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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【コミックス一巻 4月28日発売予定】  作者: 白露 鶺鴒
第六章

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6-21.宰相の手腕


 拘束された後、綺麗な部屋で大人しく本を借りて読んでいた。

 食事はフォルさんが運んできてくれる以外、本当にやることがなかった。


 翌日になっても変わらないと思っていたところで、来客があった。


「クレインさん! ご無事ですか?」

「あれ? マリィさん?」

「どうしたんですか?」

「はい。今回の件をお聞きして、冒険者ギルドからも抗議をするためにクレインさんから一筆いただきたいなと思いまして」


 マリィさんが私の担当になって、色々とお世話してもらっているけど。

 わざわざ抗議の書類作ったり、ここまで来てもらったりと面倒をかけてしまった。


「えっと……抗議って具体的には?」

「スタンピードで忙しくなる時期に優秀な冒険者を拘束するに至った訳ですから。しっかりと、事実確認を行う必要があります。捕縛しようとしたのも冒険者クランですしね」

「色々とすみません」


 マリィさんの説明では、冒険者が犯罪をした場合、冒険者ギルドが動く。町にいる警備程度では冒険者を捕まえることは出来ない。

 その点で言うと、私を捕まえようとした冒険者は一応、正しいのだけど。ただ、その依頼は冒険者ギルドが正規に指名依頼をする。貴族などから勝手に依頼は出来ないらしい。


 他の支部からの依頼も無いことが確認され、独断もしくは貴族の依頼ということになる。


「捕まえた二人とは別に6人いたんですけど、ラズ様の方で対処って言ってましたけど、どうなったんですかね?」

「残念ながら、ラズさん……ではなく、ラズライト様の方でも出遅れたそうです。すでに捕まっていますが、身柄はこちらにないそうです」


 う~ん。

 逃げたわけではなく、捕まってるんだ?


 ラズ様が間に合わない手腕となると……カイア様かな。

 先に動いて、口封じとかをしてしまうイメージはある。


「ここに捕まっている二人は、私やレオニスに対し、自由に聴取する許可はでています。ただ、他の者達からは聴取できないので抗議もしにくいです」

「あの二人が弱そうという判断だったんですけど、あまり情報持ってない感じです?」

「ええ、残念ながら。クレインさんを捕らえて、王都に連れて行けば、3万Gの報酬だったくらいですね」


 う~ん。どんだけ懸賞金かかってるんだろう?

 一般家庭の1年の収入くらい? いや、冒険者ならもっと稼ぐだろうし、8人で割るとなると月の報酬くらいかな。あまり危険を冒すメリットなさそうだけど。


「なんだか、面倒なことになってますね」

「冒険者ギルドとしては、困るんですけどね。冒険者を勝手に拘束しようとしたことはしっかりと抗議するので、こちらにサインください」


 ギルドからの請願書だった。

 宛先、現在、王が不在のため王弟殿下だ。内容は、私を拘束しようとした件を包み隠さず説明しろという内容。

 しっかりと、罪状不明で宰相が作成している捕縛命令書もラズ様からもらい、証拠とするらしい。


 いや、そもそも命令書いくつあったの? あの下っ端っぽい二人で持っていたなら、他にも発行されているのだろうか。そんなに簡単に発行できると思えないんだけど。

 いくつかの書類を確認して、サインをしているとノックと共に人が入ってきた。


「おっ、来客中だったか」

「にっ……ツルギさん」


 危なかった。

 だけど、にっこりと笑ったツルギさんとマリィさんの笑顔が怖い。


 バレてるんだっけ? いや、言ってないけど、今のでバレたんだろうか。


「カイアナイト様の騎士でツルギという。改めて、よろしくお願いする」

「マーレスタット冒険者ギルド所属、マリィです。今、ラズライト様の許可を得て接見しております」


 うん。卒なく挨拶をしている。いや、でも、師匠のセレモニーの前の準備でも顔合わせをしているので、そこまで丁寧な挨拶は必要ないだろうし、これ、駄目なやつだ。


「ああ。すまない。それを聞いて、こいつを渡しに来た。クランリーダーが持っていた、捕縛命令をクランに依頼したという依頼書だ。ギルドの方で必要だろう?」

「拝見します」


 さらっと渡しているけど、いいのだろうか?

 ギルド側も動いているので、あった方がいいのだろうけど。


 じっと視線を送ると、頷きが返ってきた。


「心配ない。他のクランにも依頼していたから、こちらにもあるそうだ。今回の件、ギルドからの圧力があった方がいいからな。活用してもらいたい」

「はぁ……貴族側の思惑に寄ることはあまりよくはないのですけどね、ギルドの運営上、自治がありますので」

「クレインが逃した連中はこちらでもらってしまったから、その詫びだ」

「では、受け取らせていただきます」


 ラズ様より先にツルギさんの方で捕らえたのか。

 私の知らないところで、色々と動いている。ただ、マリィさんとしても書類は助かるらしい。


「貴族側で揉めている理由は一体何ですか?」

「あ~、俺も全て聞いている訳じゃないが……噂程度に聞いてるだろ? 元王太子が亡くなったことで、病の重い第二王子を静養のために公国に行くそうだ。どうも、症状がかなり重くなったらしくてな」

「ん? どういうこと?」

「政の話だな。王弟殿下を王にすると自分たちに利益はない。だが、流石に前王はもう担ぎ出せない。王子の内、一人は死に、もう一人が国外退去すると国王派に旗頭がいなくなる。だから、静養に行く前に、何としてでも治療をしたい。高名な薬師は亡くなったが、その弟子になんとしてでも責任を取らせる……という、あちらの筋書きだな」


 なんでそうなるかな。

 私が治療する理由ないよね。


 それに、なんか隠してる気がする。表向きなのか、なんなのか。


「治療しないと拒否すれば、王弟殿下が派閥の人間以外は見捨てるとか、色々と評判を下げてくる。結局、クレインが王都に行けば、元第二王子を治すように命じるしかなくなる状況になる。だから、なんとしてもその場に引きずり出したかった。すでに、かなり追い詰められてるからなりふり構わないんだろうな」

「うわぁ……」

「そんなことに貴重な冒険者を巻き込まないでいただきたいですね。政権を奪った以上、それなりに貴族が処断されるということですね?」

「それを望んでいるみたいだからな。各ギルドは巻き込まないように配慮するが……すまないが、マーレは巻き込まれるだろう」

「承知いたしました」


 う~ん。マリィさんも仕方ないと言った表情で、書類を持って帰って行った。

 まあ、マーレスタットがラズ様関連で狙われるだろうし。町に住んでいないけど、所属しているので、巻き込まれるのは申し訳ない。


「う~ん」


 王弟殿下ならはっきりと敵対をしないで、受け入れることも出来ただろうに。

 なんか、動きがしっくりこない。

 まったく直感が発動もしていないし、何が起きているのかわからない。



「なんで、ここに? 忙しいでしょう?」

「君が呼んだんじゃないのか? 状況を説明してくるようにカイアから言われたんだが」


 うん? まあ、どういう状況か、全然わからないので説明してくれるならたすかるけど。


「じゃあ、お願いします?」

「君はどこまで知りたい? 貴族関連に足を突っ込みたくないなら、俺やラズが守るから知らないままでいても問題は起きない」

「出来ることはないだろうけど、知っておきたいかな……」

「わかった。だが、俺もカイアからはきちんと説明を受けてる訳じゃない。誰が聞いているのかわからない場所で迂闊に話せないからな」


 それはそうかもしれない。

 あの離宮にいる人達は基本的には味方だろうけど、間者はいてもおかしくないのか。


「俺はカイアからも王弟殿下からも話を聞いた訳じゃない。ただの推測になるが、それでも聞くか?」

「うん、教えてほしい」

「まず、今回の件を仕掛けてきたのは宰相ってことは知ってるんだよな?」

「いや、でも杜撰すぎて、どうなのって思うよ? 大丈夫かなって思うし」

「それは宰相が関わってるという証拠が出たら、だろう?」

「……ないの?」

「仕掛けたのは宰相だが、証拠はでない。俺はそう考えてる」

「なんで?」

「そもそもが王弟殿下が王位を継ぐはずがなかった。そんな中で、あの王を支える必要がある。現宰相が無能ならヴィジェアの爺さんが降りるはずがない」


 なるほど?

 たしかに、国を支えることが出来る人がいないと、流石に降りないか。


「宰相の嫡男が春先に死んでる」

「うん? 何、急に?」

「世間的には、奇病に罹り、顔を見せないことになってる。ただ、ネビアが調べたところ、貴族院に届けられた日付は君がカイアの呪いを解いた3日後。ただし、死んだ日付はそこから1週間前だ」

「え? 意味が解らないんだけど」

「ようするに、カイアの呪いに関わってた嫡男を速攻で切り捨てた上で、日付は遡って届け出。国王派では、奇病の被害になってる奴を匿ってる貴族が多いからな。宰相の嫡男も呪いで公共の場にでないと思われてるが、実際はすでに処分してる。王弟殿下に腹を探られても問題がない」

「こわっ」


 優秀って言うか、すごく怖い。

 たしかに、生きてるとまずいのだろう。


 だけど、それでも嫡男だったら、普通殺せるんだろうか。


「何が怖いって、病気による死亡じゃない。愛人に刺されて死亡だとさ。愛人もその後行方不明。まあ、愛人なら体の痣を見ている可能性もあるから、野放しに出来ないんだろうが」

「うわぁ……他の貴族はそこまでしてないの?」

「まあ、倒れたとこを見られているなら、処分したところで意味はないだろうしな。そういう点では、式典に参加してなかった宰相嫡男は運がいいのか、悪いのか」


 なんだろう。

 すごく、色々と複雑に絡み合っている。


「俺はそこら辺を踏まえて、宰相は優秀だと思ってる」

「うん……なんか、理解はした。でも、それなら何で、私捕まってるの?」

「今回の件、俺の予想では王弟殿下と宰相のプロレスだな。君の身柄が本当に危険になることはない」

「え? シナリオありのヤラセってこと?」

「おおまかなシナリオありで、いらないものの廃棄処分。ついでに時間稼ぎと、手駒の性能を把握といったところか」

「どういうこと?」

「宰相の印章と封蝋、偽物が存在しているらしいな。見分けられない奴らなら、宰相の指示と信じる。だが、偽物を使った奴を含め、従った奴も処刑だ」


 発行された署名も封蝋も宰相のものではない。さらに、中身も正式な文書としての形を成していない。宰相を糾弾しても、これに従う阿呆などいないで逃げられる。


 だけど、これを発行した者を処分ができる。これに従った冒険者達も同様。


「冒険者も?」

「邪魔だからだな。滅んだ家の子飼いの冒険者なんて、貴族の薄暗いことを知ってる可能性がある。どの家にとっても邪魔だろう。今回みたいにヤバい仕事にほいほい乗ってくるから、さっさと処分したかった。ついでに、阿呆な文官もな」

「つまり……宰相の目的は、不良在庫処分?」


 身内の処分をするというにしても、よく王弟殿下もそれに乗ったよね。


「この後、宰相自ら謝罪に訪れるようなら、時間稼ぎと今後の行動の抑制も目的に入るだろうな」

「うん? 来るの? ここに来るって、暇なの?」

「敵対派閥のトップが王となるんだぞ? 精力的に働いていたら、だめだろう。働かない理由にしつつ、わざわざ謝罪に動くことで部下に馬鹿な行動するなという牽制にもなる」


 働いていると見せられない事情もあるのか。

 面倒……時間つぶしにこっち来るのもどうなんだろう。


「それで王弟殿下にメリットある?」

「ここから即位式まで邪魔が入らないだろ。それと、王弟殿下としてもソロル侯爵を見極めたかったんじゃないか?」

「ん? どういうこと?」

「自分の孫可愛さに、ラズや君を貶めるような言動をする小者。それだけならいいが、時節を読めずに足を引っ張るのが次期王妃の実家ってまずいだろう?」


 小者って……いや、まあ、そうなのかな。

 しかし、それでも味方だろうに。王弟殿下も腹の底が見えない。


「為政者だからな。まあ、王弟殿下としては、足を引っ張らなければいいだろうが……それを許さないってことだろう。その従属する家も含め、力を削いでおくんだろうな」


 貴族って怖い。

 宰相側としては、弱点を残しておくなという揺さぶりもかけてるのか。


 う~ん。

 そんなことより、国内の派閥を一つにまとめ上げた方が建設的だと思うんだけど。


 なんで、わざわざいがみ合っている振りをするのか、理解できない。


「まあ、そうだろうな」

「声に出てた?」

「ああ。ただ、対外的に国内での紛争があることにしておきたいんだろう」

「まだ、何かあるの?」

「旧帝国と共和国の動きがな。旧帝国としては共和国、王国の双方から復興するために力を借りたい。共和国は砂だらけの土地だから、力を借りると領土の割譲を求めるだろう。ただ、王国としてはうま味が少ないんだろう。だから、プロレスしながら国外に力を割けないふりをして、内部で国力を上げる方向に動く」


 共和国の土地の多くが砂漠。

 たしかに、帝国で得られる物資は大きいのか。あと、あそこはお金で動くから、搾り取れるだけ搾り取るのだろう。


 異邦人を全て奴隷にして、戦力はある。狙いはわからないでもない。


「えっと……これ、ツルギさんの予想なんだよね」

「まあな。色々と資料は読ませてもらったがな。ただ、そこまで間違ってもいないと思うぞ。で、君、こういう裏事情を今後も知りたいか?」

「いや、あんまり知りたくない」


 むしろ、そんなこと考えたくない。

 いや、私も巻き込まれている。でも、貴族のあれこれをわざわざ知っても何もできないし、怖くなるだけだとわかった。


「知りたかったら説明をしてもいいが。俺もラズも怖がらせたい訳じゃないからな」

「ちなみに、ラズ様も知ってる?」

「多分、ある程度は把握してるだろう。ただ、今回はカイアの動きを知っている分、俺の方が精度が高い。あと、ラズも関わらせて、怖がらせると君が逃げる可能性がありそうだから避けたいんだろう」

「いや、だって逃げたくなるよね」

「まあ、貴族の動きは知っていないと巻き込まれたときに困るからな。そのために、俺がカイアのとこに行ったんだから、裏方は任せておけ。命の危険が無いように手を回しておく。君は君のやるべきことをするといい」


 う~ん。

 なんだろう。まあ、確かに心の安寧的には関わりたくない。


 でも、知らないままでいていいのかも、難しい。


「巻き込まれることは避けられないと思うがな。しばらく、大人しくしておいてくれ」

「どれくらい?」

「一応、投獄の件が解決するまでだろう。お師匠さんが遺した書物でもじっくり読んで研究にあてたらどうだ?」

「……まあ、たしかに。今までは師匠に直接教わってたから、師匠のまとめた書物はあんまり見てないかも」

「ナーガに説明ついでに、持ってこさせる。……じゃあな」

「えっと……ありがとうございます」


 少し困ったように笑って、ツルギさんは帰っていた。

 しかし……貴族って、何だか複雑すぎてついていけない。


 全てが真実ではないのだろうけど……いらなければ処分するっていうのが、宰相怖すぎる。

 敵に回したくないというか、これ……全部仕組んでるとしたら、どこまで見通してるんだろう。



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時代や文化的に働けない者に人権がないだけだろう、子供が労働力で早期に独立を求められた時代と同じ。日本でも武家の子が戦えない文官向けというだけで勘当同然に捨てられたりしてた時もあるし殺されたぐらいなら…
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