-本編- 異質なる聖女。
◇
プリエーグル女子学園。
学園医で聖女な人、アレッタさん。
彼女に案内して貰って学園内を歩いてるけど、私が通ってる所とは全然違う。
設備も教室の綺麗さも断然こちらが上だ。
物珍しい物も多くて、目をあちこちに彷徨わせてしまう。
『こんな学園だったら、通うの楽しいだろうなぁ』
って私の通う学園と比較して物事を考えてたら、私の心の中を読んだかのようにアレッタさんに微笑まれた。恥ずかしい。
「良い学園でしょう?」
「そ、そうですね」
「なんと言っても我が校の最大の売りは生徒達のスカートの丈は膝上10cm以上であることと、学園指定の水着がビキニなところ。毎日目が幸せだよ」
……うん? 生徒達にそんな恰好させてるの? 保護者から苦情来ない?
それでもって、売りにするところを間違えてると私は思う。
それと、それって理事長の承認が必要な筈だよね。
アルマさんって私が先日感じてた人物像とは違う?
お姉ちゃん、ごめんなさい。私は他人の見極めに失敗したかもしれないです。
しかし、大きいなぁ。この学園。
ここに来てからどれくらい歩いてるんだろう? まだ理事長室に着かない。
アレッタさんに見つけて貰えて助かったよ。もしこの学園に訪れてすぐに警備の自動人形に学園に通されることが許されていたとしても、私だけだったら理事長室が分からずに迷子になってた。
暫く歩き続けて、漸く理事長室の扉の前に到着した。
「アレッタです。入りますね」
「えっ?」
扉のノックもせずに躊躇なく理事長室の扉を開けるアレッタさん。
学園関係者同士って言ったって、アルマさんの方が上の人だよね?
アレッタさんの振る舞いは失礼な行為に値するんじゃないかな。
理事長室の中にいるアルマさん。
ややしかめっ面になってる。
ほらね。失礼な行為だったんだよ。
「君ね。上司の部屋に入室するならノックするのが常識で……」
「そんなことより番ちゃんを連れて来ました」
「そんなことって……。カリーナ!!」
アレッタさんの後ろに立ってる私の姿を見るとアルマさんのしかめっ面は消えて太陽の様に明るい笑顔になった。
瞳が優しい。私に会えた喜びが爆発してる。
「こんにちは。アルマさん」
「カリーナ、どうしたの? 来てくれるなんて思わなかった。幻覚じゃないよね?」
「幻覚じゃないですよ。本物です」
「確かめてみて良い? こっち来て。頭撫でさせて。あ、やっぱりわたしが行く」
アルマさんが私に近付いてくる。
頭の上に手を置いてその手がゆっくり動く。
「うわぁ、本物だ! アレッタ、さっきのはなかったことにしてあげるよ」
「"デレッデレ"ですね。アルマ理事長。私が生徒達を見る時の目に似てます」
「うん、凄く一緒にされたくないことだね。君とは違うから」
「アルマさんも女子校生好きなんですか?」
「好きでもなければ嫌いでもないかな」
「でも、変な校則の承認したんですよね?」
「あ~、アレッタに聞いたの?」
「はい」
アルマさんが罰の悪そうな顔になる。
しかめっ面になったり、笑顔になったり、苦そうな顔になったり、百面相。
見てて飽きない。
「水着の件はわたしの前の理事長が決めたことだからわたしは関与していないよ。スカートの件はわたしも確かに関わってるけど、教師陣の満場一致で決まった[事]だからね」
「満場一致って。反対意見が出なかったんですか? 普通は誰かが反対しそうな事柄ですけど」
「それはこの地方の領主との癒着だね。この学園は元は2つに分かれてたんだけど、1つになった時に前の理事長。女子校生好きの魔王の話はしたよね? その魔王が元の理事長で今は校長のその女性に都合の良い人材ばかりが残されたから、さ」
職権乱用ってこういうことを言うんだろうなぁ。
この地方の領主様は特殊な趣味をお持ちの方っと。
ルージェン王国。平和な国でも闇はあるんだね。
逆に安心したかも。完璧過ぎなくて良かった。
「アルマ理事長。いつ迄番ちゃんを立たせてるんですか? 椅子に座らせてあげた方が良いんじゃないですか?」
「あ! そうだね。ありがとう、アレッタ。カリーナ、こっち来て」
「はい」
アルマさんに呼ばれたままに付いて行く。
理事長室の執務机の右と左隣。ソファがあって中央にテーブル。
私は右側のソファに腰を落ち着けるように言われる。
アルマさんは執務机の椅子に着席。
私はそれを見てからソファに座ると一瞬で虜になった。
心地良い座り心地。これは人をダメにするソファだ。
「カリーナ、可愛い顔してる」
「あっ! 見苦しい顔を見せてすみません。ソファの座り心地が良くてついつい顔が緩んでしまいました」
「見苦しい? わたしは可愛いって言ったよ?」
「お世辞的なのじゃないんですか?」
「な訳ない。カリーナって可愛いよね? アレッタ」
「はい! アルマ理事長が自慢する理由が良く分かりました」
自慢してたんだ。
照れ臭いなぁ。ところでアレッタさんはいつから私の前に居座ってたんですか?
2人からの視線が落ち着かない。特にアルマさんの視線。
この部屋に入室して来た時と同じ視線が時々私に注がれる。
アレッタさんからの視線は単なる好奇心だって分かるから受け流せるけど。
「番ちゃん」
「はい」
「番ちゃんも聖女なんだよね?」
「あ、はい。月の女神レノーラ様の愛しき子です」
「へぇぇぇ。番ちゃんは女神様とお話とかできるの?」
「いえ、いつもレノーラ様からの一方通行です。私からはできません」
「そうなんだ。私は私を守護してくれてる女神様の姿も声も両方共に1度も見聞きしたことないよ。凄いね。番ちゃん」
アレッタさん。私を凄いね! って言いながら自分が女神様の姿も声も見聞きしたことがないことを自慢してるように聞こえるのは気のせいかな。
口が裂けても言えないけど、「それは聖女ととしてどうなんでしょうか?」って聞きたくなってます。私。
「それは聖女としてどうなんだろう?」
私の心中をアルマさんが代弁してくれた。
アレッタさんはこれでどういう反応示すのかなと思ってたら、彼女は胸を張ってアルマさんの質問に応えた。
「都合の良い時だけは女神様に感謝してるから大丈夫ですよ。アルマ理事長」
「都合の良い時……だけ?」
と、いけない。声が出てしまった。
「そうだよ。番ちゃん。例えば生徒達のスカートが風で。とかそういう時に全力で感謝してるよ」
聖女……なんだよね? どうしてこの人は女神様から見放されないんだろう。
女神様も放任主義なのか、この人と同じように自由奔放なのか。
どっちか知らないけど、この人と話をしてると"どっ"と疲れる。
価値観の相違ってここ迄来るとしんどいものなんだね。
「カリーナ」
「はい」
アルマさんの瞳が私を気遣ったモノになっている。
彼女は執務机から立ち上がって、適当な口実でアレッタさんを外に放り出した。
「大丈夫?」
「すみません。私、ご迷惑ばかりお掛けして」
「謝るのはこっちだよ。ごめんね。あれでも学園医としては優秀なんだけどね」
「……………。そうですか」
「うん、その間の理由は凄く分かるよ。あんな話を聞いた後だもんね」
執務机の椅子に座り直すアルマさん。
アレッタさんのことはお互いにもう追及はせずにそれぞれの時間。
そのうち暇を持て余して私はソファから立ち上がる。
書類整理をしているアルマさんの横に来てみた。
「アルマさん」
「ごめんね、カリーナ。もうすぐ終わるから」
「じゃなくて、ここ間違えてます。それとこことここも数字が合ってません」
アルマさんの書類整理のミスを指摘したら彼女は驚いた顔になった。
「カリーナ。君って学生だったよね?」
「お姉ちゃんの仕事の手伝いをすることがあるので」
「君が使者として選ばれた理由が分かった気がする」
「良かったら、お手伝いさせて貰えませんか?」
「カリーナが良かったら頼んでもいいかな?」
「はい!」
書類は結構な量がある。
私が何気なく通っている学園。
あそこの理事長もアルマさんと同じような感じなのかな?
だとしたらもっと感謝して学園に通うようにしないとダメだね。
1馬力だと時間が掛かるものでも、2馬力になると早く片が付く。
書類整理を終えたアルマさんは万歳をして小さな声で歓声を上げた。
「終わったぁぁぁぁぁ。やったぁ。わたしは自由だ~~」
アルマさんは書類整理が苦手なのかな。
私のお姉ちゃんと同じだ。
懐かしくなって思わず笑ってしまう。
「あはははっ。アルマさん、私のお姉ちゃんにそっくりです」
「そうなの? 顔が?」
「いえ、書類整理が苦手なところがです。可愛いです。アルマさん」
「可愛いのはカリーナだと思うけどなぁ」
「私なんて何処にでもいる平凡な女性ですよ」
「カリーナ、鏡をもっとじっくりと見た方がいいと思う」
宿屋の女将さんに似たようなことを言われた気がする。
鏡ならちゃんと見てるんだけどなぁ。
「お腹空いた」
"グゥゥゥ"となるアルマさんのお腹。
猛獣の鳴き声みたいでまた笑ってしまった。
アルマさん、やっぱり可愛いです。
「もうお昼ですしね。私、お弁当作って来たんです。食べてくれますか?」
「え! カリーナの手作り? 勿論、食べたい食べたい!!」
"キラキラ"した瞳。私が作ったのは家庭料理だ。
期待しすぎないで欲しい。
"ガッカリ"されたくないから先に言っておこう。
「あの、カフェとか宿屋とかで提供されてる料理みたいな味ではないですからね。期待しないでください」
「カリーナがわたしの為に作ってくれたんだよね。楽しみ」
あれ? 私の声ってアルマさんに聞こえてないのかな?
お弁当。出しにくい雰囲気だよ。
「カリーナ?」
「ん~~~っ」
もう! なるようにしかならないよ。
出しちゃえ。勢いに任せてショルダーバッグの中から出すお弁当。
このショルダーバッグはいつも私と一緒の私の相棒。
優れ物で5,000リットル迄の品物が入るようになっている。
中に入れると品物が消えて、取り出す時はその物の形状などを思い浮かべながらバッグの中に手を入れると取り出すことができる。
仮に誰かに盗まれても自動で私の元に帰ってくる機能付き。
このバッグのお陰で私はこの国迄ほぼ手ぶらで来ることができた。
「こんなのでごめんなさい!」
「可愛い。食べるのが勿体なく感じるね」
「でも、食べて貰えたら嬉しいです。味の保証はしませんけど」
「いただきます」
また私の声は聞こえてないみたい。
アルマさんは"ニマニマ"した顔で私が作ったお弁当に箸を伸ばした。