6-9.和解
4日後。
マーレスタットのラズ様の屋敷に呼び出された。
「……俺も?」
「うん、ナーガ君を連れて来いって言われてる」
しかも、正装で。
いや、ラズ様のところで着替える許可は出ているので、向こうで着替えるのだけど。
「……何があるんだ?」
「可能性としては、大司教様との会談かな。当日はバタバタするから、今のうちにということだと思う」
神父様からの情報だと、到着しているはず。
わざわざ正装でという指定をしてきたので、多分、その件だろう。
ナーガ君を指定した理由は、彼も、名乗りはメディシーアだからだと思われる。
面倒くさそうにしつつ、キャロとロットに乗ってマーレスタットへと向かう。
シマオウは留守番。もしもの時の戦力として、残ってもらった。
最近は、以前よりもさらに中に入って探りを入れようとする人が増えた。貴族がマーレに滞在して、3日後の師匠の納骨に立ち会うついでに、人を使って調べてるっぽい。
できれば、素材とかを踏み荒らすようなことをしないでほしいと切に願う。
ナーガ君とラズ様の屋敷に到着して、通された部屋。
そこで、固まってしまった。
「申し訳ありませんでした」
私とナーガ君が通された部屋には、ツルギさんがいた。
そして、私とナーガ君が入ってきたのを確認して、90度に頭を下げて、謝罪をした。
部屋には他に誰もいない。
「えっと……」
「……土下座じゃないんだな」
いや、ナーガ君。そういう問題じゃない。
むしろ、今でも困ってるのに、土下座されたら困るどころじゃない。
「土下座したら、クレインのことだ。土下座に対して、慌てて、もういいからって、立つことを促すだろう。だから、この形にした。すまなかった、君の気持ちを考えずに自分の気持ちだけで突っ走ってしまった。心から反省している。申し訳ありませんでした」
頭を下げながら、謝罪をするツルギさん。それを見続けている私と、ナーガ君。
流石、私のことをわかっていると思う。有耶無耶に許すのではなく、しっかりと謝罪を受け入れる場を作ったのだろう。
ちらっとナーガ君と視線を合わせる。ナーガ君が「任せる」というので、こくりと頷いた。
「顔を上げてください」
「だが」
「あの件については、水に流します」
私の言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
困ったように「すまない」と口にする姿は、自信なさげで、今まで見てきた兄さんとは違う。でも、同じ人だなと思う。
「私もごめんなさい。流されるべきではなかったんだと思う。ちゃんと、男として見ていないって、告げるべきだった」
「……いや、そこまで言うのか?」
「本当にっ、すまなかった」
ナーガ君にしょっぱい顔をされ、ツルギさんは再び項垂れてしまった。
「いや、だって……そんな余裕も無かったと思うんだよね」
恋愛とかを考えることが無かった。
ただ、ナーガ君も年齢的に対象外だし、兄扱いだったグラノスさん改めツルギさんも対象外だったんだよ。
「……で、許すのか?」
「ああ、えっと……うん。今まで、散々助けてもらって、フォローしてもらっていて、その、恋愛対象ではないだけで、大切ではあったし……だいぶ、落ち着いて考えられるようになったので。生きてると伝える手段もなかったし、それどころじゃなかったんだと思うことにしたから」
兄は死んだ。
ツルギさんとは、王宮であったのが初めて。
あの夜は何もなかった。
もう、それでいいかなという気がしている。
「……俺はあんたが好きだ。その想いが変わることはない」
「いや、ナーガ君。ここで蒸し返すのやめない?」
「俺もだ。君が好きなことは変わらない。ただ、二度と君の意見を無視して、事をすることはないと約束する」
うん?
それ、同意したら、またやるつもりだよね? だいたい、あの時も私が流されると考えてやってると思うんだよね。
「……あんまり、恋愛する気ないんで新しい人探して欲しいかな。絶対に私なんかよりいい人いると思うんだけど」
「……」
「……」
二人とも、目線を逸らして、否定も肯定もしなかった。
「まあ、ほら、少なくとも、俺も2,3年はカイアに付き合うつもりだ。ナーガもその間にでかくなるだろ? 今すぐは良くないと思わないか?」
「ああ……まだ、結論を出すのは早い」
結局、結論は先送りとなる。
また、ドラゴンを訪れて以降、王宮奪還まで何があったのかもツルギさんの口から説明された。
運よく死ななかっただけで、首を刎ねられそうだったと聞いたときに、ぞっとした。ナーガ君も「ばかやろう」と怒って服を掴んでいたけど、涙声だった。
「いや、死ぬつもりはなかったからな。ただ、君達に相談せず、計画を早めたのは悪かったと思ってる」
「……相談するつもりはあったんだ?」
「ああ。お師匠さんが亡くなるのがまだ先だと思ってたからな……一応、君に告白して、説明してから兄妹関係を解消するつもりではいたんだ。ああなってしまったが」
頬を掻いて、再度謝るツルギさんに嘘は無さそう。
いや、まあ、それでも、色々問題はあるような気もするけど。
「まあ、いいや。一応、話も聞いたし、和解しよう!」
「……ああ」
「いいのか? もっと、責めてくれてもいいんだが」
流石に何度も謝罪され、理由も聞いた。
これ以上、責めるところもないかなと思う。
「いや、特に……いいかなって」
「……そうだな」
和解をした。
これから先は、ツルギさんは異邦人でもないし、仲間とカウントするのも不思議な気はするけど。ただ、別の立ち位置でフォローは続けてくれるらしい。
ついでに、王弟殿下がもう少しすると正式に即位する。それが終われば、キュアノエイデスにて統治するカイア様の側にいるため、会いたくなったら会える距離らしい。
むしろ、月に一度は開拓地の方へ里帰りするという。監査ということにするらしいけどね。
「それから、ティガが暇そうなら借りてもいいか?」
「本人に話をして許可貰ってくれれば? なにかあるの?」
「いや、意外と大工連中に人気があるようでな。新しい町開発の総指揮を任せようかと思ってな」
帝国からの亡命者達が住まう予定の町作りの計画が進んでいるらしい。
国境付近から町の予定地までも距離があり、人数も多いことから、まだ到着はしていないが、すでに準備を進めているという。
私たちの開拓地に参加していた大工さん達以外にも参加する、かなり大きな事業となるが、現場に滞在する指揮できる人がいないという。
「まあ、ティガさんなら出来そうではあるけど」
「……本人次第だろう」
本人は冒険者を積極的にするつもりもないようだし、やる気があるのならいいと思う。無理強いするつもりはないけど。
「あと、レオニスさんとディアナさんが離婚するって。カイア様にディアナさんの仕事を紹介して欲しいんだけど」
「そうか……こっちで話をしておこう。しかし、離婚か。おっさん、愛想尽かされたのか」
「う~ん。まあ、夫婦より仲間に戻るって感じみたい。ただ、出ていく必要ないってことで、家はそのままある感じ?」
「おっさんの優先度、お師匠さんだったからな」
それはそう。
ちなみに、私達への優先度も高かったので、そこも関係している気はしている。
「君達が許してくれるなら、カイアと事前に開拓地に向かって、手伝いたいんだが。その方が、おっさんとも時間がとれるしな」
「ああ、うん。ただ、滞在は外の宿になるよ」
「それはそうだろな」
ネビアさんについては、スフィノ君とラーナちゃん次第で、中で寝泊りしてくれても構わないけどね。
「じゃあ、君たちは着替えて、準備をしてくれ。シンザ大司教といつもの神父が1時間後には到着するからな」
「……会いたくない」
「……俺もか?」
やっぱり、そのために呼び出されたのか。
予想はしていたけど、面倒くさい。
そして、ナーガ君も驚いている。
「ああ。君たちしか、メディシーアはいないからな。薬関係であればクロウの立会でもいいんだろうが。クレイン一人に立ち会わせるつもりかい?」
「……いや」
ツルギさんはカイア様の横で参加はするけど、口出しは出来ない。
ある程度はラズ様が庇ってくれると思うけど、彼も立場がある。
私の味方になれるのはナーガ君だけということなんだろうな。




