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109 目からビームな例のゴーレム(大型版)


 残念ながら、思い付きの作戦は不発に終わったが…後はひたすら魔物を倒して行くだけだ。


 先程までと同じように、大型の魔物を優先して討伐していく。

 鍵を戻しても暫く余波は続くと聞いていたけど、これは結構キツい。何せ、


《右後ろ、また来ます!》

《愛され過ぎやろ!》


 スピリタスが急加速して、アビススライムの雨を回避する。


 スピリタスの推測通り、本当に魔力の集中する地点にアビススライムを降らせる黒いもやが出現するのだ。

 精霊馬のスピリタスに、魔法が使えないのに魔力だけは馬鹿みたいにあるらしい私、ケットシーのルーンとサクラ。この組み合わせで出現地点にならない方がおかしい。


 それでも、休憩直後よりは一度に降って来るアビススライムの量は減った。一応、終息に向かってはいるらしい。


 ただ恐ろしいのは──『波』の本体はまだ来ていない、とスピリタスとルーンが口を揃えていることだ。アビススライムはおまけだという。



 そして──



《──来る!》

《御大のお出ましや!》


 ルーンとサクラがぶわっと全身の毛を逆立て、スピリタスが鋭い目で周囲を見渡す。私も背中が──いや、全身がぞくりとした。


 それこそ大きな波が来たように、辺り一帯、異様な空気に塗り替えられて行く。

 私も周囲に視線を走らせ、街の方を見た時に異変に気付いた。


「スピリタス、あそこ!」


 正門から東に数十メートル。防護壁のすぐ下に、黒いもやがものすごい勢いで噴出している。


《あの位置はアカン!》


 スピリタスの声に焦りが混じった。そちらに向かって空中を蹴るが──魔物が生み出される方が早い。



 ──轟──!!



 冗談のように巨大なゴーレムが、一瞬でその場に出現した。

 高さは3階建ての建物と同等くらいだろうか。頭の位置が防護壁を余裕で超える。


 防護壁の上で呑気に私たちの戦いを眺めていた兵士たちが、突然目の前に現れたゴーレムを見上げてぽかんと口を開けていた。


 その兵士たち目掛け、ゴーレムが両腕を頭の上で組み、一気に振り下ろす。



(──!!)


魔力増幅(マジックブースト)!》


弾け飛べ(ショット・ブラスト)!!》



 サクラの魔法とルーンの魔法が重なり、ゴーレムの横っ面に風の弾丸が叩き込まれた。

 ゴーレムは1歩よろけ、腕は兵士の横ギリギリに振り下ろされて──



 ──キィン!!



 防護壁に衝突する寸前、何もないように見えた空間に白い光が走った。腕が大きく弾かれて、ゴーレムは一歩後退する。


(そうか、結界魔法!)


 城の関係者たちが張っている街を覆う結界が、ここにきて真価を発揮した。

 兵士たちは信じられないという顔で、防護壁のすぐ外側、ゴーレムの攻撃の余波で白く揺らぐ魔法の障壁を見上げている。


《今のうちや! 連中を街から引き離すで!》


 出現したのはゴーレムだけではなかった。その足元にはウルフやゴブリンが群れをなしている。

 その色と姿には、見覚えがあった。


《全部『ユライトシリーズ』だぞ…!》


 ルーンの念話が警戒の響きを帯びる。


 ユライトシリーズ。小王国ではお馴染みの種族だけど、強さで言えば上位種か最上位種に相当する魔物たちだ。よりによって、このタイミングで出て来るなんて。


「行くぞ──!」


 背後でギルド長の声がした。ゴーレムの巨体を見て異変に気付いたんだろう。


「ギルド長、みんな、気を付けて! こいつら全部『ユライト種』だよ!!」

「何だと…!?」


 上空で張り上げた声は、何とか届いたようだ。ギルド長たちの表情が変わる。

 …でも、厳密にはそれだけじゃない。


《超大型ゴーレムが1、大型ウルフが3、大型ゴブリンが5! 通常サイズのやつはそれぞれ10体以上居るぞ!》


 ルーンも念話を大きく響かせる。


 そう、体格が明らかに違う個体が居るのだ。

 見た目がユライトシリーズに近い以上、ほぼ確実に魔法を使って来るだろう。でも、あんな大きさの3種は今まで見たことがない。魔法以外の特殊能力があってもおかしくない。


「──くそっ、やるしかねぇ!」


 ギルド長が叫ぶが、まだ距離がある。街から引き離すためには、私たちに注目を集めた方が早い。


「スピリタス!」

《おう!》


 スピリタスはそのまま大きく弧を描いて群れの横手に回り、突進しながら手当たり次第に風魔法を撃った。ルーンとサクラもそれに続く。



《ユウ、今や!》


「──!!」



 突進の行く先は巨大ゴーレムだ。他のゴーレムを倒した時のように、衝撃が打撃点から全体に広がるのを強くイメージして横殴りにウォーハンマーを振るう。が──



 ──!



 ゴーレムが何事か叫び、顔の前で両腕を交差させてウォーハンマーの一撃を受けた。一瞬、泥か何かを叩いたような異様な手応えがする。


 衝撃の勢いに乗るようにずざっと飛び退ったゴーレムは、無傷だった。


《なんやて!?》


 スピリタスが目を剥いて、反撃の拳をギリギリで避ける。ルーンが歯噛みした。


《多分、身体の一部だけ柔らかくする魔法を使ったんだ!》


 しかも打たれた瞬間、飛び退って衝撃自体を軽減していた。まるで格闘家。動きの速さも判断力も段違いだ。


 なら──


「スピリタス、私に掛けてる固着魔法解いてもう1回近付いて!」

《はあ!? 何する気や!?》

「あいつの肩に飛び移ってぶん殴る!!」


 直接乗ってしまえば飛び退ろうが意味がない。サイラスのような大柄な人間なら難しいだろうけど、私だったら飛び乗れるだろう。


 滅茶苦茶なことを言っている自覚はあるが、出来るという確信もあった。


(あいつの弱点は多分──)


 あのゴーレムには、通常のユライトゴーレムとは違う特徴がある。

 額部分に、第三の目のような黒光りする宝石が埋まっているのだ。


 空中を走り回るスピリタスの背からじっと見ていると、ゴーレムの薄赤い目がギラリと光を放った。



「ビームが来る!」


《アカンて!》



 赤い光線が空を裂いた。


 スピリタスはギリギリで回避したが、尻尾の先がわずかに焦げた。


《ワイの自慢の尻尾が!》


 悲痛な声が上がる。これを地上に向けて放たれたらたまらない。


「スピリタス、早く!」

《──ああもう! どないなっても知らんで!》


 ガクンと大きく身体が揺れた。固着魔法が解けたことで足がずれ、私は片手でたてがみを掴んでバランスを取る。



《行けェ!》


「…!!」



 瞬時にスピリタスの背中を蹴って、私はゴーレムに飛び移った。


 攻撃が来ると思っていたのだろう。先程と同じように両腕を顔の前でクロスさせていたゴーレムは、大きく反応が遅れた。


 ガツンと足を叩き付けるようにゴーレムの右肩に着地した私は、即座にウォーハンマーをゴーレムの額に打ち込む。



 ──ガン!!



 今度こそ、ちゃんと手応えがあった。


 黒い宝石が砕け散り、私の思い描いた通りに同心円状に亀裂が走って行く。余波で左目が砕ける。

 が──


 残った右目がギラリと光った。



「!」



 咄嗟に武器を放して横に回避すると、極太の赤い光線が目──いや、顔面全体から放たれる。ジュッと音がして、ウォーハンマーの()()()()()()()()()()()()


「このっ…!」


 目を放置しておくと危険だ。

 残ったウォーハンマーの柄を逆手で掴み、思い切り右目に突き刺す。



 ──ゴッ!



 右目が砕けて柄が眼窩に埋まると、ゴーレムの頭部がやっと砕け散った。


 けれど、ゴーレムは止まらない。こちらを掴もうとする右手を避けざま、私は大きく片足を振り上げる。


 ──イメージは、斧。丸太を真っ二つにする、薪割り用のごついやつ。打撃点から真っ直ぐ下まで貫く衝撃。



「砕けろ──!!」



 振り下ろす足に、ありったけの力と殺意を込めて。



 ──ドガン!!



 首のド真ん中に打ち込んだ踵はゴーレムにめり込み、バキバキバキっと凄まじい音がした。


 ゴーレムの動きが止まる。見えないけど、ゴーレムの身体の正中線に大きな亀裂が入ったのが分かる。



 ──やってやったぜ。



 私は内心でにやりと笑った。







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