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202 拘束魔法


 しかしどうして突然、スキル『カリスマ』が働かなくなったのか。


 視線を巡らせると、未だ怒りをあらわにしているサラが目に入った。ジークフリードを吹っ飛ばした飛び蹴りは、大変見事だった──


(……あ、もしかして)


 ある可能性に思い至り、私はギルド長に声を掛ける。ギルド長はすぐにこちらを向いた。


「なんだ?」

「ええとね──サラに鑑定魔法を使ってみてくれない?」

「? …まあ良いが…サラ、構わないか?」

《別に良いわよ》


 サラの了承を受けて、ギルド長が鑑定魔法を展開する。

 現れたパネルの文字を追い、一番下に行き着いたところで、ギルド長の眉間にシワが寄った。


「………おい、『スキル『キャンセラー』(使用済み)』とか出てるんだが」

《え?》

「あ、やっぱり?」


 予想通りの答えに頷く私に対して、サラは首を傾げている。自覚はなかったらしい。


 『キャンセラー』──相手のスキルを消し飛ばす、非常に特殊なスキルだ。使えるのは一度きりだけど、どんなスキルでも文字通り『キャンセル』出来る。

 キャンセルされたスキルは、二度と使うことが出来ない。


「多分さっきの飛び蹴りでサラのスキル『キャンセラー』が発動して、『カリスマ』をキャンセルしたんじゃないかな」

「飛び蹴りで発動…」

「もしくは、ブチ切れたのが切っ掛けかも知れないけど」

「有り得るな…」


 私が説明すると、エルドレッドはドン引きして、ギルド長は納得の表情を浮かべる。

 サラは不思議そうに自分の前脚を見下ろした。


《…私にそんなスキルがあったなんて》

《すごい巡り合わせだな》


 ルーンが面白そうな顔で近付いて来た。まだぐずぐず泣いているジークフリードと、それを囲んでこちらを睨み付けている取り巻きたちを見回す。


《──んで、スキルが無効化されたところで、ジークフリードに心酔してるやつらはそのまんまなわけだけど、どーすんだ? これ》


 ルーンに指摘されて、少し考える。


 マグダレナが魅了状態を解除する薬を持ってるけど、この連中、飲めと言われて素直に飲むような状態じゃなさそうだ。


 ならば。


「…」


 私が近付くと、アレクシスとケネスと騎士たちは警戒した様子で後退った。

 …さり気なくジークフリードが置き去りになっている。良いのかそれ。


(まあ、私にはむしろ都合が良いけど)


 私はジークフリードの横に立ち、睨んで来る騎士たちに向けて笑顔で左腕を振り下ろした。



「──『バインド』!」


『!?』



 ビタン!と音を立てて、アレクシスとケネスと周囲の騎士たちが地面に転がった。

 突っ伏したり仰向けだったり横向きだったり色々だけど、姿勢はみんな、手足をビシッと揃えた所謂『直立不動』の状態だ。

 愕然とした顔でも抵抗しようとしてるのも居るけど、モゾモゾするだけでまともに動けてはいない。


「おお」


 初めて自分で魔法らしい魔法を使った。

 ちょっと感動している私をよそに、ギルド長とエルドレッドはドン引きしている。


「うっわ…」

「何してんだお前…」

「何って、下準備」

「下準備?」


 エルドレッドの疑問には答えず、私は周囲を見渡す。

 ジークフリード以外の目の前の連中は拘束したけど、少し離れた所に居るやつらは突っ立ったままだ。


 さて。


「残りは…サラ」

《ええ。──マーキュリー!》


 打てば響く。


 サラの念話が響いた直後、橋の欄干の向こうの水面が山のように膨れ上がった。



『!?!?』



 巨大な水塊──川の水で巨大化したマーキュリーが丸太のような腕を振るい、残る騎士たちを腕やら胴体やらに呑み込んで行く。

 交錯する怒号や悲鳴が半ばで途切れてどんどん静かになっていくさまは、ちょっとしたホラー映画のようだ。


「あ、ちゃんと頭は出しといてね、窒息しないように」

《分かってるわよ、任せて頂戴》

「……お前ら怖すぎだろ」

「褒め言葉だね」


 そんな会話を繰り広げているうちに、拘束魔法を免れた騎士たちは全員、マーキュリーの体に格納された。水で出来た胴体から人間の頭がいくつも突き出しているのがとてもシュールだ。


「よし!」

《うっわー、悪趣味》


 石畳に転がる連中とマーキュリーに格納された連中を眺め、腰に手を当てて頷いていると、ルーンが茶々を入れて来た。


 悪趣味でも何でも良いんだ。後が楽なら。


「さてそれじゃあ──マグダレナ様、ライオネル殿下」


 岩の向こうに声を掛けると、すぐに2人が歩いて来る。



「え…!?」



 一人だけ拘束されないままへたり込んでいたジークフリードが、驚愕に目を見開いた。

 石畳に転がるケネスとアレクシスも、愕然とした顔でマグダレナたちを見上げる。


 それを綺麗に無視して、マグダレナが私に笑顔を向けた。


「何とかなったようですね」

「はい、お陰さまで。──で、マグダレナ様」

「なんでしょう」

「例の『魅了状態を解除する薬』、いただいても良いですか? 連中に飲ませるので」

「ええ、勿論です」


 マグダレナがポーチから瓶を取り出し、石畳の上に並べる。

 一升瓶くらいの大きな瓶が、1本、2本、3…


「ちょっと待ってください、何本あるんですか!?」

「とりあえず10本ほど持って来ました」

《なあそれ、何人分だ?》

「ざっと500人分ほどでしょうか」


 ルーンの問いにさらりと答え、研究棟に戻ればもっとありますよ、と楽しそうに付け足す。


「大体一口で効果がありますが、魅了が深いと思われる場合はコップ1杯分ほど飲ませてください。過剰に飲む分には問題ありません」

「分かりました」


 暗に『たっぷり飲ませてやれ』って言われてる気がする。


 私が頷くと、マグダレナはジークフリードに向き直った。


「お久しぶりですね、ジークフリード殿下」

「ま、マグダレナ…様」


 ジークフリードがひくっと喉を鳴らした。友好国のトップに近い人間同士、当然ながら知り合いらしい。

 ジークフリードの方は明らかにビビってるけど。


「私が目を掛けている『冒険者のユウ』に、軽はずみな言動で随分と迷惑を掛けてくださったようで。権力者の発言には多大な影響力があると同時に相応の責任が伴うのだ、と何度も申し上げたはずですが」

「え、ええと…」


 あからさまに目が泳いでいる。


 それにしても、マグダレナみたいな美少女(見た目)に真顔で『私が目を掛けている』とか言われると、何かちょっとくすぐったい。照れる。


《…ユウ、今、わりと真面目な場面だぞ》

「うむ」


 ルーンに突っ込まれて、スン、と表情を整える。


 こちらを見ていたライオネルが小さく笑った後、スッと笑みを薄くしてマグダレナの横に並んだ。


「ジークフリード殿下。此度の一件、ユライト王国王太子としても、ユウさんの後ろ盾としても、到底看過できません。いかがなさるおつもりですか?」

「えっ…」


 ジークフリードが呆けた表情でライオネルを見上げた。


「……後ろ盾?」

「ええ」


 ライオネルは深く頷き、


「我が国の冒険者ギルド支部に長期遠征中に、歴代最速で昇格した特級冒険者です。私が後援するのには十分でしょう。──本人が全く望んでいないことを要求されて困っている、とも聞いていましたし」

「…!」


 スッと目を細められ、ジークフリードが青くなった。ライオネルはさらに畳み掛ける。


「そもそも、事前の許可もなく完全武装の騎士を率いて国境を越えようとするなど…。話は一通り聞かせていただきましたが、エルドレッド殿下の言う通り、これは軍事侵攻と取られてもおかしくない所業です。何を考えているのですか」

「そ、それはその…」


 ジークフリードは完全にしどろもどろになっている。

 エルドレッドが指摘した時はアレクシスが暴走して有耶無耶になってたけど、今は口を挟める者が居ない。

 ライオネルが小さく溜息をついてマグダレナを見遣ると、マグダレナが頷いた。


「──では、ジークフリード殿下にはこちらに来ていただきましょうか。何故騎士団を率いて国境にやって来たのか、じっくりと言い訳を聞きましょう」

「そうですね、じっくりと、納得できるまで話し合いましょうか」


 マグダレナとライオネル、ヤバい師弟がそっくりな笑みを浮かべてジークフリードを見詰める。


「え…」


 ジークフリードは助けを求めるように周囲を見渡すが、味方と呼べる人間は石畳に転がっているか水塊に埋まっているかのどちらかだ。


「カルヴィン、貴方も同席してください。今回一番迷惑を被ったのは、ユウと小王国支部でしょうから」

「承知しました」


 ギルド長が頷いて、ガシッとジークフリードの首根っこを掴んだ。


「ほら行くぞ。さっさと来い」

「待っ…引っ張らないでー!」


 ギルド長にずるずると引きずられて、ジークフリードがユライト王国側の関所に連行されて行く。


「ではユウ、薬はお任せしますね」

「はい」


 とてもイイ笑顔を残して、マグダレナとライオネルもそれに続いた。








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