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108 思い付きは現場で試すものではありません。


 その後休憩を交替し、全員がおにぎりを食べ終えたところで、フッと空気が変わった。


(…?)

「今のは…」


 キャロルとシャノンとギルド長とケットシーたち、他数名が警戒の面持ちで周囲を見渡す。ルーンが私の肩に飛び乗り、ざわっと背中と尻尾の毛を逆立てた。


《…地下の魔素の流れが変わった》

「じゃあ、向こうは無事に成功したってことか?」

《多分な。けど、これは…》

《気ィ付けぇ》


 スピリタスも鋭い視線を地面に注ぎ、耳をせわしなく動かす。


《戻す時にまごついたんちゃう? ──デカい『波』が来るで》

『…!』


 全員、一斉に武器を構える。ケットシーたちが次々に補助魔法を掛けて行く。


 遠くに魔物の群れが見えた。多分休憩前に確認した一団だ。

 その頭上に、黒いもやが掛かり──



 ──ボトボトボトッ!



 魔物の群れ目掛けて、灰色のゼリー状の物体がいくつも降り注いだ。


「げえっ!?」


 ジャスパーが顔を歪める。


 魔物たちは一瞬でパニックに陥り、何体かがアビススライムに喰われて消えた。

 魔物たちがアビススライムを避けていたように見えたのは気のせいではなかったらしく、固まって動いていた集団が、逃げるようにてんでバラバラに走り出す。


「連中を街に近付けるな!」

「って、どっちを優先すりゃ良い!?」

「どっちもだ! 火魔法を使えるやつはアビススライムを優先、他はそれ以外を優先しろ!」

「くそっ、いきなり乱戦かよ!」


 走り出す者、集中を始める者、そのフォローに回る者──動き出す中で、悲鳴じみた念話が響く。



《みんな、上!》


『!!』



 こちらの頭上にも、黒いもやが現れていた。ルーンを肩に乗せたまま、警告してくれた白黒ハチワレのケットシー──サクラも拾い上げて、間一髪、降り注ぐアビススライムを何とか避ける。


 振り返ると、全員ちゃんと退避していた。流石だ。


「大丈夫?」

《あ、ありがとうございます》

「こっちこそ」


 警告がなかったら危なかった。補助魔法といい、ケットシーたちには助けられっぱなしだ。後でちゃんとお礼をしなくては。


《ユウ、乗り!》


 スピリタスが駆け寄って来る。私はその背に、ルーンとサクラと共に飛び乗った。


「やることはさっきまでと一緒だ! 頭上も含めて警戒しろよ!」

「なんつー無茶振り…!」

「けど、このヤマが最後だろ!」

「よっしゃ、さっさと片付けるぜ!」


 上級冒険者は態勢を立て直すのも早い。ギルド長の指示に軽口を叩きつつ、数人で連携を取りながら魔物を追う。


 見渡すと、シャノンがキャロルと一緒に魔物の位置を確認しているのが見えた。この中で一番実戦経験が浅いのはシャノンだけど、あれなら心配は要らなそうだ。


(マグダレナに鍛えられたって言ってたもんね…)


 一体どんな修業を積んだのか、聞きたいような聞きたくないような。


 ──とりあえず、目の前の課題に集中しよう。


「私らはデカブツから狙うよ!」

《任せい!》

「ルーン、身体強化! サクラは周囲を警戒して、危なかったら教えて!」

《了解!》

《はい!》


 しかし、魔物は分散して逃げてしまっている。もっと効率が良い倒し方はないものか…。


 スピリタスが固着魔法を掛け、一気にスピードを上げる。手近なゴーレムをぶん殴ると、直後、他の魔物に氷の槍が降り注いだ。ギルド長の魔法だ。

 魔法が掠めてよろけた魔物が、アビススライムを踏ん付けて吸収されるのを見て──ふと思う。


 …これ、アビススライムに()()()()させたら楽なんじゃない?


「ルーン」

《何だ?》

「アビススライムって、魔法で捕獲出来たりしない?」

《はあ!?》


 ルーンとサクラ、そしてスピリタスまで目を見開いてこちらを見た。

 急制動が掛かり、空中で立ち止まる。


《いきなり何言ってんだ!?》

「いや、例えばアビススライムを浮かせて、魔物にペタって貼り付ければアビススライムが魔物を吸収するから、倒すより楽なんじゃないかと」

《あー…なるへそ》


 スピリタスが呆れた目になった。


《んで、最後は増えに増えたアビススライムを焼き払って終わり、と。…えげつないこと考えるなあ…》

「あ、そうか。増えるのか」


 アビススライムは、時間経過または一定以上の魔物の取り込みで分裂する。積極的に捕食させたら、私たちはともかく、地上に居るみんなが危険だ。


「じゃあ却下かな…」

《いんや、場所選べばエエんちゃう? 離れたトコで試してみよか。サクラ、ルーン、行けるか?》

《良いけど…》

《失敗しても文句言うなよ》


 意外にも乗り気のスピリタスが、すぐにアビススライムを見付けた。ルーンとサクラがそれぞれ1匹ずつアビススライムを浮遊させると、一番大回りして街に近付いている魔物の一団に追い付く。

 空飛ぶアビススライムが大変シュールだ。


《そーっとな。見付かると逃げられるで》


 音を立てずに近付き、一つ目の巨人の後頭部にルーンがそっとアビススライムを押し付けると──



 ──ゾンッ!



 あの音がして、巨人はあっという間に吸収された。



 ──ゾンッ!



 反対側でも、サクラが大型のゴーレムを吸収させる。ルーンは呆然と呻いた。


《…出来たよ…》


 群れていた魔物がこちらに気付き、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとして──ルーンとサクラの操るアビススライムの餌食になる。

 その間、ものの数秒。信じられないくらいあっという間だ。


 だが──


《来ます! 真上!》

《ヤバい!》


 サクラの警告を受けてスピリタスが即座にその場を離れると、一瞬前まで居た場所にアビススライムが降り注いだ。何で狙ったように…。


《多分やけど、()()()()()()()()()にアビススライムが降って来とるな。特に何体も魔物を取り込んだアビススライムはヤバい魔力の塊になっとるし、いい呼び水なんちゃう?》


 ほれ、と目で示す先、魔物と交戦中のギルド長たちの頭上にも黒いもやが出現する。すぐに誰かが気付いたらしく、ギルド長たちは難なくアビススライムの雨を避けた。


 意図的に狙われてるわけじゃないけど、性質上、狙ったように頭上に出現するわけか…厄介な。


「じゃあ、闇雲にアビススライム使わない方が良い?」

《せやな。普通の場所やったらアリやけど、今のこの状況じゃやめといた方がエエやろ》


 残念。良い作戦だと思ったんだけどな。




 なお、実験に使った2体と新たに出現したアビススライムたちは、ルーンとサクラがきちんと処理してくれましたとさ、マル。







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