書籍化&コミカライズ1巻発売記念SS お弁当作りと主婦の労働
活動報告の方でも告知しておりますが、8月7日にコミカライズの1巻が発売されます!
そしてなんと…8月25日には、小説の1巻も発売されますよー!!
先日KADOKAWAの公式HPに情報が載りまして…やっと告知できるようになりました…!
詳細は活動報告にてご確認ください!
…というわけで、今回は趣向を変えまして、大掃除翌日のギルドの様子です。
大掃除翌日。
ギルドの受付ホールに全員が集合したところで、エレノアがカウンターに書類を並べ、ギルド長が目を通して行く。
普通、冒険者ギルドでは掲示板に依頼書が貼り出されて、冒険者が好きな依頼を選んで一つずつ処理する…らしい。
『らしい』というのは、小王国支部は違うからだ。冒険者の数が少ないので、朝一番に全員にノルマを割り振るそうな。
…自由業とは。
「今日は東の村からゴブリン退治、南東の村からウルフ退治の依頼が来てるな。それから…不燃ゴミのゴミ捨て依頼が三件と…」
ギルド長が当たり前の顔でゴミ捨て依頼の書類を私の前に置く。そこにさらにもう一枚、依頼書が追加された。
「ギルドメンバーの昼食と夕食の作成依頼、だな!」
しっかり依頼書を用意してたらしい。しかも昨日と違って、ちゃんと全員の名前が書いてある。
「昼には一回帰って来るから、ちゃーんと用意しといてくれよ!」
とても楽しみにしているところ悪いが。
「東の村と南東の村なら、一旦街に帰って来ないでそのまま向かった方が良いんじゃないの?」
昨日見た資料の中に、イラストみたいな簡単なやつだったけど、小王国の地図があった。東の村と南東の村は街から結構遠いから、一々帰って来たら相当大変なはずだ。
私が指摘すると、ルーンも頷いた。
《そうだな。直行した方が断然楽だ》
「それじゃメシが食えねぇじゃねーか!」
「うん。だって討伐依頼だもんね」
叫ぶギルド長にそりゃそうだと頷いたら、別のところから悲鳴が上がった。
「そんな!?」
「楽しみにしてたのに…!」
デールにサイラス、お前たちもか…。
呆れていたら、ギルド長が真顔で呟く。
「…じゃあ今日の討伐は一件だけにして」
「オイ」
メシのために仕事を後回しにしようとするな。
「仕事でしょ? 頼まれてんでしょ? 魔物が出たんでしょ? 放っといたら色々被害が出るんじゃないの?」
『うっ』
指摘したら案の定、全員言葉に詰まった。
そうですよね…と肩を落としたデールが呟く。
「魔物を一日放置したら、家畜も村の人たちもどうなるか分かりませんし…」
「…昼メシ…」
「諦めろサイラス。人命優先に決まってるだろ?」
サイラスは打ちひしがれるし、デールも口では物分かりの良いことを言いつつも雰囲気がしょんぼりしている。くっ、ヒトの罪悪感を煽りよって…。
やれやれとルーンが頭を振った。
《ユウ、代わりに弁当でも作ってやったらどうだ? おにぎり二個とかで良いからさ》
こっちの世界にも『おにぎり』という概念はあるらしい。
まあ『うるち米』『インディカ米』なんて普通に言ってるし、あってもおかしくないか。
「炊いたご飯ってヤバい虫がつくんじゃなかったっけ?」
この世界にも米につく害虫はいる。で、それがもう、元の世界とは比べ物にならないくらいヤバい。昨日グレナに教わった。
サイズは小さな甲虫だけど、身体の関節から常に毒を分泌していて、人間がその毒に触れれば火傷のような水ぶくれが出来て強烈な痛みと痒みに襲われる。
虫本体はもちろん、虫が這った場所とか、虫がかじった米とかに触れてもアウト。それを口に入れようものなら…悶絶じゃ済まない。死にはしないらしいけど。
私が眉をひそめると、ルーンがぴょこっと耳を立てた。
《ヒイロコガシが嫌う植物があってな。その葉で包めば大丈夫だ》
葉っぱと言っても人の顔より大きいので、おにぎりの包みとしても丁度良いらしい。クマザサみたいな感じか。
まあ、塩おにぎりくらいならそんなに手間でもないし、気が向いたら中におかずを仕込むのも有りか。『食事の用意』の依頼の一環と思えば…。
とはいえ、私はその葉を売ってる場所を知らないので。
「その葉っぱを用意してくれるなら、作っても良いよ」
言った途端、男性陣の目がギラついた。
「今日もですか!?」
「え? そりゃまあ、依頼に『昼食』って書いてあるし…」
サイラスの問いに頷いたら、デールがバッと身を翻す。
「俺、買いに行ってきます!」
外へ駆け出すデールを呆然と見送って、私はぼそりと呟いた。
「……胃袋掴まれすぎでしょ、男性陣…」
急遽、米を炊いて塩おにぎりと醤油ベースの焼きおにぎりを作り、デールが買って来た朴葉のような大きな葉で包んで男性陣に渡して魔物の討伐に送り出すと、私はようやく街へと繰り出す。
今日の仕事は不燃ゴミのゴミ出しと食事の用意。
男性陣にはもうお昼を渡したけど、エレノアとグレナと私の分の昼食も作らなければ。
…そう。依頼人の中に、ちゃっかりグレナの名前があった。『昼と夕方にはギルドに顔を出す』とエレノアに言ってたらしいけど、それ多分ご飯食べに来るってことだよね。依頼料ちゃんと払ってくれてるし、収入になるから良いけどさ。
ただ──
「うーん…」
廃棄場に向かう道すがら、不燃ゴミを両手に抱えながら唸ると、ゴミを浮遊させながら隣を歩いていたルーンが首を傾げた。
《なんだ、腹でも減ったか?》
「朝ごはん食べたばっかりだから大丈夫。…依頼内容について考えてた」
《ゴミ出しか?》
「いや、食事の用意の方。それが仕事として成立するってことはさー」
溜息。
「…世の『主婦』はどんだけタダ働きしてんのかな、って」
《あー……》
『主婦』を仕事として請け負うとしたら年収三百万円超になる、とかいう話を聞いたことがある。
実際、今回の『昼食と夕食の準備』の依頼を一年間続けたら結構な金額だ。
家事なんて生活に必須のことだから特に意識してなかったけど、こうやって実際に仕事として請け負うようになると、色々考えてしまう。
例えば、あの阿呆のために私はどんだけ労力をドブに捨ててたんだろうな、とか…ね!
(待て、落ち着け私)
思わず手に力が入り、不燃ゴミの塊に指がめり込みそうになる。と言うかちょっとめり込んだ。
いかんいかん。
私は深呼吸して姿勢を正し、空を見上げる。
小王国首都アルバトリアの空は、今日も晴れていた。
どーしてもご飯を食べたい男性陣 vs 『働け』と言いたいユウさん。
何気にドSですねユウさん。ルーンのお陰で折衷案が出て来ましたが。
あ、コミカライズの更新に合わせた小話の続きは、明日ちゃんと(この話の前に)挿入しますのでご安心を。ちゃんとオチまで持って行きますので~。
→2025/7/9追記:7/8に小話追加しました! この話の『前』に追加しましたので(分かりにくくてすみません)、お間違えなきよう…! ノエル視点の小話、その③です。




