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15 ゴミ回収とキッチン掃除


 …危ない危ない。飛ばし過ぎるところだった。



『……………は?』



 兵士たちがぽかんと口を開けている。

 呆然としているうちに片付けてしまおう。


「サイラス、次」

「ハイ!」


「ていっ!」


 サイラスの持って来たゴミもぶん投げ、続いてルーンの担当分も穴に放り込む。

 回数を追うごとに調整が上手くなって、ルーンの担当分はバッチリ穴のど真ん中に落ちて行った。良い傾向だ。


「じゃ、そういうことで。お邪魔しましたー」


 兵士に挨拶して、私たちは踵を返す。

 振り返ったら、おばあさんが噴き出す寸前の顔で肩を震わせていた。


 …ここで爆笑されたらまた面倒なことになるな。


「ハイハイ、帰りましょうねー」


 おばあさんの背中を押して、一緒に街の中に入る。



「…ぶっはははははははは!」



 数歩進んだところで、おばあさんは耐え切れなくなったらしい。私の肩をバンバン叩き、涙まで浮かべて笑い転げる。


「腕力で解決するとはね! やるじゃないか!」

「どうも」


 この人結構力が強い。『月夜ばかりと思うなよ』とか言ってただけあるわ。

 そのおばあさんをじっと見詰めていたサイラスが、あっと声を上げた。


「グレナばーさ…じゃない、グレナ様!?」

「やーっと気付いたかい、ひよっ子」

「サイラス、知り合い?」

「俺らの先輩冒険者で、前ギルド長です。デールはこの方に魔法を教わったんですよ」

「なんと」


 つまり私にとっては大先輩か。


「初めまして、新人冒険者のユウです」


 私が即座に頭を下げると、グレナは満足そうに頷いた。


「分かってるじゃないか。──私はグレナ。昔は魔法使いとしてそこら辺を駆けずり回ってたんだが──ま、昔の話さね。今はただの隠居ババアさ」


 とか言いつつ、背筋はしゃんとしているし力も強かった。多分兵士の前でしおらしくしていたのは演技だろう。だってその方が面倒が無いもんね。


「グレナ様、あいつらシメなくて良いんですか?」


 サイラスが当たり前の顔で訊く。なるほどそういうタイプか。

 しかし、グレナは首を横に振った。


「奴らが調子こいてるのは確かだが、私が出る幕でもないさね。──もっと良い薬がある」


 にやり、朱色の瞳がこちらを見る。


 あっハイ、了解です。


「ユウ。見たとこ、まだゴミはあるんだろう?」

「はい、あと3往復くらいしようかなって」


 もしかして、支部がゴミ屋敷と化してたのも、その大掃除をしてるのも、この御方にはお見通しなんじゃないだろうか。


「ならついでに、ご近所のゴミも出して来てやりな。ちゃーんと依頼として金が貰えるよう、私が声を掛けておくからね」

《え、ただのゴミ出しなのに?》


 自分で持ち込めば本来は無料。…本来は、というのがポイントか。


「兵士への賄賂、そんなに高くなってるんですか?」

「ああ、ひどいもんさね」


 溜息が深い。


「声を掛ければ、多少カネ出してでもギルドに依頼しようって連中は居るはずだ。何せ今は、行ってみないといくら要求されるか分からない。相手によって要求額を変えてるようだからね。場合によっちゃ、ゴミ出し1回で金貨が飛ぶんだよ」

「うっわ」

《マジか》


 足元見てるにも程がある。


「分かりました」


 私はしっかりと頷いた。


「追加で運ぶのはそんなに大変じゃないんで、適正価格でガンガン声掛けてください」


 1件1件の依頼料はそんなに高くないだろうが、まとめて運べば結構な金額になるだろう。今は少しでもお金が欲しいし。

 あと、投げ飛ばすの結構楽しかった。『剛力』の出力調整の練習にも丁度良いんじゃないだろうか。


 …賄賂の現状をギルドのメンバーが知らなかったのは…まあそういうコトですよね。


 ………一体いつからゴミ捨ててなかったんだろう……。





 その後2往復したところで、一旦ゴミ出しはストップした。


 グレナ効果はすさまじく、結構な量の不燃ゴミがギルドに持ち込まれ始めたのだ。集め切ってから出した方が効率が良いということで、ギルドの前に置いてもらうことにする。


 エレノアは折り畳み机をどこからか持って来て外のゴミの横に陣取り、依頼書をさばいている。

 屋外で目立つので、人がひっきりなしにやって来る。掃除のため開け放ったドアからギルドの中を覗き込み、吐きそうな顔で去って行く依頼人も居た。


 …スマン。臭い、これでも多少マシになったんだよ…。


 なおゴミ出しに行くたびに柵の向こうの兵士が増えててちょっと目障──ゴホン、危ないなーと思った。まあ全員の頭上飛び越えるように投げたけどね。コントロールが上手くなったよ。



 で、私は今、ギルドの奥、簡易キッチンに居る。


 周囲にはルーンと、ルーンの声掛けで集まってくれたケットシーが3匹。まだ集合時間前だったのだが、早めに来ているケットシーに手伝いを頼んでみたら二つ返事で引き受けてくれた。


《よし、やるぞー!》

《おう!》

《ええ!》

《任せい!》


 残っていたゴミくずを回収して、収納庫の扉を全開にすると、ケットシーたちが一斉に魔法を放った。


「わあ…!」


 だばんと水が注がれ、キッチン全体が水に沈む。ガラスで区切られているわけでもないのに壁に水塊がへばり付く様子は不思議の一言に尽きた。その水が、みるみるうちに茶褐色に変色して行く。


 …うわあ。ドン引きだぁ…。


 土埃、ただの埃、サビに水垢に何だかよく分からない茶色い液体が乾いた跡、血糊みたいなやつ等々…色んな汚れが一斉に回収されると、結果茶褐色になるらしい。


 水が消え、温風が吹いて暫くすると、ピカピカのキッチンが──


 ……現れなかった。


「サビは水じゃ完全には落ちないかあ…」

《浮いてた分は取れたけどな。後は擦るしかないだろ》


 ですよね。

 ちょっと、大分、期待してたけど、まあ水だけじゃ無理ですよね。


 気を取り直して、私はスポンジのようなものを手に取る。

 『のようなもの』と言っているが、この世界ではこれが『スポンジ』と呼ばれているらしい。正体は植物系魔物の体組織を水洗いして乾燥させたもの。アレだ。日本で言うところのヘチマタワシみたいなもんだ。

 部位によって柔らかさやきめ細かさが違うらしく、ここにあるのはきめの細かい皿洗い用のやつと、タワシ的に使えるちょっとごついやつ。当然、今から使うのはごつい方。


「じゃあ後は私がやるよ。ルーンたちは時間になったら、他の場所を順次丸洗いよろしく」

《任せとけ。仮眠室とかシャワー室優先で良いな?》


 今朝チラッと『もう宿引き払って来ちゃったから、今日はここに泊まりたいんだよね』と呟いたのを覚えていてくれたらしい。流石、仕事が出来るケットシーは違うわ。


「そうしてくれるとホントに助かる」

《報酬は昼食大盛で頼むわ》


 …うん、仕事が出来てちゃっかりしてるケットシーは違うわー。





遅ればせながら、ブックマーク100件突破、ありがとうございます!

『いいね』や評価の☆もありがとうございます! 励みになります。


ブックマーク100件突破、今までの作品の中で最速な気がします…更新速度も多分最速に近いですが…。

あれですね。一人称ってやっぱり書きやすい…。

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