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185 数字の表記は正確にした方が良いと思うの。


「これなら大丈夫だろう。思いっ切りぶん殴りな」


 ハウンドがそれはそれはイイ笑顔で親指を立てる。何か私以上に腹を立ててそうな、凄みのある笑顔だ。


(……あの藤色の髪のやつと何かあったんだろうか)


 遠巻きに集まったギャラリーの中、一番険のある顔でこちらを睨み付けている冒険者をちらりと見遣る。


 先程のやり取りを見る限り、良く言えば自信に溢れた、悪く言えば向こう見ずで自信過剰な青年だ。

 もしかしてああして、事あるごとにベテランに突っ掛かってトラブルを起こしてるとか? 見ず知らずの私にまで難癖付けて来るくらいだし。


 ──ならば、全力で期待に応えよう。


「了解」


 ハウンドににやりと笑って同じ動作で応え、私は金色に輝く力量測定器の前に進み出た。


「使用方法は分かりますか?」


 職員に訊かれたので、一応確認しておく。


「…この黒っぽいところを殴るか蹴るかすれば良いんですよね?」


 ミスリル製のものは攻撃する部分が木の板だったが、このオリハルコン製のものの側面には木の代わりに黒っぽい皮のようなものがついている。しかも一面にじゃなくて、膝くらいの高さから肩くらいの高さまで、ぐるっと一周。

 職員は一つ頷いた。


「黒い部分であればどこを攻撃していただいても構いません。ただし、相当重くて硬いので、強く攻撃し過ぎて自分の手足を壊さないようにご注意ください」


 実際それで怪我した人も居るんだろう。職員の顔は真剣そのものだった。


「分かりました」


 私が頷くと、職員はすぐにその場を離れた。


 ギルド長が声を掛けて来る。


「壊すなよ」

「いや壊せないでしょ、普通。……壊れないよね?」


 あまりにも当たり前の顔で忠告して来るので急に不安になってきた。

 首を傾げたら、私の肩から飛び降りたサラが呆れた目でこちらを見上げる。


《ギルドマスターがスキルの試し撃ちに使って壊れてないってことは、よっぽどのことがない限り壊れないんでしょ》

《まあ…それを信じるしかないよな…》


 同じく肩から飛び降り、こちらから距離を取るルーンが若干遠い目をしてるのがとても気になる。


(…万が一壊れたら、マグダレナ様に泣きつこう…)


 心に決めて、とりあえず一番得意なアッパー寄り右ストレートの構えを取る。


 瞬間、周囲のざわめきが遠くなった。自分が集中しているからか、それともみんなが黙っているからなのか、よく分からないが好都合。


 ──さて。


 想像するのは先の一戦。

 小王国の魔物大量発生事件で初代愛武器を犠牲に超大型ゴーレムを倒した後の大混戦。


 あの時私はルーンに身体強化魔法を重ね掛けしてもらい、あらゆる魔物を拳で砕き貫いて回った。その感覚を思い出し──


 軸足の踵、踏み出す爪先、足元から来る力を腰から胴体に伝播、腰のひねりと肩の動き、伸ばす肘の勢い全てに乗せて、



「ふっ──!」



 斜め下からやや上に向かって貫く衝撃を、黒い部分のド真ん中に叩き込む!



 ──ズドン!!



 金属をぶん殴ったとは思えない重い音と共に、オリハルコンの塊が宙を舞った。


 …あっ。


「っ!?」


 飛んだ先に佇んでいたギャラリーが真っ青になって逃げ出した直後、ズシャア!と凄まじい音を立てて測定器が着地する。


 その勢いのまま盛大に地面を抉った測定器は、着地地点からさらに3メートル程先で、地面にめり込み変に傾いたまま止まった。

 その側面──多分私がぶん殴った位置は、何かの冗談じゃないかってくらい綺麗に、拳の形に凹んでいる。



『……………』



 地獄のような沈黙が落ちる中、私は思わず呻いた。


「…わあ…」

《壊れたか?》

《壊れたんじゃないかしら》


 とても冷静なルーンとサラの念話が、妙に大きく聞こえる。

 ギルド長が静かに天を仰いだ。


「……だから、お前は、壊すなとあれほど」


「大丈夫です、壊れてはいませんよ」

『!?』


 背後から声が響いて、私はビクッと肩を揺らして振り返る。

 木の塀の切れ目から、銀髪の美少女(見た目)が入って来るところだった。


「マグダレナ様!」


 私が名を呼ぶと、マグダレナはにっこりと笑みを浮かべる。いつもの、こう…ちょっと背筋を伸ばしたくなる方の、それはそれは整った笑顔だ。


「面白いことをしていますね」

『っ!?』


 マグダレナがこちらに歩み寄りながら落ち着いた所作で周囲を見渡す。視線を受けたギャラリーが次々顔を引き攣らせ、青くなり、後退る。


 本部に隣接しているから、みんなマグダレナの姿を知っているらしい。──多分姿以外についても、色々と。


「マグダレナ様、壊れてないってホントですか?」


 私が訊くと、マグダレナは周囲を笑顔で睥睨するのをやめ、こちらに顔を向けて頷いた。

 マグダレナの背後で数人があからさまにホッとした表情になっているのは見なかったことにする。


「ええ。オリハルコン製の力量測定器はかなり頑丈ですし、歪んだり凹んだりしても魔力を注げば元の形に戻ります」

「えっ、そんな機能あるんですか」

「ギルドマスターが、スキルの試し撃ちでやらかしたことがありまして…その後改良されました」


 あ、なるほど。


 そっと目を逸らすマグダレナに、色々と察する。サブマスターも大変だ。


「ユウ、こちらへ。結果が出ているはずです」

「はい」


 マグダレナに促されて、ルーンとサラ、ギルド長と一緒に傾いだままのオリハルコンの塊に近付く。

 付近に立っていた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「力量測定器は基本的に数値で結果が出ますが、オリハルコン製のこちらは、ミスリル製より測定上限が高い分、結果の表示はかなり大雑把です。──この、装置の上部に数字が表示されているはずです」


 錫杖で場所を指し示してくれてるけど、私の身長だと丁度見えない位置だ。私が渋面になっていると、ギルド長が軽く身を乗り出して確認する。


「…28、と出てますね」

(年齢かな)


 ギルド長が報告すると、周囲から拍子抜けしたような声が漏れた。


「なんだ、その程度かよ」

「吹っ飛んだのは何かの間違いか?」

「まああのナリじゃなあ…」


 妙な雰囲気になる中、マグダレナが笑顔で頷く。



「おおよそ2800点、ですね。ユウの計測値としては妥当なところでしょう」



 瞬間、空気が凍り──



『………はあああああ!?!?』



 数秒後、すごい騒ぎになった。










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