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181 土下座再び


 その後一息ついた私たちは、改めて魔法を込めた魔石について話し合う。


 ちなみに助手だという女性が紅茶を出してくれたのだが、ティルの分はミニチュアのような金属のカップ、他の面々の分はビーカーで出て来た。…何も言うまい。


「んで、魔石を作る対価は?」


 ティルが当たり前の顔で切り出すと、マグダレナが顔を顰めた。


「ティル、がめついですよ」

「俺は『魔物研究班班長』としてここに居るんだ。錬金術師として対価を要求するのは当たり前ってやつだ」


 本業がギルドの職員、副業が錬金術師みたいな感じだろうか。それなら納得は出来るけど、


「私そんなにお金持ってないよ」

「金じゃなくて良いんだよ。つーか俺も金は要らん。どうせ使う機会もないし、有り余ってる」


 さらりと言う。くそ、お大尽め。


 じゃあ何が欲しいのかと聞いたら、ティルは目を輝かせた。


「今一番欲しいのは『未明の地』の魔物の死体だな! あそこのは既存種に見えても全然違ったりするんだよ! 魔石が入ってりゃ言うことはない!」

「どんな無茶振りだ」


 ギルド長が渋面を作る。どうやらギルド長も、ティルに畏まった態度を取るのをやめたらしい。…まあこの見た目と言動で敬意を払えって言われても困るよね。本人も気にしてないっぽいし。


 しかし、『未明の地』の魔物とはまた無理な要求だ。いや、無理だと分かってて言ってるのか。


(あ、でも)


 私はウエストポーチを漁り、地下道で回収した魔物の魔石を取り出した。


「未明の地のじゃないけど、魔物の魔石ならあるよ」

「マジか!」

「お前いつの間に」

「例の地下道で倒した魔物の中にあった」


 ギルド長の疑問に答えつつ、ローテーブルの上に3つの魔石を置く。


 野球ボールくらいの薄い緋色の魔石と、ビー玉くらいの濃い緋色の魔石、そして小さな立方体の水色の魔石。全て、レディ・マーブルが石化させた魔物の死体から採れたものだ。改めて見ても綺麗だな。


 すると──何故か3人がピシッと固まった。


「…ん?」


 マグダレナは魔石を凝視したまま動きを止め、ギルド長は顔を引き攣らせ、ティルは──


「な、な、な、…」


 目を剥いて意味のない言葉を呟いた後、ソファーから文字通り飛び上がった。



「なんじゃこりゃー!?」

「魔物の魔石だけど」

「そうだけど違う!」



 ギュルンと横回転した後、ティルは至近距離で私の鼻に指を突き付けた。


「なんでこんなに形が整ってるんだよ! 普通もっと不定形だし色も濁ってるはずだぞ!」

「あ、そうなんだ。じゃあ要らない?」

「要る! 神様母樹様勇者様ー!」


 ティルのテンションがおかしい。怒鳴ったと思ったら、いきなりバッタのように飛び跳ねてソファーの上で土下座を始める。


「それ全部俺にくれ! この通り!」


 うーん、デジャブ。ベニトといい、最近土下座されることが多いなあ。


「…なんでそんなに冷静なんだよ!」


 小首を傾げてその光景を眺めていたら、ティルがまた怒り出した。


「あーごめん、なんか見慣れちゃって」

「土下座を見慣れるってどういう状況だよ!?」

《ユウだからな》

《ユウだもの》


 ルーンとサラもどこか冷めている。マグダレナが溜息をついた。


「ティル。それでは、その魔石を対価に依頼を受ける、ということでよろしいですか?」

「やる! やらせてくれ!」


 ティルが食い気味に頷いて、交渉が成立する。


 大層上機嫌になったティルは、またソファーの上でふんぞり返った。


「で、依頼は『隠蔽魔法を込めた魔石の合成』だったか。隠すのは腕輪だけだな?」

「そう。あんまり目立ちたくなくて」

「また珍しい理由だなあ…特級冒険者なんて目立ってなんぼだろうに」

「それは人によると思う」


 共感は得られそうにないので、人それぞれだと強調しておく。そんなもんか、と頷いたティルは、顎に手を当てて考え始める。


「発動は任意で継続型──いや、逆に常時発動型にして任意で一時的に切れるようにした方が楽か。隠しておきたいんだもんな」

「素材の魔石は足りそうですか?」

「そんなもん、この一番小さい魔石だけで足りる」


 ティルがテーブルの上の水色の魔石を示して言う。


「魔物由来の魔石って、何にも利用出来ないんじゃないの?」


 この魔石を拾った時にルーンから詳しい説明を受けたけど、魔物由来の魔石はコレクターが飾って悦に入るくらいしか使い道がなかったはずだ。私がそう言うと、ティルは得意気に胸を張った。


「普通はそうだけどな。この俺に掛かれば、どんな魔石だって素材に出来る。何せ、この大陸で一番の錬金術師だからな」


 すごい自信だ。一周回って感心していると、マグダレナが眉を寄せた。


「腕が良いのは確かですが、この魔石を素材として使えるのは、魔石自体の品質が異様に高いからでしょう」

「うっ」

「それから、貴方の師を差し置いて『大陸で一番』を名乗るのは少々早計かと思いますよ」

「真顔で言うな! 良いじゃんか、少しくらい夢見たって!」


 ティルが泣きそうな顔で叫んだ。

 なるほど、自信満々な妖精族だけど、師匠には敵わないという認識はあるらしい。可哀想なような、面白いような。


 それにしても、


「この魔石って、そんなに特殊なんですか?」

「ええ。詳しく調べてみないと分かりませんが、含有魔力量もかなり高いようです」

「俺もこんな魔石は見たことないぞ」


 マグダレナだけでなく、ギルド長も頷いた。


 普通の魔物由来の魔石はゴツゴツした不定形で、色も中途半端な赤褐色系のマーブル模様だったり、泥みたいな茶色混じりの灰色だったりと、そもそもそんなに綺麗じゃないらしい。

 透明感もないのが普通で、透かしてみたら何となく向こうの明かりが見える、というレベルの半透明でレア物になるそうだ。


 …はて。


「…じゃあ全部ガッツリ透明で形も整ってて滅茶苦茶綺麗なコレは」

「魔物から採れる魔石としては、間違いなく最高品質でしょうね」

「どこで採ったかバレたら冒険者が殺到するだろうな」

「つーか俺も採りに行きたい」

「ダメですよティル。仕事が優先です」

「どんな魔物から採れるのか確認するのも仕事の一環だろ!?」

「貴方の場合、長期滞在の挙げ句そこに住み始めそうなのでダメです」

「…この鬼ー! 悪魔ー!」

「褒め言葉ですね」


 ティルが叫び、マグダレナがさらりと受け流す。


 しかし、そんなに希少なのか…。私は思わず恨みがましい目でルーンを見遣る。


「…ルーン、そんなこと一言も言ってなかったよね?」

《人間社会での価値なんてケットシーにはあんまり関係ないからな》


 …くそう、正論で逃げおって。








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