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140 仕事の割り振り、おかしくない?


 それから数日、私は大人しく炊事その他雑用係として働いた。


 一緒に仕事をするのは全員女性だ。

 拳闘士のハウンドことポーリーンと、魔法使いのレナ、回復術師のクレア。

 男性陣が10人以上居るので仕事量はそこそこ多い。一人でやるわけじゃないし、慣れてしまえばそれほど大変でもないけど。


 ただし──気になることはいくつかある。


 例えば、その役割分担の内訳。

 初対面の挨拶だけであっさり仕事が割り振られた時点でお察しだけど、男性は調査、女性は雑用ってものすごく単純に割り振られてる。


 ハウンドなんか明らかにベテラン冒険者なのに、やっぱり初日に問答無用で雑用係にされたそうだ。


「アタシは男の連れと2人でパーティを組んでたんだが、それも無視されちまってね」

「え、じゃあそのお連れさんだけ調査に参加してるの? それで良いの?」

「心情的には良くないね。けどそれなりに実入りは良いから、金が貯まるまでの辛抱だと思ってるよ。…仕事が終わったら、シメる」

「わあ」


 男性陣の知らぬところで処刑が決まりつつあるパーティあり、


「…私たちのところはお試しでパーティを組んでここに来たんですけど…男の人たちだけで行動するのが楽しいみたいだし、パーティの正式結成はナシかなって。ね、レナ」

「勿論よ! あんなのこっちから願い下げだわ!」


 始まらないうちに崩壊してるパーティあり。


 別に私たちも、役割分担を否定してるわけじゃない。

 ただ、明らかに適性もなにも考えずに性別だけで仕事を割り振られていること、そして何より、雑用をこなしていることに関して、男性陣が()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが問題だった。


 最初は女性陣を気にする素振りを見せても、次第に()()()()()周囲に染まって行くらしい。集団行動あるあるだけど腹立つな。


 冒険者は『自分のことは自分でやる』のが基本だ。金も払わず感謝もせず、他人の作ったものを食い他人が管理する場所で寝るなんて、本来は有り得ない。


 …ちなみに、ヘンドリックとフェイには最初から他の男性陣に合わせるようにお願いしてあるのでノーカンだ。何かものすごく居心地悪そうな顔してたけど。


「エルドレッドに言わせると、『調査もせずに雑用だけで報酬が貰えるんだから調査してる俺らに感謝しろ』って理屈らしいが」

「え、女性陣を調査チームから外してんのってエルドレッド本人じゃん。どの口が言ってんの?」


 私がハウンドの解説に突っ込みを入れると、レナが大きく頷いた。


「そう! まさにそれ!」


 ダン!と力一杯肉塊に包丁を振り下ろす。危ないぞー。



 …などとフリートークで盛り上がれるのは、本日、エルドレッドは不在だからだ。


 ここ数日テントに籠って何かしてたけど、今日は朝から調査メンバーと一緒に奥へ向かった。


 結果、女性陣のテンションがすごい。

 夕食の準備をしながら話を振ってみたら出て来る出て来る、男性陣への不満や愚痴の数々。正直全部覚えていられる自信がない。メモ取りたい…。


「洞窟調査は報酬も良い分キツいって言われたから気合い入れて来たのに、蓋を開けたら毎日毎日掃除に洗濯に料理に買い出し! 私はメイドじゃないっつーの!!」


 レナが吼える。



 ──実はこの洞窟調査の仕事、他の依頼とはちょっと毛色が違う。


 普通の魔物討伐とかだったら、報酬は依頼を達成した時にしか貰えない。護衛の仕事の場合は前金で半額、終了時に半額ってケースもあるみたいだけど、基本は『成功報酬型』だ。


 でもこのロセアズレア大洞窟の調査は長期にわたっていて、何を『成功』と見做すのかはっきりしない。

 一方で、ギルドとしては調査を進めるためにとにかく人手を確保したい。


 そのため、この洞窟の調査に関しては成功報酬とは別に『定期報酬』が支払われる仕組みになっている。アルバイトみたいに調査への参加期間に応じてお金が貰えるのだ。

 分かりやすい成果がなくても結構な額の収入になるので、ギルドで取り扱う依頼としては、かなり美味しい。


 ただし…現在、その定期報酬をギルドから受け取ってみんなに分配しているのはエルドレッドである。


 しかもエルドレッドの判断で、食材や雑品の買い出し費用がその定期報酬から天引きされている。

 雑用係の女性陣の方が差っ引かれる額が多いそうだ。食べる量は野郎の方が多いのにどういうことだろうな。


 もうね…レナがキレるのも当然というか。


 しかも、おかしいポイントはこれだけではないのだ。



「──ああ、帰って来るね」



 その呟きに、私たちは一斉に口を噤んだ。


 ハウンドは気配に敏い。声も聞こえないくらいの距離でも、人や魔物の気配を感じ取る。


 ちなみにこの洞窟の中は魔素濃度がかなり高いので、魔力の波で地面の中の構造や生き物の存在を探知する『振動探査(エコーロケーション)』のような魔法は役に立たない。魔力がそこら辺で全面反射してしまうんだそうだ。


 だからこそ、地道に足で探索するしかないんだけど──



「──戻ったぞ」



 素知らぬ顔で黙々と食事の支度をしていると、奥の方からぞろぞろと男性陣がやって来た。

 泥汚れを落とそうともせずに、思い思いに椅子や地面に腰を下ろす。


「あー…、今日も疲れた…!」

「腹減った!」

「メシはー!?」


 その様子は、家で全く家事をしない『自称・大黒柱』の帰宅さながらだ。せめて手を洗え。


「なあ! メシ!」

「準備中だよ、ラグナ。待ってな」


 ハウンドが顰め面で応じると、ラグナと呼ばれた男性冒険者は一瞬怯む。

 彼がハウンドの言っていた『借金して魔剣を買った連れ』だ。背負っている御大層な装飾のある長剣が例の魔剣だろう。


(文字通り『借金背負(しょ)ってる』んだよね…)


 自分が原因でここに来ているわりに態度がデカいのは、エルドレッドの影響だろうか。典型的なダメな例だな。



 それから程なくして、夕食の準備が整った。


 なお男性陣はダラダラするばかりで、配膳に協力すらしていない。

 ヘンドリックとフェイは初日に手伝おうとしてくれたんだけど、エルドレッドに『男はそんなことするな』と止められた。『そんなこと』ってどういう意味だろうな。


 エルドレッドが当たり前の顔でテーブルの上座につき、エールの入ったジョッキを掲げた。


「──今日もご苦労だった! 乾杯!」

『乾杯!』


 同じくテーブルについた男性陣が、とても楽しそうに応じる。


 その前に並んでいるのは、鶏の丸焼きにローストポーク、ベーコンにハムにソーセージに干し肉──紛うことなく、全部肉である。あと、端の方にチーズが少し。


 野菜?

 あるよ。炊事場の端に集まってる女性陣の前に、トマトベースのラタトゥイユっぽいやつが。


 雑用係は同じテーブルにつくことすらないんだってさ。まああのほぼ肉オンリーの宴に参加したいとも思わないけど。


 エルドレッドは野菜が嫌いらしい。『探索チームの食事は肉に決まってるだろ』とか何とか。

 以前野菜を食べるように言った人が居たけど実力行使で黙らせたそうだ。馬鹿馬鹿しいことに。


 で、女性陣がさじを投げた結果、男性陣はひたすら肉、女性陣はそれなりにバランスの取れた食事って感じで見事に分かれたと。


 たまに野菜を求めて一部の男性陣が流れて来るけど、エルドレッドの機嫌が悪くなるからそんなに頻度は高くない。好きに食べれば良いのに、何で食事内容まで管理しようとするかな。


「ユウ、パンはどうする?」

「じゃあバゲットで──ありがとう」


 ハウンドから軽くトーストしたバゲットを受け取り、ラタトゥイユっぽいものをたっぷり乗せて頬張る。うん、美味しい。


 野菜だけじゃなくて鶏肉とベーコンも入ってるから、これだけでおかずは十分だ。とろけたチーズを乗せたらさらに美味しいんだろうけど、チーズは男性陣の酒のつまみで消えるのでこちらには回って来ない。


(…買い出しの時に自分たち用のチーズ、こっそり買って来ようかな…)


 洞窟内で生鮮食品を使った料理が食べられるのは、女性陣が交代で街まで買い出しに行っているからだ。4日に一度、乗合馬車を使ってロセフラーヴァの街に行き、食材や物資を買って来る。


 その代金は一応エルドレッドが出していて、後で全員の定期報酬から差っ引かれるというわけだ。

 よく出来た仕組みだけど、正直そこまでして全員を管理下に置く意味が分からない。まるで全寮制の会社みたいだ。


 冒険者なんだし、自分のことは自分でやる、で良いと思うんだけど。


 あと、肉ばっかり食べて野菜を食べないでいると、そのうち栄養失調で倒れるんじゃないかな。

 ここの調査を長期間やってくれる人が居ないのって、食生活のせいで体調崩す人が続出するからじゃないの?






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