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おまけ(4) ホームの惨劇 その②

前回の続きです。

もうちょっと続きます…。


 その後、通り掛かったメイドさんに騎士団本部への道を聞き、私たちは目的地に到着した。


 …ちょっと道を間違えかけて、結局ルーンのナビに任せることになったけどね。『一緒に聞いてたはずなのに何で間違えるんだよ』って突っ込まれたけど、一度聞いただけで正確に道を辿れる方が普通じゃないと思う。


 ともあれそうして辿り着いた騎士団の本部は、城の中を通り過ぎた先、裏に近い場所にあった。


 城の警備を担うはずなのにこの位置って変だけど、小王国は周囲をユライト王国に囲まれてるし、事実上ユライト王国の属国みたいなもんだから、他国から攻め込まれるのを想定してないんだろう。良くも悪くも平和な国だな。


 一応、ドアの前には兵士が2人立っている。

 彼らには腕輪を見せるまでもなかった。

 両方とも私の顔を見るなり真っ青になって、扉の中に飛び込んで行った。


《ユウも顔が広くなったよなあ》

《…そういう問題かしら》


 サラが首を傾げている。


 扉には中から鍵が掛かっていた。ノックしてみても返事がない。


 ……なるほど?



「よし、ぶち破ろう」



 わざと大きめの声で言ったら、



「待てー!!」



 即座に扉が開き、必死の形相の騎士が飛び出して来た。予想通り、扉の内側に張り付いてこちらの様子を窺っていたらしい。

 居留守を使えばしのげるとでも思ったか。浅はかだな。


「どーも小王国騎士団サマ。入っても?」

「…………ど、ドウゾ………」


 私がにっこり笑うと、騎士がギクシャクとした動きで扉を大開きにする。


 初めて入る騎士団本部は、思ったよりも片付いていた。

 大きなテーブルに革張りの椅子、壁際には剣や槍や鎧がずらり。…新品同様なのと手入れが行き届かずに錆び付いてるのは一緒にしない方が良いと思う。


 ともあれ。


「ちょっと責任者呼んでくれる?」


 居合わせた騎士たちは、みんな私たちを遠巻きにして目を合わせようとしない。扉を開けてくれた騎士に頼むと、彼はあからさまに狼狽えた。


「せ、責任者というと…」

「騎士団長」


 私が即答すると、騎士はますます困り果てた表情になった。


「騎士団長は……」


「──客か?」


 奥の通路から声がして、大柄な人影がのっそりと現れる。

 その姿に、私は目を瞬いた。


「……エルドレッド?」

「あん?」


 私が名前を呟くと、エルドレッドは胡乱な顔でこちらを見て、なんだお前か、と片眉を上げた。


「こっちに帰って来てたのか」

「ああうん、今日着いた。──じゃなくて。なんでエルドレッドがここに?」


 エルドレッドは上級冒険者だ。

 まあこの国の第2王子でもあるから、城の中に居てもおかしくはないんだけど…騎士団の本部に居るのは違和感がある。


 ──そこまで考えて気付いた。

 エルドレッドが、何故か騎士団の全身鎧を身に着けている。


「そりゃあ、俺が騎士団長代理だからに決まってるだろ」

「へ」


 当たり前の顔で言われて、今度こそ思考が停止した。


 ……騎士団長代理? 誰が?



 ………不良王子(エルドレッド)が?



「うそだあ!」


「秒で否定すんじゃねえ!」



 思わず叫んだら怒られた。


 いやだって、あのエルドレッドだよ? 筋金入りの不良王子だよ?

 そりゃ確かに統率力はあるし地図も書けるし情報の集約も上手いし本人の実力も確かだし指揮官としては優秀な方なんだろうけど──……あれ、なんか普通に適任な気がしてきた。


「仕方ねぇだろ。騎士団には爵位持ちも多いんだよ。その上に立てる人間が俺以外に居なかったってだけだ」


 エルドレッドが背中に闇を背負いながら言う。どうやら本人的には不本意な人事だったらしい。


「いやゴメン、びっくりして」

「……まあいいけどな」


 エルドレッドの溜息が深い。


 その溜息で意識を切り替えたのか、顔を上げた時には若干の呆れを乗せつつも真面目な顔になっていた。


「──で、ここに何の用だ」


 無駄に威圧感のある言い方だけど、ちゃんと話を聞く態勢になっている。

 私も真面目に答えた。


「私の家の鍵、返してくれない?」

「……家の鍵?」

「正確には私が契約してる借家の鍵、なんだけど」

「…?」


 エルドレッドが思い切り眉を寄せる後ろで、何人かの騎士が『しまった』という顔をしている。

 それを見て私が目を細めていると、気付いたエルドレッドがチラリと背後を見遣り、ドスの利いた声で命じた。


「……オイ、説明しろ」

『は、はっ!』


 ビシッと敬礼が揃う。


 そうして騎士たちが報告したのは──ずいぶんマイルドに変換された事の顛末だった。


 曰く、勅命を出されたユウが街を出てしまったので、行方の手掛かりがないかと大家に合鍵を借り、借家を捜索した。

 が、一度の捜索では有効な手掛かりは得られず、また日を改めて捜索しようと、鍵は借りたままにした。

 大家にはちゃんと了承を得ているし、近々返すつもりでいた。


《へー…》

《返すつもりでいた、ねえ…》


 ルーンとサラの纏う空気がひんやりしている。

 黙って報告を聞いていたエルドレッドが、半眼のままこちらを向いた。


「…で、お前らから見るとどういう状況だ?」


 私は平坦な声で即答する。


「久しぶりに家に帰ったら、中で魔物が暴れたんじゃないかって惨状になってた」

「……あん?」

「空き巣も真っ青のズタボロ状態。引き出しとか収納は全部開けられて中身がぶち撒けられてたし、ギルドから借りてた本はバラバラのぐちゃぐちゃになって床に散らばってたし、寝具はご丁寧に全部切り裂かれて使えなくなってたし、調理器具と食器は何故か割れたり歪んだりして全部床に転がってたし、保冷庫は開けっ放しのまま中身が空になってたし、服は──あれ全部揃ってたかな? まあ揃っててももう着られないけど」

「………………」


 エルドレッドの目がどんどん細くなって行き、騎士たちが少しずつ青くなって行く。


 私は笑顔で付け足した。


「ちなみに騎士団が『借りた』鍵は、大家さん、返して欲しかったけど怖くて言えなかったんだって。まあ今まで平和に生きて来た一般人の女性が怒り狂った騎士に言えるわけないよね、『返して』なんて」


「……………なるほど、よくわかった」

『…!』


 周囲の騎士たちがヒッと息を呑む。


 深いシワを刻んだ眉間を揉み、エルドレッドが何かを考える表情になった。


「…ちなみにだが、ギルドから借りてた本のタイトルは分かるか?」

「ええと…」

《ロベルト・イェーガー著『西大陸魔物大全』の初版本全巻と、ユージン・コルボーン著『小王国建国記』オリジナル版の上下巻セットだな》


 私はタイトルしか覚えてなかったけど、ルーンはバッチリ記憶していたらしい。

 ルーンが告げた瞬間、エルドレッドの顔が引き攣った。


「国宝級の希少本じゃねぇか!」

「あ、そんなレアモノなんだ」


 結構貴重な資料だとはグレナに聞いてたけど、国宝級だとは知らなんだ。


「なんでそんなモンがギルドにあるんだよ!?」

「マグダレナ様がくれたらしいよ、昔」

「…………」


 エルドレッドがスン…と静かになった。


 実は小王国支部の資料室にある本のうち、3割くらいは希少本らしい。

 私が借りてたやつはその中でも特に希少な部類みたいだけど、同じくらい古い本なら資料室には数十冊、いや数百冊単位で収蔵されている。


 …それ知ったの、わりと最近だけどね。

 ちょっと前までゴミ屋敷だったあの支部で、よく無事に残ってたよ…。


「……マグダレナが寄越した本なら、確実に本物…だろうな」

「そうだね」

「…お前、状況分かってるか?」


 私が平然としているのが気に入らないのか、エルドレッドがご丁寧に説明してくれる。


 西大陸魔物大全は、今でも改訂されて出版され続けている冒険者ギルド御用達の魔物図鑑。

 初版本はこの世界で印刷技術が発明された頃に世に出たもので、文字は印刷だけど、挿絵は全部手描き。図鑑としての完成度は言わずもがな、印刷黎明期の資料としても非常に価値が高い。


 小王国建国記はこの国の始まりを記した、歴史書と伝記物の中間のような本。『オリジナル版』は初版本のことを指す。

 第2刷以降──追加で出版されたものは国の検閲が入り、主に建国の勇者コテツに関する記述が大幅に改訂された。現存するオリジナル版は、世界に数冊しかないと言われている。


「…つまりどちらも、買おうと思っても買えない超稀少本だ」

「エルドレッド、意外と博識だね」

「俺を何だと思ってやがる」


 褒めたらエルドレッドが苦い顔になった。


 だって見た目、脳筋なんだもの。古い本の価値を知ってるなんて予想外だよ。


 周りで話を聞いていた騎士たちは、既に顔面蒼白だ。中には蒼白を通り越して顔が土気色になっているやつも居る。多分、実際に本を破ってばら撒いた張本人か、その関係者だろう。


「どうすりゃいいんだよ…」


 エルドレッドは完全に頭を抱えている。

 どう考えたってあの状態から本を修復するのは無理なので、私は一番現実的な提案をしてみた。


「損害額分をギルドに支払うとか」

「……無理だ。国家予算が飛ぶ」

「わあ」


 現実的な案が一番現実的じゃなかった。


「あとお前、自分の損害のこと考えてねぇだろ。本の話を振った俺が言えることじゃねぇけどな、まずはギルドのことよりお前の生活のことだろうが」

「あっ」


 エルドレッドに渋面で突っ込まれて気が付いた。

 確かに、もう直せないと分かり切ってる本のことより、今日私はどこで寝れば良いのかってことの方が大事だ。


「…当面はギルドに泊まるとか…」


 こっちに来てすぐの頃に散々お世話になった小王国支部の仮眠室。勝手知ったるあの場所なら寝るのにも不自由しないし、数日過ごす分には問題ない。


 …まあどっちみち、あの自宅の惨状は自分で片付けなきゃいけないわけだけど。

 どうしよう、汚屋敷化してたギルドの大掃除した時と違って、全然やる気が起きない……。


 私がどんよりした目をしていると、エルドレッドがまた溜息をついた。


「──とりあえず、現場を見せろ。騎士団がやったって証拠もあるんだ。まずは詳細な被害を把握して損害額をはじき出す。場合によっちゃ、城から片付けの人員を派遣する必要もあるからな」

「え」

「元はといえばあのクソ王太子のクソスキルの影響だろ。こっちが責任持たないでどうすんだ」


 エルドレッドが真顔でものすごく常識人なことを言い出した。

 私が驚いていると、ルーンが感心したように耳を立てる。


《流石は騎士団長代理だよなー。どっかの考えなしとは違うぜ》

「…あれ、そういえばアレクシスってどうしたの? 辞めたの?」


 騎士団長と言えばアレクシスだ。今更だけど、エルドレッドが代理を務めてるって、一体どうしたんだろうか。


 エルドレッドは鼻で笑った。


「ああ、あいつは国境侵犯未遂の責任を取って自宅謹慎中だ」

《自宅謹慎》

「一応騎士団に籍は残ってるが、まあ謹慎が解けたとしても元の地位に戻れるモンじゃねぇだろうな。騎士団に復帰したとして、良くて小隊長、最悪ヒラからやり直しってとこだろ。あいつと、あいつの家の連中がその扱いに耐えられたらの話だけどな」


 確かアレクシスは、侯爵家の嫡男だったはずだ。相当偉い方のお貴族様の家。

 その家の跡継ぎが、騎士団長から小隊長か役職なしに事実上の降格……素直に騎士団に復帰するとは思えない。爵位を継ぐからとか適当な理由つけて、そのまま辞めそう…。


「…ちょっと可哀そうかな…」


 私が呟くと、くあ、とルーンが欠伸した。


《いーや、『カリスマ』の影響があったとはいえ、馬鹿げた行動起こしたのはあくまで本人の判断だからな。自業自得ってやつだろ》

《同感だわ。酔っ払いが暴力沙汰起こして捕まったとして、『酔っぱらってたから無罪』なんて理屈、通るわけないでしょ?》

「あー……」


 なるほど、納得。








あらすじのところでもちょっと触れましたが、作品のステータスを『完結済み』から『連載中』に戻しました。

コミカライズの更新と同じタイミングで小話上げる=毎週更新な上に、続きものの小話書いてるのに『完結済み』っておかしいよなーと…今更ですが思いまして…。

コロコロ変わって申し訳ないです…。

よろしければ、お付き合いください。


…というわけで、本日はコミカライズの2回目の更新でしたね!(切り替えが早すぎる)

もうお読みいただけましたでしょうか?


原作者的イチオシポイントは、

・ある意味表情豊かなユウさん(是非第1話と比べてみてください…!)

・しっかり山賊になってる約3名(キャラデザいただいたときに吹き出しました)

・本能的にゴミを集めるわんこなエレノア(可愛い)

・妙にキャラが濃いハエ(←じっくり見ると何か色々反応してるんですよ、ハエが…)


…イチオシポイント多いな!と思ったそこのあなた。正解です。

原作者の贔屓目を抜きにしても、描写とかテンポ感がすごく好きなんですよー!


まだ読んでいないという方、是非カドコミ(コミックウォーカー)に飛んで読んでみてください!

来週も更新がありますので、漫画家様の応援よろしくお願いします!


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