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149 道は砕き拓くもの(違)


 まるで硬いもの同士がぶつかるような音だった。


 私とルーンは、思わず顔を見合わせる。


「…今の、壁の向こうから…だったよね?」

《だと思うけど…──静かに!》


 ルーンがピンと耳を立てて壁に向き直る。息を詰めて待っていると、数秒後、ルーンの瞳孔がギュッと縮まった。


《…間違いない。多分、何かの足音だ》

「足音?」


 それにしては、最初に聞こえたのは随分硬い響きだった気がするけど。

 私が首を傾げると、ルーンも困惑気味に片耳を伏せる。


《なんつーか、こう…右往左往してる感じなんだよな…》

「右往左往」


 なんでだ。


 …とか思ってても何も解決しないので、ウエストポーチからウォーハンマーを取り出してみる。


《…ユウ、何しようとしてんだ?》

「とりあえず塞がった通路を再開通させようかと」

《何でそうなる!?》


 ウォーハンマーを構えたら、ルーンに突っ込まれた。


「いやだって、壁の向こうに何か生き物が居るのは間違いないでしょ? 右往左往してるってことは、そんな危ない相手でもないだろうし…もしかしたら話が聞けるかなって」

《普通に魔物の可能性が高いだろ! ナワバリを見回るのに、短距離を何往復もする魔物だって居るんだぞ!》

「例えば?」

岩サソリ(ロックスコーピオ)とか》


 ルーンが名前を挙げたのは、人間より大きなサソリ型の魔物。

 確か洞窟や岩山の地割れの中に生息していて、ナワバリに入って来た生き物を見境なく襲う中位種だ。全身の甲殻は硬く、尾の先端にある毒針も脅威だとか。


 でも──


「それ、ウォーハンマーだったら余裕で叩き潰せるんじゃない?」

《あっ》


 私が指摘した途端、ルーンはスン…と大人しくなった。


「壊して良い?」

《良いぞ》


 ルーンが悟りを開いたような顔になっている。


 ともあれ許可が下りたので、私はちょっとだけ質感の違う壁に向かってウォーハンマーを構えた。


 エルドレッドと戦った時は岩を細かく砕き過ぎて土煙がすごかったので、もう少し大雑把に砕くのをイメージして──



「──ふんっ!」


 ──ドガン!



 おっ、結構上手くいった。


 握り拳くらいの大きさに砕けた岩壁が、多少向こうに吹っ飛びつつガラガラと崩れて行く。思ったより厚みもなかったらしい。瓦礫の山にはなったけど、踏み越えて行けるくらいの量だ。


 そう──案の定、質感の違う壁の向こう側は空洞だった。数メートルほどの通路の先、拓けた空間が見える。


「よっし!」

《器用になったなあ》


 感心しているルーンを肩に乗せたまま、私は勢いよく足を踏み出した。念のためウォーハンマーを構えて、通路を抜ける。



 そして──



「……んん?」


 抜けた先は、ちょっとだけ広い空間だった。何だか明るいと思ったら、壁や天井に埋まった鉱石がヒカリゴケより明るい光を放っている。


 きょろきょろと周囲を見渡していると、



《…な、な、ななななな》



 独特の響きを帯びた声──念話が響いた。



《なっ…何なのよあんたたち──!?》


「…」

《…なあ、叫んでるぞ》

「何も見えないし聞こえないなあ」

《嘘こけ。思いっ切り()()()()()()()だろ》


 …ちっ、バレたか。


 ルーンが右前脚でぐいぐいと頬を押し、私の顔を無理矢理そちらに向ける。


 そうして視界に入ったのは──


 エルドレッド並みの長身にボディビルダーみたいなガッツリ筋肉、豊満な胸にコウモリのような皮膜状の翼、ウルフカットみたいなロングヘア──の、()()()()()()()()


 彫像だと思ったのはその造形全てがマーブル模様の石っぽいもので出来ているからで、『のようなもの』とつくのは──


「…」

《ちょっと! 何とか言ったらどうなの!?》


 …その彫像が左拳を口元に当てて乙女チックなポーズを取りながらこっちに右人差し指を突き付けているからで。


「………ねえ、帰って良い?」

《お前が壁ぶち壊したんだろ。自分で責任取れよ》

《失礼すぎない!?》


 死んだ魚のような目でルーンと言葉を交わしていたら、キイッ!と彫像っぽい何かが叫んだ。


 仕方なく、意識をそちらに移す。


「…で、おたく、どなた?」

《それはこっちの台詞よ!!》

「私は冒険者のユウ。こっちはケットシーのルーン。で、おたくは?」

《心底どーでもよさそうな態度で名乗らないで頂戴!》


 注文が多いな。


 ひとしきり叫んだ動く彫像は、ぶるぶると頭を振って一旦姿勢を正し、何となく偉そうなポーズを取った。


《──我が名はレディ・マーブル。この洞窟を作った偉大なるガーゴイルだ。よくぞここまで辿り着いた、冒険者よ》

《今更そんな態度取ってもイタいだけだぞ》

「レディはそんな話し方しないと思う」

《ダメ出しキツくない!?》


 感想を素直に述べたら、偉そうな態度が吹っ飛んだ。


 動く彫像──もとい、ガーゴイルのレディ・マーブルは、何だか泣きそうな顔で『初対面よ私たち!?』とか何とか叫んでいる。


《ここはもうちょっと敬意を持った感じでこう、『くっ、貴様がこの洞窟のヌシか…!』とか言って格好良く武器構えるとかしてくれないと!》

「えーヤダ、恥ずかしい」

《恥ずかしっ…!?》

《一応恥じらいはあるんだな、ユウ》

「中二病はだいぶ前に卒業したから」


 でもまあ、と、ウォーハンマーを構えてみる。


()()()()()()()がお望みならいくらでもお付き合いしますけど? レディ・マーブル」

《それ一方的に粉砕して終わるやつな》


 ルーンが突っ込んだ途端、レディ・マーブルがヒエッと息を呑んだ。


 いや、そもそも息してるのか微妙な相手だけど。


《可愛い顔して怖過ぎるでしょー!?》

《まあな》

「冒険者なんてそんなもん」

《正当化しないで頂戴!》


 ビシッとこちらを指差した後、レディ・マーブルは唐突にその場に崩れ落ちた。


《……やっと私のところまで来てくれた冒険者がこんな変人だなんて………》

《変人度合いならお前もいい勝負だと思うぞ》


 大概失礼だな。


 …にしても…


「…レディ・マーブル、冒険者を待ってたの?」


 私が訊くと、レディ・マーブルはバッと顔を上げ、泣きそうな表情でこちらを見た。



《そうよ! マグダレナと『人里には近付かない』って約束しちゃったから、考えに考えてっ…!!》



 ……んん…?







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