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174 支援役って評価されにくいよね。


 翌日から、ハンマーヘッドの穴の整備に取り掛かることになった。


 まず、第1休憩所を片付けて第3層奥の魔蛍石の貯蔵室に拠点を移す。水場がないのがネックだったけど、サラが『ちょっと掘れば地下水脈にぶつかるわよ』と言うのでレディ・マーブルに掘ってもらった。


 結果、確かに水は確保できた。と言うか、掘り当てた瞬間に間欠泉みたいな勢いで冷たい水が噴き出して大変なことになった。

 レディ・マーブルが慌てて水を受け止める壁を作って、その周辺を囲って小部屋にして、排水路も作って何とか使える状態にはできたけど。過剰なのも問題だよね。


「どうせならいい感じの温度の温泉が良かった」

「確かに」

《贅沢だな》


 ルーンの視線が冷たい。


 ちなみに、テーブルと椅子はレナが、炊事場はレディ・マーブルが作ってくれたので、設備としては第1休憩所より充実していたりする。簡易トイレもちゃんと間仕切りがあるしね。そのへん、設計者のセンスが物を言う。


 テントもそれぞれ設営して、準備は完了。


 食材の買い出しと料理は当番制だ。毎日違うものを作るのは大変なので、メニューは干し肉とパンと野菜スープで固定して、スープの味付けを変えるくらいにしようと決めた。ちゃんと作るのは日に一度、夕飯の時だけだ。朝と昼は夕飯の残りと余った食材で何とかする。


 …まあその結果、味付けを変えると言いつつ3日連続でカレー味のスープとか出て来るようになったんだけど。アレか、カレー味になるスパイスの配合をみんなに教えちゃったからか。みんな好きだな。


 なおヘンドリックとフェイは辛い方が好みらしい。2人が作ったカレー味のスープは見事に辛口で、レナとクレアからは『ちょっと辛すぎる』と苦情が入っていた。

 辛いのも美味しいけど、そっち方向に走り始めると際限なく辛さを求めるようになるからね。危ない危ない。


 ──そうして、魔物を退治しつつ通路を拡張し、白い石材を施工して行く。


 大活躍だったのは勿論レディ・マーブルだ。

 ヘンドリックとフェイと私が魔物を退治して安全が確保されたら、床は平らに、壁から天井に掛けては重さが分散するようにアーチ型に成形して、馬車がすれ違えるくらいの道幅にする。さらに、その表面に貼り付ける白い石材もその場その場で作って置いておく。


 その石材をみんなで床や壁や天井に敷き詰め、レナが細かい成形をして魔法で固定する。クレアは私たち魔物討伐組の補助をしたりレナのフォローに回ったりと、かなり忙しく動き回る。


 クレア本人は『補助しか出来なくてすみません…』と肩を落としていたけど、フェイが怪我をする前に防御魔法を使って魔物の攻撃を防いだり、レナが魔力切れになる前に魔力を分け与えたりと、かなりの活躍ぶりだった。


「クレアはもうちょっと自分の働きに自信を持ってもいいと思う」

「え? で、でも、私に出来るのはお手伝いだけですし…」

「いや、そのお手伝いがものすごく有り難いんだよ。真面目な話」

「でしょ!? やっぱりそう思うわよね!?」


 施工を始めてから5日目。白い石材を地面に敷き詰めながら私が言うと、クレアは戸惑い、レナは大きく頷く。


「前線に出る人間が迷わず動けるのはバックアップあってこそなのよ! 目立たないとか直接魔物と戦ってないとか、そういうのはどーでもいいの!」


 ダン!と杖の先を地面に叩き付けて力説する。ぶわっと波紋のような光が広がり、タイルのように敷き詰められた白い石材の一部が綺麗に繋がった。


「武器振り回すだけが冒険者じゃないわ! バックアップ要員を馬鹿にするなら、バックアップなしで魔物と戦ってみなさいっての!」

《…お前ら、前に何かあったのか?》


 その剣幕に、ルーンがちょっと引いている。

 レナは据わった目で呟いた。


「…前にパーティー組んでた馬鹿剣士が、クレアのこと『怪我した時しか役に立たない』とかほざいてたの」

《うわ》

「あー、それはダメだわ」


 回復術師や支援役を甘く見ているとしか思えない。


 …向こうにも居たけどさ。一番偉いのは注文取って来る営業で、製品を製造するやつがその次、営業事務とか品質検査とか生産の調整役とか出荷担当者とか物流とか、まして総務なんて間接部門は売上に貢献しないお荷物だとか(のたま)う大馬鹿野郎。

 あまりにもムカついたから『じゃあ社長とか取締役とかもお荷物ですね! 売上に関係ないし!』って大声で言ったらものすごい焦ってたけどね。


 ちなみにその阿呆営業、社長のお気に入りだったんだけど営業成績自体は大したことなかった。お客さんからの注文勘違いして間違った発注して各方面に盛大に迷惑掛けてたりもした。

 間接部門のみんなからは『偉そうなこと言う前に手前ェの誤発注で発生する赤字を何とかしろ、勘違い野郎』って総スカン食らってたよね。


 閑話休題。


「回復術師が『怪我した時にしか役に立たない』なら、剣士は『剣で切れる敵相手の時にしか役に立たない』し、なんだったら戦いの時以外は完全に役立たずだよね?」

《武器振り回すだけが冒険者じゃないのに、なんでそんな無駄に偉そうなんだ?》


 私とルーンが首を傾げると、壁に石材を押し付けながらヘンドリックが苦笑した。


「魔物と戦ってる時に前線に出る方がリスクが高い、だから偉い、って勘違いするやつは結構居るんだよ。リスクが高いからって立場の優劣に繋がるわけじゃないんだが」

《そもそも仲間を下に見ること自体が有り得ないわよね?》


 サラが指摘すると、レナが大きく頷いた。


「だから前のパーティーから離脱したの。抜けるって言った時、『じゃあこれから誰がオレたちのメシ作るんだよ!?』って言われたわ」

「えっ!?」

「どこの馬鹿亭主だよ…」

《最悪じゃないの》

《その辺の草でも食ってろって感じね》

《うへえ…》


 みんなが一斉に顔を顰める。


「どこにでも居るんだね…そういうクソ野郎」


 私も声がワントーン低くなった。ルーンが察してそっと目を逸らす。


「ユウもそういう経験あるの?」

「あるある。私の場合は()()()がね。ちょっとタイプは違うかもだけど、そっち系だった」


 レナの問いに頷いた瞬間、場の空気が凍った。



『…………は?』


「…ん?」



 首を傾げてから気付く。

 そういえばここに居る面子、私の経歴知らないわ。ヘンドリックも共闘はしたことあるけど、そういう込み入った話はしてないし。


「……も、元旦那?」


 恐る恐るという顔でレナが呟く。なんかスマン。


「えーとね、私、結婚してたことがあるんだわ」

「え!? で、でも、私たちとそんなに歳は変わらないんじゃ…」

「…ゴメン、私、28なんだよね……」

「にっ…」

『28!?』


 召喚された時は27。こっちで暮らしている間に28歳になった。見た目はほとんど変わってないけど、これでも立派なアラサーだ。


「と、年上!?」


 ヘンドリックがあんぐりと口を開けている。


「嘘だろその見た目で!」

「童顔なのは自覚してる」

「いや顔だけじゃなくっブホッ!?」


 瞬間、ヘンドリックは頭から盛大に水をかぶった。


 何となく察して振り向くと、案の定、ケットシー姿のサラがそれはそれはイイ笑顔で右前脚を掲げている。


《考えなしに女性の見た目に言及する男はモテないわよ、ヘンドリック》


「………お、おう、スマン…」



 …ケットシーの姿でも、こんな威圧感のある笑顔作れるんだなあ…。







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