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179 冒険者ギルド本部


 地下道を20分ほど歩いた後、狭い階段を上がる。


 これまた細い扉を開けた先は、木の板のようなもので塞がっていた。マグダレナが錫杖でコンコンとノックすると、すぐにその板が動く。


「よう、お早いお帰りだな」

「只今戻りました」


 マグダレナが親しげに挨拶した相手は、褐色肌の大男だった。


 木の板だと思ったのは、本棚の背板。そして大男が立っているのは、何だか『執務室』っぽい部屋だった。

 大男の背後には、彫刻が施された大きな机。その右手にはソファーとローテーブルの応接セット。さらにその右側には両開きの重厚な扉がある。私たちが入って来た側の壁は、一面本棚だった。その一部が扉のように動いていた、というわけだ。


「おお…すごい」


 こういうのは結構──いや、かなり好きだ。私が目を輝かせて本棚のフリをした扉を見ていると、大男が豪快に笑った。


「そうだろそうだろ。とっておきの『秘密の通路』だ」


 身長はエルドレッドとタメが張れるくらい、筋肉はそれ以上。明るい色の髪で年齢が分かり難いけど、緑色の目の横に小さなシワが見えるから、50代くらいだろうか。


「冒険者ギルド本部へようこそ。俺はギルドマスターのフォルクだ。よろしくな!」


 ニカッと笑うと、体格のわりに親しみのある雰囲気になる。


 まさかいきなりトップが出て来るとは…ちょっと驚いたけど、城に着陸した時ほどの衝撃はないな。変に慣れるのも問題だ。


「小王国支部所属のユウです。よろしくお願いします」


 気を取り直して挨拶する。

 握手を交わす手はゴツゴツしていた。どちらかというと、剣士のエルドレッドやサイラスよりも拳闘士のハウンドに似た感触だ。でも、一体何の使い手なのか分からない。


 あと、気になることがもう一つ。


「……ここもしかして、ギルドマスターの執務室ですか?」

「ああ、そうだ。…なんだ、知らずにマグダレナについて来たのか?」

「スピリタスが城に直接降りた時点で一杯一杯だったので」


 予想通りの答えが返って来て、内心脱力しながら答える。こんなルートでギルド本部に初めて入った冒険者、後にも先にも私くらいしか居ないんじゃないだろうか。


 フォルクが豪快に笑った。


「ははは、意外なルートだったろ!? だがまあ心配すんな、陛下は了承済みだ」


 その言葉に、ギルド長が顔を引き攣らせる。


「ギルマス、ユライト王家にどんな無茶振りしてんですか!?」

「なんだカルヴィン、久しぶりだっつーのにご挨拶だな」


 2人は知り合いらしい。…まあギルド長はギルド長だし、上司と面識がないのもおかしいか。


「どうせ明日も同じルートで()()()()()()()()んだ、一度も二度も変わりゃしねぇよ」

「……ハイ?」


 今この人なんつった?

 思わず声が裏返る。マグダレナがそっと目を逸らした。


「…明日、陛下ならびにライオネル殿下と打ち合わせを行います。非公式の場ですから、そのままの服装で構いませんし準備も必要ありません」

「いや、心の準備は必要ですからね!?」


 力一杯突っ込むも、マグダレナは頑なに目を合わせようとしない。ネコか。


 フォルクがまたカラリと笑い、こっちに来い、と全員をソファに座らせる。そして、執務机の上に置いてあった書類を手に取った。


「今後の流れも理解したところで、さっさと仕事を済ませるぞ」


 書類は、縁取りに銀色の箔押しが施された、いかにも高級そうな紙だった。フォルクがそれをローテーブルに載せ、読み上げる。


「冒険者ギルド小王国支部所属、Aランク冒険者、ユウ。その活躍と功績を認め、本日付けでSランク冒険者に昇格とする。なお、所属は従来のまま、小王国支部とする──良いな?」


 本部所属になるのかと思ったら、小王国支部のままで良いらしい。私は素直に頷いた。


「承知しました、それで大丈夫です」

「なら、ここにサインを」


 マグダレナが金色のペンを差し出す。それを受け取って書類の下の方にサインすると、今度はギルド長、そしてマグダレナが続く。

 最後にフォルクがサインすると、書類の箔押しが銀色から金色に変わった。どうやら、紙自体が特殊なものらしい。こういうのは初めてだ。


 何か滅茶苦茶あっさりしてるけど…どうやらこれで、私はSランク──特級冒険者になったらしい。


(感動も何もあったもんじゃないな…)


 紙はマグダレナの手に渡り、執務机の上の、細かい装飾が施された金属の箱に収められる。カチリと音を立てて鍵が掛かると、マグダレナはその隣に置いてあった腕輪のようなものを手に戻って来た。


「ではユウ、これを腕に着けてください。右でも左でも構いません」

「これは?」

「特級冒険者の身分証のようなものです」


 僅かに青みを帯びた銀色の、幅広の腕輪…のようなもの。腕輪にしては径が大きくて、手を開いていてもそのまますっぽ抜けそうだ。内側はツルンとした質感で、外側にはものすごく細かい紋様が彫られている。所々に何かを嵌められそうな窪みがあって、そのうちの一つには深い青色の石が象嵌されていた。


 …これ多分、ものすごく高い。ちょっとドキドキしながら左腕に通すと、シュンと音を立てて腕輪が縮まり、手首にぴたりとはまった。


「うわ」

「…魔法道具か」


 ギルド長が興味深そうに覗き込んでくる。マグダレナが頷いた。


「いざという時に装着者の身を守る、結界魔法を込めてあります」


 それは大変ありがたい。私が感心していると、ルーンが腕輪をちょいちょいとつつきながら渋面を作った。


《あとこれ、探知系の魔法も入ってるだろ。んで、こっちは発信……ああ、ギルド本部でユウの居場所が分かるようにか》

「えっ」

「よく分かりましたね、その通りです」


 まさかの発信器付き。ルーンに指摘されても、マグダレナは全く悪びれる様子がない。


「特級冒険者は本来、本部に所属することになります。活動範囲は『世界中どこでも』。ですので、安否を確認するために居場所を知らせる機能の付いた腕輪を装着してもらうのですよ。これは貴女に限った話ではなく、特級冒険者全員の義務のようなものです」


 発信機能は腕輪自体に備わっていて、動力は装着者の魔力。極めて微弱な魔力でも動くので、本人が生きている限りは機能するそうだ。

 特級冒険者は貴重な人材なんだろうし、理屈は分かるけど…。


《…希少動物に発信器付けて監視するみたいな感じかしら》

「野生動物扱いするんじゃありません」


 サラの呟きに思わず突っ込む。

 いや正直、私もそう思ったけど。クジラとかと同じ扱いだよね、これ。


 ちなみにこの腕輪、外すことは可能だが、装着することは本人以外には不可能。先程の『サイズが変わってフィットする』機能は、最初に装着して魔力を登録した人間以外には働かないそうだ。

 デザインは基本的に共通で、各国のお偉方やギルドの幹部クラスにはこの腕輪の見た目が知れ渡っているため、身分証の代わりにもなるらしい。


「何か困った時は、その腕輪を見せると良いでしょう。大抵は何とかなります」

「…じゃあこの腕輪を隠しておきたい時はどうしたら良いですか?」


 私が訊いたら、おいおい、とフォルクが片眉を上げた。


「身分証なのに隠してどうする」

「身分をひけらかす必要もないと思いますけどね」


 言いつつ、ちらりとギルド長を見遣る。

 ギルド長は小王国の『王子様』だけど、本人は基本的に公言しないし、周囲の人間も吹聴したりはしない。私も必要な相手には──それこそどこぞのダメ王太子とその取り巻きには身分を振りかざすのも辞さないけど、『私、特級冒険者だから!』とか宣伝したいわけじゃないのだ。


 フォルクが釣られてギルド長を見て、ああ、と呻いた。


「…まあ、そうだな…」


 フォルクの思わせ振りな視線を受けて、マグダレナが頷く。


「では、隠蔽の魔法を追加しましょうか」

「追加?」

「腕輪にいくつか窪みがあるでしょう? そこに魔法を込めた特殊な魔石を嵌め込むと、その魔法を発動できるようになります。先程言った結界魔法は自動展開型ですが、その青い魔石に込めてあるのですよ」







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