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123 夏の夜の夢

みなさま、レビュー、評価の☆、ブックマーク、いいね等、ありがとうございます!

おかげさまでジャンル別日間ランキング(ハイファンタジー)1位になりました!


2024/8/3追記:第2章の第1話として構成し直ししました。中身は『小話(1)』として置いてあったものと同一です。ご注意ください。


「あれ…」



 目を開けたら、真っ白な空間に立っていた。


 全然知らない場所なのに、不思議と恐怖は感じない。ああこれは夢だな、とすんなりと理解する。


 だって、向こうに会えるはずのない相手が立ってるから。

 最初は豆粒くらいの大きさだったその人影は、どんどん大きくなり──



「──お姉──!!」


「うゴフッ!?」



 真っ正面から突進されて、変な声が出た。


 抱き付くと言うより全力体当たりと言うか…相変わらずだなぁ…。


 とりあえず、首が締まるから抱き付くのやめて。苦しい。夢で窒息したくない。


「ギブギブ」


 ポンポンと首を締め付ける腕を叩いたら、何故か余計に力を込められた。ぐえっ。


(身長差があるんだけどなあ…!?)


 相手の方が背が高いので、抱き付かれると丁度腕で首を絞められるのだ。姉としては羨ましいやら悔しいやら。忸怩(じくじ)たる思いってやつだ。


 ──そう、『姉』。つまり、目の前に居るのは、


「沙羅…姉を絞め殺そうとするんじゃない」

「……」


 何とか声を絞り出すと、ようやく解放される。相手はものすごく不満そうな顔をしてるけど。


「…お姉がいつも通りすぎる」

「まあね」


 私の2つ下の妹、沙羅。


 妹と言っても、身長は私より高いし顔も童顔じゃない。私は母似、沙羅は父似で、童顔低身長の私に対して、沙羅は身長高めのオリエンタル美人。2人並ぶと必ずと言っていいほど沙羅が姉だと思われる。

 本人はそれが大層気に入らないらしく、よく勘違いした相手に食って掛かっていた。


 今となっては、そんなことも懐かしい。


「…随分都合の良い夢だなあ…」


 私がしみじみと呟いたら、沙羅が渋面を作った。わあ、リアル。


「夢じゃないよお姉。いや、夢は夢なんだけど」

「え?」


 夢だけど、夢じゃなかった的な? 何か妖精っぽい生き物が関与してるやつ?


「土地神を脅は……拝み倒して、この場を作ってもらったの」


 今『脅迫』って言った。


 え、土地神を? 土地神って、神ってついてるくらいだから神様だよね? どういうシチュエーション? うちの妹って、そういうこと出来るタイプだっけ?


 …性格的には普通にやりそうだけど。


「ええと…どういうこと?」

「言葉通りの意味だよ」


 ああうん、言葉通りの意味ね。…いや、意味が分からないよ?


 私が盛大に首を傾げていると、沙羅はちょっと苛ついたように眉を寄せた。


「そっちは別にいいの。私がやりたくてやったことだから。『ああ、何かやったんだな』って思っててくれれば」


 あ、ハイ。


「問題はお姉の方でしょ。何、異世界に召喚されて帰って来れなくなりましたって。あの馬鹿正気なの?」

「ああ、あの阿呆に会ったんだ」

「会った。何かすっごい豚みたいになってたしギャースカうるさくてホントに豚かと思ったけど」


 うん、それは間違いなくあの阿呆だな。無事にあっちに戻れたようで何より。…まあ本人的には全然『無事』じゃないんだろうけど。


「被害者面して『優に騙された』とか言ってたから、お姉のスマホに残ってた動画見せて『騙してたのはお前だ浮気野郎、姉をどこへやった』って警察官の前で詰め寄ってやったわ。その後は改めて取調室に引きずられて行ったからどうなったかは知らないけど」


「うわあ…」


 阿呆2人は空き部屋になっていたアパートに転移して、見事不法侵入で逮捕されたらしい。隣の部屋の住民が通報してくれたそうだ。 

 揃って行方不明になって隣の部屋にも警察が情報収集に来ていたから、住民は神経を尖らせていたらしい。何かごめん。


 しかし流石は沙羅、容赦ないな。

 小学生の頃に友だちをいじめてた男子の『将来の夢』の作文を校内放送で垂れ流して『こんなこと言ってるけどこいついじめっ子です』って告発しただけのことはあるわ。


 ちなみにその後、沙羅は男子児童に集団で詰め寄られていたので私が連中のボディを一発ずつ殴って返り討ちにした。

 当時は私の方が沙羅より大きかったんだよね。小学生の2歳差って大きいよね。


 なおその件に関しては、両親に『やり過ぎだ、だがよくやった』とよく分からないお説教をされた。


 閑話休題。


 そんな沙羅なので、警察官の前で阿呆2人を追い詰めるくらいは平気でやるだろう。


 聞けば、アパートの賃料が振り込まれていないという連絡がうちの父に入ったのは、私たちが召喚されてから半月ほど後。メールも電話もSNSもその他連絡手段も繋がらない状況を異常と判断して、翌日には父と沙羅がアパートの管理会社とオーナーに連絡し、管理会社立ち会いのもとで部屋に踏み込んだ。


 結果、部屋の中に広がっていたのは、靴や荷物や生活用品がそのまま残り、スマホさえ床に落ちているのに人間だけが居ないという異様な光景。

 沙羅はその場で私のスマホを充電し、残されていた動画を確認して即座に警察を呼んだ。


「お姉のスマホの動画見た時点で()()()()()()ってのは分かったし、正直警察はアテにならないと思ったんだけど」


 例の召喚直前の様子を撮影していた私のスマホは、その動画を自動保存した状態で電源が落ちていたそうだ。

 一応、パスワードでロック掛けてたんだけど…まあ沙羅には一発で突破されるよね。パスワード、実家の住所の一部だし、何回かロック解除するの沙羅に見せてたし…。


 ちなみに、動画はあの阿呆2人がベッドから出て来るところから私に罵詈雑言を浴びせるところ、さらには『出て行くのはお前らの方だ』と私に言われて狼狽えだすところまでバッチリ映っていたそうだ。

 最終的に、私の深い溜息が聞こえたところで画面が真っ白になり──光がおさまると天井が映って、そのまま終わっていたらしい。完全にミステリー動画の類だな。


 スマホは一旦警察に押収され、動画に映っていた男女──空人と美海も行方不明だということが分かり、一時は私が住んでいた地域でもちょっとしたニュースになったらしい。地方紙の端っこに記事が載ったそうだ。


 とはいえ、それも一時的なもの。


 それ以降、全く進展のない事件に世間の目が向くこともなく。

 警察は一応捜索を続けていたらしいが、最も有力な手掛かりが『ピカッと光ったと思ったら全員消えた』だ。探しようがないだろう。


 結果、『夫婦と夫の浮気相手、3人同時行方不明事件』は、3ヶ月もすると人々の話題にのぼることもなくなった。



 一方、沙羅は全く違う方面からのアプローチを試みていた。


 実家の近くにある古い神社を訪れ、そこの祭神──『土地神』に『姉に会わせろ、せめてどこに行ったのか教えろ』と毎日念を送っていたそうだ。


 …意味が分からない? 大丈夫。私も意味が分からない。


 とにかくそれを毎日続けていると、失踪から推定半年経った頃、突然警察から『空人と美海が見付かった』と連絡が入った。

 沙羅は即座に警察を訪れ、日本らしからぬ衣装に身を包んだ阿呆2人に『姉はどこだ』と喰って掛かり、『優に騙された』と叫ぶ空人にブチ切れて警察官に改めて動画を見せ、その後また神社を訪れて御神体──杉の巨木に詰め寄った。


 ──美術の成績『可』の私にイイ感じに彫刻されたくなければ姉に会わせろ。


(…そういやあの神社の御神体って、社の隣に立ってる御神木の杉だったっけ…)


 誰にでも触れられる場所に御神体があったが故の脅迫。

 彫刻刀片手に杉の木に詰め寄る美女…全力で目を逸らしたくなるな。


「まあそのお陰でこうして会えたんだし。土地神にはちょっと感謝してる」

「…後でちゃんと謝って奉納とかしときなよ…」


 沙羅は平然としているが、ちょっと神様の扱いがぞんざい過ぎじゃないだろうか。ウチの妹がすみません、と内心で手を合わせておく。


 私が苦笑していると、沙羅は不意に真面目な顔になった。


「…お姉、こっちに帰っては来ないんだよね?」

「うん。もうそっちに帰れる条件から外れちゃったからね」


 送還魔法陣も壊してしまったので、それを元に帰れるような魔法を組むことも出来ない。まあそれ以前に私には魔法の才能が皆無だから、どうしようもないんだけど。


「お姉、あっさり言い過ぎ」

「ごめん」


 沙羅が膨れっ面になった。仕方ないじゃない、事実は事実だし。


「父さんと母さんのことはよろしくね、沙羅」

「…簡単に言うよね…」


 頼んだら、沙羅はますます頬を膨らませる。フグじゃないんだから──言い掛けて、妹の目が潤んでいることに気付いた。


 …そういえばこの子、気は強いけど結構涙もろいんだっけ。


 眉を寄せて目を逸らし必死に泣き出すのを堪えている沙羅に、私は思い切り抱き付いた。

 現実じゃこんなことあんまりしたことないけど…ここは夢の中だし、良いよね。



「──会えて嬉しかった」


「……っ、うん」


「ありがとう、沙羅」


「…うん…っ」



 沙羅が思い切り抱き締め返して来る。うっかりすると首が締まるこの状況も、これが最後かと思うと何だか感慨深い。

 まさか、もう会えないと思ってた家族に、夢の中とはいえ会えるなんて。


(…あ、やばい泣きそう)


 姉の矜持だってある、泣いてたまるか。

 私は必死に頭を働かせて、無理矢理口の端を吊り上げる。



「あの阿呆2人は、好きに料理しちゃって。期待してるからね? 沙羅」


「…──っ、任せて、徹底的にやってやるから!」



 妹にもプライドはあるんだろう。


 掠れた声で、それでも沙羅は悪女さながらに笑った。





 それは、夢の中での出来事。


 本当かどうかも分からない。でも──とても大切な、一時の邂逅だった。








姉より妹の方がちょっとアレっていう…。

まあ『そういう存在』だと思っておいてください(←意味が分からない)

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