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188 特級冒険者の初仕事


 マグダレナから依頼──と言うか指示があった直後、スピリタスがやって来て3体に分裂し、私とギルド長とマグダレナ、そしてルーンとサラはその背に飛び乗って現場へと出発した。


 それを見ていたユライト王国中央支部の面々が唖然としていたのは言うまでもない。



 ──さて。



 ゴーレム系最上位種。そんなものが何で川に出現したのか。


 実はユライト湖の西半分は、小王国のある東岸と違って結構な深さがあり、大型魔物の巣窟になっているらしい。


「魔物が湖の中に留まっているなら良いのですが、たまに下流の川に進出して来る個体が居ます。その川沿いに王都があるので、放置は出来ないというわけです」

「なるほど。…もしかして、特級冒険者が基本、本部所属になるのって…」

「ええ。その大型魔物に対処するため、というのが大きな理由です」


 スピリタスに乗って飛びながら、マグダレナが解説する。


「今回出現したのは、ゴーレム系最上位種、アクアゴーレムの大型個体が複数。報告では3体居るようです」

「アクアゴーレム?」


 私が首を傾げると、ルーンが解説してくれる。


《体全体が水でできたゴーレムだ。体内の何処かに無色透明の核──『コア』があって、それを破壊しないと倒せない。スライムと違って中身が溶解液ってわけじゃないが、水なんで斬撃や打撃はほぼ無効化される。基本的には、火魔法で体を蒸発させるのが一番簡単な討伐方法だな。体がバカでかい上に魔法耐性もある程度あるんで、かなり高火力じゃないと効かないんだが》


 斬撃・打撃無効。

 無慈悲な言葉に、私は思わず渋面になった。


「…それ私には一番相性悪いんじゃ…」

「そうだろうな」


 ギルド長が頷いて、ちらりとマグダレナを見遣る。マグダレナは思わせぶりな態度で笑みを浮かべた。


「皆に実力を見せるのに、丁度いい相手だと思いませんか?」

「なんという無茶振り」

「ですが、対処方法の一つや二つ、既に思い付いているでしょう?」


 指摘されて言葉に詰まる。理解されてるのが嬉しいような、思考を読まれてるようで落ち着かないような。


「……まあ、何個かは」


 私は渋々頷いて、ギルド長に視線を移した。


 依頼を受けたのは私だけど私一人で何とかしろとは言われていないので、ギルド長もルーンもサラも、戦力に数えて問題ないはずだ。マグダレナは『見届け役』らしいから除外。


「アクアゴーレムは体が水で出来てるって話だけど…ギルド長、相手を直接凍らせることって出来る?」


 物理攻撃が効かないなら、物理攻撃が効く状態にしてやればいい。

 水を殴っても飛沫がはねるだけだけど、氷を殴れば砕ける。コアがある位置を凍らせて打撃を加えれば、コアごと破壊出来るんじゃないだろうか。


「あ? あー、凍れる吐息(フリーズ・ブリーズ)なら行けると思うが…」


 と、ギルド長が不意に前方を見遣る。顔を引き攣らせて、補足。


「……一度につき1体、体の一部分が限度だな…」


 視線の先、結構大きな川の中に、小山のような巨体が3体、佇んでいた。


 上空から見る限り、質感はスライムに似ている。辛うじて手足っぽいものがついた、直立歩行する水の塊。

 なるほど、これは『アクアゴーレム』としか表現のしようがない。


 ただし、サイズは普通のゴーレムとは段違いだ。

 デカい。多分、高さは4階建ての建物くらいある。


(怪獣大決戦かな)


 近付いて行くと、アクアゴーレムの中に水とは違うものが浮かんでいるのが目に入った。


 大小様々な石に透明感のある魔石っぽいもの、水草に魚。魚に至ってはゴーレムの体の中で平然と泳いでいる。体の中に取り込んだからって、栄養にするわけじゃないらしい。


 そこでふと、嫌なことに思い至った。


「…ねえ。アクアゴーレムって、コアが本体で、体の部分はそこら辺にある水でその都度作ってる、とか言わないよね?」

「どう思いますか?」


 マグダレナが思わせぶりな態度で訊き返してくる。


 …どうも何も、今目の前で、ゴーレムの足元を泳いでた魚が胴体まで吸い込まれてったんたけど。


「じゃあ水の中に居る限り、ほぼ無敵ってこと!?」


 仮に火魔法で多少蒸発させられても、近くに水があれば損失分は簡単に補填できる。ただのマッチポンプだ。

 私が叫んだら、ルーンが遠い目をして応じた。


《だから言ったろ、『コアを破壊しないと倒せない』って》

「それにしたってシビア過ぎない!?」

《まあ気持ちは分かる》


 ルーンは頷いて、アクアゴーレムの群れを見詰めた。


《……コアの位置は、みんなバラバラっぽいな…しかも体の中で動いてる》

「ルーン、分かるの?」

《ユウにも分かるんじゃないか? コアは他の部分と比べて魔素濃度が飛び抜けて高いみたいだからな。多分、禁足地の『嫌な気配』と同じ感じがするはずだ》

「え…」


 思わぬことを言われて、私も改めてアクアゴーレムを観察する。


 一番近い1体に意識を集中すると、確かに右肩のあたりに嫌な気配を感じた。それが、人間で言う肩甲骨のあたりを経由して、左肩に移って行く。


「…今、一番近いヤツのコアは、右肩から左肩に移動した?」

《当たり。やっぱり分かるみたいだな》


 ルーンがヒゲをピンと立てる。


「…ダメだ、オレにはさっぱり分からん」


 ギルド長が眉間にシワを寄せて匙を投げた。マグダレナが苦笑する。


「魔素の気配を感知できるかどうかは個人の資質によります。分からないのが普通ですよ」


 …何か『ユウは普通じゃないから仕方ない』って言外に言われてる気がする。…いや、気にしたら負けだ。


(今は目の前に集中)


 スピリタスは飛び続けているので、アクアゴーレムはどんどん近付いている。まだこちらを敵認定はしてないみたいだけど、安心は出来ない。


《…コアの位置、私も分かるみたいだわ》


 黙ってアクアゴーレムを観察していたサラが呟いた。


《気配じゃなくて、水の流れが他と違うから分かるんだけど》

「あ、なるほど」


 サラは水精霊だ。遠くからでも水の流れを感知できるんだろう。

 そこで、もう一つの策を思い付く。


「もしかしてサラ、アクアゴーレムのコアから水だけ引っ剥がすとか出来たりしない?」


 私が訊くと、サラは片耳を倒した。


《…どうかしら。あっちが水を操作する力を私が上回れば出来るかも知れないけど…魔力が足りない気がするわ》

「私の魔力も使っても?」


 私とサラは契約しているので、有り余っている私の魔力をサラに受け渡すことが出来る。サラがピクッと尻尾を動かした。


《…それならいけるかも》

「じゃあ、それプランBね。まずはギルド長に凍らせてもらって私が叩く。それが通用しなかったらサラの出番」

《分かったわ》

《それなら俺はカルヴィンの方に行くぜ。コアの位置が分からなきゃ、どこを凍らせたら良いのか分からないもんな》

「うん、よろしく」


 スピリタス同士が接近したところで、ルーンが器用にギルド長の方へ飛び移る。


 そこに、



「ちょおおおっと待ったー!!」



 大変騒がしい羽虫──もとい、ティル・ナ・ノーグが飛んで来た。







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