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おまけ(10) 【灘木優の同僚視点】居なくなって分かる有難み②

本日はコミカライズ8回目の更新日です!

無料公開期間は本日より2週間ですので、みなさまお見逃しなく…!



「…あら?」


 優が出社しなくなってから2週間後。

 朝出勤すると、ビルの入口に段ボール箱が山積みになっていた。


「よう、お疲れ」


 思わず足を止めてまじまじと段ボールを見詰めていたら、背後から先輩に声を掛けられる。


「あ、先輩。おはようございます」

「おはようさん。…なんだ、行き倒れたクソ上司でも転がってるか?」

「んなわけないじゃないですか。もしそうだったら小躍りして喜びますけど」

「お前ちょいちょいアレだよな…」


 思わず本音が漏れたら、先輩がちょっと顔を引き攣らせる。本心だから仕方ない。


 私は肩を竦めて、目線で段ボールの山を示した。


「あれ、どうしたんですかね?」

「あー、アレか。多分、全部ウチの荷物だな」


 即答だった。


「え、全部?」

「おう。定期的に買ってる消耗品と、その他諸々。朝一で持って来たんだろ」


 見れば確かに、伝票の宛先が全部ウチの会社になっている。このビルはテナントで他の会社も入ってるんだけど、この荷物は本当に全部、ウチの会社のもののようだ。

 が。


「…ええと…ここにあるってことは、これ全部、階段で運ぶんですか?」

「……そうだな」

「5階、まで?」

「……おう」

「………誰がやるんです?」


 私が問いを発するたびに、先輩が一歩ずつ後退って行く。

 きっちり3歩離れた先輩は、思い切り目を逸らしながら呟いた。


「…さーな。納品に立ち会った部署がやるんじゃないか?」

「ここに段ボールが山積みになってる時点で、納品対応した人間が運び上げる気はないって分かりますよね?」

「──」


 先輩が下手な口笛を吹き始めた。


 実はこのビル、エレベーターがあるのは正面玄関側だけで、従業員が使う通用口──つまりこちら側には階段しかない。

 そしてウチの会社においては、エレベーターは基本、来客とお偉方──と、その金魚のフン専用で、普通の従業員は階段を使わなければならないという不文律がある。


 通用口から正面玄関まで繋がるドアは施錠されていて、ウチの会社では、その鍵を持っているのは社長とその息子だけ。


 つまり、この大量の荷物を、会社が入っている5階まで、階段を使って、人力で運ばなきゃいけない。


 絶望感あふれる状況を前に、私は暫し立ち尽くし──


「………とりあえずタイムカード…」

「お、おう! そうだな!」


 そっと段ボールから目を逸らして私が呟いた途端、先輩も目を輝かせて頷いた。


 勤務時間を記録するツールなのに月の残業時間が一定を越えたら何故かその日以降『定時で帰った』ことになるタイムカードなんて、実際あってないようなもんだけど、この時ばかりはその存在に感謝した。




 その日の午後。

 取引先への連絡メールを送信したところで、隣の部署の人が声を掛けて来た。


「手が空いてる人、荷物運ぶの手伝ってくれー」

「……アレか」


 ぼそり、先輩がげっそりした顔で呟く。


 午前中、上司がやらかしたミスの対応に追われていた先輩は、昼食もまともに摂っていない。ただでさえ残業続きで目の下のクマも濃いのに、さらに疲労感がマシマシになっている。

 それでも席を立ったので、私も一緒に行くことにした。


「お前は行かなくても良いんだぞ?」

「ちょうど切りが良いところなので。あと、あれだけ数があったら人手が多い方がいいですよね? ──ほら、行くよ!」

「俺もですか!?」


 そっと顔を伏せて頑なにこっちを見ようとしない後輩にも声を掛けると、絶望的な顔で悲鳴を上げられた。

 私は意地悪く笑う。


「当たり前でしょー? あんた、さっき先方に連絡し終えたみたいだし。人が多けりゃ1人あたりの負担も減るんだから」

「うう…空蝉の術が欲しい……」


 大袈裟に嘆きながら、後輩も立ち上がる。


 階段を降りて行くと、女性社員が今まさに段ボールを抱え上げたところだった。


 顔に覚えがある。優と同じ部署の、一つ下の後輩だ。

 優が居なくなってからはさらに激務になって、会社に寝泊まりするのが常態化しているらしい。


 明らかに顔色が悪いし、乱雑に縛った髪はボサボサ。大きくふらついたのを見ていられず、私は反対側から段ボールを支えた。


 …って、重っ!?


「ちょっと、大丈夫?」

「……あ…」


 優の後輩が軽く目を見開いてこちらを見遣る。死んだ魚みたいな目だ。

 …これ多分、一週間以上まともに寝てないわね…。


「……ありがとうございます…」


 声にも覇気がない。私は首を横に振った。


「困った時はお互いさまよ。…それより、他の人たちは?」


 他の部署の人たちはおろか、先程私たちのところに手伝ってくれと声を掛けて来た男性社員の姿もない。私が首を傾げると、彼女はそっと目を逸らした。


「……その…『隣の部署に声は掛けてやったし、優は一人でやってたんだから、お前一人で大丈夫だろ』と…」

「は?」

「なにそれ!?」


 先輩とウチの後輩が目を見開き、私は思わず叫ぶ。


「他部署に助けを求めておいて、自分のトコは女の子一人にやらせようっての!? 馬鹿なの!?」

「…皆さん、今から会議だそうで…」

「ん? それ、部署の月例ミーティングだよな? お前は出なくて良いのか?」

「……要らないんじゃないですかね?」


 突然、彼女が冷ややかな笑みを浮かべた。


「依頼の納期も把握してないクソ野郎が『元気があれば何でもできる!』みたいな精神論ぶち上げるだけの会議ですし、私としても出るだけ無駄だと思ってるんで。荷物運びの方がよっぽど有意義です」

「お、おう…」

「…け、結構香ばしいですね…」


 疲れ切った表情の優の後輩の口から飛び出た辛辣すぎる発言に、先輩も後輩もドン引きしている。


 …そういえばこの子、こういうタイプだったわね…。『ちょっと私に似てる』って、優も言ってたっけ。

 とはいえ、性格が似ているからってこの荷物を一人で運ぶのは無茶だ。私たちが来てよかった。


「先輩、そっちの重そうなやつからお願いします。私はこのまま一緒にこの荷物運び上げるので」

「おう。──…いやこれ一人じゃ無理だな。おい、そっち持ってくれ」

「分かりました」


 お互い声を掛け合って、荷物運びに取り掛かる。


 段ボール箱のくせにやたら重い。

 同じ階ならともかく、階段で5階まで上がることを考えたら2人ペアで運ばなきゃ無理だ。


「…これを灘木1人で運んでたとか嘘だろ…」

「普通に倒れますよ…」


 男性陣がちょっと青くなっている。


 でも言われてみれば確かに、荷物を運び上げる優の姿はよく目にしていたけど、他の人が運んでるのは見たことがない。荷物運びに名指しで呼ばれるのはいつも優だった。


 あと、


「…前に見た時、優、段ボール箱2()()()()()()運んでたんだけど…」

「……か、軽いやつですよね? そうですよね!?」


 後輩が必死に確認するが、優の後輩は首を横に振った。


「重さはそれほど変わらないはず…」

「……」

「……火事場の馬鹿力ってやつか…?」

「…だといいですね」


 ぼそり、呟く声が低かった。








実は元の世界でもあり得ない腕力を発揮していた優さん。


…ちなみにこの『優の後輩』さんは別作品と繋がりがあったりなかったりします。



さて。


本日はコミカライズ第3話、その③の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?


今回更新分の原作者的イチオシポイントは、


・『月夜ばかりと思うなよ 若造どもが』のあの御方(是非ドスの利いた声で脳内再生してください)

・言動が一々小物な兵士たち(しれっとユウさんのことを『お嬢ちゃん』呼ばわりしてますが、多分ユウさんの方が年上ですw)

・『せいじょ』のキャピ顔を想像して目が死んでるユウさん(『せいじょ』の表情との対比が…(笑))

・大砲よろしくゴミを発射するユウさんと、目を輝かせるサイラス(勢いが素敵ですね…!)


…です!


不燃ゴミ廃棄場のスケール感がすごいですよね…!

そりゃあこの距離感じゃ、『ここからあの穴に入れられれば問題ないんですよね』とか言われても冗談だと思いますよね。全く冗談じゃなかったんですが(笑)


原作者的には、あの御方(一応まだ名前伏せておきます)の『月夜ばかりと思うなよ』が大好きです。

完全に蛇足ですが、これ、江戸時代から使われている脅しの常套句なんですよね。『夜の闇に紛れて暗殺されるかもしれないな、せいぜい気を付けることだ』という。

…ちなみに私がこの言葉を知ったのは某ロールプレイングゲームの『ぬいぐるみ背負った女の子』の台詞からです。

誰のことか分かった方は私の同類です、おめでとうございます(何)



ユウさんがゴミをぶん投げたところで、次はあの御方が誰なのかが明らかになります。


みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!

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