おまけ(6) ホームの惨劇 その④
本日、カドコミ(コミックウォーカー)にてコミカライズ4回目の更新です!
無料公開期間は更新日から2週間ですので、閲覧はお早めに…!
結局──
マダム・ステラからの貰い物は見事に高級品ばかりで、ウチの被害総額は文官の予想を2桁ほど上回ったらしい。
下手人の騎士たちは騎士団の罰則規定に基づいて、エルドレッドから盛大に説教を喰らった上で減給処分。家捜しを指揮した小隊長は懲戒解雇の上で罰金刑になったそうだ。
…小隊長、大家さんから巻き上げたウチの合鍵から、さらに合鍵作ってたんだってさ…。
あれ半分冗談のつもりだったんだけど、まさか本当にやる馬鹿が居るとは…。
ギルド長曰く、小隊長の実家は男爵家で、首都防衛戦の後に私のところに結婚の打診をしに来た家の中の一つだったそうだ。小隊長本人が私を嫁にしたかったそうな。
で、断られてもなお諦め切れずに、どさくさに紛れて『既成事実を作れば良いんじゃね!?』と思い付き、合鍵を作ってこっそり懐に入れていた…と。
「…『カリスマ』の影響下でそんなこと出来るの?」
昼下がりの小王国支部受付。ギルド長の説明に、私は首を傾げた。
被害の確認から、まだ5日しか経っていない。状況把握と処分の決定と執行がものすごく速いのは気のせいだろうか。
…被害確認の翌日にジークフリードの件で謝罪に来た王太子妃のディアボラもウチの惨状を把握してたし、何よりエルドレッドがブチ切れてたから、そのせいかな…。
「いや、小隊長はジークフリードの帰還当日は非番で、城でも接触機会がそれほどなかったから、『カリスマ』の影響はほぼ受けていなかったらしい。『王太子から逃げたユウ』に怒り狂った部下の愚行を自分に都合が良いからって止めもしなかったのが、エルドレッドの逆鱗に触れたわけだ」
ギルド長が呆れを隠さずに言う。
カウンターの上に乗るルーンが片耳を倒した。
《馬鹿も居るもんだなあ。既成事実作ろうったって、ユウ相手じゃ自分がミンチになって終わりだろうに》
「未遂に終わってよかったよ。私そんなののせいで犯罪者になりたくない」
《そうね》
「全くだな」
ルーンの言葉に私が呟くと、サラとギルド長が同意する。
私に求婚して来たってことは私がどういう人間かってことも知ってるはずなのに、何でイケると思ったんだろう。魔物に対しては容赦なくても人間に対しては強気に出られないとでも思ってたのかな。
…『剛力』持ちがそんな器用な区別するわけないのに。
ちなみに、私がその後特級冒険者になったことは城の関係者に知れ渡っているし、国境の橋での一件で騎士たちを盛大に脅したので、帰還後ははた迷惑な『求婚』事案はぱったりとなくなった。お陰で気兼ねなくギルドの仮眠室に泊まれる。
…そう。結局帰還してから今日まで、私は懐かしの仮眠室に寝泊まりしていた。
エルドレッドには『宿を手配する』って言われたんだけどね。仮眠室の方が何だかんだで落ち着くし、気楽だから。
なお費用は当然、騎士団持ちだ。
騎士団が持ち去っていた合鍵は大家さんに返されて、今、私が借りてた物件は大掃除と修繕が急ピッチで行われている。
城から人員が派遣されて、その道のプロのメイドさん主導で作業しているそうだ。私は初日に立ち会って、『全部捨てていいよ、よろしくね!』って言っただけ。楽なもんだ。
ちなみにその『城から派遣された人員』の中に、ウチを荒らした小隊長以外の騎士たちも居るとか居ないとか。メイドさんたちに滅茶苦茶睨まれてた連中が居たから、多分それかな。
あとは、えらい金額になっちゃった損害賠償をどうするか、だけど…。
「──で、これが騎士団長代理からの示談の打診だ。つってもまだ草案の草案だけどな。一応確認して、困るようなら言ってくれ」
そう言ってギルド長がカウンターに広げた書類を、私とルーンとサラは一緒になって覗き込み──
「…………へ」
《うっわー…》
私はぽかんと口を開け、ルーンがちょっと引いた。
まあそうなるよな、と苦笑いしたギルド長が、一つ一つ説明してくれる。
まず、ギルドが所有していた希少本2セットは現物支給。
魔物図鑑の方は王家が所蔵していたものを、建国記は筆者である『ユージン・コルボーン』の生家、コルボーン侯爵家が保管していたものを、それぞれ小王国支部に提供する。
ちなみに、コルボーン侯爵家がとばっちりを受けたのかと思ったけど、実はそうじゃないらしい。
コルボーン侯爵家の現当主は、文官長のケネス。
そう、『カリスマ』の影響をモロに受けて盛大に暴走していたあのケネスだ。
なんと、そもそも私の家の捜索をするよう指示していたのはヤツだったらしく──その時点で『文官長に騎士団を動かす権限は無ぇんだよクソが!』とエルドレッドがブチ切れたらしい。
越権行為の罰として、ご先祖様が書いた家宝の希少本を差し出すことになったと。あーあ。
ウチにあったマダム・ステラからの提供品に関しては、原則、同等品を私に支給。
具体的には、オーダー品だった寝具一式と特殊加工付きの鍋とフライパンは、作った時の詳細をステラに聞き、同じ工房で同じように仕立ててくれるそうだ。
味噌とか醤油とかも、種類を確認して買ってくれるらしい。
…でもそれって、アローズ公爵家当主に『貴女がユウにあげた寝具とか諸々、騎士団員が全部ダメにしました。なので詳細を教えてください』って騎士団の恥を晒した上でお願いするってことだよね。色々大丈夫かな…?
なお『プラチナム』の『ミルク・クラウン』シリーズはもう製造されてないんだけど、騎士団長のアレクシスの実家に丁度未使用のマグカップと深皿のセットがあったらしい。
大事に金庫に仕舞われていた現当主のコレクションの一部だそうで、現当主──アレクシスの父上は『元はと言えば部下の統率がとれていなかった息子の不手際ですので』と血の涙を流しながら提供に同意したそうだ。
…ありがたいけど、使ったら何か呪われそうだな…。
その他の食器や衣類、消耗品類に関してはピックアップし切れないので、概算した購入金額の倍額を損害賠償としてお支払い。
買い出しに人手が要るようなら、城に一声掛ければメイドさんとかがお手伝いに来てくれるとか。
そんな感じで、金額の大きなものは現物支給になったから、金銭として支払われる額はそれなりに減った、はずなんだけど──
《…ねえこれ、高いの? 安いの?》
サラはまだこっちの通貨と物価に慣れていないので、首を傾げている。
私はそっと目を逸らした。
「…ええと……現金で貰える分だけで家が買えるね」
《えっ》
この国の首都は、道の石畳や家の壁が特別な『白い石』で構成されているので、新築物件が存在しない。
基本的に全て中古物件で、既存の建物の外側はそのまま、内装をリフォームして使い続ける。
だから、建物の価格自体は日本と比べてそんなに高くないんだけど……
「……私、生活必需品にこんなにお金掛けたっけ…?」
倍掛けって考えても、ちょっと金額がおかしい。
私が顔を引き攣らせながら首を傾げていると、ギルド長が微妙な顔で苦笑いした。
「あー、多分だが、貴族の感覚で値段付けてんな。平民の衣類とか食器の値段なんか知らないから、貴族の──男爵家あたりが使うものの相場を参考にして『多分これくらい』ってざっくり計算してんだろ」
《それで良いの?》
「まあ元々、あっちの連中の落ち度だからな。こっちが気にすることじゃねぇ」
貰えるモンは貰っとけ、とギルド長は肩を竦める。
…簡単に言ってくれるなあ。いくら損害賠償とはいえ、ちょっと怖いくらいの金額なんだけど、平民としては。
サラがくあ、と欠伸した。
《良いじゃない、貰っておけば。老後の資金にでもしなさいよ》
「あ、なるほど」
それはとても良い案だ。
──ちなみに。
現物支給の特注品の代金と、現金として支払われた分の損害賠償は、下手人どもの給料とその実家に割り振られるはずだった来年分の予算から容赦なく徴収されたそうだ。
ついでにディアボラ王太子妃とステラティア・アローズ公爵とウチを片付けてくれたメイドさんたちがそりゃあもう積極的に噂話を広めた結果、下手人どもは『よりによってアローズ公爵のおぼえめでたい新進気鋭の冒険者(現・特級冒険者)の家を滅茶苦茶にした愚か者』として、お貴族様の社交界で針の筵を味わうことになったらしい。
家の予算を削ったことで家族にも責められ、中には婚約が白紙に戻った者も居たとか。あーあ。
…なおその後、首都アルバトリアの下町で『雨も降っていないのに全身水浸しで気絶している若い男性貴族』が複数人発見される事件があったが──犯人はいまだ捕まっていない。
「…お前らやりすぎだろ…」
「え? 私は『お前のせいで人生滅茶苦茶だ』とか言い掛かりつけて掴み掛かって来た野郎をぶん投げただけだけど」
《私は、その投げられた人間が壁に激突しないようにマーキュリーに受け止めてもらっただけよ? ──まあその後ちょっとうっかり世間話に夢中になって、しばらく水没させたままにしてたのは否定しないけど。事故よね、事故》
「…………」
ひらり、サラの首元で藍色のリボンが揺れた。
カリスマ野郎の影響で調子に乗って大暴れした結果、職務的にも金銭的にも物理的にも処罰を受ける騎士サマ。
剛力主婦に絡んでしまったのが運の尽き。
…というわけで、本日はコミカライズ4回目の更新でしたね!
みなさま、もうお読みいただけましたでしょうか?
今回更新分の原作者的イチオシポイントは…
・『鑑定魔法だ』とドヤ顔を決めるギルド長(イケメンの無駄遣い(誉め言葉))
・鑑定魔法と聞いて大変胡散臭いものを見る目をギルド長に向けるユウさん(表情がやばい(誉め言葉))
・勇者コテツについて力説するデール(勢いが素晴らしい)
・〇ター・ウォーズばりのレイアウトで出現して見事見切れる国名(なお小王国の正式名称は『偉大なる開祖セオドリック・オールブライトと勇者コテツを讃える聖地ユライト湖および小ユライト湖のほとりに佇む白き都アルバトリアを首都に持つ始原の約束された繁栄の地に栄える王国』です。コマに収まるわけがない…(笑))
…です!
ギルド長ことカルヴィンの鑑定魔法、第1話で出て来た『ヨボヨボ』の鑑定魔法と見た目が違う、とお気付きになりましたでしょうか?
能力の違いが浮き彫りになっておりますね。ご家庭用の普通の電卓と最新式のスマホくらい性能差があります。多分。
コミカライズの次回更新では、原作者がダントツに好きな『あの』シーンが出て来ます…!
みなさま、漫画家様の応援、よろしくお願いします!