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204 人生のツケ


「!」


 ジークフリードがビクッと肩を揺らし、マグダレナとライオネルとギルド長を見渡した後、押し出されるように私の前に出て来た。


「………そ、その……ユウ。済まなかった……」

「ユウ?」


 マグダレナがピクッと眉を跳ね上げた途端、ジークフリードが青い顔で直角に頭を下げる。


「ユ、ユウさん! 申し訳ありませんでした…!!」


 お、おう。


 あまりの変わり様に、ちょっと引く。ライオネルがやれやれと苦笑した。


「ジークフリード殿下、それでは伝わりませんよ」

「え…」

「何について謝罪しているのかを明確にしなくては」

「何について…」


 ジークフリードが困ったように眉根を寄せた。

 待つこと暫し。


「…その…私の迂闊な発言のせいで隣国に脱出しなければならなくなったこと、大変申し訳なく思っています…」


 捻り出したのはそんな言葉だった。再度頭を下げるジークフリードに、マグダレナが微笑む。


「──及第点というところでしょうか。…ユウ、如何ですか?」

「いかがとは」


 私が思わず素で呟くと、ギルド長が苦笑した。


「国と国の話はついた。あとは冒険者ギルド側の対応をどうするか、って問題でな。まずはお前が許すか許さないかが重要なんだよ」

「え、私?」

「そりゃあ、今回の一番の被害者だからな」


 ギルド長曰く、許すならそれで良し、許さないなら冒険者ギルドとして小王国と示談交渉に臨む用意があるらしい。

 私は特級冒険者だから、国とのトラブルは冒険者ギルド本部が矢面に立ってくれるそうだ。すごいな特級冒険者。


 とはいえ──


「許すも許さないも…私的には言いたいことも言ったし、サラが飛び蹴りかまして盛大に説教垂れてくれたし、傍迷惑なスキルは使えなくなったから、もう終わったもんだと思ってたんだけど」

「え」


 その言葉に、ジークフリードがポカンと口を開けた。ギルド長が溜息をつく。


「やっぱりか…お前、寛容過ぎるだろ」


 寛容?

 いやいや、まさか。


「だって、スキル『カリスマ』がなくなったんだよ? 別に私が被害訴えなくたって、これから本人が苦労するのは目に見えてるし…まあ精々今までの人生イージーモードのツケを払うといいよ」


 寛容だなんてとんでもない。私はこれからこの男がスキル『カリスマ』のチート能力抜きで四苦八苦するのを、ものすごく遠くから細目で眺めてせせら笑う気満々なのだ。


 どうせ今まで周囲が全力でお膳立てして、本人はマトモに仕事してなかったんでしょ。はてさてこれからどうなることやら。

 今回の国境侵犯未遂で、王太子の立場から外される可能性もあるしね。


 巻き込まれたらたまったもんじゃないけど、見てるだけなら面白そうだ。ふははは。


「え゛!?」


 性格が悪い自覚はある。

 ひんやりとした笑顔で言ってみると、ジークフリードが顔を引き攣らせた。


 なるほど、とマグダレナが頷く。


「40にもなって自分の生き方を根底から変えなければならないのは、確かに罰になり得ますね」

「相っ当キツいだろうな」

「下手をすれば、今まで盲目的に従ってくれていた者たちが全員反旗を翻す可能性もありますからね」

「だな。仮に立場が変わらなかったとしても、部下の反応は変わるだろ。悪い方に」

「……」


 マグダレナだけでなく、ギルド長にもライオネルにもエルドレッドにも脅されて、ジークフリードが青くなる。ようやく現実が見えてきたらしい。


 私はグッと親指を立てる。


「あと、被害がどうとか騒いでたらいつまで経ってもこの歩く世間知らずと縁が切れないからさ。私はもう関わり合いになりたくない」


 イイ笑顔で言い切って、私は橋の上にずらりと並ぶ岩を見渡した。


「──そんなわけで、念のため言わせてもらうと…今後、万が一、また似たような感じで私の人生の邪魔をするようなら──」


 手近な岩に近付き、踏み込みと共に拳一発。



 ──ズガン!!


『!?』



 響いた音と振動に、倒れたままの連中も顔だけ動かしてこちらを見る。


 橋にずらりと並ぶ岩。そのうちの一つの真ん中あたりに私の拳がめり込み、細かいヒビが放射状に入っていた。

 手を退けると、パラッと中心から破片が零れ落ち──ものすごい勢いで岩から岩へヒビが広がり、全体が砂のような細片になってざあっと崩れ去る。


 岩が全て砂の小山と化し、あっという間に橋が開通した。エルドレッドが苦々しい顔をして、ギルド長がそっと天を仰ぐ。


『………』


 ジークフリードたち小王国御一行が絶句する中、私は笑顔で拳を掲げた。



「次からは交渉とかオハナシアイじゃなくて、物理(こっち)で対応させてもらうから。平民だろうが貴族だろうが王族だろうが関係なくね。──物理的に粉々になりたくなかったら、私のことは放っておいてくれる?」


「…………………ハイ……」



 ジークフリードがガクガクと頷いた。


《うわー、やったか》

《砕くんじゃなくて川にぶん投げればよかったのに。この破片、どうするのよ》


 ルーンが平然と砂の山の匂いを嗅ぎ、サラは突っ込みを入れて来る。

 まあ正直勢いでやったのは否定しない。でも、ぶん投げるにしてもサイズが大きすぎて持てそうになかったんだよね。


「そこはそれ、関所の兵士さん方の出番ってことで」


 砕いてあれば、手間は掛かるけど運ぶのには苦労しないはずだ。箒とちりとりで何とかしてもらおう。

 私はそう思ったんだけど、ルーンに溜息をつかれた。


《わざわざ仕事増やしてやるなよ》


 マグダレナが苦笑いを零す。


「貴女らしいですね…。──とりあえず冒険者ギルドとしては、今回の件は当事者同士で解決したと処理しましょう。ライオネル殿下、ユライト王国側の対応はお任せしますね」

「承知しました、師匠」


 ライオネルが笑顔で請け負った。





 ──ちなみに。


 この軍事侵攻紛いの一件により、後に小王国はユライト王国から多額の賠償金を請求され──とても払える金額じゃないと渋った結果、賠償金を払う代わりに、城の関係者全員がマグダレナ謹製の『魅了状態を解除するとても苦いお薬』を飲まされる羽目になったらしい。


 『カリスマ』の影響を受けていなかったはずの国王も、『息子の監督不行き届きなんだからお前も飲め』と強制的に飲まされた。


 その結果、城全体が3日ほど機能不全に陥ったそうだ。


 閑話休題。









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