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おまけ(16) 【ノエル視点】救いの手②

本日はコミカライズの更新日ですね!

みなさま、お見逃しなく…!


…というわけで、本日も引き続きノエル視点。


※注意※

DV描写が出て来ます!

苦手な方は本文を読まずにスルーしてください!!





 次の日、私は割れた食器や植木鉢を不燃ゴミとして出せるよう、冒険者ギルドに依頼を出した。


 今までは自分で直接不燃ゴミ廃棄場へ持ち込んでいたけれど、兵士に渡す手間賃が段々値上がって困っていた。そこについ先日、グレナ様が『冒険者ギルドにゴミ捨ての依頼を出しな』と声を掛けてくれた。


 新しく入った冒険者が力自慢で、不燃ゴミを直接大穴へ放り込めるから手間賃を払う必要がない。だから、兵士に払う手間賃より割安でゴミ捨てを請け負える。それほど裕福ではない下町の住民にとって、とても有難いお話だった。


 …その『力自慢の新人冒険者』が、私より小柄な女の子だったのには驚いたけれど…。


 厳密には、『女の子』というのは語弊がある。

 彼女──ユウさんは27歳、立派な大人だ。見た目は、うちのシャノンより少し年上くらいにしか見えないけれど。


「ノエルさん、おはよう。不燃ゴミの回収に来たよー」


 キッチンでお皿を拭いていると、玄関からユウさんの声がした。

 私はすぐに玄関に向かい、ドアを開ける。


「待ってたわ、ユウさん。おはよう」


 艶のある紺色の髪に明るい緑色の瞳が印象的なユウさんは、目が合うとにこりと笑ってくれる。そしてすぐ、足元にまとめてあった不燃ゴミを見下ろした。


「…また派手に出ましたねぇ…」


 割れた皿と植木鉢に、ガラス。その視線が、リビングの割れた窓ガラスをちらりと見遣る。

 責められるような気がして、私は思わず身を竦めた。


 けれど、ユウさんは気遣わし気な表情でこちらを見上げた。


「大丈夫ですか? 怪我とかしませんでした?」

「ええ、私は大丈夫…」


 思わず、目が泳ぐ。


 咄嗟に右手の甲に巻かれた包帯を左手で隠した。けれど、ユウさんにはバレているだろう。物言いたげな視線が痛い。


 昨夜、踏まれた直後は痛むだけで見た目にはそれほど変化がなかったけれど、右手の甲は夜のうちに靴跡が浮かび上がり、倍近くまで腫れ上がった。

 安静にしていれば治るはず…きっと。


 私が目を逸らしている間に、ユウさんはうちのゴミが入った麻袋を軽々と持ち上げて回収した。


「他に何かあります? ゴミに出したいやつ」

「そうね…」


 問われて、私は少し考える。


 割れた食器は全て片付いているし、他に捨てるようなものは──ああ、あった。


「ゴミではないんだけど…去年仕込んだあんずシロップがあるの。うちじゃ余らせちゃうから、持って行って使ってもらえないかしら?」


 昨年、ご近所さんからいただいたあんずで作ったシロップ。水で薄めて飲むと美味しいのだけれど、夫が甘い飲み物を好まないので、家ではなかなか飲む機会がない。

 それならいっそ、美味しく飲んでくれそうな人に譲った方が良いのではないだろうか──そう思って提案すると、ユウさんはぱあっと顔を輝かせた。


「良いんですか? ありがとうございます! じゃあ、帰りに取りに伺いますね」

「ええ」


 嬉しそうな顔を見ると、こちらも嬉しくなってくる。私は笑顔で頷いた。




 その後、私はいつものように買い出しをして、家に帰って来た。

 ドアを開けて、リビングに大柄な人影が見え、思わずぎくりとする。


「あなた…」

「…ああ?」


 ソファーにどっかりと腰を下ろし、微妙に焦点の合わない目でこちらを見る、その動作ですぐに察した。

 またお酒を飲んでいるらしい。


 仕事はどうしたのだろうか──と考えて、今日が給料日だったのを思い出す。

 夫は『自分へのご褒美』として給料日の午後は休みを取る。いつもなら行きつけの酒場で飲むらしいけれど、今日は家で飲む気分だったらしい。


 …どうしよう、おつまみの用意がないわ。


 私が内心困惑していると、夫はのっそりと立ち上がった。


「…なんだあ? その目は。俺がここに居ちゃ都合の悪いことでもあんのか? ああ?」


 ガチャン、酒ビンが乱暴に置かれ、テーブルに置いてあった食器が不穏な音を立てる。


「いいえ、そんなことはないわ。おかえりなさい、あなた」


 咄嗟に笑顔を作って応じると、夫はフンと鼻を鳴らし、酒ビンから直接お酒を飲んだ。

 きついアルコールの匂いが広がる。いつもより強いお酒のようだ。


「すぐにおつまみを用意するわね」


 私がキッチンへ向かうと、何故か夫は私の後をついて来た。

 酔っている時の夫は威圧感があるから、背後に立たれると落ち着かない。でも、『離れて』なんて言ったら機嫌を損ねるのは目に見えている。


 気にしないふりをして、買ってきたばかりの野菜をカウンターに出す。私が包丁に手を伸ばすと、突然夫が動いた。


「おい」

「っ?」


 私の肩越しに包丁を掴み、夫が至近距離で私を睨み付ける。


「お前今、これで俺を刺そうとしたな?」

「え…?」


 そんなわけはない。私が困惑していると、夫の顔に朱が昇った。



「──図星だろう!」



 ダン!と音を立てて、包丁がまな板に突き刺さった。

 あと手のひら一つ分ずれていたら、私の手の甲に刺さっていた──ゾッとしてその包丁を眺め、一瞬遅れてハッと見上げると、怒り狂った表情の夫と目が合った。


「…おふくろの言った通りだったな。お前、いつか俺に復讐してやろうと、ずっと狙ってたんだろう」

「復讐…?」


 この人は、一体何を言っているのだろう。

 復讐? 私がそんなことをする理由が、どこにあるのだろうか。それに、『おふくろの言った通り』って…私は、そんな風に思われていたの?


 胸がチクリと痛む。それと同時に、頭の片隅で、不意に何かが閃いた。


 復讐……夫には、復讐される心当たりが、あるということ…?


 その時、階段の方から鋭い声が響いた。



「──お父さん、何してるの!!」



 見れば、今まで見たことがないほど厳しい顔をした愛娘が、夫を睨み付けている。


「シャノン!?」


 私は思わず声を上げる。

 いけない。今このタイミングで、この人の前に出て来ては──


「お母さんから離れて!」


 私が制止の声を上げる前に、シャノンが決然とした表情で叫んだ。途端、夫が顔を歪める。


「ああ?」


 夫がふらりと私の背後を離れ、手近なところにあった小鉢を掴み、床に叩き付けた。一体どれだけ力を込めたのか、ガシャンと大きな音を立てて、小鉢が粉々に砕け散る。


「手前ェ、なんだその口のきき方は」


 低い声に、背筋がぞくりとする。夫はさらに、テーブルの上にあった食器を乱雑に払い落とした。


「それが、親に向かって使う言葉か? ああ?」

「…っ」


 陶器が砕ける激しい音にシャノンは一瞬肩を揺らしたものの、一歩も退く様子はない。キッと(まなじり)を吊り上げて応じる。


「親だからなんなの? そういうこと言うなら、尊敬できる大人の態度ってやつを見せてよ!」

「なんだと…!?」

「駄目っ…!」


 シャノンの方へ向かおうとする夫に、私は咄嗟にしがみついた。が、すぐに振り払われ、



 バシィッ!


「…!」



 頬に激しい衝撃を受け、一瞬、視界が真っ白になる。


「お母さん!」


 シャノンの声が遠い。

 霞んだ視界の端に、ズンズンと足音を立ててシャノンに迫る夫の、鬼気迫る背中が見える。


 だめ、逃げて、シャノン…!


 心の中で叫ぶ。頬から頭に響く痛みと目眩で、息が吸えない。


「お父さん、いい加減にして!」


 シャノンは夫に全く怯まず、厳しい表情のまま声を上げた。


「酔ってる間のこと覚えてないなんて、嘘だって分かってるんだから! 全部お酒のせいにして、お母さんを虐めていい気になって、馬鹿みたい! 自分の支度だって、自分でやればいいじゃない! そんなの、子どもだって出来るんだから!!」


 瞬間、夫の背中が一回りも二回りも膨れ上がった。



「…ふざけんな、ガキが!!」


「──!!」



 ブン、と、丸太のような腕がシャノンに振るわれた。


 シャノンは大きく弾き飛ばされ、背中から壁に叩き付けられた。

 後頭部が窓ガラスにぶつかり、ガラスが割れるけたたましい音が響く。



「…シャノン…!!」



 私の声は、その音にかき消された。


 シャノンがずるりと壁に沿って(うずくま)る。俯いていて、顔が見えない。

 先程までの剣幕が嘘のように──ひどく、静かだった。









すみませんまだ続きます…!


…さて。


ご存知の方も多いかと思いますが、作者、ひっそりとX(旧Twitter)始めました。

各種告知や呟き、あと、うちの猫様方への愛を叫ぶ用途で運用してまいります。

お時間ある方は閲覧・フォロー等、よろしくお願いします!

ユーザー名:@banka_no_sola

アカウント名:晩夏ノ空@修羅場丸ごと異世界召喚

お手数ですがこれ↑で検索かけてやってください…!(なおフォロワー数が少ないのでグーグル検索等では引っ掛かりません。X内で検索をば…!)



…というわけで。


本日はコミカライズ第5話、その②の更新でしたね!

みなさま、もうご覧いただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・シャノンが負傷してることに気付いたユウさん(目がヤバい)

・ガッツリ威嚇してるルーン(怒ってる顔がリアル…!)

・『こっちの台詞だクソ野郎』のユウさん(目が(以下略))

・筋肉だるま→ひょろ男と、体格の落差がひどいDV旦那(小説より断然分かりやすいですよね…!)

・ユウさんの拳が唸る…!(説明不要)


全体的にシリアスな雰囲気で進む今回、是非DV旦那キースの体格の変化に注目してください。

酔っ払ってる時はムキムキマッチョ、酔いが醒めたら『筋肉どこいった?』な見た目気弱そうな男性。

この描写が本当に絶妙でして…そりゃあユウさんもルーンも『は?』ってなりますわ(笑)


そして、小説とは違う部分で終わる区切り方…!

これ、最初見た時思わず唸りました。小説だとこの直後のシーンで区切ってますが、ここで止めるとすごくシリアスな雰囲気になるんですね。魅せ方が上手い。悔しい。いいぞもっとやれ。

この場面、ユウさんだけ無傷で突っ立ってるから、真っ先に『暴行罪』でしょっ引かれそうですよね。そりゃあ騎士団の兵士たちも取り囲みますわ。やばい。



…というわけで、前回に続いて不穏な空気が漂いつつ、次回更新は7月8日(火)の予定です!

みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!


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