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124 首都防衛戦の功罪

2024/8/3追記:前の話と同じく、第2章として構成し直しました。中身は『小話(2)』として置いてあったのと同一です。ご注意ください。


 魔物大量発生事件から、半年──



 小王国は、ようやく元の姿を取り戻しつつあった。


 石壁の修復が終わり、農村の住民たちはそれぞれの村に帰り──家が壊されてしまった世帯は親戚やご近所の家に身を寄せているらしいので、完全に元通りってわけじゃないけど──田畑の復旧も、水牛たちの活躍で8割方終わったらしい。今は次の作付けに向けて、準備を進めているそうだ。


 一方で、私たち冒険者ギルド小王国支部は、大きく変わりつつある。


 まず、所属する冒険者が増えた。ロセフラーヴァ支部から、ジャスパーとキャロルが移籍して来たのだ。曰く、『こっちの方が面白そうだから』らしい。

 希望者は他にも居るそうだが全員上級冒険者で、希望通りにするとロセフラーヴァ支部での新人教育業務が滞るため、マグダレナが色々調整中らしい。…そんなに来ても仕事にあぶれると思うんだけど…。


 マグダレナはまだロセフラーヴァ支部の支部長代理として仕事をしている。今、後任の教育中だと言っていたから、そのうち本部に帰るんだろう。


 私とデールとサイラスは、上級冒険者──Aランクに昇格した。

 私は純粋に首都防衛戦の功績。デールとサイラスは、防衛戦後の復旧作業で討伐以外の依頼をこなしたのが特に効いたらしい。

 2人は『器じゃないです!』と固辞しようとしてたけど、ギルド長と私で押し切った。私だけ昇格して変に目立ってたまるか。


 シャノンはCランクに昇格した。あっという間に新人ではなくなって、シャノンは驚いてたけど…首都防衛戦での活躍を考えたら当然だと思う。

 そのシャノンは先月、マグダレナのところでの修行を終えて帰って来た。母親のノエルも一緒だ。仕事仲間が復帰して、エレノアが喜んでいた。


 イーノックは冒険者を辞めた。と言っても、故郷に帰ったとかではない。小王国支部の正規職員──正式な料理人になったのだ。

 首都防衛戦の時、みんなの戦いを食事面で支えた経験が後押しになったらしい。『俺にはこっちの方が向いてるんだなって実感しました』と照れ笑いしていた。



 そして私は──最近、()()()()()()()()



「──で、あるからして、其方を我が息子の第2夫人として迎え入れてやろうということになった。平民が伯爵家に入るなどこの上なく名誉なことだ。感謝し」


「お断りします。お引き取りください」



 心の底からどうでもいい演説を途中でぶった切り、私は平坦な声で言い放つ。


 ギルドの受付ホールのテーブル。やたら派手で明らかにこの場にそぐわない偉そうな男の声がピタリと止む。


 数秒固まった男──本人の言い分を信じるなら、お偉い伯爵家のご当主様は、数秒硬直した後、は?と呻いた。


「今、なんと申した?」

「お断りします。お引き取りください」


 先程と全く同じ抑揚で答える。

 もはやこのやり取りが面倒臭い。この後の反応が大体予想できるからなおさらだ。


「なっ…き、貴様、自分の言っていることが分かっているのか!? この私の誘いを断るということは、伯爵家を敵に回すということだぞ!?」


(今回は逆ギレか)


 うん、その反応、見飽きた。乾いた笑いが出そうになるのを何とか堪える。


 そう──この手の誘い、これで何と1()5()()()だ。そりゃあ飽きもする。


 首都防衛戦で変に目立ってしまったのがいけなかったらしい。ここ1ヶ月ほど、2日に1回くらいの頻度で富豪やお貴族様がやって来るようになった。

 後ろ盾に養子縁組、そして結婚の要求。親切めかしたお誘いはどう考えても下心満載だ。


(…沙羅と会う夢を見てから、結構気持ち良く仕事してたんだけどなあ…)


 思わず思考を明後日の方向に飛ばしてしまう。


 首都防衛戦から少しして、禁足地で石碑を建てた後、不思議な夢を見た。

 夢と言うか…多分夢ではなかったんだろうけど。妹の沙羅と会って、話が出来た。

 記憶にあるのと変わらないオリエンタル美女は、相変わらず気が強くて、相変わらず愛情深くて、涙もろかった。


 もう会うことはないと思っていたから、翌朝目覚めた時は──少し寂しかったけど、とても幸せだった。…んだけども。


 何かもう、ここ1ヶ月の無駄なお声掛けがね…私のやる気と時間と精神力を見事に奪って行ってるわけですよ…。折角順調に仕事してたのに。


 不幸中の幸いは、自宅まで来る人は居ないってことだろうか。まああっちは完全に下町だから、富豪もお貴族様も近寄りがたいんだろう。


 ギルドに来てる連中は曲がりなりにも『お客様』なんで、一応きちんと話は聞くようにしてる。

 普通の依頼人ってケースもあるからね。こういう、依頼人のフリした阿呆ってケースが大多数だけどね。


「伯爵家を敵に回すのを承知の上でお断りしてますが、何か問題がありますか?」


 相手の言葉をなぞるように答える。今まで散々この手のお誘いを断って来たんだし、今更1件2件増えたところで変わらない。


 平然としている私が気に入らなかったんだろう。自称伯爵家ご当主様は顔を真っ赤にしてこちらに指を突き付けて来た。


「問題ないわけがなかろう! 貴様、男爵子爵ならともかく、伯爵家の命令を無視するなど──」


 いや、命令だったんかい。

 私が内心で突っ込んでいると、背後から声がした。



「ユウ、()()()()()



 瞬間、私はこちらに突き付けられていた男の右手人差し指を掴み、()()()()()()()()()()ちょっとだけ力を込める。

 途端に男の顔色が変わった。



「いっ…!?!?」



 目を剥いて顔を歪め、腕どころか上体まで斜めに倒していく男。うんうん痛いよねー、分かる。

 『剛力』は使わないように気を遣ってるから、折れるところまではいかないと思うけど。

 代わりに私は、ゴリッとした笑顔を男に向けた。



()()()()()()()()()()()()


「…っ!?」



 パッと指を開放すると、男がガタンと椅子から転がり落ちる。背後に控えていた男の従者が慌てた様子でそれを助け起こした。

 指掴んだ時はいきなりすぎて対処出来てなかったね。こんなところにも平和ボケした小王国の残念ポイントが…あーあ。


「貴様っ…!」


 自称伯爵家ご当主様が顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けた直後、カツコツと足音が近付いて来た。



「──ウチの所属冒険者にちょっかいを出すのは、そこまでにしてもらおうか」



 艶やかな黒髪に紫紺の瞳のクール系イケメン、ギルド長ことカルヴィン。中身は片付けられない男筆頭の残念美形だけど、こうして真面目な顔でマトモなこと言ってるとかなりの迫力がある。


 …あ、チラッと睨まれた。また変なこと考えてるってバレたか。チッ。


「か、カルヴィン殿下…!」


 男が色を失った。王位継承権を放棄したとはいえ、王族には違いない。流石にギルド長の前で居丈高に振る舞ったりは出来ないんだろう。


 ギルド長が眉を寄せて男を睨み付ける。


「わざわざオレが不在の間に訪ねて来るとはな…。上役さえ居なければ何とかなるとでも思ったか?」

「そ、そんなことは…!」


 男は必死に弁明しようとするが、ギルド長が城に呼び出されている間にギルドに来て私を呼び付けたのは事実だ。言い逃れは出来ない。


 ギルド長は鼻で笑って、私の肩に手を置いた。



「オレが戻って来たことに感謝するんだな。あと2、3分お前の独演会が続いてたら、こいつの拳がお前と従者の顔面に叩き込まれてたところだぞ」


「っ!」



 男と従者がビクッと肩を揺らして私を見た。私は咄嗟に平然とした表情を作り、ギルド長に抗議するのを堪える。


 …否定はしない。しないけど、初対面のこいつらにまで私が『面倒になったら暴力を振るうバイオレンス系冒険者』だって思われてるのが解せない。

 あと、そんなにビクついてるのに何で自分の息子と結婚させようとしてんの。一族の利益にならないでしょ、絶対。


 数秒後、男は従者の手を借りて何とか立ち上がり、引きつった顔でギルド長に向き直った。


「…あ、貴方がそこまで言うのなら致し方ありませんな。ここは潔く退くとしましょう」


 どこらへんが潔いのか、ちょっと問い詰めたい衝動に駆られたが。



 こうして通算15件目の『招かれざる訪問客』は、逃げるように退散していった。







こちらも『続き』のつもりでしたが、現状『小話』になります。

本当に申し訳ありません…!

ちょっと頭の中練り直して+叩き直して来ます。ぬおおお…!(←謎の気合いを入れる声)


2024/8/3追記:やっと続きが書けました。みなさま、大変ご迷惑をお掛けしました…!

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