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176 対策会議


 マグダレナから見て左側、ギルド長の対面に座る。私の両隣にルーンとサラが陣取ると、ギルド長は改めてサラをまじまじと見た。


「…話には聞いてたが、本当にケットシーにしか見えないな」

《…なんか引っ掛かる言い方ね》


 サラがすっと目を細め、人型に姿を変える。ちょっと偉そうに腕組みするのがものすごく様になる姿だ。


《水精霊のサラよ。ユウと契約してるから、今後関わることもありそうね》

「そ、そうか。俺は冒険者ギルド小王国支部、ギルド長のカルヴィンだ。よろしく頼む」


 ギルド長がたじたじと応じた。

 …人型のサラって、背が高いしモデル体型だし顔立ちもオリエンタル美女だから、滅茶苦茶迫力あるんだよね。私の知る限り、この辺にはあんまり居ないタイプ。

 サラがケットシーの姿に戻ると、ギルド長はちょっとだけホッとしたように肩の力を抜いた。


「──では、早速本題に入りましょうか」


 マグダレナの言葉に、全員居住まいを正す。


「概要はルーンから伝わっていると思いますが、このたびフィオレンティーナ多種族経済共同体とユライト王国との間に新たに街道を敷くことになりました。同時に、そのルート沿いのロセアズレア大洞窟にて魔蛍石の人工合成研究を両者の共同事業として行います。──この2大事業の発起人がユウであることから、所属支部長であるカルヴィンにも関わってもらうことになりました」

「ほ、発起人?」

《言い出しっぺだしな。そうなるよな》

「いや、人工合成の話を持ち出したのはベニトだし、街道にしてしまえって言ったのはマグダレナ様で」

《研究したいならあの場でやれって言ったのも、直結通路にしちゃえって言ったのもユウでしょ。往生際が悪いわよ》

「うぐっ」


 左右から言われて言葉に詰まる。何故かギルド長が感動したように溜息をついた。


「こいつに突っ込み入れられる面子が増えたか…」


 どういう意味だ。


 私が半眼になるのを無視して、マグダレナはサクサク話を進める。


「既に水面下でユライト王家は了承済み、フィオレンティーナ多種族経済共同体の族長連(サウザンツ)も動き出しています。街道の施工も進んでいますから、早急に書面の取り交わしを行わなければなりません」


 早急に、と滅茶苦茶強調して来た。本当に急いでいるらしい。


「ちなみに先程懸念していたグロリアスについてですが、今回の街道が完成しても、当面、それほど大きな反発はないだろうと予測しています」

「え、そうなんですか?」

「正確には──反発など()()()()()、ですが」


 スッと目を細めて放たれた言葉に、ちょっと背中が冷えた。ええと…何か怒ってるって言うか…気合い入ってる?


「…マグダレナ様、グロリアスと何かあったんですか?」

「ええ、それはもう」


 恐る恐る訊いたら、とても凄味のある笑みが返って来た。固まる私と顔を引き攣らせるギルド長の前で、マグダレナは所作だけは優雅に、テーブルの上で手を組む。


「あちらで()()()()()方々が非常に速やかかつ的確に王都の治安を乱してくださるのに、苦情を申し立ててもグロリアスのトップは知らぬ存ぜぬを決め込むばかりで」


 のらりくらりとかわされて、挙句『ユライト王国の政治手腕が未熟だからだ』などと遠回しに嘲笑されるらしい。しかも、文句を言うならユライト王国向けの輸出を止めるとか言い出す始末。

 マグダレナはユライト王国の外部顧問魔法使いだから、外交官の護衛役としてグロリアスとの外交の場にも結構な頻度で同行するが、毎回そんな態度を取られるそうだ。


「──自国の生産物を扱っているわけでもないのに我が物顔をする厚顔無恥な方々には、少々痛い目に遭っていただかなくては」


 目がマジだ。


 ベニトがグロリアスの文句を言ってる時に妙に静かだったのも、地下道の話を秒で街道整備の話に発展させたのも、今までの積み重ねがあったからなんデスネ…。


「グロリアス以外で損をする国はありませんし、街道整備に関して、ユライト王国側は王太子が陣頭指揮を執ることに決まっています。矢面に立ってくださるそうですから、ユウまでオハナシアイの場に引っ張り出される可能性は低いでしょう」


 ユライト王国の王太子は、マグダレナの弟子なんだそうだ。それなりに鍛えたからグロリアスの商人相手でも後れは取らないだろう、とマグダレナは笑顔で言う。


(それなりに鍛えたって、政治的な方と物理的な方、どっちだろう…)


 知りたいような知りたくないような。


 思わず腰が引ける私の前で、ギルド長が考える仕草をした。


「ライオネルか…あいつが主導するなら、まあ何とかなるだろうが…」

《大国の王太子に、随分馴れ馴れしいのね》


 サラが眉間にシワを寄せると、ギルド長は肩を竦める。


「一応、家系図上はイトコに当たるからな。まあ血の繋がりはないんだが」

(…そういやギルド長って、小王国の現国王の息子だっけ)


 小王国の現国王の正妃は、ユライト王国の元第3王女で現ユライト国王の姉君だ。小王国の国王とユライト王国の国王が義理の兄弟なので、その子どもはイトコの間柄になる。

 ただし、ギルド長は正妃ではなく側妃の子どもなので、ユライト王国の王太子とは『血の繋がらないイトコ』という関係だ。とてもややこしい。


 私がざっくり説明すると、サラの眉間のシワがさらに深くなった。


《それって他人じゃないの》

「私もそう思うんだけど、小王国とユライト王国の王家ってちょいちょいお互いに嫁入りしてたりするから、ギルド長も『全くの他人』ってわけでもないんだよね。ギルド長の母君の方にもユライト王家の血が流れてたりするし」


 以前興味本位で小王国とユライト王国の王家の家系図を突き合わせたら、線が入り組んでとんでもないことになった。周辺の貴族まで含めたら、もはや図解1枚で表現するのはほぼ不可能だ。


《面倒臭いわね、貴族って…》

「それに関しちゃ全面的に同意する」


 当の本人が頷いてしまった。


「──ま、ライオネルは幼馴染みたいなもんだ。オレより年下だがしっかりしてるし、魔法の使い手でもある。他国との交渉で既に実績もあるしな」


 言動一つで周囲に迷惑を掛けまくるどこぞの阿呆王太子とは違うってことか。手放しで褒めた後、ただなあ、とギルド長の表情が曇る。


「いくらあいつが優秀でも、ユウを直接狙って来る奴らを全て何とか出来るわけじゃないだろ?」


 私の身の安全を心配してくれている。ちょっと感動していると、ギルド長は真顔でズビシ!とこちらを指差した。



「こいつがうっかり襲撃者を返り討ちにしちまったら、間違いなく牢屋行きになるよな? 今のこいつの実力じゃ、『うっかり』で死人が出るぞ?」


「心配してるのってそっち!?」

「他に何があるんだよ」



 思わず叫んだら至極当たり前の顔で返された。なんてこった。私の感動を返せー!


「問題はそこです」


 マグダレナが真面目な顔で頷いた。嘘だろ…。

 私が愕然としていると、マグダレナは視線でサラを示す。


「ユウ本人がうっかりで人を殺しかねないのは間違いありません。しかも、サラという隠し玉も追加されてしまいました。──恐らくですが、この2人に同時にスイッチが入ってしまった場合、ルーンにも止められません」

《あーうん、ムリだな》

「マジかよ…」


 ルーンが頷き、ギルド長が絶望的な表情になる。ちょっと、そういう顔すんのやめてくれない?


《ものすごく失礼なことを言われてる気がするわ。私、そこまで直情的じゃないわよ》

《じゃあ例えば、ユウが下衆な男どもに囲まれて動けなくなってたらどうする?》

《男どもの頭に水球被せて息吸えないようにして放置かしらね。気絶するまで》

「普通に()()()じゃねぇか!」


 即答したサラにギルド長が叫んだ。まあそれくらいはやるよねサラだし、と私が納得していると、ルーンがこちらを見上げて来る。


《ユウだったらどうする? そうだな…サラが野盗とかに攫われそうになってたら》

「とりあえず犯人の背中に蹴りを入れるかな」

《うんそれ一発で背骨が折れるやつな》


 ものすごく淡々と突っ込まれてしまった。そんなこと言われても、咄嗟に手加減なんて出来ないし。…でもそれで牢屋にブチ込まれても困る…。

 なるほどこれがギルド長の懸念か、と妙に納得していると、そこで、とマグダレナが手を挙げた。


「かなり変則的な対応になりますが、対策を打ちます。ユウがうっかり襲撃者を過剰に返り討ちにしても、簡単には罪に問えなくなるように」

「え、そんなこと出来るんですか?」

「ええ」


 マグダレナが浮かべた笑みはとても綺麗だったのに、何故かちょっと背中がヒヤリとした。



「──ユウを特級冒険者に昇格させます」







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