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172 協力要請


 その後いくつかの打ち合わせを終え、ベニトはスピリタスに乗って一旦ドワーフの里へと帰還した。


 出発するスピリタスがとても上機嫌だったのは言うまでもない。鼻歌を歌う精霊馬は、長く尾を引くベニトの悲鳴を残してあっという間に地下道の向こうへ姿を消した。


 ちなみにスピリタスは夜目が利くので、明かりは基本的に要らないそうだ。

 きっとベニトは今頃、どこぞのネズミの国の宇宙をモチーフにしたジェットコースターの気分を味わっていることだろう。南無。


 一方私たちは第1休憩所へ引き揚げ、ヘンドリックたちに事情を説明して協力を求めた。ヘンドリックとフェイとハウンドは地下道の魔物討伐の手伝い、レナは白い石材作りと施工の補助、クレアはそのバックアップだ。


「…一応聞くが、なんで半日そこそこでまた冗談みたいな状況になってんだ?」

「こっちが聞きたい」


 もはや驚きもなく、心底呆れた顔で訊いて来るヘンドリックには、負けず劣らず平坦な声で答えておく。

 仕方ないなとヘンドリックが頷く横で、ハウンドだけは眉を顰めて首を横に振った。


「誘いは有り難いが…アタシはそろそろ、ウチの相方(ラグナ)の背中に蹴りを入れに行かなきゃならなくてね」

《背中に蹴り…》

《すっごい痛そう…》


 ルーンとサラがそっと引いている。私は深く頷いた。


「それは大事だね。──あ、ちなみに今なら冒険者ギルドサブマスターからのお説教も付けられるけどどうする?」


 元・洞窟のヌシことエルドレッドの一件は既にマグダレナに報告済みだ。

 エルドレッドに関しては処罰まではいかないけど厳重注意の対象にはなるそうで、現時点でお説教が確定している。病院にブチ込まれた連中も、その気になればお説教対象に追加可能らしい。


 私の視線を受けてマグダレナがそれはそれはイイ笑顔で頷くと、ハウンドがにやりと笑った。


「そいつは良い。お願いできるかい? サブマスター」

「ええ、勿論構いませんよ。……ラグナはこれで3()()()ですね…」


 ぼそり、付け足された言葉にちょっと背中が冷える。…大丈夫かなハウンドの相方。こっちの世界にも、『二度目は無い』とか『仏の顔も三度まで』みたいなルール、あったりする?



 内心でハウンドの相方に合掌しつつ、その日の夜は全員にカレーを振る舞った。


「街でも食べたが、これは美味いね! 手作り出来るもんだとは思わなかったよ」

「そもそもロセフラーヴァにカレーを広めたのはこいつだからな」

「広めたのはギルドの食堂の責任者(アンディ)でしょ。私じゃないよ」

「…そのアンディさんにカレーのレシピを教えたのはユウさんですよね?」

《ユウがまた人のせいにしてるぞー》

《責任逃れってやつね》

「ヒトを下手人みたいに言うんじゃありません」


 そんなやり取りをする中、マグダレナは黙ってカレーをおかわりしていた。マグダレナがギルドの食堂に行くとみんな緊張してしまうので、なかなかカレーを食べる機会がなかったらしい。


「ギルド長室に持って来てもらうとか、出来なかったんですか?」

「そうすると、書類にカレーの匂いがついてしまうでしょう? ロセフラーヴァ支部内で回す書類ならともかく、他支部や本部に出す書類に匂いをつけるわけにはいきませんから…」


 偉い人は大変だな。


 そんな会話をしながら食べていると、スピリタスが戻って来た。


《ああっ! ワイの居らん間にカレーパーティーしよったな!?》

「あらスピリタス、戻ったのですか」

「おかえり」

《早かったな》

《おう、ただいま──やない!》


 キッと(まなじり)を吊り上げ、


《ワイを差し置いてカレー食べるとか、この鬼! 悪魔ー!》


 その場で転がってジタバタする。完全に駄々っ子だ。

 …でも、


「…なーんかお酒の匂いがするなあ」

《ぎくっ》


 私が呟いた途端、背中を地面に擦り付けた姿勢のまま、スピリタスが固まった。ドン引きしていたヘンドリックたちが、事態を察して生温かい目になる。


 私はスピリタスの横に屈んで、思い切り目を逸らすスピリタスの顔を覗き込んだ。


「…ドワーフのお酒、美味しかった? いっぱい飲んだみたいだね」

《な、なんのことやら》

「今の時期なら、さつまいもの蒸留酒でしょうか。ああ、以前いただいた30年もののウイスキーも美味しかったですね」

《えっ、そんなんあるんか!? エールしか貰われへんかったんやけど!》


 マグダレナの言葉に反応してガバっと身を起こしたスピリタスは、みんなの視線を受けて愕然と目を見開いた。


《…わ、罠に掛けよったな!?》

《いや、自分で墓穴掘っただけだろ》


 ルーンが冷たく突っ込む。


 それでなくても全身からお酒の匂いを漂わせているし、微妙に焦点が合ってないし、酔っ払ってるのは明白だった。でもスピリタスは勢い良く立ち上がり、足がふらつくのを誤魔化しながらキリッとした顔を作る。


《飲んだけど酔ってへん! だからワイにもカレー食わせてくれ!》

「…まあ良いけど…」


 とりあえず、カレーとご飯を平皿に盛り付けてテーブルに置く。スピリタスは早速がっつき始めた。


《──っかー! これこれ! これやで!》

「……馬ってカレー食べて大丈夫なの?」

《こいつは馬みたいに見えるけど馬じゃないからな》

「本物の馬なら、お酒も絶対飲めないだろ」

《ワイ、精霊馬で良かったわー!》


 とても機嫌が良さそうだ。


 そんなスピリタスに、マグダレナが笑顔を向ける。


「元気が有り余っているようですし、明日からの()()()()も何とかなりそうですね。何よりです」


 途端、スピリタスは変な顔で固まった。


《……と、特急対応?》

「ええ。ベニトが予想より早くあちらに帰りましたから、こちらも早々に王家に話を通さなくてはいけません」

《わ、ワイ、3日後にまたベニトんとこ行く約束しとるんやけど…》

「ではそれまでにここから王都まで、最低でも1往復しなければなりませんね」

《えっ》

「心配には及びません。私を乗せて行くだけです。それほど難しくはないでしょう?」


 ユライト王国の王都って、ここから結構遠いんじゃなかったっけ。

 こそっとルーンに訊いてみたら、


《ロセフラーヴァからだと、乗り合い馬車で片道6日くらい掛かるな》

「え、絶望的な距離じゃんそれ」

《だからスピリタス頼みなんだろ。飛んで行けば往復3日、余裕じゃないか?》


 ルーンが肩を竦めると、スピリタスがギロッと睨んで来る。


《他人事やと思ってぇ…!》

「他人事だもの」

《まあ頑張れよー》

《くううう…!》


 カレーを咀嚼しながら悶えている。


 どっちかにしなさい。








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