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おまけ(17) 【ノエル視点】救いの手③

本日はコミカライズの更新日です!

前回、王立騎士団の面々に囲まれたユウさん。続きを是非ご覧ください!


…というわけで、小話は前回に引き続き、ノエル視点の話。

ノエルの話はここで一区切りになります。


※注意※

DV描写が出て来ます!

苦手な方は本文を読まずにスルーしてください!!






「シャノン…!」


 私は必死に立ち上がった。改めてシャノンを見遣ると、



「…………え?」



 床に、ぽたりと、赤い液体が滴るのが見えた。

 頭の中が真っ白になる。


「……」


 夫は苛立たし気な顔のまま、空の酒ビンを手に持った。あれは飲むための態勢ではなくて──そのビンを、武器にするための掴み方だ。


 その視線の先には、(うずく)ったまま動かない、シャノン。



「駄目……!!」



 全身から血の気が引いた。

 直後、



「──ノエルさん!」



 バン!とドアが開き、駆け込んで来たのはユウさんだった。


 その顔を見て、私は何故か──この時は全く疑問に思わなかったのだけれど──心の底から安堵する。


 ユウさんはこちらを見て、すぐにサッと周囲に視線を走らせる。

 夫を目に留めた瞬間、キッと視線が鋭くなった。



退け(プッシュ・アウト)!》



 続いて駆け込んで来た黒いケットシー──ルーンが、ブワッと尻尾を逆立たせて魔法を放つ。

 夫がソファーの向こうまで吹っ飛び、持っていた酒ビンも明後日の方へ飛んで砕け散った。


「大丈夫?」


 ユウさんがシャノンに声を掛けながら駆け寄り、息を呑む。

 最後に入って来たグレナ様がシャノンの横に膝をつき、すぐに怪我の状態を確認し始めた。


「ユウ、あの男を何とかしな」


 グレナ様の硬質な声が響く。


「はい」


 負けず劣らず硬い声で、ユウさんが応じた。サッと立ち上がり、刃物のような鋭い目で夫を見遣る。


「…あんだあ? 手前ェら。ここはオレの家だぞ…?」


 夫は何事もなかったように立ち上がり、ふらりと頭を巡らしてユウさんたちを睨み付ける。


「あなた、落ち着いて」

「うるせぇ!」


 私が声を掛けた途端、ダン!とテーブルに拳が振り下ろされた。

 私は思わずびくっと身を竦めるが、ユウさんは全く表情を変えなかった。ただ、その目が急速に冷えて行く。


 ルーンがユウさんの隣に並び、何事かやり取りして──そっと目を逸らして後退った。

 …出来るだけ気を付けるつもりではいる、って聞こえた気がするけれど…気を付けるって、なにを?


「あんだあ…?」


 夫にもはっきりとは聞こえなかったらしい。手近な酒ビンを手に取って中身を乱暴に飲み、


「ここはなあ、俺の金で買った、俺の家なんだよ!」


 大仰な仕草で周囲を示した。


「その中のモンをどうしようが、俺の自由だろ! なあ!?」


 その目は確かに、私とシャノンも映している。それを認識して、胸がひどくざわついた。


 …その中の、もの?

 もの、だっていうの? 私も、シャノンも?


 その夫の発言に対して、ユウさんは低く端的に応じた。



「奥さんと娘に手ェ上げた時点で処刑確定だド阿呆」



 その声に、言葉に、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。


 言われてみればその通りだ。身内だから殴っていいなんて、そんな理屈は通らない。

 それなのにどうして私は、夫に殴られることを当たり前だと思っていたのだろう──シャノンまで危険に晒して、一歩間違えれば死ぬところだったのに。


 改めてその可能性に思い至り、心底ゾッとする。


 夫は激昂し、酒ビンでユウさんに殴り掛かった。


「ふざけんなよチビ!」


 ──危ない!


 私は内心で悲鳴を上げる。

 けれどユウさんは、驚くほど冷静で。


「ふざけんなは──」


 軽く屈んでビンを避け、



「──こっちの台詞だDV野郎!」


 ──バン!!



 伸び上がりざま振るわれたユウさんの右腕が、鮮やかに夫を吹っ飛ばした。





 ──その日、私とシャノンの人生は変わった。


 ユウさん──いえ、ユウとグレナ様の誘いで、シャノンは冒険者見習いに。私は冒険者ギルドの職員に。


 シャノンはしっかり者だから、街の中での仕事にもすぐに慣れたようだった。

 『受け答えもしっかりしてるし、すごく頼りになるよ』とユウのお墨付きだ。


 私は今まで外に出て仕事をしたことがないし、冒険者ギルドの職員なんて務まるどうか不安だったけれど、意外と何とかなった。


「…料理掃除は完璧だし、まさか帳簿付けも出来るとは…」

「ノエル、あんた仕事はしたことがないんじゃなかったのかい?」


 ギルド職員になってしばらく経ったある日、カルヴィンさん──ギルド長とグレナ様にそう問われた。


「はい…帳簿付けは、シャノンが生まれる前、夫の実家の土産物店を手伝っていた時に、少しやっていたので」


 答えた途端、2人がおかしな顔で固まる。


「…」

「……」

「あ、あの…?」


 何か気になることでもあっただろうか。私が戸惑いながら首を傾げると、グレナ様がゆっくりと口を開く。


「…ノエル。手伝いってのは、帳簿付けだけかい?」

「い、いえ、商品の在庫の確認と、発注と、お掃除と、あとたまに店番と…」


 夫の実家は庶民向けの中ではそれなりに大きな土産物店なので、品数も多い。

 接客に時間を割く店員だけでは手が回らないからと、私も家事の傍ら、手伝いに駆り出されていた。

 店員さんを含めた全員の食事の用意もあったから、店頭に立つことは滅多になかったけれど。


 私がそう説明すると、グレナ様は眉間に深いシワを刻み、ギルド長は顔を引き()らせる。


「…裏方仕事を一通りこなした上で全員のメシを用意して家事もやる? どんな生活だよ…」

「えっ?」


 私が目を瞬くと、グレナ様が深刻そうな顔で呻いた。


「……カルヴィン。残念だが、多分これが『嫁』の『普通』だ」


 そして首を横に振り、真剣な顔で私を見詰める。



「──ノエル。それは『仕事をしたことがない』じゃなくて、『旦那の実家でタダ働きをさせられていた』って言うんだよ」


「えっ」



 …どうやら私は、夫だけではなく、夫の実家にもいいように使われていたらしい。




 その後、グレナ様とギルド長との話し合いにより、『この事実はユウには絶対に秘密にしておこう』と決まった。

 ユウが知ったら、夫の実家に殴り込みに行きかねない──そう語るグレナ様とギルド長は、完全に真顔だった。

 …正直、私もそう思う。


 訴えたら勝てる、とグレナ様に提案されたけれど、考えた末、私はそれを断った。


 もう夫は傷害罪で捕まり、離婚が成立している。

 折角シャノンと二人で新しい生活を始められたのだ。今更、彼らに関わりたくない。



 ──そう思えるようになった自分を、少しだけ誇らしく思う。









ノエルの認識では、『お給料をもらっていない』ので、『仕事を』したことがない、だったんですねぇ……。いわゆる『家業の手伝い』は『仕事』ではない、と。

……とんでもねぇブラック企業だな…。



さて、活動報告やらタイトルやらでも告知しておりますが(笑)、

コミカライズ1巻は8月7日発売!

書籍版1巻は8月25日発売! です!

ちなみに書籍版は書店限定で特典SSが付いたり付かなかったりするので、特典SSの中身が気になる方は活動報告にてご確認ください。

書影(それぞれの本のカバーイラスト)が公開されたら、晩夏ノ空のX(旧Twitter)でも告知してまいります。よろしければそちらもフォローよろしくお願いします!



…んで。


本日はコミカライズ第6話、その①の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・グレナ様の一喝(流石ですグレナ様…!)

・『覚えてないわけないじゃんって…!』のシャノン(必死さがもう…!)

・『私が冒険者になるのはダメですか?』のシャノン(可愛い)

・『丸洗いスタンバイ』『イエス、マム』の流れ(息ぴったりですね)

・一瞬で察するデールとサイラス(慣れたなあ…)

・冒険者見習い、シャノン(背後でドヤ顔してるルーンも可愛い…!)

・恐ろしい勢いで仕事を処理するノエル(これで新人です(真顔))

・グレナ様が顧問に復帰したあたりからこっそり背後で変な動きをしているギルド長(よーく見るとオチが見えます(笑))

・『ウォ、ウォーハンマー!?』(ウォーハンマーです、はい)


…です!


いやもう、今回はですね、怒涛の展開なので。むしろイチオシポイントしかない感じですね。

その中でも是非注目していただきたいのは、シャノンです。

怪我をして髪がほどけた状態から、おさげ髪、そしてポニーテールへと、三段階変化を遂げます。

そして可愛い。健気でしっかり者。可愛い。そりゃあデールとサイラスも挙動不審になりますわ。

あと、体格にも注目してください。ユウより身長があるんです。胸もあ……ゲフンゲフン。

でも、ちゃんと14歳なんですよ。

その描き分けがですね、絶妙でして…芝本様すごいわあ…。



そんなノエル・シャノン親子が仲間になったところで、次回はとうとうユウさんが魔物討伐デビューですよ!

次回更新は7月22日の予定です。

みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!

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