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145 調査資料と思わぬ弱点


「…これはまた…」


 エルドレッドに貰った大量の資料を改めて広げたら、何とも言えない呻きが漏れた。


 他の面子も似たような反応だ。レナは目を見開いてるし、クレアは絶句している。

 ヘンドリックが額に手を当てて、なるほどな、と呟いた。


「ヤツが一人で抱え込むわけだ。…意味が分からん」

「初見で投げ出さないでよヘンドリック」


 などと言ってみたものの、私も正直同じことを思った。意味分かんねぇ。


 資料自体は豊富にある。と言うか、膨大にある。

 第1休憩所のテーブルじゃスペースが足りなくて、急遽隣の──つい先程私が大暴れした場所に地属性魔法で大テーブルを用意しなきゃならない程度には多い。


 ちなみに、魔法でテーブルを作ってくれたのはレナだ。彼女は地属性と水属性の魔法が得意だそうで、岩でテーブルの形を作った後、水と鉱石粉末で表面をツルツルの真っ平らに磨き上げてくれた。ルーンも感心するレベルの器用さだ。


 で、その大テーブルに資料を片っ端から広げてみたんだけど…


「ええと…これが浅層の地図…浅層ってどこ?」

「こっちには『表層』っていうのがありますけど…」

「これは地図…じゃないわね。文字?」


 書かれてる内容も字面も全部バラバラ、時系列もバラバラどころかいつ書かれたのかも分からない資料を前に、私たちは頭を抱えることになった。


「何コレ。本当に全部ここの調査結果? ゴミと一緒くたになってない?」


 ミミズがのたくったような──いや、ミミズの水死体を適当に並べたような滲みまくりの線が書かれた紙を掲げて渋面を作ると、ヘンドリックがげっそりと呻いた。


「…よくある話だけどな…。調査メモなんか、自分が分かりゃ良いってモンだし。むしろこれだけの資料が残ってることに感謝すべきだろ」

「こんな資料なら無い方がマシだと思う」

「…言うなよ」


 いやだって、本当に『無い方がマシ』ってレベルだと思うよ?

 地図なんかどこか一部を切り取った感じだから使い物にならないし、メモ書きも字が汚すぎて何て書いてあるのか読めないし。

 正直、全部ゴミ判定したいレベルなんだけど。


《んー…そうだなあ》


 テーブルの上に飛び乗ったルーンが、ひとしきり徘徊した後、ちょいちょいと前脚で書類を示した。


《これと、これと、あと…あ、この地図。多分このへんが、エルドレッドが書いた最新版だな》

「ルーン、分かるの?」

()()がするからな》

「あっ」


 確信を込めたルーンの態度には理由があった。…まさかあのきっつい臭いが役に立つとは。


 ルーンが示した書類を抜き取って、レナが追加で作ってくれた別のテーブルに並べる。


「…わお」


 ピックアップされた資料は、他とは明らかに違っていた。


 まず、メモには全て日付が入っている。どれが一番新しいのか、ちゃんと分かる。

 地図の方はもっとすごい。1、2、3と階層分けしてそれぞれ別の紙に書かれていて、どことどこが繋がっているのかは記号で示されている。さらに赤い文字で注釈も入っている徹底ぶりだ。字も想像よりずっと綺麗だった。


「これ…本当にあの人が?」

「すごいわね…」


 クレアとレナが感嘆の溜息をつく。他の資料があまりにも酷いからっていうのもあるけど、これは本当に手が込んでるし、圧倒的に分かりやすい。


「…この資料を全部統合して作ったのかな、これ…」


 だとしたら、エルドレッドは鬼畜難易度の解読をやってのけたことになる。私がちょっと引いていると、ヘンドリックが重々しく頷いた。


「だろうな。足りない部分は自分の足で補完したんだろ。道理で的確な指示が出せるわけだぜ…」

「調査チームにとってのエルドレッドはそんな感じだったんだ?」

「ああ。根本的な仕事の割り振りとかやたら管理したがるところとか問題があったのは確かだが、調査の方はそれなりに動きやすかったな」


 まあ指示が出せる人が居るのは大きいよね。冒険者としては、自分で考えて行動しなくなるってことだから良し悪しだけど。


「そしたら、この地図と調査チームの経験を元に今後の方針を決めて行くのが良さそうだね。誰がどっち方面を調査する、とか」


 調査チームで共有してた情報があるんだから、それを活用した方が良いだろう──と思ったら、ヘンドリックとフェイは困った表情で顔を見合わせた。


「あー…それなんだが」

「?」

「俺ら、その時その時で指示受けて動いてただけで、全体像を把握できてるわけじゃねーんだわ」

「…地図も初めて見ました…」

「うわあ」


 そっか。そうだよね。ヘンドリックもフェイも地図見て驚いてたもんね…。


《そしたら、今ここで全員で確認すれば良いんじゃね? どーせ今日は調査に行く時間なんてないだろ?》

「そうだね」


 丁度、地図には色んな書き込みがある。全員で改めて地図を囲み──私は眉根を寄せて呟いた。



「ええと………現在地ってどこ?」


「オイ」



 ヘンドリックが半眼になる。


 いや、だって、地図上に北も南も書いてない上に複数枚あるんだよ? ぱっと見で分かるわけないじゃん。


「入口がここ、第1休憩所がここなので…今居るのはここですね」

「そうね」

「そうだな」


 フェイがあっさり指差し、レナとヘンドリックが平然と頷いたことで急に旗色が悪くなる。これもしかして、分からない方が少数派?


 困惑して視線を巡らすと、黙ったままのクレアと目が合った。クレアは訳知り顔で深く頷く。


「私も分からないので、レナに任せてます」

「クレアは昔から方向音痴だもんね。…まさかユウまでそうだとは思わなかったわ」

「うぐ」


 地味にグサッと来た。責める感じじゃなくて、妙に気の毒そうな顔してるから余計に。


 …仕方ないじゃん…現代日本人はカーナビとかスマホアプリとか、勝手に現在地が表示される文明の利器に頼りっぱなしなんだよ…。紙の、しかも手描きの地図なんて馴染みがないんだよ…。


 大体この地図、洞窟の構造だから立体を無理矢理平面に表現してるし! ランドマークもないし! 分からないよ!


 内心で言い訳してたら、ヘンドリックが変に感心した顔になった。


「お前、今までよく冒険者やって来れたな」


 応じたのはルーンだった。


《小王国は狭いから、地図なんて要らないんだよ》


 それに、と続ける。


《ユウが知らない場所に行く時は、大抵土地勘のある奴が一緒だったからな。人間は同行出来なくても、ケットシーがついて行ってたし。実地で道を覚えるから、地図が読めなくても問題ない!…とか思ってたんじゃないか?》

「うっ」


 くそう、ズバズバ図星を突いて来おって…。



 …ルーンがものすごく私のことを理解してくれてるって考えると嬉しいけど、何かフクザツ…!







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