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おまけ(8)  アルバトリアケットシー連盟月例会議(後編)

本日はコミカライズ6回目の更新日です!

無料公開期間は本日より2週間ですので、みなさまお見逃しなく…!


 大変恥ずかしい話だが、俺のナワバリの中にある『冒険者ギルド小王国支部』は、ご近所、いや首都アルバトリアの中でも評判の『汚屋敷』だ。

 色々と不幸が重なったと言うか、仕方のない部分もあるのだが、現実として『ちょっとあり得ないくらい汚い』のは動かしようのない事実。


 俺はそこを中心としたナワバリを持つケットシーとして、何とかしようと色々考えてきた。が、正直結果には繋がっていない。

 所詮俺はケットシーで、汚しているのはそこを利用する人間なのだ。


 俺も小王国支部だけに関わっていられるほど暇じゃないし、何とかするなら人間の方が早い。


 ──城で召喚魔法が使われたと知り興味本位で見に行って、ユウが城から出て来たところを目撃出来たのは幸運だった。

 ユウは死んでから大分経った魚みたいな目をしていたが、街を見渡す表情には少しだけ生気があった。

 何より、内包する魔力が桁違いだった。その魔力を使いこなせたら、攻城戦級魔法だって使い放題じゃないかってくらいだ。


 その翌日、つまり今朝、声を掛けたらユウは俺を見て目を輝かせた。

 だから確信したのだ──これは明らかにネコ好き、つまりちょっと愛想を振り撒けばイケる、と。


 実際ユウは見事に俺の勧誘に乗り、ギルドに出向いてあまりの汚さにブチ切れ、ギルドの面々を巻き込んで大掃除を始めた。その速さは俺の目論見以上だった。


 …まあ、スキル『剛力』持ちだったのは予想外だけど…デールもサイラスも、ついでにカルヴィンも大人しくなったし、結果オーライってやつだ。


《…なんかすげぇな…》


 俺の説明を聞いた仲間のうちの一匹が、感嘆の溜息をついた。


《とうとう、アレが何とかなるのか》


 他の仲間たちも感慨深く頷いた。


《やっとだな》

《ルーンもあれこれ頑張っちゃいたけど、やっぱ最後は人間か》

《そりゃそうだよ》


 ケットシーは人間より鼻が利く。冒険者ギルド小王国支部の汚さと凄まじい臭いは、ケットシーたちに大変評判が悪かった。

 でも、これでようやく、俺も肩身の狭い思いをせずに済む。


 …俺がやったんじゃなくても、ナワバリの中にある以上、無関係って扱いにはならないからな…。

 仲間にはむしろ同情されてたけど、その視線が痛いったらなかった。



《なあ、そういや昼間、ギルドの裏庭からすっげぇ音してたよな?》


 一匹のケットシーが、ヒゲをピンと立ててこちらを見た。


 多分、ユウが力量測定器をぶん殴った時の音だろう。

 あれはヤバかった。瞬間的に、ユウの背中に修羅が見えた。


《ああ。あれ、ユウが力量測定器をぶん殴ってブッ壊した音だ》


 説明した途端、仲間たちが爆笑した。


《壊したんか! あれ相当頑丈なのに!》

《すごい新人冒険者も居たもんだな!》

《うわー、見たかった!》

《現場に居合わせるのはあんまりおすすめしないぞ。ちょっとしっぽ巻いて逃げたくなった》


 正直に申告する。


 実際あの瞬間──正確にはユウが構えを取って集中した瞬間、雰囲気がガラリと変わって全身がゾワッとした。


 あれは殺気だ。それも多分、平民じゃ一生縁が無いレベルの。


 ただし──本人に自覚がない。


 デールとサイラスは、気付いて瞬時に態度を改めた。

 カルヴィンも気付いただろうけど…まあ曲がりなりにもトップだからな。ビビってる様子なんか見せられないよな。


 スキル『剛力』といいあの殺気といい、ユウが『主婦』認定されてるのは何かの間違いだと思う。鑑定魔法に不具合でもあるんじゃないだろうか。


《そういやさっき、多分そのユウってやつを見たぜ》

《えっ、マジか》

《何か宿屋でメシ食いながらボーっとしてた》


 その証言に、俺はちょっと心配になる。


 昼間はカルヴィンたちに説教したり力量測定器ブッ壊したりして絶好調って感じだったが、やっぱり突然召喚されたわけだし、色々疲れも溜まってるんだろうか。


 ──が。


《目が合ったんでウインクしてやったら、何か心臓撃ち抜かれたみたいな顔でデレッデレになってたけどな》

《ええ…》

《ネコフェチだったか》

《チョロいな》


 …心配して損した。


 俺が半眼になっていると、ユウにウインクかましたヤツがにやりと笑ってこちらを見た。


《心配すんな、オレは雑貨屋のおかみさん一筋だからな。日本から来たやさぐれ主婦の世話はお前に任せるぜ》

《いや任すなよ。あと、俺は別にお世話するつもりはない》


 俺がユウに声を掛けたのはギルドを何とかして欲しかったからであって、別に世話を焼きたかったわけじゃない。

 言った途端、仲間たちがどよめいた。


《え、声掛けておいて放置するつもりだったんか!?》

《薄情者ー!》

《いやールーンに限ってそれはないだろ、それは》

《筋金入りの世話焼きケットシー、それがルーン》

《だよなあ!》

《オイ》


 あらぬ誤解を受けてる気がする。


 俺がキュッと瞳孔を広げて周囲を見渡すと、仲間たちは一斉に静かになった。

 …意味深な顔で視線を交わしているあたり、反省するつもりはないようだが。


《そのくらいにしておけ》


 ほんのり笑いの混じる念話で制止したのは、最長老のフォレスだった。


《我ら『ネコ』にとって、召喚された日本人に親しみを持つのはある意味当然だ。誰がどのように関わろうと、それは個々の自由。違うか?》

《あー、まあそうだな》

《だよなあ》


 周囲のケットシーたちが納得の表情を見せる。フォレスは頷き、言葉を続けた。


《ユウは冒険者になった、つまりルーンのナワバリの中の人間になったということだ。後のことはルーンに任せて、我々は面白おかしく気楽に関わろうではないか》

《ちょっと》

《さんせーい!》

《そうこなくちゃ!》

《それでこそケットシーってもんだぜ!》


 俺の抗議は、仲間たちの念話にかき消される。


 …つまりアレか。面倒なことは俺に任せて美味しいとこだけ持って行こうって、そういう魂胆か。

 ユウはものすごく分かりやすいネコ好きだし、ちょっと愛想振り撒けばいくらでも貢いでくれそうだもんな…。


(…あ、なんかムカつく)


 ユウが他のケットシーにデレデレになっているのを想像したら、ちょっとイラッとした。


《面白おかしく関わる気があるなら、ギルドの掃除手伝ってくれよ》


 俺がビタンと尻尾を地面に叩き付けると、またブーイングが上がる。


《えー、それってあの山賊モドキどもが散らかしたやつだろ》

《見物だったら行ってやってもいい》

《見学するくらいなら手伝え》

《なんだよケチだな》

《手伝ってやっても良いけど、タダ働きは御免だぜ》


 …まあそうなるよな。

 洗浄魔法が使えるやつが手伝ってくれれば、俺の負担が減るんだけどなあ…。


 俺は内心で溜息をついた。





 ──翌日、ユウは『ケットシーに報酬を払って掃除を手伝ってもらう』なんて案を出してきた。


 提示されたのは、イノシシ肉の柔らか煮。


 俺が声を掛けたら、かなりの数のケットシーが参戦したのだが──半分以上は『ヤバい新人冒険者を見学したい』という動機だったのは、ユウには秘密である。


 報酬を受け取った結果、全員が見事に胃袋を掴まれたのも…俺たちだけの秘密だ。








最終的には食欲が勝つ。あると思います。



さて。



本日はコミカライズ第3話、その①の更新でしたね!

みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?

前話で力量測定器を景気よく吹っ飛ばしたユウさん。その直後からお話が始まります。


…というわけで、今回更新分の原作者的イチオシポイントは…


・盛大にぶっ壊れた力量測定器(完全に修理不能ですね(笑))

・こそこそ打ち合わせした後、突然劇画調になるデール&サイラス…からの流れるような土下座(芸が細かい…!)

・『壊れたあ!?』と叫んだ後、『姐さん』呼び確定までひたすら魂が抜けてるギルド長(実はこの間、1ページにつき最低でも1コマは真っ白なギルド長が居ますw)

・ゴミの分別するのにいろんな物に気を取られて全然作業が進まないエレノア(大掃除あるある)

・あらゆるコマに現れて突っ込みやらフォローやら入れまくるルーン(仕草が可愛い。説明不要。原作者は特に最後のページで倒れ込むデールの背中に大の字になってるルーンがお気に入りです)


…です!


力量測定器が小説より派手に吹っ飛んでぶっ壊れ、デールとサイラスは恐れおののいて、ではなくキラッキラした目でユウさんの舎弟になるなど、コミカライズならではの演出があって原作者的には大変楽しいです(笑)


みなさま、引き続きコミカライズの応援をよろしくお願いします!




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