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127 噂のヤツの帰還


 数日後。


 久しぶりに魔物の討伐依頼をこなして街に帰って来ると、門から大通りに掛けて人だかりが出来ていた。


「なんだあ?」


 デールが眉を寄せる。人だかりを作っている住民の一人が、こちらを見てあっと声を上げた。


「あんたたち、早く道を開けな!」

「?」

「王太子殿下がもうすぐ帰って来るんだよ!」

(ゲッ)


 おばさんに手招きされて、私たちは大人しく人混みを抜け、大通りの端、一段高くなっているところまで寄る。サイラスとデールは大柄だし前に立たれると邪魔だからか、みんなすぐに道を作ってくれた。


「予定より早かったな。馬車が張り切ってんのか?」


 サイラスが呟く。ジャスパーが周囲を見渡して苦笑した。


「予想以上の人気だな…」

「当たり前よ、この国の王位継承者だもの」


 キャロルは若干呆れた顔をしている。


 ケットシーたちの情報網では今日の夕方帰還予定とのことだったが、時間が早まったらしい。

 騎士団の騎士や兵士たちが大通り沿いに等間隔に並び、群衆の交通整理をしている。『勇者』と『聖女』の見物客以上の人だかり。まあ相手は王太子だしね…。


 昨日、迎えの馬車が国境の関所に向けて出発するのを見たが、馬車の護衛だけで騎士団の半数が出動したんじゃないかってくらいの大所帯だった。


 ちなみにギルドの仲間たちには、私とギルド長とルーンが『王太子』を警戒しているのは伝えてある。

 けど、ギルド長はスキル『カリスマ』についてはみんなに伝えていない。本当は秘密にしておくべき案件なんだそうだ。


(私は知って良いのかって話だけど…)


 そこは深く突っ込んではいけないんだろう、きっと。


「さっさとギルドに帰って依頼達成の報告しよう」

「そうだな」

「ええ」


 私の提案にジャスパーとキャロルはすぐ頷いたが、デールとサイラスは若干躊躇う素振りを見せた。王太子のことが気になっているらしい。


「デールさん、サイラスさん?」


 シャノンが首を傾げる。

 この子は王子様に興味なさそうだな…。まあ『王子様』っつっても、御年40前後の妻子持ちのオッサンだけど。


「早く行きましょう」

「あ、ああ…」


 サイラスが足を踏み出し掛けたところで、門の方でわあっと歓声が上がった。


 みんなの視線に釣られて振り返ると、全開になった大扉からオープンタイプの豪華な馬車が入って来るところだった。国境への迎えの馬車は箱馬車だったから、街の外で乗り換えでもしたんだろう。ご苦労なことだ。


「王太子殿下ー!」

「ジークフリード殿下!」

「おかえりなさいませ!!」


 みんな、その豪華な馬車に乗った人影に向かって手を振っている。


 馬車の背がかなり高いので、人混みの後ろからもその姿がよく見える。

 馬車に乗っているのは、金色の髪の男性だった。遠目でも何となく整った顔立ちだと分かるあたり、流石はあの残念イケメンことギルド長の兄だ。髪色が違うからかなり印象は違うけど。


 近付いて来るにつれて、歓声も大きくなって行く。顔がきちんと視認できる距離になると──突然、()()()()()()()()()()()()()


(…!?)


 何か、静電気みたいなモノが前から後ろへ通り抜けて行ったような…奇妙な感覚。


 近付いて来た王太子は、少し困ったように眉を寄せつつ笑顔を浮かべていた。整った顔立ちだけど、気弱そうな表情のせいかギルド長と血の繋がりがあるようには見えない。


「ジークフリード殿下ー!」

「おかえりなさいませ、王太子様ー!」


 群衆の熱狂は最高潮に達していた。声で耳が潰れそうだ。ライブ会場かな。


 周囲を見渡すと、みんな熱に浮かされたような表情になっていた。大声を上げている人も黙っている人も一様に王太子を見詰め、涙ぐんでいる人までいる。そして──辺り一帯に、妙な気配が漂っている。



 ──スキル『カリスマ』。



 ギルド長の言葉が脳裏をよぎり、ただでさえ全身に鳥肌が立っているのに、さらに背中に悪寒が走った。


(まさか…)


 咄嗟に仲間たちを確認する。


 シャノンは何だか戸惑いがちな表情を浮かべていて、キャロルもどことなく警戒の面持ちだ。この2人は平気そう──と言うか、多分スキル『カリスマ』を感知して逆に王太子に対して警戒心を抱いていると見た。良かった、私だけじゃなかったか。


 だが──


「…おお…」

「…」

「……」


 デールとサイラスとジャスパーの視線は、王太子に釘付けになっていた。


 表情がヤバい。瞳孔が開いて、焦点が合ってるようで合ってない。周囲の人たちと同じように、王太子以外が目に入らなくなっている。


 ──王太子の馬車が去って行っても、3人はその場に棒立ちになっていた。


 その頃になるとシャノンとキャロルも彼らの異変に気付いていた。が、3人があまりにも呆然としているので、どう声を掛けたら良いのか分からないようだ。


「デール、サイラス、ジャスパー!」

『!』


 私が声を上げると、3人がビクッと背筋を伸ばす。


「ほら、ギルドに戻るよ!」

「は、はい」

「すんません」

「分かった…」


 まだ夢見心地のようだ。言動にキレがない。


 頭痛を覚えながらギルドに戻ると、苦い顔をしたギルド長ときょとんとしているエレノアが待っていた。


「帰ったか。…で、見たな?」

「見た」

「被害は?」

「デールとサイラスとジャスパー。シャノンとキャロルはセーフ」

「……大体予想通りだな」


 ギルド長と渋い顔で言葉を交わす。


 キャロルは本職の魔法使い、シャノンはマグダレナが直々に弟子にする程度には才能のある魔法使い兼回復術師。この2人は大丈夫だとギルド長も踏んでいたらしい。

 なお私は最初から心配されていない。私の魔力量は、ギルド長を軽く上回るんだそうだ。自分では使えないけどね。


 一方いきなり名を挙げられたデールとサイラスとジャスパーは、困惑したように眉を寄せている。多分、自覚がないんだろうけど──


「姐さん、どうしたんですか?」

「…デール、王太子を見てどう思った?」

()()()()()()()()()!」


 デールがぱあっと笑顔になった。



「俺らももっともっと頑張って、王太子殿下のお役に立たないと! ですよね、姐さん!?」


『…………』



 ギルド長が苦虫を噛み潰したような顔をして、シャノンとキャロルとエレノアが唖然としている。

 一方で、サイラスとジャスパーがデールに同調して深く何度も頷いているあたりがもう……どうしよう、頭痛がする。


 直後。



「なーに寝惚けたこと言ってんだい、阿呆ども!」


『!?』



 バーンとドアが開いたと思ったら、『カリスマ』で魅了状態になっている3人が火柱に包まれた。


「ぐ、グレナ様!?」


 燃える、燃えるって!


「落ち着きな。見た目はアレだが、消し炭にするような魔法じゃないよ」


 入って来たグレナが杖を一振りすると、炎は一瞬で消えた。本当に燃やす目的の魔法ではなかったらしく、本人たちにも周囲にも焦げ跡一つ無い。


『……』


 一同が呆然とする中、グレナがデールの頭を杖でゴツンと叩いた。


「だっ!?」

「で、王太子が何だって?」

「へ? いや、だから、王太子殿下のお役に………あれ?」

「城に勤めてるわけでもないのに、ご奉仕が必要だってのかい?」

「……いえ……要らないっス、ね……?」


 デールが心底不思議そうな顔で首を傾げた。


 先程までの夢見心地な雰囲気が消えている。完全に、元に戻った。


(良かった……)


 私が内心で胸を撫で下ろしていると、ギルド長がだはー……と長い溜息をつく。

 グレナが半ば呆れたような顔で肩を竦めた。


「スキル『カリスマ』の魅了状態は、()()なら強いショックを与えれば解けるんだよ」



 つまり殴れば良いってことですね、分かりました。







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