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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【書籍2巻発売・コミカライズ 決定】  作者: 白露 鶺鴒
第六章

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6-8.ディアナ


 ラズ様への報告を終えて、帰還した日の夜。

 ディアナさんとレオニスさんに話があると呼び出された。


「離婚することにしたのよ」

「あ、えっと……」


 ディアナさんの開口一番の一言に、思わず目線を逸らした。

 何となく、呼び出された時にその話かなとは思っていたのだけど。


 すでに仲を取り持つ段階ですらなく、確定事項として告げられてしまった。


「えっと、あれですか? レオニスさんがディアナさんを置いて、仕事ばかりとかで……」

「それはないわ。確かに、ここ半年、冒険者ギルドでの職員の仕事よりも、クレインちゃんやラズを優先して、仕事をしていないとかは把握しているけど。元々の貯蓄はあるし、気にしてはないわ」


 レオニスさんの収入とかが問題ということではないらしい。

 そもそも、冒険者時代の貯蓄があるから贅沢し過ぎなければ問題ないとか。


「諸々が解決したから、これ以上婚姻している理由がないんだと……ここを出ていくと言ってる」

「え? それは……う~ん。おすすめしないです」


 二人が事情があって、婚姻しているだけで、男女の仲であるより同じパーティーの仲間という方がしっくりくる仲でもある。

 離婚は正直、好きにすればいいとも思う。ディアナさんの方が若いから、まだこれから相手見つかるだろう。


 ただ、それで出ていくとなると話が別。

 レオニスさんもあまりいい顔はしていない。


「田舎暮らしが合わないとか、そういうことです?」

「そうじゃないのだけどね」


 ディアナさんの歯切れが悪い。言えないことであるなら、呼び出す必要もなかったと思うし、何かあるのだろう。


 ちらりとレオニスさんに視線を向けると頭を掻きながら、軽く説明してくれた。


「前にも少し話したが、ディアナはフィンを失ってから、回復魔法が一時的に使えなくなっていてな。それが理由で引退したんだが」

「はい。それは聞いてます」


 フィンさんの治療の時、MP切れを起こして、そのまま亡くなったことがきっかけとなり一時的に魔法が使えなくなり、現役でいられなくなった。

 それでも、貴族とかからのお誘いもあったりで、レオニスさんと偽装結婚したと聞いてる。


「今は問題なく、使えるようになったんで、別れるというのがディアナの主張だ」

「それは、まあ……」


 私が刺されたときに治療してもらい、最近はクロウがお世話になっていることも含め、普通に回復術師としては復活を遂げている。


 冒険者に戻るにしても、回復術師として仕事をするにしても、問題はないのだけど。


「でも、なんか急いで出ていかなくてもいいというか、その……」

「だろう? 家は俺がナーガとグラノスが使ってた部屋にでも移ればいいから、そのまま居ろって言ってるんだが」

「そこまで甘えられないわ」


 レオニスさんも歯切れが悪いし、納得してないけど。

 ディアナさんもなんか困ってる感じかな。


「とりあえず、レオニスさん。私とディアナさんで話をするので、席外してください」

「おう」


 レオニスさんが出ていって、ディアナさんと二人きりになる。


「事情があるなら、聞きますよ? レオニスさんも心配してます」

「わかってるわ。でも、レオにとっての私の優先順位が低いのも事実なのよね。一緒に暮らしていても、何もないのも自信を無くすのよ」

「……えっと」

「ふふっ、だから、離婚はするわ。元の関係に戻った方がいいのよ」


 離婚は確定していることらしい。

 そこに悩みがないということなら、この地から出ていくことに対しては迷いがあるのかな。


「レオニスさんと元の関係に戻るためにも、一定期間距離を置きたい感じです?」

「それもあるわね」


 それも、か。

 う~ん。この地に戻ってきてくれるなら、寂しいけど反対はしない。理由を話して欲しいと伝えると、頷いてくれた。


「出ていきたい理由はなんですか?」

「元彼が訪ねてきたのよね。匿って欲しいの一点張りでね。クレインちゃんがいないからって追い返したけど、随分と必死だったし、諦めないと思うのよ」

「ああ……えっと……例の、騎士になったとかいう元パーティーメンバーのアタッカーでしたか」


 王都のごたごたで職を失って、レオニスさんとディアナさんを頼ってきたのか。

 良いイメージないんだよね。フィンさんが亡くなって、ディアナさんが傷ついてるのに自分の出世のために騎士の話に飛びついて、去っていった人。


「可愛い顔に皺が残っちゃうわ」


 ディアナさんが私の眉間を指で触る。無意識に、しかめっ面をしていたらしい。


「私がいればまた来る。それなら、ここを出ようと思ったのよ」

「……レオニスさんには?」

「言ってないわ。だって、フィンが死ぬ原因だって、元を辿ればあいつなのよ? でも、あいつが土下座で謝罪でもすればレオは我慢するわ。そういう人だもの」


 そうかな?

 レオニスさん、人情家ではあるけど。フィンさんへのこだわりは強い。許すとは思わないけどな。


「未練は?」

「ないわ。ここに面倒事を持ち込ませたくないだけ」


 ロミオ化しちゃった元恋人か。

 そのためにディアナさんが出ていく必要は一切ないかな。


「じゃあ、私の方で動きます」

「クレインちゃんが?」

「私にとって、その人。兄の仇なんで。レオニスさんが許そうが関係ないので。捕まえて、ラズ様に渡します。謁見の間で兄さんを殺そうとした騎士として、名簿に名前あったので問題ないです」


 別に、逃げたとかはどうでも良かったけど。私の前に現れるなら、きっちりと責任を取ってもらう。ラズ様もしっかりと処理をしてくれるだろう。


 その馬鹿男が逃げ込もうとしてる場所、処分を重くするように進言した本人がいる場所ってわかってないのか。ディアナさんに配慮する気はないと伝えると目を丸くしている。


「……あらあら」

「ディアナさんがどうしても未練があるなら、次に来たときにそれを告げるのは構わないです。それで逃げたとしても、私が直接追うことはないです。ただ、私がその人を見つけたら、捕らえて、処罰を受けさせます。ここに住ませるとかないし、レオニスさんとディアナさんが庇っても無駄です」


 前言撤回はしないと伝えると、ディアナさんはクスクスと笑い始めた。


「そうね。グラノス君の件に絡んでるなら、無理ね。ここの人達は誰も許さないし、レオも庇えないわね。困ったわ、出ていく理由がなくなっちゃった」


 むしろ、ディアナさんを頼って、ここに逃げ込むのもどれだけ面の皮厚いのかと思うけどね。


「何かしたいこととかあります?」

「そうね。しばらく休んでいたけど、そろそろ働こうと思うのよ」


 冒険者を辞めて、1年。冒険者に復帰するつもりは無いらしい。

 ただ、何かしようと考えているらしい。


「ディアナさんがその気があるなら、一緒に国境付近に出向いて、流行り病対策参加します? お仕事でこの地をしばらく離れるということなら、レオニスさんを説得するのに協力しますけど」

「そうね。その話も魅力的ではあるけど、しっかりと一人立ちしたいから別のお仕事を紹介出来たりするかしら?」

「回復術師として働くなら、ラズ様に言えばよいのでは?」

「い、や、よ」


 う~ん。回復術師としてなら、冒険者ギルドか貴族のお仕事が多いと思う。レオニスさんとラズ様には頼りたくないという理由は知らないけど、嫌なら仕方ない。


「一週間後にラズ様のお兄さんが来るので、その人に頼めばすぐに見つかると思います。伝手はラズ様よりあると思います。ただ、甘い人ではないので、仕事をきっちりこなすまで、ここに戻れないと思いますけど」

「ええ。そこで自分を見つめ直してくるわ。色々とね」


 う~ん。前向きにお仕事を始めるというなら、反対する理由もない。

 ディアナさんが前向きになっているので、応援したい。



 ディアナさんが「ありがとう」と言って、席を立って、しばらくするとレオニスさんが戻ってきた。


「しばらく距離を取りたいそうです。夫婦ではなく、元仲間に戻れるように」

「……それだけか?」

「お仕事探しするということでした。冒険者に戻るのではなく……一応、紹介することになりました」

「まあ、前みたいに危ない貴族でないならいいんだが……」

「ラズ様に頼るのは嫌みたいでしたけど、その兄なら構わないそうです」

「ああ……仲は良くないからな」


 はっきりとラズ様とディアナさんの仲を否定した。

 まあ、二人が一緒に活動したことは無いはずなので、色々とあるのだろう。


「何を考えてるのか、わかってやれなかったんだが……」

「レオニスさんが出来ること無いと思いますよ? だって、女性として愛してあげられないんでしょう?」

「……ああ。それでも大切には思ってるぞ」

「知ってます。ディアナさんも自分の道を探すんだと思います。まだ若いですし、良い機会では?」

「……ああ。そうか……立ち直ったんだな」

「そうですね」


 レオニスさんが寂しそうに笑う。

 フィンさんを失い、師匠が亡くなった。そして、ディアナさんが去る。


 レオニスさんとしては胸中複雑なのだろう。多分。


「大丈夫です?」

「何だかんだと、お前の周辺は騒がしいからな。ゆっくり過ごす時間もないしな」

「私はゆっくり過ごすのが希望ですよ?」

「何かあったら言えよ。お前は大丈夫だと思うが」

「危険があったら、逃げるので。できれば、ダンジョンに行きたがってるナーガ君とかに忠告してください」

「大丈夫だろう。ナーガは無謀なタイプではない。連れてる魔物もいるからな」


 それはそう。ペットを増やす以外には、ナーガ君は問題がない。

 ペット達も基本大人しく、ここに来てからは問題も起きてないからね。


 まあ、侵入者撃退するとき、やりすぎそうな仔達もいるけどね。

 

「昇級、早すぎたりします?」

「いや。早いといえば早いが実力があればこんなもんだな」


 B級になるとマーレから旅立つケースが多いけど、その点はない。いや、すでにマーレではない場所が拠点ではあるけれど。


「レオニスさんは師匠の家に住みます?」

「そうだな。今の家はディアナが戻るときに使えるようにしておきたい」


 私とナーガ君が何となく、あの家を使うことにためらいがある。レオニスさんが住むならその方が良いだろう。


「じゃあ、手伝いますね」

「いや、男連中に頼むからお前はいい」


 う~ん。戦力外というほど力がない訳じゃないんだけどな。

 まあ、いっか。


「いずれ、建物を増やすか?」

「まあ、足りてないとも思ってはいますよ? ただ、ちょっと……すぐには難しいかなと思います」


 ファベクさんに頼むにしても、すぐではないだろうしね。

 年明けとかになったら、建物を作って貰おうとは思っている。


 貯蔵庫とか、燻製小屋も欲しいと思っていたからね。



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