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129 今後の方針


「──さてそうなると、今後の方針だが」


 グレナが話題を戻す。


「目下の問題は、あの王太子がユウに興味を持った場合、変に暴走する連中が現れるかも知れないってことだね」

「変に暴走っつーと…」

「それこそ、王太子の第二妃にしようとするとかな」

「えっ」


 ギルド長の言葉に、サイラスが顔を引き攣らせる。


「城の崩壊待ったなしじゃないですか」

「それな」

「やばいな」


 そこ、同調するんじゃない。否定はしないけど。


「で、でも、本当にそんなことが起きるんでしょうか? 王太子殿下は、正妃も息子さんも居ますよね?」


 イーノックが首を傾げる。私も取り越し苦労で済むならそれが一番良い。

 でも、


「…残念ながら、その可能性が一番高いね。息子は居るが、一人だけだ。『第二妃を娶るなりなんなりして子どもを増やして欲しい』とか言ってる側近も多いからね」


 グレナが溜息と共に呟くと、ギルド長が目を見開いた。


「えっ、それオレは知らないぞ」

「あんたはもう少しお(かみ)を気にしな。ギルドは国とも関わるし、なによりあんたの()()だろうが」

「ハイ」


 グレナに説教されたギルド長がスン…と真顔になる。これは内心、物凄く嫌な顔をしてるな…。


「ここで取り得る選択肢は3つだ」


 グレナが指を1本立てる。


「その1、求婚されないことを期待してこのまま生活する」

《自分で可能性が高いとか言っといてそれか》

「王太子からの求婚がなかったとしても、他の貴族は今まで通り来そうですよね…」

「まあそれは否定できないね。──その2、とりあえず他国へ逃げる」


 指が2本立ち、


「取り急ぎユライト王国へ行けば、少なくとも貴族連中からは逃げられるだろう?」

「貴族が他国へ出る場合、手続きが面倒だからな」

《でもそれ、根本的な解決にはならないよな? 追手が掛かりそうだし》

「まあね。──そこで、選択肢その3だ」


 3本目の指が立ち、グレナがにやりと笑った。



「特級冒険者を目指す」



 ──特級冒険者。


 『上級』と呼ばれるAランクのさらに上、『Sランク』の冒険者のことだ。

 ただ登録するだけのAランクまでの冒険者と違って、『ギルド本部が直接雇う冒険者』って立ち位置になる。


 何より特筆すべきは、その()()()。特級冒険者は『ギルド以外のあらゆる権力から守られる』。

 例えば、どこぞの国のトップが特級冒険者に命令しても、その命令を受けるかどうかは本人次第。断っても罰則は適用されない。

 特級冒険者には『ギルド本部からの命令に従う』義務はあるけど、それ以外の組織に従う義務はないのだ。個人に適用される治外法権みたいな感じだろうか。


 そんな無茶が通用するのは、冒険者ギルドが国を跨いで活動する世界規模の組織だからだろう。

 『ウチの身内に無茶振りするならおたくの国に置いてる支部、全部撤退するけど』みたいな脅しが出来るわけだ。


 確かに特級冒険者になってしまえば、小王国の貴族も王族も直接手を出せなくなる。


 ただし実際になれるかと言うと…


「…特級冒険者って確か、国を救うくらいのものすごい活躍をして、ギルドの上位者が複数人推薦してくれないとなれない地位ですよね…?」


 私が首を傾げると、デールとサイラスは顔を見合わせる。


「この前の首都防衛戦の実績じゃダメですかね?」

「あれはマグダレナ様とかグレナ様とかロセフラーヴァのみんなとかこの街の人たちとか全員で協力し合って何とかしたんだし、一人の功績には出来ないんじゃないかな」


 大きな事件だったのは間違いないけど、『私が』特級冒険者に昇格する理由にはならないと思う。


 そもそもSランクは、狙ってなれるようなもんじゃない。

 大きな功績を上げるってことは、大きなトラブルに巻き込まれることとほぼ同義だ。そんなの、意図的に遭遇するのはまず無理じゃないだろうか。


 私はそう思ったのだが、グレナはニヤリと笑って親指で自分自身を指差した。


「なに、そんな難しい話じゃないさ。実際私も、()()()()()()だからね」

『えっ!?』


 目を見開くと、ギルド長が重々しく頷いた。


「本当だぞ」

「小王国の『焦熱の魔女』と言えば、ユライト王国でも有名な特級冒険者だな」


 ジャスパーも訳知り顔で頷く。

 そういえば、小王国出身の若手は驚いてるのに、ジャスパーとキャロルとイーノックは平然としている。知ってたってこと?


「確か小王国じゃなくて、ユライト王国での活躍で特級冒険者として認められたのよね」

「ああ、そうさね」


 グレナは現役時代、ユライト王国の支部で活動していたことがあった。

 その時、ある地方で発生した魔物のスタンピードを1人で殲滅(せんめつ)し、さらに周辺を調査して原因を割り出し、再発生を防いだ。その功績を認められて特級冒険者になったそうだ。


(…1人で殲滅…)


 グレナならやる。きっとやる。

 多分、その時に辺り一帯を焼き焦がして『焦熱の魔女』って呼ばれるようになったんだろう。


 私がそっと明後日の方向に視線を向けていると、グレナが腕組みした。


「私が特級冒険者になれたのは、ただスタンピードを単身で蹴散らしたからじゃない。その後の原因究明、再発生を未然に防いだことが大きいのさ。そういう意味じゃ、特級冒険者になるための要件はそこら辺に転がってるんだよ」

「え、そんなにあるんですか?」

「ああ。例えば、未開の地域の調査や危険な魔物の討伐方法の確立、要人警護の実績の積み重ね──そんなことでも特級冒険者になれる」


 ただ魔物を倒せば良いってわけでもないらしい。

 逆に難しい気がするんだけど…


「…未開の地域なんて、そこら辺にあります…?」

「ここから一番近いのは、ロセフラーヴァの街の南西にある『ロセアズレア大洞窟』だね。あそこは構造が複雑で魔物も多い。ロセフラーヴァ支部の冒険者が調査しちゃいるが、まだ全部は探り切れていないはずだ」


 意外と近くにあった。

 確かに洞窟だと、探索するのにも限界があるよね。元の世界でも『洞窟探検家』なんて人たちが今も探索してるくらいだし…。


「──まあ、特級冒険者を目指すなら、どっちみち国外に出る必要はあるね」

「え」

「この国じゃ、魔物の出現も固定されてるし未開の地なんてないだろう? 要人警護の依頼も、小王国支部には来ないからね」


 この国のお貴族様はあまり国外に出ない。そして、国内に留まっている限り護衛役は私兵で足りる。

 魔物の大量発生も、この前みたいに誰かが阿呆な行動を取らない限り起こらない。


 グレナの指摘に、ギルド長が頷いた。


「確かに、この国じゃ望み薄だろうな。せめてユライト王国に行くとか──貴族連中や王太子の取り巻きから逃げるって意味でも丁度良いだろ」


 物理的に距離を取って煩わしいお貴族様からの求婚をシャットアウトしつつ、根本的な解決のために特級冒険者を目指す。


(なるほど)


 ようやく出て来た具体案に、ちょっとだけ視界が拓けた。


 特級冒険者になったら『ギルドの命令には従わなきゃいけない』ってのが引っ掛かるけど…上の方にはマグダレナも居るし、どこぞのブラック企業みたいな変なことにはならないだろ、きっと。

 …()()じゃないぞ。



「──分かった。私、特級冒険者を目指すよ」



 そして国家権力を蹴散らせる立場を手に入れる。


 私の決意に、仲間たちは苦笑しつつも頷いてくれた。






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