3-4.レウスと夜営
ミニエラ鉱山ダンジョン、7階。ここで、迷路の階にあたった。
迷路の階は、罠にかからない限り魔物が出てこないので、セーフティーエリアまで戻らなくても安全を確保して、一晩を過ごせるようになった。
「でも、念のために見張りは必要だとは思うんだけど……」
「そうだね。組み合わせは私とナーガ、クレイン殿とレウスがいいかな?」
「……妥当だな」
「いいの? やったね!」
索敵能力を考えると、そうなるよね……。何だかんだで、動かない状況であればティガさんの聴力は、私の索敵範囲を超えてしまう。
それでもナーガ君とレウスの二人よりは私の方が索敵能力は高いので、私とティガさんは別々になる。そして、万一の場合の戦闘力を考えるとナーガ君と私は分けておいた方がいい……まだ、二人よりは私のが強いからね。
「ティガさんの索敵能力の高さを考えるとね……本当は、タンクができる二人を分けた方がいいとも思うけど」
「夜営の経験がある二人を分けた方が対処もできるのではないかな。レウス、迷惑をかけないようにね?」
「わかってるよ!」
迷路の階を少し探索し、罠がない行き止まりの場所で、テントを用意して夜営の準備をする。今回は、焚き木はなし。一酸化中毒とか、無いとは思うけど……迷路の階って狭いから心配になる。
明りがないと困る可能性があるので、私の方で光魔法を付与してある魔石・中をナーガ君に渡しておく。まあ、〈付与〉の事はレウス達には説明していないけど……多分、大丈夫だろう。
「では、頼むよ」
「まっかせて!」
「……おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
ナーガ君とティガさんがテントに入っていく。
一応、テントは二つ立てたのだけど……二人とも同じテントに入った。いや、3人でも使える広さなので問題はないけど、使ってないテントが私用ってことでいいのかな? そういう事にしておこう。
あと、シマオウが残って、モモはナーガ君について行った。もしものためなのか、わからないけど……。
「それで……レウスは、何か言いたそうだけど?」
「う~ん。まあ、色々と話したいことはあるんだけどさ。……まず、ありがとう」
「うん?」
「お礼、ちゃんと言ってなかったから。クロウとティガを助けてくれてありがとうございます」
「あ、うん」
いや、そのせいで奴隷落ちしてるけどね、君達……と、言っていいのか、すごく悩む。でも、レウスはあっけらかんとした表情で続ける。
「ホントはさ、俺も二人と一緒に死ぬかな~って思ってたんだよね。俺は二人に庇われて、あの場を離れたけど……心細くて、戻って……。二人には散々怒られたけど、ほんとにありがと」
蛇の巣穴に戻るって……自殺願望だったか。
まあ、想定外というよりは、そうかなとは思っていた。精神的に不安定な部分があるのはレウスだけではない。
それでも、だいぶみんな落ち着いてきたと思っているけど。
「どういたしまして……良かったね? でも、その割には二人と別れて、ナーガ君と一緒に旅に行きたいんだ?」
「行くよ。だって、外の世界を見て回りたいじゃん? ティガもクロウも行く気はないのはわかってるけど、あの町で待っててくれる。ちゃんと戻ってきて、旅の土産話するよ?」
「意外と素直だね」
「俺は素直だよ。行きたいとこに行くし、帰りたいとこに帰るよ……それよりさ、俺、強くなれる?」
うん? 強く?
なんだろう、急に。
「なれるんじゃない? 多分だけど」
「ナーガやグラノスさんより?」
「……それは、厳しいかも。二人は戦闘特化のユニーク3段目。レウスは……私と同じ二段目でしょう?」
「だよね~。俺もびっくりした。ナーガ、めっちゃ強い。で、そのナーガがグラノスさんには勝てないって言うんだよね」
「うん? いや、それはどうだろ。まあ、兄さんも強いけど」
いつの間にか、そんな話をしていたらしい。まあ、ナーガ君は強い。で、兄さんも強い。二人についていけないなと感じていたから間違いないけど。
そして……二人の能力を見ていたからこそ、野放しに出来ないのがアルス君……。精神的にも不安定だし、実力未知数……あの右目を怪我しているのも含め、ちぐはぐが目立つ。
例の少女の敵とか言われて、こちらと敵対する可能性もありそう。
「俺さ、あんまり頭良くないから、何でみんなが深刻な顔してるか、わからなくてさ……でも、出来るなら楽しみたいじゃん? 俺、ダンジョンには適した能力だし」
「……また怒られるよ、二人に。能力は話さない」
「クレインには話したいの! 知っててよ、俺の事。感謝してるから」
「……うん、わかったけど。他の人には気をつけなよ?」
レウスのユニークスキルは、〈宝探索者〉というらしい。
採取ポイントでの、宝石が沢山入手できた理由だと教えてくれた。予想通り、二番目の能力。さらに上の〈宝発掘者〉もあったらしい。なるほど……宝関係に補正が入る様なユニークスキルか。そんなのあったのか。……よっぽど冒険したかったのか。
戦闘系ばかりだと思っていたけど、クロウやティガさんみたいな一点特化の能力補正になるユニークスキルとか、ダンジョンに有利なものもあるのは、意外だった。あの空間、やりたいことを実現する能力を与えていたということだろうか……?
でも、なんか、しっくりこないんだよね。でも、私も戦いよりもサポート系のユニークスキルになるけど……なんだろう。
レウスのユニークスキルの他に、竜人族のハーフを選んでいて、その後に竜人の特性が付いたアビリティも取っているらしい。戦闘能力は3人の中では高く、クロウやティガさんにも頼りにされていたとか。
レウスはそれなりに実力に自信を持っていたが、ナーガ君を見て、上には上がいることを理解したと言っていた。
「竜人の特性って十分強そうだけどね?」
「でしょ? 実際、〈竜の爪〉とか〈竜の鱗〉っていう、アビリティかっこいいと思うんだよね」
「え、うん?」
カッコいいのだろうか? 厨二病としか思わないのだけど。
私としては、進んで取らなそうなアビリティだけど……強い分にはいいのだろう、多分。
「俺はこの世界を楽しんでる。でも、クレインは楽しい? 毎日、引きこもって、本と睨めっこして、色々してるみたいだし」
「薬師になりたいって考えたのは私自身だよ。まあ、成り行きもあったけどね。……でも引き籠ってばかりでもないと思うけど」
「教会やギルドに出かけても、本ばっかり読んでるし、おばあさん来てもなんか作ってるし……変なおっさんに襲われたりとか、休んでないじゃん」
「なんでそこまで筒抜けなのかな……いや、まあ聞かないでおくけど。町の外には出ない様にしてたよ。狙われてる立場だったからね」
救援を呼んだりとやけにタイミングがいいとは思ってたけど、ティガさんが私を探っていたとかかな。結論を出すために、しばらく監視されていたとか? いや、狙われてたわりに迂闊な行動もしてたりするけど。
しかし……ティガさん。そこまで長距離でも聞き分けられる能力……隠し事が出来ないという点では、なかなかに本人にも周りにもストレスもかかりそう。
「この世界で生き残るための足掛かりとして、薬師の道を選んだけどね……結構、好きだよ、この仕事。出来ない事が出来るようになるし……自分が作った物で人が救われるなら、良かったと思う」
「好きでやってるならいいけどさ~」
「知識不足で助けられないとか、胃がぎゅ~と締め付けられて眠れなくなるから、向いてない気もするけどね。物を作るのは好きだよ……患者と向き合うのはきつい時もある。ティガさんの時とかね、本当きつかった」
無理してやっているように見えたのだろうか。まあ、そういう部分がないわけでもないんだよね。
本当に。ティガさんと向き合った時、どうすればいいか、めっちゃ悩んだ。
不安になって、本を読み漁ったけど、知りたいこと書いてあるわけでもない。助けられたのは幸運とクロウのおかげ。
「クレイン酷い顔してたもんね」
「え?」
「最初に会った洞窟で、治療の後、死んだように眠ってた。近づくとモモが威嚇するから、近づけなかったけど」
「? モモ、シマオウと一緒にいたと思うけど?」
「俺が近づくとクレインのとこに来て威嚇してたよ。一定距離離れるとシマオウのとこに戻ってた」
なんだって!? ……ちゃんと私の護衛してたのか! 褒めてあげなきゃだったのか。今更だけど、後でボアの肉を出してあげよう。
というか、酷い顔してたのか……結構ショックだ。近くでじっくり顔を見られてたわけじゃないみたいだけど。
「そんなにひどい顔してた?」
「うん。後からクロウに聞いたけどさ、MP使い過ぎると大変なんだって? 疲れた顔してたよ……その後、普通に戦ってたから、冒険者だと思ってたら、薬師だっていうし……クレインが何したいかわからなかった」
いや、助け求められたから助けたんだよ。
そして、すでに目的は達していたから、3人の命を優先出来たのもある。
「素材が欲しかったんだよ、あそこでしか手に入らない素材があったの。あと、色々忙しかっただけ」
「うん、ナーガから聞いた。作るの楽しくなると寝ないで作業するし、追い詰められた時も落ち着かないから作業し続ける、社畜だって」
「社畜……いや、違うんだよ。でも、楽しかったら続けるでしょ? それに、寝れない時とか、他で気を紛らわせるとか……というか、ナーガ君、そんなにしゃべるの?」
「聞けば答えてくれるよ」
マジか……。どちらかというと、言い出すのを待っていたからいけないのか?
若者同士だからなのか? ナーガ君、全員集まった状態だとほとんど話さないのに……。レウスには色々話してるのか。
「クレインはさ、器用だし、やること沢山あるんだろうけどさ、ちゃんと寝ないと身体壊すよ」
「……気を付けるよ。レウスも気が急いて勝手に飛び出して行ったりしないようにね」
「ナーガを連れていくから平気」
なるほど。まあ、ナーガ君いれば平気そうだね。というか、仲良しだな。すごく意外だった。
とりあえず、夜営の間、時間つぶしに持ってきた本を読むつもりだったけど、レウスが許してくれないので、〈解体〉とかの仕方や、戦い方の時の足運びやら、注意していることをレクチャーして過ごした。
多分、レウスも私と同じような遊撃ポジションが向いてる気がする。アタッカーよりも、すこし後ろで全体をフォローして、雑魚狩りしたり、背後にまわったり……持前の素早さと跳躍力を活かして攻守バランスよく援護もできそう。
まあ、兄さんもそういうの得意だから、被るんだけどね。
「遊撃か……確かに、正面からやり合うならナーガがいるもんね。いいかもしれない」
「兄さん戻ってきたら、参考にするといいよ。むしろ、組手を練習するとすごくためになる……木刀用意してあるから」
「俺のため?」
「いや、私のために用意しといた。心配性だから、刃ついてると相手してくれないと思って」
レウスは素直だ。ナーガ君も素直だけど……タイプがちがう。保護者二人が可愛がるのも分かる気はする。
その保護者が食わせ者なんだけどね。
ナーガ君がレウスに話した内容も、今の会話も……聞こえてるんだよね。寝てれば別だけど。
「私も出来ない事を兄さんに頼んでる身だけど……そうじゃない限りは私の意思でやってるから心配しないでいいよ」
「わかった~。でも、無理なら言って。俺、絶対に気付けないから」
「そうするよ」
気付けないことに自信を持つのではなく、気付けるようになって欲しいとこではあるけど。そこら辺は保護者に任せよう……。
レウスの明るさで気が楽になることもある。色々と教えながら夜営の時間を過ごした。
ナーガ君とティガさんと交代したら、シマオウは私のテントについてきたので添い寝でモフモフしながら寝てしまった。




