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-本編- 聖女の変貌。


 現在私達はゴーレム馬車の客車の中。

 馬車の馬部分がゴーレムで魔力が動力らしい。

 つまりは注がれた魔力が切れたり、故障しない限りは何処迄も走り続けることが可能ということ。

 馭者は一応いるけど、やることは魔力を注ぐことと道を間違えないように馬車を走らせることくらい。

 滑らかに走る。道が石で舗装されてるし、車輪がスライムの溶液を固めた物質で覆われているから。

 腰も痛くない。この客車、たまに道に空いた穴に嵌っても衝撃が来ない。

 私の国の馬車なんて馬は生きた馬で車輪は木。穴なんかに嵌ったりしたら衝撃が全力で身体に襲い掛かってくるのに。

 長時間乗れたものじゃない。馬車に乗るくらいなら歩いた方がマシ。

 国民の多くがそう言ってる。けど、この馬車なら長時間乗れる。

 溶液も欲しいけど、この馬車も欲しいなぁ。

 この国の人達が羨ましい。……ってどんどん欲に溺れてるね。私。

 人って弱いなぁ。すぐに負けそうになる。


「ふわぁ……」


 ゆらゆら揺られてると眠気が。充分に寝たのに。


「カリーナ、眠い?」

「少しだけ眠いです」


 嘘。結構眠いです。頑張って耐えてます。


「眠いなら寝てもいいよ? 目的地に着いたら起こすから」

「……。アルマさんこそ、寝てないじゃない、ふぁっ……。ですか……」

「わたしは慣れてるからね。2~3日くらい寝なくても平気だよ」

「理事長の……、お仕事ってそんな、に……」


 眠い。見栄張ったのに、もう崩れそう。

 痛みを与えたら起きれるかな。

 舌を噛む? 手の甲を抓る? 顔を叩く? どれにしようかな。


「カリーナ」


 アルマさんに腕を掴まれた。

 私がやろうとしたことバレバレだった?


「わたしの(つがい)を傷つけさせたりしないよ」

「ごめんなさ、い……。少し、だけ……眠ります」

「うん。おやすみ。カリーナ」

「おやすみなさ……。すぅすぅ」



 ふふふっ。よっぽど眠かったんだね。

 簡単に夢の世界に行っちゃった。

 相変わらず寝顔可愛い。

 この子の寝顔は世界を幸せにする。

 寝顔だけじゃないか。起きてても可愛いもんなぁ。この子。

 

 ……………。

 ただね、わたしの肩に寄りかかって寝てるんだよね。

 拷問かな。寝てる間にわたしに何かされるとか考えてないんだろうな、この子。

 しないけどね。



 視線がムカつくな。わたしの(つがい)の寝顔を気やすく見るな!!

 失敗した。貸し切り馬車にしとくんだった。

 これ以上はカリーナの寝顔を見せたくない。

 魔法でこの子のことを隠そうか。


 と思った時だった。馬車が急停止して馭者が警告をこちらに告げてきた。


「邪族です! 皆さんの中にハンターはいらっしゃいますか?」


 窓を開けて外を見てみる。

 あれはトロールだね。

 この世界の女性の天敵。

 数は10体か。全部()らなくちゃ。

 あいつ等は生かしておく訳にはいかない。絶対にだ!


「……。トロール」

「カリーナ!? 起きたの?」


 反応がない。カリーナは空中から愛用の杖を取り出したら誰よりも先に馬車から飛び出して行く。

 一瞬、何が起きたのかが分からなかった。呆けてすぐ(さま)(つがい)が飛び出して行ったことを理解してわたしも彼女の後を追い掛ける。


「カリーナ!」

「許さない、許さない許さない許さない」


 いつもの彼女と違う。

 周りが見えなくなってる。

 トロール目掛けてまっしぐら。

 戦闘前に何とかわたしは彼女に追いついた。


「カリーナ!」


 カリーナの肩を掴む。

 暴れる彼女。


「離して!! 邪魔しないでください」

「落ち着いて。わたしと一緒に戦おう。ね?」

「……アルマさん?」

「うん。落ち着いた?」

「はい、ごめんなさい」

「詳しい話は後で。今はあいつ等を倒すことに集中しよう」

「はい!」


 わたしもカリーナと同じように空中から杖を取り出す。

 この世界、どういう原理か? ドラゴンのわたしも知らない。

 杖は空中に収納が可能。必要な時に杖のことを思いながら空中に手を出せば杖が手の中。

 杖がないと魔法を使うことができない。

 わたしは杖を魔法で剣へと変える。


「わたしが攻撃するから、カリーナは支援をお願い」

「分かりました」


 (つがい)との初連携。

 わたしはトロールの元へと駆ける。


サンクチュリアリ(女神の聖域)ブレッシング(女神の祝福)


 カリーナの魔法。

 サンクチュリアリは地面に魔法による陣を描き、その中に敵を封じ込めるモノ。

 ブレッシングは味方の筋力や体力、技の磨きを上げるモノ。

 わたしはこれ迄に同じ魔法をアレッタや恐らくは、この世界で1位か2位の強さを誇るあのカフェの店員のうちの1人・悠遠の魔女やその仲間や嬢子(でし)、うちの生徒達から受けたことがあるけれど、カリーナのは悠遠の魔女の嬢子(でし)の魔法に匹敵する。


 身体が軽い。人でありながらドラゴンになったみたいだ。

 トロールの首を斬る。武器にも魔法が掛かっているらしい。

 何か柔らかい物を斬ったかの如く滑らかに斬れた。

 

マナドレイン(魔力吸収)


 わたしが斬った先からトロール達の魔力を奪うカリーナ。

 そのせいで彼らは"からから"に干からびて死んでいく。

 容赦無い。ここ迄来るとカリーナの過去に何があったのか気になる。

 

 

 カリーナの支援のお陰で10体全部討伐完了。

 したけど、まだ強大な魔力を感じる。

 もう1体大物が残っているみたいだ。


「カリーナ、もう1体いる」

「分かっています。多分、トロールキングでしょう」


 カリーナの予想は当たっていた。

 他のトロールよりも2倍程の巨体を持つ存在。

 しかも他のトロールは魔力はあっても魔法が使えないという宝の持ち腐れなのに、コイツは杖を持っていて魔法を使うことができる。

 が、今回は相手が悪かった。


マナカシェラ(魔力封印魔法)


 戦う前から決着が着いたね。

 わたしは魔法をカリーナに封じられたトロールキングを袈裟斬りした。


「これで終わりかな?」

「はい。他に邪悪な魔力は感じません」

「そっか。じゃあ馬車に戻ろうか」

「はい。あ! ちょっと待ってください。クリーン(洗浄魔法)


 邪族の返り血を浴びていた服や顔が綺麗になる。

 泥や埃も落としてくれて綺麗に。

 さっぱりした容姿で馬車に戻るわたし達。

 乗り込むと他の客達から喝采を浴びた。


「凄いね。2人共強かった」

「2人はハンターなのかい?」

「いやはや、見ていて痛快だったよ」


 皆が笑顔。客達に軽く会釈するカリーナ。

 わたしもそれに続く。


「私はただの学生です。でも、弱族狩りの経験はあるので。上手くいって良かったです」

「わたしは一応ハンターの資格は持ってます。でも正式なパーティは組んでいないので、傭兵に近いハンターですね」


 カリーナは自身が聖女であることは明かさないことにしたらしい。

 それが正しい判断だ。下手に明かすと面倒なことになりかねない。

 座席に座るわたし達。馭者が安全確認をしてから馬車が再度動き出す。


「カリーナ」


 (つがい)の変貌ぶり。

 理由を聞き出そうとしたら、彼女は真っ青になって震えていた。


「っ。カリーナ、どうしたの?」

「ごめ、んなさい。大丈夫です」

「大丈夫っていう顔じゃ……」

「アルマさん、お願いしても良いですか?」

「何でも言って」

「手を、握って貰っても良いですか?」


 カリーナの願い。わたしは彼女の手を少しだけ強めに握る。

 震えが伝わってくる。手だけじゃ足りないんじゃないかな。


マナシールド(魔力の障壁)


 文字通りに自分達を包み込んで敵からの攻撃を防ぐ障壁を張る魔法。

 もう1つ役割があって、光の屈折を利用して自分達の姿を隠してもくれる。

 所詮は隠してるように見せかけてるだけなので手を触れられたらバレる。

 が、近付く相手を彷徨わせる効果もあるのでバレる心配は低い。

 声も相手には聞こえないので普通に喋れる。

 なかなかに有能な魔法。

 

 カリーナを抱き締めるわたし。

 彼女は緊張が解けたのかな? 声を押し殺しながら泣き始めた。

 どのくらいカリーナを無言で抱き締めていただろう?

 やっと涙と震えが収まったのが分かる。

 もう大丈夫っぽいかな。カリーナから離れようとするわたし。

 

 離れられなかった。

 

 カリーナがわたしの服を掴んで離そうとしないから。

 逆に彼女はわたしの胸の中に飛び込んで来た。

 何これ? わたしをまた試してるの? カリーナ。

 こちらはいつも綱渡りで(つがい)の君と接してるんだけど?

 綱から落ちそう。誰か助けて。


『わたしは石、わたしは石、わたしは石。手出しはしない、手出しはしない』


 心の中で"ぶつぶつ"。わたしは石。石像だからわたしは(つがい)に手出しはしない。

 覚悟完了。身を切ってる気分だけど大丈夫。


「アルマさん」

「うん?」


 小声で話しかけてくるカリーナ。

 顔を隠すようにわたしの胸に埋もれているから、今現在彼女がどんな様子なのか分からない。

 雰囲気的に良い状態ではないと思われるけど。


「頭、撫でて貰っても良いですか?」


 今度は頭を撫でての要求。言われるがままに"ゆるゆる"とカリーナの頭を撫でるわたし。


「気持ち良いです」


 ねぇ、可愛い。可愛いんだけど! わたしの(つがい)が可愛い。


「アルマさん、謝らないといけないことがあるんです」

「えっ? 何?」


 怖い。急に深刻な話。わたしの(つがい)には成れませんとか言われる?

 そうだったら嫌だ。聞きたくない。


「私なんかが(つがい)でごめんなさい」


 違った。けど、どういう意味?

 わたしはカリーナが(つがい)で良かったと思ってるけど?


「良く分からないんですけど、沢山我慢させてますよね? 私がアレッタさんみたいに奔放な性格なら良かったんですけど。それに自分の気持ちが分からないんです。この心の中で渦巻いてる"もやもや"が何なのか」

「カリーナがアレッタ? それは勘弁して欲しいかな」

「私よりアルマさんの(つがい)に向いてる気がしますけど」

「わたしはカリーナが良いんだよ」


 わたしが言うと、カリーナの頭が"ぴくっ"と動く。

 恐る恐る顔を上げる彼女。

 また泣きそうな顔してる。そんな顔させたくないのに。


「カリーナじゃないとダメなんだよ」

「アルマさん」


 ああ、結局泣かせてしまった。

 わたしにしがみ付いて泣くカリーナ。

 小さな子供みたいだ。わたしは彼女の頭を慈しんで撫でる。


「大好きだよ」


 自然と言葉が漏れた。

 カリーナからの返事はない。

 ない? 頷いているのは返事なのかな?

 どっちでも良い。今はカリーナの気持ちが晴れてくれるなら、それで……。

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