


「…!」



 父さんの声はいつもより低くて、でも落ち着いていた。ウルフは、現れてからしばらくの間はそんなに移動しない。分かっていても、背中が冷たくなる。

 …だって、あの体格だぜ? 前、遠目にデールたちが戦っているのを見たことがあるけど、滅茶苦茶素早くて目で追うのも大変だった。あの速さで狙われたら、逃げられるわけない。


 父さんに背中を押されてそろそろと歩き出し、だんだんウルフから離れて行くと、自然と小走りになる。


 村の塀の中に入る頃には、ほとんど全力疾走になっていた。


「…はあ、はあ…!」


 出入口の木戸を閉めて、俺が息を整えているうちに、父さんは村長の家に駆け込む。


「村長! 出たぞ!」


 ドアが開けっぱなしだから、父さんの声は周りによく響いた。通り掛かった近所の人たちがざわっとする。


「またか…」

「ウルフか?」


 近所のおじさんに訊かれて、俺は慌てて頷いた。


「えっと…ウルフだって父さんが言ってた。10匹以上いたかな…」


 10匹以上というか、多分20匹くらいいたと思う。

 その光景を思い出して改めてゾッとしていると、広場に声が響いた。


「北の1にウルフが出た! みな、対応を頼むぞ!」


 『北の1』っていうのは、ウルフがよく出る場所を表す番号だ。村長の声に、大人たちがパッと動き出す。

 おばさんたちのうちの何人かはご近所に知らせに走り、おじさんたちはもう畑に出ているみんなに知らせに行く。村長と頷き合った父さんが、こっちにやって来た。


「俺はこのままギルドに依頼を出しに行く。お前は母さんたちに知らせて、後は家に居るんだ。村の外に出るんじゃないぞ」

「分かった」


 冒険者ギルド小王国支部は、街にある。本当は俺もついて行きたかったけど、そこはぐっと我慢した。魔物が出た時はわがままを言ってはいけないのだ。




 その日の夕方、街から帰って来た父さんは、なんだか変な顔をしていた。『ギルドがきれいになっていた』とか言っている。


「…街なんだし、そりゃウチよりはきれいなんじゃないのか?」


 ほぼ地面がむき出しで鶏とか水牛がそこら辺を歩いている村と違うのは当たり前だと思う。

 俺が言うと、まあそうなんだがな、と父さんは頭を掻いた。


「ギルドの中はそうじゃなかった…ハズなんだが…うーん、俺の記憶違いか…?」


 困った顔で首を傾げている。


「まあ俺もそんなに頻繁にギルドに行くわけじゃないからなあ」


 ウチの村の近くでウルフが出るのは、いつもなら大体10日に1回くらいだ。けど、ここ1ヶ月くらいはずっとウルフを見かけなかった。今日の群れは、結構久しぶりだったのだ。

 ちなみにウルフは隣の『南東の村』でも結構出るらしい。あっちはゴブリンもそこそこ出るから大変だって聞いた。俺は行ったことないけど。


 難しい顔をしたままの父さんに、母さんが苦笑した。


「依頼はちゃんと出してきたんだろ?」

「ああ。それはもちろん」

「なら良いじゃないか。ギルドが汚くなっててもきれいになってても、デールたちはちゃんと仕事をしてくれるんだから」


 母さんが言うと、父さんは『そうだな』と苦笑いして頷いた。








村の暮らしは、街とは結構違いますよーという話。何となくイメージしていただけますと幸いです。



…さて。


本日はコミカライズ6話、その②の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・釘打ち経験をウォーハンマーが使える根拠にするユウさん(まあ当たればいい武器なので…(笑))

・ちょっと緊張気味のシャノン(可愛い)

・さり気なくウォーハンマーの柄に乗っかるルーン(可愛い)

・実はちゃんと戦える男性陣(冷静かつ的確なんです、戦闘時は。いや本当)

・『下だ!』からの流れ(ゴブリンの迫力と、それに対するユウさんの反応がもう…!)

・魂が抜けてるルーンとヤバい顔になってる男性陣 (まあそうなりますよね…)


…です!


今回の注目は何と言っても戦闘シーンですね。

男性陣、ちゃんと活躍してます。動けるタイプの男たちです。今まではちょっと、いやかなり、立ち位置と扱いがアレでしたけども。

…と言いつつ、最後に全部持って行く安定のユウさん。小説版より派手にウォーハンマーを振るっております。いいぞもっとやれ。


…というわけで、男性陣もちゃんと働いてるよと主張しつつ、次回は村へ報告に参ります。

次回更新は8月12日(火)の予定。

…で、その前に! 8月7日(木)にはコミカライズ1巻発売ですね!!

発売日にはこちらにも発売記念SSを掲載予定です。

あと、発売5日前くらいから当方のX(旧Twitter)にてちょっとした小ネタ(カウントダウン)をポストしていこうかなと企画中。よろしければそちらも覗いてみてください。


みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!



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