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146 調査エリア

 翌日、体調不良を訴えた面々とエルドレッドをロセフラーヴァの街に送り届けたハウンドが帰って来た。


「全員、栄養失調気味だそうだ。エルドレッドのやつが治療費を持つって言ってたんだが、全員断ったね」


 曰く、冒険者は自己責任。エルドレッドの指示に従うと決めたのは自分だから、治療費をエルドレッドに払わせるのは違うと。

 分かるような分からないような。


(カネ出してくれるって言うんだからありがたく貰っとけば良いのに)


 男のプライド、というやつだろうか。


「で、これはそのエルドレッドからだ」


 ハウンドが女性陣に小さな革袋を配る。私も受け取って開けてみると、中身は結構な量のコインだった。レナとクレアが目を見張る。


「えっ!?」

「ハウンド、これは…」

「食費なんかを余計に徴収してた分の払い戻し、だとさ。迷惑料込みらしいがね。折角だから貰っておきな」

「じゃあありがたく」


 戸惑うレナとクレアの横で、私はさっさとウエストポーチに革袋を仕舞う。2人と目が合い、肩を竦めた。


「こういうのは本人の気持ちの問題だし、貰っておいた方が後腐れがないよ。これで手打ち、恨みっこなし。…恨んでたいなら突っ返すってのもアリだけど」

「貰っておくわ」

「私も」


 人間関係を泥沼化させるつもりはないらしい。


 その様子を笑って見ていたハウンドが、それにしても、と周囲を見渡した。


「随分と減ったもんだね」


 第1休憩所は、たった1日ですっかりガランとしていた。調査に出ていた男性陣はほぼ全員、街に引き揚げたからだ。

 テントも減ったので、残った自分たち用のテントの配置を変えた結果、空きスペースはかなり増えた。


 ちなみに街に引き揚げた面子には、ハウンドの相棒のラグナや、レナとクレアと仮パーティを組んでいたメンバーも含まれる。


 ラグナは『ちったあ自己管理を覚えな!』とハウンドに叱り飛ばされ、レナとクレアの仮パーティ仲間はパーティの正式結成をきっちりお断りされて、しょぼくれて洞窟を出て行った。自業自得ってやつだ。


 結果、ここに残っているのは私を含めた女性陣とヘンドリックとフェイの計6人。そしてルーン。人数は減ったけど、個人的にはルーンが来てくれたから百人力だ。それに、


「人数が多ければ良いってもんでもないよ」

「まぁね」

「そうだな」


 私の呟きにハウンドとヘンドリックが頷き、若い3人は首を傾げる。

 人数多いと、どうしたって派閥みたいなのができるからね…若い子はあんまり実感ないかもだけど。


 その意味では、エルドレッドが統率して、ついでに恨みも一身に受けてたあの状況はかなり特殊だったと思う。


「まっ、何はともあれだ。調査方針は決まったかい?」


 ハウンドに話を振られて、私は思考を現在に戻す。


「うん、一応ね。ええと…」


 食事に使うテーブルの上には、エルドレッド作の地図を広げてある。入口とこの第1休憩所を含む『第1層』、第2休憩所から奥の『第2層』、同じく第3休憩所奥の『第3層』、合計3枚だ。


「調査が終わってないエリアは3ヶ所あるみたいだから、分担して調査出来ないかなって」


 エルドレッドの地図で『未踏破』と書かれた場所は3ヶ所。


 第2層の地図の右端と、第3層の左端と上側。

 このうち第3層上側は下へ向かう縦穴で、入口が物凄く狭いらしい。つい一昨日調査に行ったヘンドリックたちによると、『フェイでも肩がつかえて通れなかった』そうだ。


「だから、この第3層の上側は私とルーンで担当しようと思ってる」


 この中で一番小柄なのは私だ。レナも小柄だけど、縦穴を降りるとなると体力と腕力に自信がある私の方が適任だと思う。

 私が説明すると、ハウンドは眉を寄せた。


「理屈は分かるが…1人で大丈夫なのかい?」


 昨日のヘンドリックたちと同じ反応だ。


「ルーンが居れば大抵のことは何とかなるから」

《まっ、そーいうこったな》


 私が即座に返答し、ルーンが胸を張る。


 実際、ルーンの観察力とか細やかな魔法には助けられてばかりだし、それくらいの自信はある。ちょっと他力本願だけど。


「しかしねえ…」

「まあそう心配するな、ハウンド」


 ヘンドリックが苦笑いする。


「どっちみち、体格的に俺らは通れないんだ。こいつらに任せるしかないだろ」


 訳知り顔で言う。

 …昨日ヘンドリック自身も散々反対してたのは黙っててあげよう。


「…分かったよ。──てことは、アタシの担当は残る2ヶ所のうちのどっちかだね?」

「ああ。出来ればレナとクレアと組んで行動して欲しいんだが、頼めるか?」


 これは単純に得意分野を考えた結果だ。


 ヘンドリックは片方が魔剣の双剣使い、フェイはナイフ持ちで風属性・地属性魔法が使える斥候役。この2人は元々パーティを組んでいて、素早い移動と探索を得意とする。

 一方レナとクレアは、魔法使いと回復術師。火力はあるが近接戦闘役──と言うか、壁役が居ない。


「ああ、構わないよ」


 ハウンドはあっさり頷き、レナとクレアがパアッと顔を輝かせた。


「ありがとうございます!」

「よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」


 この3人は以前から雑用係として親しくしているので、相性も問題なさそうだ。


「で、どっちに行けば良い?」

「一応、俺らが第3層の奥を担当しようと思ってる。第2層の方は現地で見た感じ、起伏は少なそうだったからな」


 レナとクレアは後衛なので、体力的にはどうしたって前衛より劣る。中級冒険者でまだ経験も浅いので、歩きやすい方をお願いするのは理に適っているだろう。

 …洞窟初心者が一番奥の縦穴に挑む是非については議論してはいけない。


 ハウンドたちが了承すると、私たちは早速探索の準備に掛かった。


 第1休憩所から人が居なくなるので、食料品は全て各個人に配布。ついでに、今朝作った鶏肉のハーブ焼きと焼き野菜をパンに挟んで防腐効果のある例の葉で包み、みんなに渡す。


「え、これ」

「お弁当。1食分だけだけどね」

「お前いつの間に…」

「…今朝おかずを余分に作ってたのは、このためだったのね…」

《計画的犯行ってやつだな》

「犯行言うな。小王国支部じゃ、お願いすれば料理人がみんなにお弁当用意してくれるんだから」


 これくらい普通だと主張したら、みんなの目の色が変わった。


「何それずるい」

「うらやましい」

「…アタシも小王国支部に移籍しようかねぇ…」


 わあ。お弁当1つでここまで釣れるか。


 …っていうか…


「…前から思ってたけど、小王国支部って、実は結構異質?」


 ぼそりと呟いたら、ヘンドリックが苦笑した。


「異質っつーか、変だな、変」

「変」

「ギルド長が当たり前の顔で冒険者に混じって討伐に出るし、登録冒険者全員がライバルじゃなく『仲間』とか『戦友』って認識だろ? 足の引っ張り合いもなけりゃ蹴落とし合いもないし、依頼の奪い合いもない」

「まあ人数が少なすぎるからね」


 みんなで手分けして仕事しないと依頼を全部片付けられないし、他人の足引っ張ってる暇なんかないのだ、ウチは。

 そう説明したら、ハウンドが変な顔になった。


「全部片付けるもなにも…依頼は()()()()()もんだろう? 選ばれない依頼は、条件が悪すぎるのさ。ウチの支部じゃ、いつまで経っても受注されない依頼なんて腐るほどあるよ」

「えっ。そしたら、受注されなかった依頼はどうなるの?」

「依頼人が報酬を規定の額より釣り上げるか、達成条件を緩くして再度依頼を掛ける。それか、個人的に冒険者と交渉するか、依頼そのものを取り下げるか…そんな感じさね」

「ええ…」


 頼んでもすんなりやってもらえない可能性があるわけか。それはちょっと嫌だなあ…。


 私が渋面を作ると、ルーンが私の肩に飛び乗り、訳知り顔でヒゲを震わせた。


《小王国支部も冒険者が多かった頃は似たような感じだったらしいぞ。けど、グレナがゴリ押ししてみんなに依頼を割り振ってたんだと。『仕事を選り好みするんじゃないよ! 四の五の言う暇があったら働きな、()()()()()()ども!!』ってな。それで、依頼は片っ端から片付けるようになったんだと》



 うっわあ、目に浮かぶわ…。







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