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おまけ(13) 【兵士視点】現れた化け物①

本日はコミカライズ11回目の更新日です!

ケットシーたち揃い踏みです! みなさまお見逃しなく…!


…というわけで、今回の小話は不燃ゴミ廃棄場の兵士視点。

ちょっとアレな兵士の事情と、そんな彼らから見た化け物…もとい、ユウさんのお話です。





 小王国騎士団は、この国の平民が就ける職業の中でも花形だと言われている。

 女なら城のメイド、男なら騎士団の兵士。平民の親が子どもに就いて欲しいと願う職業筆頭である。


 だが、現実はそんなに甘くない。


 騎士団の『兵士』はみんなが想像するような『馬に乗って見回りをする鎧姿の騎士』じゃない。その騎士の前か後ろか横をついて歩く、荷物持ちもしくは交通整理役もしくは雑用係。そんなポジションだ。

 当然、給料もそんなに高くない。お貴族様しかなれない『騎士』と比べると、『兵士』の給料は半額以下。王宮の敷地内にある食堂の飯は単価が高い上に支払いは自腹だから、食堂を利用しろと命じられていてもこっそり街か家で昼食を済ませる仲間が多い。


 仕事も地味だし、給料もパッとしない。それが平民出身の『兵士』の現実だ。


 そんな中で、首都アルバトリア不燃ゴミ廃棄場の警備は、俺たち兵士にとってとても美味しい仕事になっている。


 ゴミ捨て場になっている巨大な縦穴は落ちたら非常に危険──と言うかどう考えても即死なので、普通の給料に加えて、ここで仕事をした日には『危険作業手当』が出る。

 実際には穴の周囲には頑丈な柵が設けられているので、余程の馬鹿じゃない限り落ちる心配はない。


 それに加えて──


「お願いします」


 今日もスッキリした青空が広がる、不燃ゴミ廃棄場。


 柵の前に住民がやって来て、同僚に小さなボロの袋を渡す。

 同僚がその袋の中身を確認して頷くと、住民は同僚に数枚の硬貨を差し出した。


「これでお願いします」

「……」


 同僚の掌の上には、銅貨が8枚。同僚が黙っていると、住民はそこにさらに銅貨を3枚追加した。


「──良いだろう。預かろう」


 同僚は素早く銅貨を握り込み、大仰に頷いた。住民はホッとした顔で去って行く。

 その姿が見えなくなってから、同僚は舌打ちした。


「ちっ、もう少し出させりゃよかったかな」


 銅貨11枚じゃ、王宮の食堂の昼食代にもならない。俺は深く同意した。


「折角当番だしな。稼ぎ時だろ」


 不燃ゴミを穴まで持って行く代わりに、賄賂──いや、手間賃を貰う。それがこの不燃ゴミ廃棄場の不文律だ。


 …ま、いくら貰うかは個人の判断によるけどな。

 一応、どれくらい貰ったかは同じ班の仲間と情報共有している。最近みんな値段を吊り上げてるから、俺もそれに合わせてちょっとずつ値段を上げているところだ。


「次、俺の番な」

「おう」


 同僚と頷き合い、しばらく待っていると、フードを目深に被った老人が近付いて来た。

 あっと同僚が小さく声を上げ、俺は内心ほくそ笑む。


「今日は俺の『当たり』だな」

「くそ、良いカモが来ちまった」


 一応俺たちにも良識はあるので、手間賃の値段は相手を見て決めている。

 子どもはちょっと安めに、金を持ってるはずの老人やゴミ捨て頻度の高い女性陣は高めに。たまにしかゴミ捨てに来ないであろう男性は、安めに。


 つまり『老婆』は、吹っ掛けても大体狙った通りの金額を払ってくれる、いわば上客なのだ。


 杖をついてフードを目深に被った老婆は、慣れた様子でこちらに布袋を差し出す。受け取ると、ずしりと重かった。不燃ゴミだから仕方ないが、これはちょっと色を付けてもらわないと困る。


「…これで」


 老婆が銀貨を5枚、渡してきた。なかなか金払いが良い。…もう少し行けそうだな。


「これじゃ足りないな、婆さん」


 俺が言った途端、老婆が狼狽えた。


「そ、そんな…! 先月はこれでお願いしたんじゃよ?」


 なるほど、前回の時点でこの額だったか。

 俺はそれに頷き、それっぽい理屈を並べる。


「残念、今月から値上がりしたんだ。ホラ、穴から噴き出す魔素が増えてるだろ? 危なくってなあ」


 魔素の濃度なんぞ知ったこっちゃないが、老婆にだって分かるはずもない。確かめようもないからな。


 こういう時に大事なのは、いかに自信満々な態度を取れるかだ。相手は俺に金を払ってゴミ捨てを頼むしかないんだから、これくらい強気に出ても許される。


「払えないなら、金を貯めて出直すんだな」

「…」


 老婆が口を噤んで、チラリとこちらを見上げた。

 フードの陰から一瞬見えた朱色の目に、何故か背中がヒヤリとする。


 …なんだ、今の?


 俺がそれを確かめる前に、老婆は首を横に振った。今日は諦めるらしい。ちょっと欲張りすぎたか。


 ゴミと銀貨を受け取って肩を落として歩き出した老婆が、やたらガタイの良い男と背の低い──多分、女とすれ違う。

 瞬間、女の方がブフッと吹き出した。老婆が足を止め、何やら女とやり取りした後、今度は3人でこちらに近付いて来る。


「なんだ…?」


 隣の同僚が眉を寄せた。


 とりあえず、さっき金を取り損ねたからまだ俺の番だ。

 見れば、女が小脇に抱える不燃ゴミの塊の片方に、老婆が持っていたゴミの袋が貼り付いている。まとめて捨てる気らしいが…それならそれ相応の金額を貰わないとな。



 ──この時、俺は見落としていた。


 女が軽々と小脇に抱える2つの塊は、両方金属や陶器などがギチギチに圧縮された不燃ゴミの塊。

 一つであっても相当に重く、こんな体格で持てるはずがなかった。──()()()()



「ゴミを出すなら必要なものがあるぜ」


 俺が声を掛けると、女はきょとんと首を傾げた。


「何か必要なんですか?」


 知らないはずがないのに、とてもわざとらしい。──いや、かなり若いし、本当に知らないのかもしれないな。

 思い直して、俺は懇切丁寧に説明する。


 不燃ゴミを捨てる穴はとても深く、高濃度の魔素が吹き荒れて非常に危険だから、一般人は近付けない。だが、兵士なら近付ける。だから、ゴミの運び賃が必要だ。


 俺の説明を真面目な顔で聞いていた女は、次の瞬間、思わぬことを言い出した。


「要は、近付かなきゃ良いんですよね?」

「……あん?」

「ここから、ゴミを、あの穴に入れられたら良いんですよね?」


 女の言葉に、つい視線で女が立っている位置から穴までの距離を目算する。


 …いや、どう考えても無理だろ。

 ……待てよ。これでこいつが失敗したら、『拾いに行く手間賃』も加算できるな…。


 ちょっと欲が出た俺は、鼻で笑って頷く。


「やれるもんならやってみな」


 すると、


「じゃあ遠慮なく」


 女が片方のゴミを地面に下ろし、もう片方のゴミを両手で抱え、腰を落とした。


 瞬間、気配が変わる。

 俺の背中がゾワッとして、女の連れのガタイの良い男がそっと半歩、後退った。


 そして。



「──そぉいっ!!」


 間の抜けた掛け声とは裏腹に──



 ──ブォン!!



 不燃ゴミの塊が、冗談のような勢いで宙を舞った。


 ゴミはあっさり柵を越え、風切り音を立ててあっという間に穴まで到達し──向こう側の縁ギリギリにガツッとぶつかって落ちて行った。



『……………は?』



 俺と同僚の声が重なる。


 …なんだ、今の。

 何かの魔法か…?


 咄嗟に女の方を見遣る。その後ろに、黒いケットシーが居た。

 とても楽しそうに女の背中を眺めるケットシーの傍らには、ゴミの塊が浮いている。


 …浮遊魔法は使ってるっぽいが、他の魔法を同時に使ってるようには見えないな…。


「サイラス、次」

「ハイ!」


 ならばどういう仕組みかと思っているうちに、女が次のゴミを抱えた。


 軽く腰を落とした瞬間、女はまた寒気がする気配を纏う。

 そうしてブン投げられたゴミの塊は、やっぱり軽々と柵を越え、弧を描いて勢いよく飛んで行く。


 それを繰り返すこと数回。女は、全てのゴミを穴の中に放り込んだ。


 段々狙いが正確になっていったのが完全に意味不明だ。なんでこの距離を投げられるんだよ…。


 呆然とする俺たちに、女は涼しい顔で告げる。


「じゃ、そういうことで。お邪魔しましたー」


 老婆の背中を押すようにして、女が去って行く。その後ろを、ガタイの良い男と黒いケットシーが追って行った。



『……』



 その姿が完全に見えなくなると、ようやく時間が動き出す。

 俺は同僚と顔を見合わせた。


「……なんだ、いまの」

「俺に聞くな。分からん」

「上官に報告……いやでも、ルールを破ってはいないんだよな…」

「それな…」


 あの女は、柵の向こう側からゴミを投げた。『一般人は柵の内側に入ってはならない』というルールは守られている。


 もっと言えば、俺たち騎士団の兵士が任されているのは『柵の内側の警備』なので、相手が柵の外側に居る限り、手は出せない。


 だが何より困るのは、



「………手間賃、取り損ねた……」


「……」



 俺がぼそりと呟くと、同僚が慰めるようにポンと肩に手を置いた。








※言ってることが色々おかしいですが、本人たちはいたって真面目です。



さて。


本日はコミカライズ第4話、その②の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・『せーのっ』なケットシーたち(みんなポーズが違うんですよ! 可愛いが過ぎる!!)

・虹が架かるギルド(きれいになったね…!)

・堂々とケットシーのシルエットが入るギルドの看板(デザインがとても良い…!)

・さらっと笑顔でブラック発言するエレノア(これ素なんですよね…怖…)

・無意識にブラックムーブをかますユウさん(小説では『夜更かし』で済みましたが、コミカライズではナチュラルに徹夜してますw)


…です!


何と言ってもケットシーが可愛い。ルーン1匹でも可愛いのに4匹も揃ったらどうしようですよ。みんな表情もポーズも違って個性豊かですし…!

…なお個人的イチオシは当然ルーンですが、次点でモフりたいのは真っ白長毛の御方です。顔を埋めたい。顔を。


…ごほん。



ギルドの大掃除も終わり、ユウさんはちゃっかり仮住まいを確保して(笑)、次から本格的にユウさんの冒険者ライフが始まります。

なお次回更新は5月27日の予定になっておりますので、ご注意くださいませ。


みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!

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