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167 道? あるよ?


 ぽかんと口を開ける一同に、私は言葉を重ねる。


「ハンマーヘッドが作った穴、ドワーフの里の方まで繋がってるんじゃないの? ちゃんと補強して、人が通れる道として整備しちゃえば良いじゃない。ドワーフの里とロセアズレア大洞窟を繋ぐ専用路。便利だと思うよ?」

「ちょ…ちょっと待て! お主正気か!?」

「うん」


 頷いたら、ベニトは絶句した。…そんなに意外だったかな。


《あー、なるへそ》


 ルーンが片耳を伏せて呟く。


《道が無いなら作れば良いってか》

「そうそう。もう貫通はしてるんだから、そんなに難しくないでしょ?」

「簡単に言うでない!」


 国境を越える道は、両国の同意と事前の調整が要るのだ、とベニトが言う。ホイホイ越境しちゃうわりにお硬いな。


「それって別に事後調整でも良くない? だって今回のことは事故みたいなもんだし。埋めるのも面倒くさいからそのまま活用しますって言えば理屈は通るよね?」

「そんな無茶な」

「魔蛍石の人工合成、関わりたくないの?」

「うっ…」


 ドワーフの里とロゼアズレア大洞窟が直結されれば、ドワーフたちが研究に参加するのは難しくない。

 目の前にエサをぶら下げたら、ベニトが思い切り言葉に詰まった。私はさらにダメ押しする。


「それに丁度今、ドワーフの里の長とユライト王国の外部顧問魔法使いなんて重鎮が立ち会ってるんだから、口裏合わせ出来るよね?」


 マグダレナが苦笑する。


「…それはそうですね。──私としても、ドワーフたちと共同で研究出来るならそれに越したことはないと思います。岩石に関する知識とこれまでの研究成果は貴重ですから」

「む、むう…」

「折角ですから、拡張した上できちんと整備して馬車や荷車も通れるようにしましょうか。事故で繋がった道を活用したいとユライト王国側から申し出があった、という形にすれば、他種族の同意も得やすくなるのではありませんか? 南北を行き来する道が2つに増えるわけですから」


 …あれ、何か話がデカくなってる。

 ドワーフも研究に参加すれば良いじゃないって提案のはずが、街道として整備するって話になってる。


 …いいか。そこら辺は老獪な見た目美少女に任せておけば…。


「ううむ………、分かった!」


 ベニトは散々唸った後、大きく頷いた。


「わしも腹を括ろう! 族長連(サウザンツ)の皆を説得してみせようではないか!」


 サウザンツ…確かフィオレンティーナ多種族経済共同体の各種族の長たちをまとめてそう呼ぶんだっけ。ドワーフだけじゃなくて、そっちの同意も必要なのか…。


「大変だねえ」

《他人事だな》

「他人事だよ?」


 嫌だなルーン、何を当たり前のことを。


 私が首を傾げたら、ルーンはサラと顔を見合わせて、何故か同時に肩を竦めた。


《…ま、良いか。俺たちには関係ないしな》

《そうね》

「そうそう」


 平和なやり取りをしていたら、


「そう言っていられるのも今のうちじゃぞ!」


 ベニトがキリッとした顔でツルハシをこちらに突き付けてきた。


「ユライト山脈を貫く地下街道の整備──国家間の一大事業じゃ! 言い出しっぺとその付き添いが、無関係で居られるわけがなかろう!」

「でも私はただの冒険者だし」

《俺はただのケットシーだし》

《私はただの水精霊だし》

《…『ただの』って主張、無理があらへん? 全員色々おかしいと思うで》

「無理じゃない。あとお前が言うな」


 スピリタスはこの中では断トツで変な生き物だと思う。何か念話にエセ関西弁みたいな訛りがあるし。


 ちなみに、この世界にも一応方言っぽいものはあるんだけど、本で読んだ限りではスピリタスみたいな独特の喋り方は他に例がない。話は通じてるみたいだから、もしかしてスピリタスの念話がエセ関西弁に聞こえてるの、私だけかも知れないけど。


「ただの冒険者は、洞窟探索から国家間の街道整備にまで話を発展させたりしませんよ…」


 マグダレナに溜息をつかれた。


 …この洞窟に来たのはマグダレナに勧められたからで、ハンマーヘッドがこっちに来たのはレディ・マーブルが魔蛍石を溜め込んでたからで、ドワーフの里方面とこの洞窟が繋がったのはハンマーヘッドが穴掘ったからで、繋がったところを道として整備しようって話になったのはベニトが魔蛍石の人工合成に言及したからなんだけどな。


 何で全部私のせいみたいにされてるんだ。解せぬ。


「──どのみち、事後調整になるのですから急ぐに越したことはありませんね。ベニト、今のうちに諸々の打ち合わせをしておきましょう。ユライト王家を丸め込むには相応の()()が必要です」

「うむ、勿論じゃ」


 一度決めたら動き出すのは早かった。マグダレナとベニトは石のテーブルを囲み、すぐさま打ち合わせの態勢に入る。

 私とルーンたちが顔を見合わせていると、マグダレナがこちらを向いた。


「ユウ、皆とともにハンマーヘッドが掘った穴を確認してきてください。崩落しそうな場所があったら、可能であれば補強を」

「分かりました」


 私はすぐに頷いた。


 …大国の王家を『丸め込む』なんて平然と言える人たちの打ち合わせなんて、聞いてても胃が痛くなるだけだもんね、絶対。



 ルーンとサラを肩に乗せて、レディ・マーブルとスピリタスも連れてハンマーヘッドの穴に入る。すぐにルーンが明かりの魔法を宙に浮かべた。流石、仕事が出来る。


 しかし…


「暗いね。ヒカリゴケは居ないのかな?」

《ハンマーヘッドの匂いが残ってる間は近寄らないんじゃないか? うっかりすると振動で墜落死するだろ》

「あ、なるほど」


 ルーンの解説を聞きながら、奥へと進む。


 レディ・マーブルが作った洞窟とは違って、全体的にゴツゴツして歩きにくい。天井や床に出来た亀裂の中には、どれくらいの深さがあるのか分からないようなものもあった。


「レディ・マーブル、ここ埋められる?」

《ええ》


 そんな感じで、ヒビ割れを埋めながら進むこと暫し。


「…穴?」


 突然天井が高くなったと思ったら、その中央付近にはヒビ割れとは違う穴が空いていた。

 穴の大きさは…私だったらギリギリ通れるくらいだろうか。ルーンが首を傾げる。


《この部分、ハンマーヘッドが掘ったわけじゃなさそうだな。元々空洞だったのか》

《……あっ!》


 レディ・マーブルが目を見開いた。


《ここ、アレだわ! 私が知らない『縦穴』の真下だわ!》

「あっ」


 エルドレッドの第3層の地図で『未踏破』になっていた、一番奥の縦穴。レディ・マーブル作ではないという部分だ。


「じゃああの穴、例の縦穴から繋がってるのかな?」

《だろうな》


 穴を見上げて首を傾げると、ルーンもニュッと首を伸ばして穴を見詰めた。


《…微妙に明るいから、ちょっと離れた所にヒカリゴケが居るな。ここに落ちて来られても厄介だし、埋めた方が良さそうだ》

「え、放っておけば良いんじゃないの? あの高さから落ちたらどうせ死ぬし」


 ヒカリゴケはとにかく虚弱だ。水に濡れても高さ1メートル以上から落下しても死ぬ。


《だから困るんだよ。こんな所にヒカリゴケの死体が積み重なってみろ、他の魔物がわんさか寄って来るぞ》


 生きたヒカリゴケを食べる魔物はほぼ居ないけど、死体だったら話は別。あらゆる死骸を食べる『腐肉喰らい(スカベンジャー)』と呼ばれる魔物が、喜び勇んでやって来るそうだ。

 そして、その魔物を捕食する中型・大型の魔物もおまけについて来る可能性が高い。


「よし、埋めよう」

《分かったわ》


 これから開発しようって場所が魔物の巣窟になったら困る。私が真顔で呟くと、レディ・マーブルも真顔で魔法を使った。


 ものの数秒で、天井の穴が埋まる。


《…魔物が居たら困るなら、通路の補強をしながら、魔物も倒しておいた方が良いんじゃない?》

《せやな。あと、この辺じゃ魔物の死体は勝手に消えんし、燃やすか回収するかせなアカン》

「…何か急にやること増えてない?」


 思わず嫌な顔をしたら、ルーンが顔を覗き込んできた。



《心配すんな、国を動かすマグダレナとベニトに付き合うよかマシだ》


「……そーだね」






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