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122 エピローグ 誰かに向けたメッセージ



 ──阿呆2人を送還し、召喚魔法を破棄してから、数日が経った。


 あの後、『勇者と聖女は犠牲になった騎士たちの追悼と自身の療養のため、旅に出た』と国民に向けて発表があり、同時に今後勇者召喚を行わないことが宣言された。

 国民はかなり驚いたようだが、最終的には『勇者に負担を掛け過ぎる我々の在り方は国として歪んでいる』『これからは自分たちの力で国を盛り立てて行く』という国王の演説に納得の表情を見せていた。


 …最後まで召喚魔法の破棄に反対していたあの国王の演説だって考えると、どの口が、と鼻で笑っちゃうところだけど…ああいう演説の原稿って本人じゃなくて側近が書くものらしいし、多分あの筋書きはケネスが考えたんだろうな。


 これから大変になるだろうけど。がんばー。




 農村の復旧作業は最近ようやく始まった。

 まずは村を守る石壁の修復からだそうで、城の地属性魔法持ちが毎日派遣されている。普通の石壁ではないので、魔法でないと直せないらしい。

 農村の住民たちはまだ避難先に滞在中だ。昼間は村に出向いて、少しずつ片付けを進めている。石壁が修復出来たら、無事だった家屋に泊まり込んで復旧作業に精を出す予定だそうだ。


 ちなみに、ケットシーたちが住民たちに同行し、昼間の農村の警備を担ってくれている。本当なら冒険者ギルドで護衛をしたいところだけど、人数が足りなくてとても手が回らないのだ。

 『周囲を見張って、いざという時は危険を知らせて避難する時間を稼ぐくらいは出来るからな』とルーンが胸を張っていた。…本当、ケットシーたちには頭が上がらない。




 私たち冒険者ギルド小王国支部は、また元のように街の依頼を片付けたり、魔物の討伐に出たりしている。


 今までと違うのは、魔物の討伐に騎士団員が同行している点だ。今回の事件で実戦経験が足りないと痛感したらしく、アレクシスがギルド長に頼み込んで、日替わりで少しずつ騎士団員を同行させることになった。

 正直、ものすごく足手まといと言うか、魔物を見て悲鳴を上げて逃げ出す奴も居て──そういう動きを取る方がかえって危ないんだけど──魔物鑑定士のチャーリー御一行が同行してた時よりさらに大変だけど。今後に繋がることだから、とみんな何とか我慢している。


 ちなみに、騎士団員はあの事件後、かなり減ったそうだ。自分も死ぬ可能性があると気付いて、リスクとリターンを天秤に掛けて身の安全を取った団員が相当数居たらしい。それはそれで正しい判断だと思う。




 そして──




 少し日々の生活が落ち着いた頃、私は禁足地の森を訪れていた。


 同行者はマグダレナ。あの後一旦ロセフラーヴァ支部に帰ったのだが、冒険者ギルドへの謝礼金の支払いを受けるため、わざわざこちらへ足を運んでくれた。


 曰く、『多忙を極める小王国の文官をロセフラーヴァに呼びつけるわけにはいきませんし、私も小王国で寄りたい場所があったものですから』──ちなみにその『寄りたい場所』こそ、この禁足地である。私も行きたいと思っていたので、丁度良かった。


「…随分と、石碑が増えたのですね」


 禁足地の中央、歴代勇者の石碑を見上げ、マグダレナが溜息をつく。

 その手には、小さな花束が複数、抱えられていた。


「石碑が建てられて以降も、ここに来たことが?」

「ええ、一度だけ…その時はコテツとサブロウとトラジの石碑があるだけでしたが」


 ということは、相当昔の話だ。


 マグダレナは石碑に一つ一つ花束を供え、順番に瞑目する。彼女にとって、勇者は過去の偉人ではなく、実際に交流のあった友人だ。思うところがあるのだろう。



 ──歴代勇者に、墓碑は無い。



 そう聞いた時は本当に驚いたが、詳細を教えてもらって納得した。


 コテツは市井に紛れて生きることを望み、他国へと渡ってそのまま帰って来なかった。

 サブロウは治水の勇者らしく、この首都の東、ユライト湖に散骨された。

 トラジは他国の建築を学ぶために国を出て、やはりそのまま帰らなかった。


 みんなそれぞれ理由は違うが、他国で一生を終えたり、『墓』という物を残さない生き方をしている。


 だから、この国に墓碑がある勇者は居ない。強いて言えば、勇者たちの本音が並ぶこの石碑こそ、墓碑のようなものだ。


(ちょっと格好がつかないこと書いてある人も居るけどね)


 まあ本音とはそういうものだろう。



「──」



 マグダレナの黙祷は、コテツ石碑の前が一番長かった。

 長い長い瞑目の後、少しだけスッキリした顔でこちらを向く。


「ところで、ユウ。ここに残す石碑の内容は決めたのですか?」

「はい、一応」


 私は勇者ではないけれど、この国に召喚された最後の人間として石碑を残しても良いだろう。召喚魔法を破棄した後にマグダレナにそう言われて、何日も掛けて内容を考えた。


 …後世に残ると考えると滅茶苦茶恥ずかしいけどね。これだけアレな内容が書かれた石碑があるから、別に良いか、とも思う。


「私が見ていても?」

「良いですよ」


 今日、石碑を作ることは決めていた。街から近いけど仮にも禁足地だから、本来はそうホイホイ足を踏み入れて良い場所じゃない。

 だから多分、私がここに来るのも、これが最後。


「ええと…書く場所はこっちか」


 専用の石筆──棒みたいに加工された石を手に、トラジの石碑が示す場所に膝をつく。


 ガリ、と石畳に石を擦りつけると、白い線が引かれた。…これ結構書きにくいな。そりゃあコテツの字が震えるわけだ。


 ちょっと苦労しながらも、何とか文字を書き綴っていく。様子を見守るマグダレナが、不思議そうな顔をした。


「…こちらの言葉で書くのですか?」

「はい。んで、下半分は日本語にしようかと」


 書く内容は上下一緒だ。私が後世に石碑を残すなら、この形が一番良い気がした。


 誰かに伝えたいメッセージなら、伝わらなければ意味がない。もう召喚魔法が使われることはないから、日本語を理解出来る人は居なくなる。…偶然こっちの世界に『落ちて』来る人を除いて。



「──よし」



 数十分かけて全て書き終えると、私は満足して立ち上がった。そして、トラジが残したメッセージの通りに一定の手順を踏み、最後に原稿部分の石畳に両手をつく。


 ズ…と、手から魔力が吸われる感覚があった。一瞬だけ、石畳の上に独特の紋様が浮かぶ。


 隠されていただけで、ここにも魔法陣が仕込まれていたらしい。…トラジ、建築だけじゃなくて魔法の素養もあったんだろうな…うらやましい。


 カッ!と白い光が放たれ、それがおさまると、石畳に書いた文字は消えていた。代わりに、


「わあ…」


 『果樹の勇者マサオ』の石碑の隣に、真新しい白い石碑が出現していた。そこに刻まれていたのは、先程私が石畳に書いた文章。一字一句同じどころか、筆跡も全く同じだ。

 絶妙に恥ずかしい。…これ、パソコン入力みたいに文字の形を整える機能とか付けられなかったのかな…。


「…勇者召喚は…」

「ちょっ、目の前で読み上げないでくださいマグダレナ様!」


 音読されそうになって慌てて止める。恥ずかしいんだって!


「あら、読んでもらうために書いたのでしょう?」

「そうですけど、本人の前で音読しないでください!」

「良いじゃないですか、良いことが書いてあるんですから」

「良くないです!」


 私はマグダレナの肩を持って、強引に方向転換させる。

 用は終わったんだ。帰ろう。さっさと。


「ほら、帰りましょう! 今日も私、依頼あるんですよ!」

「あらあら」


 マグダレナがくすくす笑い、私に背中を押されるまま歩き出す。



 一瞬だけ振り返ると、林冠から降り注ぐ陽光の中、白い石碑はただ静かに佇んでいた。







 ──勇者召喚は、私の代で終わり。


 召喚魔法は破棄した。もう二度と、『勇者』が喚ばれることはない。


 もしも今後、召喚魔法を開発しようする阿呆が現れたら、どうかぶん殴ってでも止めて欲しい。


 『勇者』なんてただの幻想。


 喚ばれるのは、普通の人間。


 そんな相手に重圧を背負わせるくらいなら、自分で何とかしろと伝えて欲しい。


 召喚魔法なんて御大層なものを開発できるなら、もっと他のことだって出来るはずだ。



 


 世界を変えられるのは、召喚された『勇者』じゃない。



 今、そこに居る、自分自身だ。









──というわけで、『主婦』ことユウのお話、これにて一区切りとなります。

…まあ例によってそのうち続きを書くかも?なやつですけどね。卑怯戦法ってやつですね。


ここまで読んでくださったみなさま、お付き合いいただき本当にありがとうございました。

ちょっとでもスカッとしていただけましたら幸いです。



以下、毎回恒例、読まなくてもいい蛇足です。




最初に断っておきますと、ウチの夫婦関係がモデルではないです(笑)


ネットに溢れる『これは無いぜ!』な旦那ネタの集約が、『勇者()』こと空人ですね。

家事はしない、暴言を吐く、ついでに稼ぎもない。…いやホント、何で夫婦関係続けてたんですかね主人公は。

『せいじょ』こと美海の方は、分かりやすい憎まれ役の女性ということで出現してもらいました。

ちょいちょい入る会社ネタに関しては…お察しください。モデルがあったりなかったりします(笑)



オチに関してはこの阿呆2人をどう料理するか、書きながら随分悩みました。

異世界って結構何でもアリなので、牢屋にぶち込むとか、苦役に出すとかも有り得たんですけどね。

それだと、主人公と同じ空気吸い続けるわけじゃないですか。将来的に顔を合わせる可能性だって残るわけで、ユウさん、全力で嫌がりそうだなーと…。

『勇者()』を処刑するっていうのも極端すぎますしね。あれ、結局偉い人の監督責任でもありますからね。


…というわけで、阿呆2人には現実世界に戻って苦労してもらうことになりました。


本編にも書きましたが、冷静に考えると、何の準備もなく1回異世界に行って戻って来るって結構大変だと思うんですよ。日帰りとかならともかく。

当然ながら、この後阿呆2人は大変な苦労をする羽目になります。まず当人たちが修羅場ですが、修羅場ってる間に不法侵入で通報されますね。ワオ。


ユウさんはこのまま異世界で冒険者稼業を続けます。続けますが…事件で結構な注目を浴びているので、こっちも何だかんだで苦労しそうな予感ですね。そのうちブチ切れるんじゃないでしょうか。


そんな感じで、まだ書きたいネタはあるので、そのうち形に出来たら良いなと思っています。

続きが気になる!と思ってくださった方、もしよろしければ、『続きを書けー!』と念じながらレビューや評価の☆、ブックマークなどで応援していただけると、調子に乗って書き始めるかも知れません(笑)



ここまで書き切れたのは、評価やブックマークやいいねで応援してくださったみなさま、読んでくださったみなさまのお陰です。

本当にありがとうございます!


またどこかでお会いできることを祈って…。




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